深夜のスケッチ

自動販売機と向き合う。深夜の3時だ。薄い明るさを放ちながら、自動販売機は微笑む。ぼくは話しかける。だが、沈黙だけが、反射してくる。

黄色い鉄柱が、コの字に曲げられて、地面に突き刺さっている。地面は、何も言わない。せめて、叫び声を上げるとか、口から泡を吹いたりしてくれればいいのに。世界は静かすぎるのだ。沈黙ばかりが支配していて。つまらない。

ブローティガンの小説みたいに、鱒が釣れたらいいのに!このアスファルトから。そうすれば、世界はもっと豊かになる。ヒトのココロのなかの、野生の部分を蘇らせて、この世界を水色の色鉛筆で塗りつぶすべきなのだ。

そう考えると、ブローティガン「アメリカの鱒釣り」は、重要な書物だとおもわれる。世の中を埋め尽くすビジネス本よりも、ありがたい本である。でも、多くの人たちは、鱒釣りに興味がない。みんな、死人のような顔をして、満員電車に乗り込み、命を会社にさんざん吸い上げられて、また1日、死への階段を上ってゆく。死滅した欲望たちは、どこへ行くというのか?

みんな、自分のココロの薬は、自分で作るべきなのだ。道端にも落ちていないし、コンビニで売っている訳でもない。
難しいのだ。生きてゆくのは。

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