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『_C』 第七話 素敵な絆は涙になる

6時間目の日本史の授業。

相変わらず隣の齋藤さんは寝ている…。

起こすのも気の毒なくらい

とてもスヤスヤと寝ている。

まるで遊び疲れて寝た

赤ん坊のようだ。

日本史の石原先生は
歴史のことを語り出すことに
熱くなりすぎて、
齋藤さんが寝ていても
お構いなしに
マシンガントークを炸裂させる。

正直、クラスでも

歴史に興味のない者が

ほとんどなので、

ほとんど寝ている。

ほぼ寝ているが故に

起きてる俺の目を見て

石原先生は話してくるため、

俺は寝ようにも寝れない…。

この時間が一番キツい…。

俺、歴史好きじゃないのに…。

やっと地獄の6時間目が終わった。

ホームルーム中も

齋藤さんはずっと寝ているため、

俺は齋藤さんを起こす。

寝起きで呆然としている彼女。

飛鳥『今、日本史?』

「いや、もう日本史は終わって、
 帰りのホームルームだよ」

『…はやっ』

「そりゃ寝てたからでしょ」

という言葉を俺は胸にしまう。

担任の山神が教室に入り、

ホームルームは始まった。

ホームルームを終えて

放課後になると、

俺は男子トイレに行き、

ケータイをいじる。

橋本さんとメールで

“作戦会議”の連絡をするためだ。

メールを見ると、

橋本さんからのメールが

早速来ていた。

送信時刻、13:50。

がっつり授業中に

ケータイいじってるじゃないか…。


メールの内容を見ると、

「急遽文化祭の出し物の用事できちゃったから、18時までに学校から家に帰れないかも!(ToT)
だから、18時までどこかで暇つぶしててくれる?(>_<)
18時に学校の正門で待ち合わせね!m(_ _)m」

とのことだった。

俺は把握の旨の返信をし、

こうなったら仕方がないので、

図書館で暇を潰すことにした。

一階の図書館へ向かっている最中、

「○○くん」と

聞き馴染みのある声が聞こえた。

後ろを振り向くと、

あの生駒さんだった。

「さっきはありがとう…」

「いえいえ。
 人として当たり前のことを
 俺はしただけですから。
 あれから
 生駒さんは大丈夫でしたか?」

生駒「  うん…。なんとか…。
   あの件もまいまいが
   谷川先生に今
   相談してくれてる…。
   ○○くんこそ
   あれからあの子達から
   嫌がらせとかされてない?」

「  今のところ、
 特に問題はないですよ」

生駒「  良かった…!
   心配ばかりしてごめんね…」

「いえ、そんな気にしなくていいですよ」

生駒「  実は私ね…
   すごくネガティブなの…。
   元々そんな社交的でもないのに
   周りに気を遣って、
        無理して明るく接してきた…。
   でも、
   それが本当の自分じゃないから…
   空回りすることも多くて…。
   だんだん周りと比べて
   浮いた感じになっていくのが
   分かってはいるけど、
   もうそのときには
   一匹狼のようになるしかなくて。
   当然表面上の付き合いだから、
   本音とかも言えるような心から
   信頼できる人もいなくて…。
   で、さっきのように
   クラスからハブられたり、
   いじめられることの繰り返し…」

  

生駒「そんな自分を変えたくて、
  生徒会長に立候補したのに…。
  せめて誰かのためになれる
  そんな存在に
  私はなりたかったのに…。
  さっきの件で、私はなにも
  変わってなかったんだ…
  無理して真面目にしてただけで
  誰のためにもなっていない存在に
  私はなってたんだ…って
  落ち込んでしまったの…。
  私に味方してくれたまいまいにも
  あんな酷いこと言ってしまって…。
  こんな人間…
  生徒会長失格だよね…!」

  
「生徒会長失格なわけがない…!
  別に無理に自分を
  変えようとしなくていいんです…!
  別の自分に変わろうとするから、
  どんどん苦しくなるんです…!
  それより、変わらない自分の性格を
  どう良い方向に活かせるだろうか?
  を考えていけばいいだけなんです…!
  それに、変わってないように見えて、
  今の生駒さんは少しずつ良い方向へ
  変わっていっていると思います。
  生駒さんは未完成ながらも、
  自分の性質を良い方向へ
  活かそうとしていっている。
  そう、俺は思ってます…!」

 

  「それを
        俺はさっき生駒さんと話していて
        感じたんです。
        生駒さんはすごく優しくて、
        愛がある人なんだけど、
        それ故に自他共に
        厳しくなってしまうんだなって。
        ネガティブなのも、
        自他に厳しいのも、
        相手を気遣う優しさから
        来てると思うんです。
  でも、その生駒さんの弱みこそが
     “生駒さんの強み”になれるんです。
       だから、自信を持ってください。
       諦めないでください。
       挫けないでください。
       そのままの生駒さんで、
       自身の長所を
       最大限に活かせる
       生駒さんに
       なっていってください。
       そうすれば、
       生駒さんのなりたい
     “誰かのためになれる存在”に
  きっとなれるはずですよ」

俺は両手で生駒さんの右手を握る。

生駒「グスッ…○○くんはなんで
   そんな達観できるの…?」

「             橋本さんが
    俺を変えてくれたからです。
    いや…元の俺に橋本さんが
    少しずつ戻してくれたんです」

 「  俺、中学のときに
     いじめられてたんですけど、
     いじめっ子のせいで


   “俺が罰ゲームで付き合っている”
      という“あらぬ噂”によって

    当時の交際相手も傷つけられて
 その子からも絶交もされて…。
 ボロボロになった当時の俺は、
 心を閉ざすという方法を
 選ぶしかなかったんです。


 でも、その心の扉を
 少しずつ開けてくれたのは
 橋本さんだった。

 そのときに気づいたんです。

 どんなことがあっても、“自分”を
 見失ってっちゃいけないって。


    こんなこと言ってますけど…
    俺もまだまだです…。

    でも、少しずつ昔の俺を
    俺は取り戻していきたいんです。


    だから、生駒さん。
    一緒に頑張りましょう…!」

生駒「うん…!頑張ろう…!
     私達って案外、
         似た者同士なのかもね…!」

「    確かに
 そうかもしれませんね(笑)」

生駒「でも、本当の私を
         受け入れてくれる人なんて
         ○○くん以外に
         いるのかな…?」

「いるじゃないですか。
  深川生徒副会長という人が」

生駒「  まいまい…。
   ……そうだね…。
   まいまいなら私のことを
   受け入れてくれるかも…!
   まいまいにも
   本当の自分を打ち明けて
   謝ってくる…!
   ありがとう…!○○くん!
   またね!!」

生駒さんはお辞儀をして、
図書館とは反対方向へ駆けていった。

俺は図書館へと向かう。

???「そうか…!
    その手があったか!(笑)
    ○○、観念しろよ(笑)」

「………!?」

???「あー、亜湖?
    ぜひお前に
    やってもらいたいことが
    あるんだけどさ(笑)」

???「○○?あんな奴、
    橋本と一緒に今から
    痛い目遭わしてやる(笑)」

       「………」

俺と図書委員しかいない図書館で

俺は本を読んでいると、

背中をポンポンと叩かれる。

俺が一瞥すると、

「図書委員 西野七瀬」と書かれた名札を

入れたIDカードホルダーを首に提げた

西野七瀬さんがジッとこちらを見ていた。

  「あ、はじめまして…。
         なんか俺しました…?」

     七瀬「…逃げて」

      「はい…?」

     七瀬「逃げて…!」

    「逃げろと言われても…
                一体どこへ…?」

七瀬「  そこの窓から
   渡り廊下へ密かに逃げて。
   あなたのクラスの男子らが
   あなたに危害を加えようと
   図書館前であなたを
   待ち伏せしているところを
   さっき見たの。
   そこの窓の鍵は
   図書委員の私が
   開けてあるから、
   あなたは早く逃げて…!
   恐らく…
   生駒さんを庇ったあなたに
   恨みを持った
   人達だと思う…!」

「  でも、それなら…アイツらは
 なぜ生駒さんと俺がいるときに
 襲わなかったんですか…?」

七瀬「  あの女子達の件があるから、
   生駒さんへ手出しが
   思うようには
   できないせいかもしれない。
   その代わりに
   彼らがあなたへ確実に
   報復しようとしてる…。
   それに…。
   さっき盗み聞きしたときに
   奈々未もこの報復に
   巻き込まれそうだった…。
   だからお願い…!
   奈々未もあなたも
   無事でいて…!」

  「分かりました。
   でも、初対面なのに
   西野さんは
   なぜ俺にここまで
   してくれるんですか…?」

七瀬「    私の親友の奈々未が
    “大切な人”だと
    言ってたのが
    “あなた”だったから…!
    あなたを
    傷つけられて悲しむ
         奈々未も…
    奈々未を  
    傷つけられて悲しむ
         あなたも…
    私は見たくないから…!」

「なるほど…そうだったんですね…。
  わかりました…!

   今すぐここから脱出して、
   橋本さんを助けに行きます…!」

七瀬「待って…!
         ここから逃げたら
         美術室へ向かって…!
         そこで奈々未が
         文化祭の打ち合わせを
          してるはず…!」

「    了解です…!
 橋本さんは俺が絶対守ります」

 俺のその言葉を聞いたとき、
 西野さんの口角は少し上がった。

七瀬「うん…!
         絶対奈々未を助けて…!」

「  もちろんです…!
 西野さん…!
 本当にありがとうございます…!
 この恩返しは
 またどこかで…!」

七瀬「そんな恩返しなんて…。
         奈々未とあなたが
         無事であることこそが
         最大の恩返しだよ…!
         さあ、早く逃げて…!」

俺は

西野さんから促された通りに

図書館の大きい窓から

図書館を密かに脱出すると、

図書館前を横切らないように

慎重な足取りで美術室へ向かう。

時刻を見ると、

17:30だった。

そろそろ四階の美術室に
行かなきゃいけない時間だな…。

念の為に催涙スプレーを

ポケットに入れておくか…。

  本来、妹の和を

  守るために買ったものだが、

  まさかこんなことで

  使うかもしれないとは…。

美術室に行くと、

美術室前で談笑してる高山さんと

橋本さんがそこにいた。

     「橋本さんっ…!!」

高山「  あっ!○○くんじゃん!
   わざわざななみんを
   迎えにきてくれたの?」

「  高山さんこんばんは…!
 お二人で談笑中に
 割り込んですみません…!
 どうしても今すぐ
 ここに来なきゃいけない
 事情があって…!」

高山「  全然私は大丈夫だけど…
   大丈夫?何かあった?」

橋本「  なんかいつもより
   急いでる感じだけど…
   どうしたの!?
   わざわざここに
   迎えにきてくれなくても
   そろそろ集合場所に
   行くつもりだったよ…!?」

「  それじゃあ手遅れなんです…!
 橋本さん!
 文化祭の打ち合わせは
 もう終わりました!?」

橋本「あ、うん…!
   文化祭の打ち合わせは
   ついさっきちょうど
   終わったところだけど…
   ねぇ、なんかあったの…!?」

「  詳しい話はあとで話しますっ…!
 高山さんも橋本さんも
 ここから今すぐ出ましょう…!」

高山「  あの冷静な○○くんが
   こんなに焦ってるんだから、
   何かあったんだよ…!
   ななみん、逃げよう…!」

奈々未「   うん…!分かった…!
    今すぐここから
    離れるね…!」

高山さんが美術室の鍵を閉めたそのとき、

高山「  あれ…?
   なんか声聞こえない…??」

高山さんは耳を澄ますと、目を見開く。

高山「  ………!!
   奈々未と○○くんっ…!!
   今すぐ逃げて…!!
   二人とも狙われてる…!!」

何か異変に気づいた高山さんは
俺と橋本さんを逃がそうとする。

奈々未「でも、かずみんは…!?」

高山「  私は大丈夫だから、
   早く逃げて…!!」

        すると、

「  ○○が脱走しやがった…!!
 橋本と一緒の可能性が高い…!
 橋本と○○を探せ!!」
 という男子達の大きな声が
 美術室近くの階段の踊り場に
 こだまする。

「高山さん、すみませんっ…!!」

 俺は咄嗟に橋本さんの手を引き、
 高山さんに謝りながら
 美術室そばの渡り廊下を駆ける。

橋本「  ち、ちょっと…!!
   かずみんを
   置いていく気…!?」

「         アイツらの標的は
   高山さんじゃなくて、
   俺と橋本さんですっ!!
   恐らく生駒生徒会長を
   庇った俺への報復です…!
   さっき、西野さんが
   アイツらから
   俺が狙われていることを
   教えてくれたんです…!」

奈々未「な、なぁちゃんが…?」

  「  その時に西野さんから
   『橋本さんを助けて』
   って頼まれて、早く
   橋本さんを助けようと
   急いで走って
   ここにきたんです…!!」

奈々未「で、でも…!」

橋本さんは

高山さんが心配で

後ろを振り向く。

すると、

高山さんに見向きもせずに

こちらを追いかける男達の姿を

はっきり捉えた。

奈々未「本当に“私たち”だけを
    追っかけてるじゃん…」

「  だから言ったじゃないですか…!
 橋本さんは俺が絶対守るんで、
 俺についてきてください…!」

奈々未「  うん…分かった。
    ○○くんを信じる…!」

橋本さんは俺の手を

さっきよりもギュッと強く握った。

俺もその手を離さないように

強く握り返した。

  たとえどんな姿になろうと、

  絶対、俺は橋本さんを

  守ってみせる…!

   だって

   橋本さんは

   俺にとって

   “大切な人”であり、

   “大好きな人”なんだから。




       To be continued...