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“憲法軽視”は政府与党だけではない 憲法違反の法律がつくられる理由 取材・文◉足立昌勝(紙の爆弾7月号掲載)

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岸田訪米の「成果」と統合作戦司令部の設置

 4月に訪米した岸田文雄首相は、11日、アメリカのバイデン大統領およびフィリピンのマルコス大統領と初の日米比首脳会談に臨み、安全保障上の幅広い協力と経済協力で合意した。
 すでにアメリカは、東アジアにおける中国の影響力に対抗するために必要な多国間枠組みを形成している。すなわち、①日米韓軍事同盟 ②日米豪印の戦略対話の枠組みであるクアッド(QUAD) ③米英豪の安全保障の枠組みであるオーカス(AUKUS)だ。これらに加え、日米比の軍事的協力枠組みが形成されたことになる。
 これにより、極東アジア・東アジア・南アジアにおけるロシア・中国および朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対する包囲網がより強化された。
 会談での合意事項は、「鉄道や港湾、半導体サプライチェーン(供給網)への投資加速」「重要鉱物資源のサプライチェーン強靭化」「民生用原子力の能力構築に関するパートナーシップ拡大」などの経済協力関連が多くを占めるものの、「南シナ海での中国の危険かつ攻撃的行動について深刻な懸念を表明」「自衛隊と米比海軍との共同訓練を実施」という軍事的要素が含まれている。
 会談後の共同声明では、南シナ海で中国が「危険かつ攻撃的な行動」を進めているとして「深刻な懸念」を表明。南シナ海における「埋立て地形の軍事化及び不法な海洋権益に関する主張」を懸念し、「海上保安機関及び海上民兵船舶の危険で威圧的な使用」の試みに断固反対するとした。
 そのうえで、今後1年以内に3カ国の海上保安機関は相互運用性を向上し、海洋安全および保安を推進するため、インド太平洋において3カ国間海上合同訓練などを実施。さらに「日比米海洋協議」の開始を宣言した。
 また岸田内閣は、3月26日には、日英伊で共同開発した次期戦闘機について、第三国への輸出を承認する閣議決定を行なった。これを受けて防衛装備移転三原則の運用指針が改正され、“歯止め”として対象を次期戦闘機に限り、輸出先を日本が防衛装備品の輸出などに関する協定を結んでいる国に限定し、戦闘が行なわれている国には輸出しないとした。
 しかし、この決定は武力による侵略をも可能とする戦闘機の輸出である。それが憲法9条に合致するか否かの国会での検討を経ずに、閣議決定で済ませてしまった。それが鮮明にするのが、この内閣の持つ憲法軽視の姿勢だ。
 5月10日、参議院本会議は、陸海空自衛隊の部隊運用を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を設ける防衛省設置法改正法案を可決・成立させた。与党と立憲民主党、日本維新の会などが賛成し、反対したのは共産党とれいわ新選組だけ。これにより、本年度末に東京・市ヶ谷にある防衛省内に240人規模で発足するという。
 これらの大事な決定も、与党協議だけで国民の声を代表する国会での審議が行なわれなかった。国民主権の無視である。
 ここまで来ても、憲法九条の枠内にとどまっていると“解釈”するつもりなのか。
 アメリカの尖兵となって、仮想敵国包囲網の形成を目指す岸田内閣や自公政権の下、ここまで来てしまった自衛隊は、もはや自衛ではなく戦争を行なうための軍隊である。外国の意志に従い、状況に応じてどこにでも展開させられることを認めざるを得ないだろう。
 それは、岸田内閣や自公政権の望みでもあるのだろう。望んでいないのであれば、国会での十分な審議=熟議を求めればよいはずだ。しかし、彼らにそれはできない。国民を納得させるだけの熟議に耐えられないからだ。
 防衛省は「保持できる自衛力」について、相変わらず「自衛のための必要最小限度のものでなければならない」と繰り返す。その具体的な限度は、国際情勢や軍事技術の水準、その他の諸条件により変わりうる相対的な面があり、毎年度の予算などの審議を通じて国民の代表者である国会において判断されるという。
 しかし、九条そのものの議論はなされない。判例で確定されていることを根拠に、政府の勝手な主張のみが述べられるだけであり、「言葉の解釈」とすら言える代物ではない。
 防衛省の主張する「予算などの審議」を通じての国会審議とは、国民の意思が反映されるものではなく、政府の主張そのものである。詭弁を弄し、逃げの一手で国会審議を避ける自公政権。それこそが国会軽視であり、憲法無視であることを忘れてはならない。

憲法違反が濃厚な法案

 毎年開催される通常国会には、数多くの法案が上程される。そのうち一番多いのは、内閣から提出される「閣法」であろう。
 内閣には、法の番人としての「法制局」があり、法案は内容を含め、その妥当性が審議されている。そこでは当然のように、法案が憲法に合致するか否かも検討されているのであろう。
 ところが、上程された法案の中には、憲法に抵触するおそれが強いものも存在する。

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