詩「イカと坂」

季節は後戻りできないが
この坂 引き返したい
背中のイカは やがて
スルメに変貌しよう、という
準備を整えているというのに

その影に触れるたんび
ぬめぬめしている粘液が
コーティングしてくる
わたしの身体を 
もう許して 骨まで愛して
叶わぬ望みじゃけん(おっかさん)

食いちぎる スルメ
歯が 歯が がたがた
がたがた 山県有朋
そう、わたしの父親
軍人の顔を、してる
教科書を墨で塗りつぶす世代の恨み節は
わたしの理解の範囲内だ
イカよ、スルメになる前に
墨を出せ、早く
父親の顔を塗りつぶせ
黒く塗れ! ストーンズ節だよ
おっかさん

ああ、立ち小便までもが
ちいさく こじんまりしていやがる
わたしの 12色の彩りを阻害するのは
父親なのだが 
わたしは寂しく イカが
スルメに乾いてゆくのを見つめるほかない



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