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七転び八起き


早いもので東京にもどって4年が経った。その間に3回入院をして2度、心を患った。
パリに14年住んでいたときは、一度も身体を壊すことなどなかったから、母国帰国4年の間に崩した我が身に心からの感謝がある。
脳天気に楽しく生活をしていたようで、若さもあったろうけれど、きっと気持ちも身体も張り詰めていたに違いないのだ。
どんな小さな物音にだって反応して、すぐさま目を覚まし耳をすませて息子達の寝室を覗いてから自室に戻る14年間であった。
いまではむすこ二人は独立して、私も都心のアパートで一人住まいの身上だから物音くらいで目を覚ますことが無くなった。
護る子がある。というのは独り身の女にどれだけの気を張らせるのか。
そんな緊張の時間と体力の消耗が氾濫してしまったこの4年間は、身体の調子がまるでダメであった。
いまも少し心の病気になっていて、いつもいつもうまくバランスを取って生活出来ているわけじゃない。
自分で思いつく限りの妙案をすこしづつ試して元気をとりもどそうとしている。
私がパリにすんでいるときに「パリ症候群」という言葉を幾度となく聞くことがあった。
憧れてパリにやってきたはいいけれど、実際のパリ生活に馴染めずに心を病んでしまう人を指すのだ。
じゃあ自分は「東京症候群」とでもいうのだろうか。
母国で「こんなはずじゃない」と戸惑うことばかりで心身共に病んでしまったのだ。
パリ症候群なら帰国すれば済むけれど、母国で心身を病むのなら戻る国は無いのである。
あまりにも戸惑うことが多かったから、帰国直後は「パリへ帰ろう」という気持ちが何度も頭をよぎったけれど、そんなとき、世界は未曾有のパンデミックである。
パリどころか、自分の部屋からでることもままならない日常が世界と私に覆い被さって3年が経った。
そして今である。
帰国から始めた仕事はどれをとっても長続きせず、やはり自分は自営業の人間なのだ。と諦めて、それまでの人生でそうであったように個人事業主となってからは心が少しおちついている。もともと字を書いて生活してきた人間だのに、この4年間はそれすら出来なくなる病の繰り返しであった。このまま死んで仕舞えればどんなに楽か。とひとり絶望もしたけれど、いまこんなふうに気持ちを書き出すことができるようになったのだ。
だからここはひとつ自分を一生懸命に褒めてやりたいな。とつくづく思うのである。


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