ハリネズミのしあわせ#1


静かな森の茂みに、静かに暮らすハリネズミの家族がいた。しっかり者の優しい母のルルー、少し怖い顔つきだが、どっしりと一家を守っている父のハーバー。
ルルーの両手には小さな赤ちゃんハリネズミが抱きかかえられている。まだ針と言うには短く、柔らかい毛の様なものが背中に生えて、片耳は少し折れ曲がっていた。
「ハル、いっぱい食べて、いっぱい寝て、元気なハリネズミになるんだよ」
ルルーはハルと名付けた我が子に、優しく声をかけた。

「ちょっと今日のご飯を探しに行ってくるよ」
ハーバーが茂みから出ると、1匹のキツネが待ち構えていた。
ハーバーは恐怖に一瞬動けなくなったが、すぐにルルーにハルを連れて逃げるように伝え、自分はキツネをおびき寄せ、囮になった。
ルルーはハルを抱きしめて、必死でその場から逃げた。突然の出来事に焦り、足がもつれる。その拍子に、ハルは川に放り出されてしまった。
「ハルーー!!」
ルルーは必死に名前を呼ぶが、川に流されていくハルを助ける事が出来ず、悲しみでその場に泣き崩れた。
そのうち、なんとか逃げ切ったハーバーは戻ってきて、悲しむルルーの様子を見て、何が起きたかは想像がついた。
ハーバーはルルーをなぐさめながら、とぼとぼと一緒に住処に戻った。
しばらく経ち、2匹は悲しみながらも静かに暮らしており、別れたハルの無事をいつも願っていた。

1匹のモグラが土の中から顔を出すと、ピーピーと小さな鳴き声が聞こえてきた。
モグラは鳴き声の方へ歩いて行くと、川の水草に、モグラに似た赤ん坊が流れ着いているのを見つけた。
「まぁ、こんなところで可哀想に」
モグラはハルをすくい上げて、巣に連れて帰った。


「おかわり!」
ハルは元気な声で、おかわりをねだる。
「ほんとによく食べるねー」
モグラはハルの食欲に呆れていた。
「それに、最近何だか背中がトゲトゲしてないかい?あんた、モグラだと思ってたけど、違うのかもねぇ」
ハルはリンゴ程の大きさに成長し、小さかった背中のチクチクも、とがった針山の様になっていた。

ハル「うーん…、わかんない。」
全く気にせずに、おかわりしたご飯をむしゃむしゃ食べるハルにモグラはため息を吐いた。

狭い土の中で生活する2匹だが、だんだんとハルが大きくなり、背中の針がチクチクとモグラに刺さって、モグラの体は小さなキズだらけになった。
「あんた、最近トゲトゲして痛いよ。やっぱりモグラじゃないんだね。可哀想だけど、そろそろ一緒に暮らすのも無理なのかも。」

「そうなのかな…。」しゅんとして、自分の体とモグラを見比べながら、ハルはしばらく考えた。
「わかった。明日からここを出てひとりで暮らすよ。ボクを拾って面倒みてくれたオバサンに、これ以上ケガさせる訳にはいかないし。」
寂しい気持ちはあったが、仕方がないと思い、ハルはひとりで生活することに決めた。

次の日、ハルはモグラに「今までありがとね!」と伝え、地下の巣穴から出て行った。モグラは、長くはないが共に暮らしてきたハルとの別れが寂しかったが、立派に成長したハルを嬉しく思い、トゲトゲの後ろ姿を見送った。


ハルは森の中をぽてぽて歩き、ちょうど良さそうな穴の空いた倒木を見つけた。
「誰もいないし、ここを巣穴にするかー。」
ハルは倒木の中に暮らし始めた。

ひとりで暮らし始めてしばらくが経ち、ハルはすっかり夜型のハリネズミになっていた。特にひとりがさみしいとは思わず、意外とお気楽な日々を送っていた。
最近の楽しみと言えば、暗くなってから、近くの草むらに大好物のミルワームを探しに行く事であった。

ハルはフンフンと鼻先を小刻みに動かしながら、草むらをウロウロしていた。
すると1匹のミルワームがくねくね動いているのを見つけ、鼻息を荒くしながら勢いよく飛びついた。

その瞬間、向かいの方からも何者かが飛びかかってきて、ハルと何者かはお互いの頭をゴツン!とぶつける。
ハル「いった〜〜い!!何?何事?」
ハルは両手で頭を押さえながらキョロキョロと周りを見渡した。
すると目の前で同じく頭を押さえて丸まっているモグラを見つけた。
ハル「モグラ??」
モグラは目が3の様な形になっており、「メガネ、メガネ……」と手をパタパタと探る様に動かしている。
近くに落ちていたメガネを手探りで見つけると、モグラはカチャカチャと慌てて顔に付けた。
そしてメガネをくいっと持ち上げながら、ハルの顔を覗き込む。
モグラ「んん~~!?その背中のトゲトゲ…、おまえ、ハリネズミだな!?」

「ハリネズミぃ?」初めて聞く名前に、ハルはなんとも間抜けなポカーンとした顔で聞き返すのだった。


つづく…







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