ハリネズミのしあわせ#4(おわり)


思いがけず、モグラと仲良くなり、美味しいミルワームも分けあって、喜びでウキウキしながらハルは巣穴へと帰った。

そーっと巣穴に入ると、そこには心配そうな表情で立つルルーと、怒った表情のハーバーがいた。

「夜中に抜け出して、どこに行ってたんだい?心配するじゃないか!」
「天敵に襲われたらどうするんだ!」
心配で問い詰める両親に、ハルはシュンと落ち込んでしまった。
「だって、ミルワームが食べたくて。友達もいるから大丈夫だよ。」
「そんな事しなくたって、ちゃんとご飯を用意してるだろ。もう夜中に出歩いたらダメよ。」
「そんなぁ……。」

両親に夜の散歩を禁じられてしまったハルは、おとなしく巣穴の中で暮らすようになった。
それから数日が経ち、モグラはせっかく仲良くなったハルがまた姿を見せなくなり、つまらない日々を過ごしていた。

「はぁ…。なんであいつ、また来なくなったんだろ…。」
地下の巣穴でため息をつくモグラに、母さんモグラは「まったく…」と呆れていた。
「あんた、毎日毎日ため息ばっかりついて、ちょっとは元気をお出し!」
「だってよ母さん、せっかく狩友達が出来たのに、アイツったらまた来なくなっちまってさ…。」
モグラはぐちぐちと母さんモグラに話し出した。
「なんだ、そんな事かい。そんなの、あんたから会いに行けばいいじゃないか。」
モグラはしばらく考えて「うーーん…。そうだな!!まったく、世話の焼けるヤツだ!」と急いで出掛ける準備をしだした。
「ふぅ、これで家の中の空気が良くなるわね!」母さんモグラは腰に手を当てて、ニコッと笑った。

モグラはフンフンと鼻を鳴らしながら、匂いをたどって、ハルの巣穴を探した。
「ここかな…。」モグラは朽ちた木の巣穴にたどり着き、ぽっかり空いた穴から巣穴を覗き込んだ。

中には椅子に座り、口を開けてボケーっと空を見つめている、脱け殻のようなハルの姿があった。
その姿はとても幸せそうには見えなかった。
「なんて顔してるんだよ。」
モグラはその様子に悲しくなったが、ハルを元気付けるために、あることを思い付いた。

コンコンとノックする音に、はっと我に返り、ハルは穴の空いた窓の外を見た。

《元気出せ!またいっしょにミルワーム探そうな。》

地面に書かれたメッセージを見て、だんだんとハルの目から涙が溢れてきた。
「うわぁーーーん」
突然大泣きするハルに、両親はおろおろと心配し、ハルを慰めるのだった。

その夜、ハルは両親が眠るそばにそっと手紙を置いて、今まで暮らした巣穴を出た。
風呂敷を首に巻き付けて、とぼとぼと新しい住みかを探していると、大きな石が重なりあった、空洞を見つけた。
「ここにしよう!」ハルはそこを新たな巣穴にすべく、荷解きを始めた。

朝になり、両親はハルが居ないことに気付き、大慌てで巣穴の中を探した。
すると枕元に手紙が置いてあり、二匹は一緒にその手紙を読んだ。

《お母さん、お父さんへ
せっかく一緒に暮らせるようになったのに、出ていってゴメンね。
でもボク、大事な友達と一緒に、大好きなミルワームを捕まえて暮らしたいんだ。襲われないように気を付けて暮らすから心配しないで!少しの間だけど、お母さんお父さんと一緒に暮らせてしあわせだったよ!二人とも元気でね!》

ハルの手紙を読み、我が子の成長に涙ぐむルルーの肩を、ハーバーはそっと抱き寄せるのだった。

ふたたび一匹で暮らし始めたハルは、すっかり夜型のハリネズミに戻っていた。夜になると、ウキウキとミルワームを探して散歩に出掛ける。
「ハル!今日もいっぱい捕まえるぞ!」
メガネをかけたモグラが土の中から元気に飛び出してくる。
「よーっし!どっちが多く捕れるか勝負だぞ!オリバー!」
ハルとモグラのオリバーは、元気良く夜の草原を駆け回るのだった。


おわり




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