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「ハラスメント」は全て録音・ネット公開 「1億総告発社会」という現代 取材・文◉黒田英雄(紙の爆弾2024年5月号掲載)

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次々と暴かれたハラスメント

 昨年から今年にかけて、これまで長らく揺るがなかった芸能界の“帝国”が、音を立てて崩れはじめている。
 昨年3月に英BBCで放送された、ジャニーズ事務所創業者・ジャニー喜多川氏による児童への性的虐待に関するドキュメンタリー。7カ月後には社名が消滅するという事態に発展した。
 9月には、宝塚歌劇団の宙組(そらぐみ)に所属していた25歳の女性が、自宅マンションの敷地内で死亡しているのが見つかり、状況から自殺とみられている。遺族は劇団に対して、長時間労働と上級生からのパワハラがあったことを主張し、当初は否定していた劇団側も一部を認めた。
 年末から年明けにかけては、吉本興業に所属するダウンタウンの松本人志氏の過去の言動が性加害であったと週刊誌に掲載され、テレビからその姿が消えた。吉本興業に関しては、プラスマイナスの岩橋良昌氏が著名なタレント2名からエアガンで撃たれたことがあるとX(旧ツイッター)に投稿し、最終的に契約を解除されるということもあった。岩橋氏自身は、自分から退所を申し出たのに契約解除という話にされたとXに投稿している。
 ジャニーズ事務所・宝塚歌劇団・吉本興業。いずれも芸能の世界で長く繁栄を誇ってきた、名だたる企業や団体である。しかしその一方で、常に黒い噂が絶えないところでもあった。筆者は20代のころシンガーソングライターとして活動した経験があるが、メディアに出ることなどほとんどなかった私でさえ、これらの帝国の闇の部分の話をよく耳にしていた。
 実際には、芸能界全体がかなり際どい世界であり、「売れるためには仕方ない」と、夢を叶えるべく飛び込んでくる者にとって、受け入れざるを得ない理不尽も多くあったように思う。

スマホとSNSの登場で変わった世界

 これらの暴かれたハラスメントは、私は当事者ではないため、真偽のほどはわからない。ただ、当事者の方々が声を上げ続けたことで、メディアを通じて問題提起されたというのは間違いないだろう。
 その影響を思わせる変化は、ここに来て私の近くでも現れはじめた。現在、私は労働法の専門知識を持つ探偵として人生相談を受けており、昨年頃から「録音があるんです」「動画があるんです」という相談者が増えてきたのだ。
 スマートフォンが普及してもう久しいが、カメラやマイクの性能は飛躍的に向上している。また、職場にスマホを持ち込むことはごく自然なことであり、特に怪しまれることはない。
 芸能界のハラスメントが水面下で脈々と続けられてきたように、会社におけるセクハラやパワハラも昔からたくさんあった。それが表に出るようになったのは、数が増えているからではなく、声を上げやすくなったからだ。その一因として、スマホの普及は無関係ではないだろう。かつては証拠を掴むことができずに泣き寝入りしていたことが、今は手軽に記録を残すことができる。
 そして、SNSの登場も大きな変化であろう。誰もが自由に発信できるようになり、自身の勤務先の不正を世間に知らしめることもできるようになった。まさに、“1億総告発社会”である。
 個人で発信することは危険も伴うが、しかるべき機関を通してであれば訴えられるリスクも少ない。後で3つのケースを紹介するが、私の事務所にもパワハラの録音データが提供され、ユーチューブで公開したところ、30万回を超えて再生されている。

不適切にもほどがある!

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