◆ 話のネタ ◆ No.10 『業歴40年の屋台のオヤジの目は侮れない！』

　若い頃から、おでこが後退しており年齢よりも随分老けて見られていました。（いわゆる若禿げ）　若いうちは、老けて見られて嬉しいこともメリットも感じませんでしたが、就職先が、銀行だったために、老けていたことが数々の武器となりました。
 
　入行した当日、寮に入り1ヵ月の新人研修が実施されます。4人部屋で、2人が関東出身、2人が関西出身で一緒に生活をしました。初めて会った日から、同室の同期3人が私に対して敬語を使い、最初、寮長と勘違いしたとのことでした。（そりゃ、ないやろ～）
 
　入行して5年目のT支店で、営業として新規顧客開拓者となり近所の会社を初訪問し名刺を出していろんな質問を女性の経理担当者（社長の妻女）にしたところ、初対面なのに、何を訊いても全部丁寧に答えてくれたので、『・・・なんかへんだな？・・・』と感じていたのですが、帰りがけに、『A銀行の支店長さんに、このようなところにわざわざお越しいただきありがとうございました！』と最敬礼をされてしまいました。　
 
私の名刺の肩書は、支店長席付（ただの平行員、支店長代理は、管理職）だったのですが、貫禄あるオデコを見て、支店長と思い込んでしまったようです。「いぇ、いぇ私は、支店長ほど偉くはありません・・・」と言って慌てて逃げかえり、2度と訪問することができなくなりました。
 
　ただ、A銀行には、伝説のすごい人がいました。　その人は、1年先輩のNさんという人で、オデコの後退のみならず、恰幅も随分ごつく、醸し出す雰囲気もおっさんの中のおっさんでした。　新入行員として支店に配属されATM担当となり、15時を回り店舗がシャッターを閉めた後で、ATMにおばさまが出金に来られた時のことです。　運悪く、ATMが故障し、たままた支店長がATMコーナーにいて、おばさまは、A銀行のバッチを見て、「また、ATMが故障して、どないなっとるん！」と強い口調で、抗議されたそうです。
 
　支店長は、ただただ、「お急ぎのところご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません。直ちに対処いたしますので、今暫くお待ち願います。」と恐縮して平謝り・・・・・ちょうどその時、故障のブザーで、店内より出てきた新入生のNさんを見たおばさまは、「あぁ、ええところに支店長さんが出て来て下さった。　支店長さん、この前もATM故障して大変困ったんです。　今もこの人（本当の支店長）に文句言ってたんですが、すいません、すいません言うばっかり・・・なんです・・・」　Nさん「・・・いゃ、あの・・・その・・・」
 
　私も、管理職になる前から、副支店長と一緒にお客さまを訪問すると必ず、先に私にお茶が出てくるし、飲み屋に行けば、伝票を私の方に置かれる（必死で副支店長のほうに寄せていました（笑））　

　ある時、新しい副支店長を私が担当しているお客様の処に初めてご挨拶にお連れし、「副支店長のMです」とお客様に紹介した時のことです。　ちょうど、新規勧誘ということで、ライバルのB銀行の営業が訪問しており、私たちの挨拶を見て、飛んで帰りました。　後日お客さまから「B銀行さん、すっごいビックリしてたわ～　『A銀行は、恐ろしい、支店長と副支店長が一緒にお客さまを回っている！』と言ってた」と笑われました。
 
　35歳のある晩、仕事帰りに一杯飲んで、社宅の最寄り駅に着いた時、小腹がすいたので、何度か利用したことのある屋台のラーメン屋を思い出して、寄りました。
 
　ラーメン屋の大将も私の顔を何度か見ていたので、この日は、気さくに話しかけてきました。　「お客さん、失礼ですが、お客さんのオデコのほうは、広くなってらしゃいますが、本当は、随分とお若いでしょう！」　「えっ、大将、僕が本当は、随分若いって分かるんですか？」　「はいな！　屋台を引いて40年、いろんなお客さんを見てきましたからね～」　
 
「ほう～　この道40年！ 流石やね、大将は、いくつ？」　「私は、75歳です。」　「なるほど、人生経験もたっぷりじゃね、　今まで、随分老けて見られることばかりだったが、流石、ベテランの大将、よう僕が本当は、若いと見抜いたね。」　「当たり前です。伊達に40年屋台を引いて客商売しているわけじゃありません。　第一お客さんは、肌艶が良くつるつるされていて、断然若い！！」　「ありがとう！　じゃ、大将一体、いくつに見える？」　
 
「そりゃ、50は、いってないでしょう！」
 
　私は、思わず、屋台を壊しそうになりました。　超不機嫌になり、そのまま、駅前のすし屋で、また飲みなおし・・・・
 
【学んだ事】　相手にダメージを与えるには、その前に思いっきり持ち上げ、純朴な態度で思い切り落とす、それも、わざとじゃなければ、相手へのダメージは、MAX！！

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