密かな調査

最近様子がおかしい空くんにパイモンがモナに協力を求めて調査するお話です。

タルタリヤ、もしかしたらこんな風に加入したのかな…と思い付いた妄想です。

以前投稿した3作品ネタもほんの少しあるのでおすすめします!←露骨な宣伝

・会話文多め
・自己解釈多々あり(特にモナの占星術やタルタリヤの加入など)
・キャラの口調や性格掴みきれてない感あり
・建物、風景の描写センス皆無
・ほんの少しだけ映天の章と帰らぬ熄星の話あり


※初出 2021年 2月1日 pixiv



モンドにある貸屋にて。
少し前までは、前の住民がかけた水元素の結界によって開かずの扉と化していたが、それも解決して、今は新たな住民が住んでいる。最低限の家具と占星術に使うのであろう道具、それらが細々とありここの住民が質素な生活をしているのが伺える。そんな貸屋は今日は少し賑やかな様子だ。

「最近、旅人の様子がおかしいんだぞ!!」

「…どうしたんですか、いきなり叫んだりして。」

近所迷惑になるのであまり大きな声は出さないでください、とこの貸屋の封印を解いた張本人である優れた占星術師の少女、モナは星の意匠をあしらったとんがり帽子を傾けながら、今しがた叫んだ空中を漂う不思議な生き物、パイモンに向かって言った。指摘されたパイモンは自覚があるのか黙るものの納得いかない様子で何か言いたげにモナを見つめている。

とあるきっかけで知り合ったモナは、占星術師の修行の一環として質素な生活を心がけている(正確にいえばそうならざるを得ない、と言える)。モナ曰く、お金に関わるもの、つまり俗世のものに邪魔をされては判断に迷いが生じてしまい星空の研究に専念する存在である占星術師にとっては致命的である、ということで食生活に至るまでかなり切り詰めた生活をしている。そこで、ひと月に一度、空お手製の食事を持ってくる約束をしているのだ。頻度が少ないのは、占星術師の修行の妨げにならない程度に、という配慮からだ。

しかし、その料理を作った空本人は用事ができたというので、パイモンだけが頼まれた分の料理を運んできたのである。ちなみに本日のメニューは、満足サラダ、大根の揚げ団子、冒険者エッグバーガー、魚のバター焼き、デザートに午後のパンケーキだ。質素過ぎず、かと言って豪華になり過ぎない絶妙なチョイスの品々だ。特にサラダはモナの好物でもありそれを知ってからは、空はどんな料理の中にも必ずラインナップに入れてくれている。それに、今日の分はパイモンの分も含めて量も多めにしてくれている。

ぱく
「う〜ん、美味しいです…!! 本当に、彼は料理の才能がありますね。」

「そうだろそうだろ?? オイラのお墨付きだからな…って誤魔化されないぞ!!」

大根の揚げ団子を頬張りながら、モナは感嘆の声を漏らした。以前、空が振る舞ってくれた黄金ガニのことも思い出しているのか恍惚の笑みも浮かべている。そんなモナの感想を聞いて空の料理の腕を誇らしく思ってドヤ顔をするパイモンだが、流されそうな気配を感じ取り先程よりも控えめながらも声を張り上げた。

「もう、分かっていますよ。何か心当たりはありますか??」

「う〜ん、ちょっと前までは食欲が無かったり、かといえば急に戻ったり…。」

「確かに気になりますが、それはどちらかといえば私よりも医者に診てもらった方がいいのではないですか??」

「それだけじゃないんだ!! 何かを思い出しては急に顔を真っ赤にしたり落ち込んでたりもするんだぞ!!」

「それは妙ですね…。ちなみに件の彼は何処にいるんですか??」

「さぁ? 今日は用事があるからこの食事をモナに届けてくれ、って頼まれたんだ。」

「それで居なかったんですね。」

「なぁ〜、頼むよぉ。うぅ、オイラの分も食べていいから!!」
バッ

「そもそも、私への食事の配達なのに、なんであなたまで食べてるんですか。」

「今回は多めに作ってくれたからだ!!」

「そうですか…。」
(ん? でもよく考えてみれば…)

泣きながら魚のバター焼きを差し出すパイモンの手からそれを受け取りながら、ふと浮かんだ考えに、モナは今しがた手にした魚のバター焼きとそばに置いた食べかけの冒険者エッグバーガーを見つめた。今日の料理は、パイモンが持ってきてくれたもののパイモンが言う空の"様子がおかしくなった原因"の存在が大きくなればなるほど、次第にモナへの食事を渡すのも疎かになってしまうのではないか、と。最悪の場合、それがストップする可能性すら出てきた。

サー
(このままでは、私の食生活の危機です…!!それは困ります!!)

思い浮かんだ結論にモナの顔色は次第に青ざめていく。空は料理を作るのが、かなり上手で味にも定評がある。そのあまりの美味しさにすっかり舌が慣れてしまっているのだ。それに占星術師のプライドとして、口先では仕方なく食べている風を装っているが、生活だって決して楽とは言えない。むしろひと月に一度とはいえ料理が来てくれるのを自ら止めてしまうのは文字通り死活問題だ。ならばやるべきことはただひとつである。

スクッ
「仕方ないですね、この天才占星術師のモナが手助けをしてあげます!!」

「お、おぉ?! 何だか急にやる気を出したな…。」

「これも研究の一環です!!」
(それと私の食生活の為に!!)

「何だか微妙に納得いかないけど、それならオイラも助かるぞ!!」

立ち上がって声高らかに宣言したモナにタジタジのパイモンであったが、協力してくれるなら、と笑顔になった。かくして、パイモンは、食生活の危惧を感じ取った懐事情の厳しいモナの協力を得たのであった。

「取り敢えず情報が欲しいので、私が占いで出した場所に居る方々から情報収集してきて下さい。」

「何だよ、使いっ走りかよ!!」

「いいから、頼みましたよ。今から言う場所に居るはずです。」

「う〜ん、仕方ない!! 行ってくるぞ〜!!」

*鹿狩りに行って話を聞いてみる

「ん?? あそこに居るのは…。」

早速モナに言われた場所のひとつである鹿狩りに行くと該当する人物が居た。特徴的な赤いリボンを揺らす濃い色の茶髪の少女、アンバーを見つけた。鹿狩りの前で頼むメニューを悩んでいるのかうんうん唸っている。

「お〜い!! アンバー!!」

「ん?? あ、パイモンじゃない!! 旅人は一緒じゃないの??」

「あいつは野暮用で居ないんだ。」

「そうなんだ。アンタ達いつも一緒だから何だか違和感あるわね。」

「まあ、オイラ達は仲良しだからな!! って、そんなことよりも聞きたいことがあるんだけど。」

「何??」

「最近、あいつに関してなんか変わったことはなかったか?」

「変わったこと? いきなりどうしたの??」

「ちょっと気になることがあってな…。」

「う〜ん………。あ、そういえば。」

「なんかあったのか?!」

「この間会った時に、風の翼を使っている時に、お姫様抱っこで飛行したら、違反は飛行した側と抱っこされた側のどちらになるのか、って聞かれたかな〜。」

「お、お姫様抱っこ?! 何でそんなことを?!!!」

「私も気になったから聞いたけど、聞くなり顔を
真っ赤にしていたから、それ以上聞く雰囲気じゃなくなったから聞けなかったよ。」

がっかり
「何だ〜…。ちなみに、その場合はどうなるんだ??」

「う〜ん、取り敢えず飛行した側が軽い荷物の扱いで抱っこした人を運んでいたなら違反じゃない、って答えたよ。」

「へぇ〜! そうなんだな!!」

「…と言っても、今までにない例だから断言できないんだけど。」

ズコォッ
「何だよ、憶測かよ!!」

「し、仕方ないじゃない!! あまりにも珍しい状況だし…。でも、今度ジンさんに風の翼の免許の詳細に新しい項目を加えるか相談してみようと思うよ。」

「風の翼のスペシャリストのアンバーでも聞いたことが無い例なのか…。聞かせてくれてありがとうな!!」

「旅人にもよろしく伝えといてね〜!!」

こうして鹿狩りを後にした。ちなみにアンバーは、ようやく決めたのかニンジンとお肉のハニーソテーと元気な声で叫んでいるのが背後から聞こえてきた。

*エンジェルズシェアに行って話に聞いてみる

次の場所、エンジェルズシェアに行くとオープンテラスに褐色の肌にメッシュの入った群青の長髪を束ねた眼帯を身に付けている青年、ガイアが座ってドリンクを飲んでいるのを見つけた。

「ん? パイモンか。久しぶりだな。」

「ガイア…。昼間からこんなところで酒飲んでるのか??」

「ははは。何、ただのジュースさ。」

(ホントかよ…)
「ところで、旅人は居ないのか??」

「ああ、ちょっと野暮用でな。それより最近あいつに変わったことは無かったか?」

「ふむ、変わったこと…、そういえば前に身長を伸ばすにはどうしたらいいのか聞かれたな。」

「身長か…。確かにあいつちょっとチビだからな〜。」

「ははは。この場に旅人が居たらパイモンには言われたく無い、って言いそうだな。」

「オイラはこのサイズ感が可愛いだろう?!」
ドヤァ

「その妙に自信満々なところ、嫌いじゃ無いぜ。しかし、あの年頃は特に身長に関してデリケートだから大目に見てやれ。」

「おぉ、気を付けるぞ。ちなみになんて答えたんだ??」

「そうだな。無難だが、牛乳を飲めばいい、とは言ったな。」

「そういえば、最近牛乳を飲むのは勿論、アレンジメニューもいっぱい作ってたな。」

「ははは。それはいいな。あいつのことだから、さぞどんな料理も美味しいんだろうな。」

「おぅ!! オイラもたくさん食べたから保証するぞ!!」

(食べてたんだな…)

「聞かせてくれてありがとうな‼︎ あと、ほどほどにしとけよ〜。」

「おう、じゃあな。」
まだ優雅に寛ぐ気満々なガイアに別れを告げた。

*西風騎士団の図書館に行って話を聞いてみる

西風騎士団の図書館の扉を開けば真っ先に貸出カウンターを目に止まる。そこには気怠げに座る紫色の魔女装束を身に纏った柔らかな色の茶髪を紫の薔薇の髪飾りで括った美女、リサを見つけた。

「(リサ〜。)」
※小声

「(あら、パイモンちゃんじゃない。1人で来るのは珍しいわね。)」

「(まあな〜。ところで、あいつに関して何か変わったことは無かったか??)」

「(あら、可愛い子ちゃんについて?? そうね…。ここじゃ何だし廊下に出ましょうか。)」
ガタッ

2人は騎士団内の廊下に移動した。

「悪いな、仕事中に。」

「いいのよ。今日は特に利用する人が少ないからむしろ助かったわ。あ、そういえば…。」

「何かあったのか?!」

「利用する人といえば、最近可愛い子ちゃんは恋愛小説を借りて読んでいるんだけど、ページを捲る旅に百面相していたわ。」

「あいつが恋愛小説?! しかも百面相??!!」

「そうなの。驚いたり、急に顔を真っ赤にしたり、真剣な顔だったり。見ていてとても目の保養になったわ。」
クスクス

「信じられないな…。」

「本はいいわよ。読むのは勿論だけど、読んでいる人の趣味嗜好が憶測するのも楽しいわ。それに…。」

「それに??」

「前に可愛い子ちゃんが、貴族のしつけの百合の花を髪に挿して図書室に来ていた時があって、とても可愛かったわ。」

「そんな珍事態があったのか?!」

クスクス
「ええ。ますます可愛くなってたわ。気付いていなかったみたいで、指摘したら顔を真っ赤にしていたわ。」

「オイラも見てみたかった〜。仕事中にありがとうな、リサ!!」

「ええ。私もいい暇つぶしになったわ。」

(仕事はしろよな…)
心の中でそう呟きながら手を振るリサを後にした。

*西風騎士団の反省室前に行って話を聞いてみる

「あぅ〜…。」
トボトボ

リサが図書館に入ると同時に反省室から出てきたのは、羽根付きの赤い帽子と重そうなリュックを背負っているのが特徴的な少女、クレーだ。項垂れている為か、可愛らしくふたつ結びにした先端が薄桃色に色付いた淡い色の髪が下向きに揺れている。

「どうしたんだ、クレー?? 元気ないなぁ。」

「あ、パイモンちゃんだ!! こんにちは!! 栄誉騎士のお兄ちゃんはいないの⁇」

「今日は居ないんだ。それより、何でそんなに落ち込んでいるんだ??」

「うん……。あのね、最近、栄誉騎士のお兄ちゃんが頭撫でてくれないの。」

「あいつ、そんなことしてたのか…。」

「あ、違うの!! クレーがね、撫でて〜、っておねだりしたからなの!! でも…。」

「でも??」

「最近は撫でて〜、って言っても、お顔を真っ赤っかにして、撫でてくれないの…。クレーびっくりしちゃって、お熱あるの?って聞いても、大丈夫って言うの。」

「そうなのか。」

「でもねでもね!! 真っ赤っかになったお兄ちゃん、ボンボン爆弾の色みたいで可愛かったよ!!」

「そ、そうなの、か??」

「よ〜し、今度はあの色みたいなボンボン爆弾作るぞ〜!!!! またね、パイモンちゃん!!」
タッタッタッ

「ああ、話を聞かせてくれてありがとうな〜、ってもう居ない…。」

先程までの落ち込みっぷりから打って変わって、元気に駆け抜けていった。相変わらずのそそっかしさに呆れながらもクレーを見送った。

「ふぅ、これで全部聞けたな。モナのところに行ってみるか。」

*モナに報告する

「なるほど…。色々と興味深いことばかりですね。」

「なあ、これだけあれば充分か。」

「えぇ、充分です。早速見てみます。」

パイモンから調査の報告を聞いたモナは水で象られた占盤を空中に出した。モナの得意とする水占の術だ。水面に映る星空を観察することで行われる様はいつ見ても幻想的で美しさを感じられる。しばらく占盤を操作していたが、結果が分かったのか語り出した。

「ふむ。なるほど、どうやら彼は今、ある人物に会いに行っているみたいですね。」

「えぇ!? だ、誰なんだ!!!?」

「待ってください。現在の星座の動きを見るに……その人物は……。」

「その人物は…??」

「…かなり複雑な星の動きをしていますね。ここまで運命を見定めるのが難解なのは久しぶりです。」

「モナでも難しいのか??」

「まさか‼︎ 私を誰だと思っているんですか⁇これくらい何てことは、……⁈」

「ど、どうしたんだ?!」

瞳を見開いて驚くモナに同調するようにパイモンも大声を出して驚いた。

(まさか、これは…)
「いえ、何でもありません。どうやら相手は年上の男性みたいですね。」

「んん?? ますます分からなくなったぞ。」

該当する人物の心当たりが多すぎるのかパイモンは首を傾げた。年上、無論空よりも年上ということでもかなりの候補があがる。ちなみにガイアは先程話を聞いてきたばかりなので除外だ。

「次は場所ですね。ふぅむ…。大地から根付く大きなものに絡みついていて………、上下に律動する物……、そして頂上には人ではない者の気配……
恐らく彼が居るのは…この場所ですね。」

「ここって、あそこか!! じゃあ、早速行かないと‼︎」

「あっ、待ってください!!」

ようやく分かったのかモナはパイモンに場所を教えた。しかし、聞いた瞬間すぐにでも飛び出しそうな勢いのパイモンを呼び止めた。呼び止められたパイモンは慌てて止まって不機嫌さと急いでいるのが合わさって空中で地団駄を踏むような仕草をした。

「何だよ、場所が分かったんだからすぐにでも行かないとだろ??」

「いいんですか? これはあなたの為にも必要な情報だと思いますが??」

「な、何だよ??」

「くれぐれも注意してください。ひとつ。今回旅人が会っている人物は、何か重要なことを伝えている最中です。邪魔すれば、何をするか分かりません。だから邪魔しないように、様子を見る時は背後からそっと近付いてください。」

「お、おぉ。随分物騒なんだな…。」

「それともうひとつ。あなたには、今、水難の相が出ています。気を付けて下さい。」

「何だそれ? この場所が水に囲まれている場所だからか??」

「…まあ、そんなところです。」

「分かったぞ!! じゃあ、行ってくるな!!」

珍しく言葉を濁すモナを気に求めず会話が終わっと直感したのか、今度こそ飛び出していった。

「はぁ、ようやく行きましたか。」

パイモンが行ったことを確認したモナはデザートの午後のパンケーキに手をつけ始める。ふわふわと柔らかい生地にフォークを刺し込めば弾力に包まれながら沈んでいく。それだけでも美味しさが伝わってくるパンケーキの出来に、これを作った人物、空と心配しているパイモンを思い浮かべて、先程出た占いの結果にやるせ無い気持ちになる。

「恐らくあれはファデュイの執行官の中の誰かでした。それも以前に会った方とはまた別の…。」

そう、占いで出た命ノ星座、それはファデュイの力ある者、執行官のものであることが判明した。以前、モンドに降った隕石の問題を解決する過程で"稲妻の浮浪人"と名乗っていた少年と似たような結果になったのだ。いや、それだけならまだいいほうかもしれない。あの時と違うのは、空に対してかなり強い想いを抱いていることも分かったのだ。

(ファデュイの執行官にまで好かれるなんて…)
「難儀なものですね。」

改めて空の包容力の大きさに、感心が半分、そして同情半分の気持ちになりながら、切り分けた午後のパンケーキを口に運ぶのであった。


一方その頃、望舒旅館にて。

モンドと璃月の境界線たる石門を抜けて道を真っ直ぐ進み七天神像を通り過ぎて、荻花州を抜ければ、璃月由来の特徴的な意匠を施した門と橋が現れる。その門をくぐれば、大岩と大木が絡み付いている特徴的な風貌をしている旅館に遭遇する。地上には、開放的なオープンテラスが用意されて、手頃な価格で特製料理が味わえる。

水車の組み上げによって作動する移動式エレベーターに乗り展望台に行けば、まさに絶景そのものと言わんばかりの景色が見られる。大岩に沿って連なる階段も特徴的であるが、少々足場が悪く度々修理が行われている為、利用客は少ない。客層は主にモンドや璃月の商人や観光客だ。ここの従業員曰く、モンドと璃月の交通の要路であり、往来する時には最高の宿泊場所になるのだと言う。

(確かこの辺りのはず…)
キョロキョロ

そんな望舒旅館の開放的なオープンテラスにて、異国の装いを纏った旅人、空はここで待ち合わせしている人を探していた。辺りを見渡すように首を振る為、その動きに合わせて長い金髪の三つ編みが少し遅れて尻尾のように左右に揺れている。

スッ
「だーれだ?」

ビクッ
「わっ!」

探しているといきなり視界が暗くなり驚きに肩を揺らした。いや、正確には半分くらい暗くなったので、隙間から光が漏れている。恐らく片手で目元を覆っているのだろう。しかし、楽しげに尋ねる聴き慣れた声の主は呼び出した張本人であるので、すぐに分かった。

「…その声、タルタリヤだろ。」

「あははっ。よく分かったね。」
スッ

視界が明るくなったので、後ろを振り返る。メッシュの入った柔らかな茶髪に存在感ある仮面、マフラーに似た装飾を揺らしながらこちらに手を振る青年の右腰には、水元素の神の目が鎮座している。尚も楽しげな声を漏らしながら深い青の瞳で空を見つめるのは、ファデュイの執行官、ファトゥスの1人であるタルタリヤであった。声も勿論だが、空に対して出会い頭に悪戯をするのはタルタリヤしかいない、という判断からだ。

「こんなことするのは、お前だけだろ。」

「いやあ、空の反応が面白くてつい、ね。」

「…こんなことする為に、呼び出したなら帰るぞ。」

「ああー! 待って待って!! 用事があるのは本当だよ!!!」

「ったく、急すぎるんだよ。よりによって今日なんて…。」

悪びれもしない様子のタルタリヤに呆れて帰ろうとすれば、慌てて引き止められた。だから帰らないで!!と必死に止めるタルタリヤの様子に、周りの人からの視線を感じた空は帰ろうと踵を返した足を再び戻した。人が多いこの場所で、変に目立つのは避けたい。

本来であれば、今日はモナに食事を届ける日であるが、パイモンに頼んできたのだ。行先も聞かれたが、待ち合わせする人物が人物なので、絶対に反対されるだろうことを見越して伝えなかった。しかし、パイモンの不安げな表情と隠し事をしている事実に若干の罪悪感を感じているところだ。

(後でちゃんと話そう…)

「何か用事でもあったの??」

「いや、パイモンに頼んだから大丈夫だ。」

「なら良かったよ。今日はどうしても伝えたいことがあったから。」

「?? 何だよ、伝えたいことって。」

「まあ、それは後でもいいとして、取り敢えず急に呼んだお詫びに杏仁豆腐でも奢るよ。」

「杏仁豆腐…!!」
パァッ

「ここの杏仁豆腐は美味しいのは有名、って空も知ってるだろ??」

不満を口にすれば手を合わせて謝るタルタリヤが出した提案に、先程とは打って変わり笑顔を浮かべる空に、タルタリヤは満足そうに笑いながらさらに勧めた。ここで作られる杏仁豆腐は、璃月の仙人の1人、魈も好んでいるほどに美味しい。時折ここへテイクアウトするがその味は流石とも言えるほど美味しい。その味と評判に定評があるのは空も周知だ。

「でも、いいのか⁇ 用事を後回しにしても…。」
ぐぅぅ〜〜

「!!!!」

用事を後回しにしてしまう後ろめたさに遠慮していると、空の腹の虫は控えめに、だが
しっかりと訴えるように音を出した。今日はモナに料理を持っていく日だったが、急な呼び出しをされたので、パイモンに頼んだのだが、不満そうにするのを宥める為、品数とパイモンの分も、と多めに作ったので味見以外食べている暇が無かったのだ。

「あはは、どうやら空のお腹は、食べたいよ〜、って言ってるみたいだけど??」

「…仕方ないな。食べたらすぐに用件言えよ?!」

「はいはい。」

鳴ってしまった腹の音とタルタリヤの笑いに少し恥ずかしい思いをしながら、共にエレベーターに乗り込んだ。



「よ、ようやく着いたぞ…。」

望舒旅館の橋をくぐり抜けた場所に着いたパイモンは、少しヘトヘトになりがら飛ぶのを止めた。空と同様ワープポイントは使えるものの基本的に移動は空の後についていく為、自動的に飛ぶスピードも速くなる。しかし、それ以外だとパイモン自身の幻想の羽根の速度になるので、いくら歩いたり走ったりするよりも飛ぶ方が速いとはいえ身体の大きさによるリーチの差も考えるとかなり厄介だ。

それに今回はモナの忠告も眼中に入れて、望舒旅館の展望台に直接繋がるワープポイントは避けて、七天神像からここまで移動して飛んできたのである。さらに、これまた忠告通りに水周りや高確率で遭遇する草スライムを避けながら来たのだ。武器を持てない丸腰のパイモンは遭遇するだけでも命取りだ。

それに、湖に囲まれた地形の望舒旅館に対して"水難の相が出ている"とは、全方位に注意しろ、と言っているようなものだ。てっきり突然の大雨による荒れた天気になった、とか大津波によって飲み込まれる、とかそういった事態を想定していたが、天気も波も穏やかでそんな気配は感じられない。

(モナのやつ、面倒になって適当に占ったんじゃないだろうな…?)

久々に長い距離を飛んた疲労感と忠告通りに警戒していた緊張感の矛先をモナに向けかけた時、エレベーターが動く音がした。慌てて大木の影に隠れれば、誰かと話しながら登っていく空の姿が見えた。相手はエレベーターの影に隠れていて見えない。行先は恐らく展望台であろう。

(っと、背後からこっそり、だったよな…)

相手が気になるが、動くエレベーターを見て後で相手の顔を拝んでやると思いながら、忠告通りに大木で姿を隠しながらから展望台に向けて移動を始めた。


「杏仁豆腐なら箸も使わないから俺も好きだよ。」

「まだ箸に慣れてないのかよ…。」

「あいつはなかなかの強敵だよ。」

クスッ
「何だよそれ。」

杏仁豆腐を食べ終えた空とタルタリヤは展望台に来ていた。以前に箸の練習をしているとは言っていたが、まだ慣れていないことと思った以上に深刻そうに言うタルタリヤが可笑しくて、空は思わず笑みをこぼした。確かに杏仁豆腐であれば、レンゲを使って食べるので箸はいらないだろう。そうしている間に展望台に着いた。

「あそこから見る景色が絶景なんだ!!」

「ほぅ、それは楽しみだ。」

「ほら! こっちこっち!!」
タタッ

真っ先に瞳に映る絶景に思わず駆け出して、タルタリヤに早く見るように促す。

(あんなにはしゃいで、君のその表情も負けてないよ)

笑顔を浮かべてキラキラと琥珀色の瞳を輝かせる空の様子に、タルタリヤは内心微笑ましさを感じながら歩き出す。


その頃、パイモンは連なる屋根のうち展望台の斜め上から観察できる場所にこっそりと潜んだ。屋根を覆うように広がる黄金色の銀杏が風に揺れてさわさわと音を立てる。

(ここならよく見えるぞ!!)

そうしてパイモンがこっそり覗き込む準備をしてる間に、展望台から見える風景を指差しながら出てきた見慣れた長い金髪の三つ編みを見つける。それに続いて出てきた人物、それこそ空を呼び出した人物であろう。

(ん?? あいつは…)


「わぁあ〜…。」
(いつ見ても最高だな…。)

「ここは空のお気に入りの場所なんだね。」

「あぁ、いつまでも眺めていられる…。」

「はは。それはよかったよ。」

ハッ
(思いっきり浮かれていた…!!)

手すりに手をかけながら感嘆の声を漏らす。望舒旅館から見える絶景は空のお気に入りの場所のひとつだ。それに、タルタリヤが居るので、少しデートみたいだ、と思ってしまったのも大きい。しかし、はしゃぎすぎてはいけないと、邪念を払うように顔を横に振って、視線をタルタリヤに向けた。

「それで、用事ってなんだ??」

「うん、実は………。」
ピタッ

「? タルタリヤ??」

気持ちを切り替えるつもりで、かつはしゃいでいたのを誤魔化すように、タルタリヤに問いただせば、言いかけてピタリと動きを止めた。何かと思い首を傾げて訪ねれば、急にタルタリヤが屈んでそばに寄って来た。

「ちょっとごめん、空。顔に糸くずがついてるよ。」

「え、どこだ??」

「ほら、瞳を閉じてじっとしてて。」

「わ、分かった。」
そっ

思わず後ずされば、タルタリヤがそう言うので、取ろうとすればそれを制された。どうやら取ってくれるみたいだ。困惑しながらも言われた通りに瞳を閉じた。


パイモンは心底驚いていた。何故ならそこには、ファデュイの執行官、『公子』ことタルタリヤが居たからだ。後ろ姿だけでも身につけたマフラーに似た装飾が風に揺れているのが分かる。

(何であいつがこんなところに???!)

慌てて飛び出そうとするも風景から、タルタリヤの方へ顔を向けた空の表情を見てそれをやめた。何故なら、つんけんしながらもどこか嬉しそうな様子だからだ。あんな表情は、恐らく一緒に居るのが長いであろうパイモンでも見たことがない。

(あいつ、あんな表情も出来るんだな…。)

最近の様子が心配でたまらなかったパイモンは、安堵と同時に原因が分からなかったやるせなさでもやもやした気持ちになる。空は感情を出す時は出すが、それ以外はとことん出さない。その差は激しいものの最近はようやく何となくではあるが、見抜けるようになったと自負していたのだ。だが…

(オイラもまだまだあいつのこと、知らないことが多いんだな…)

瞳に映る空の表情にそれを思い知らされた気分になる。それに、今日の用事のことを伝えてくれなかったことが、空に隠し事をされたみたいでショックだったのだ。これが俗に言う親しき仲にも礼儀あり、ということなのだろうか。それでも好奇心が抑えきれず渡された料理にモナのことを思い出して、相談することにしたのだ。ナイスタイミングだ!と思わずその場で小躍りしたものだ。

それにモナであれば相談に適役だ。何故なら、空がこの世界の人間ではないこと、そして旅の目的を知る数少ない人物であるからだ。それに、モナであれば他言しないと妙に確信を持てたのもある。

(…帰るか)

目的は果たしたしこれ以上居ても居心地の悪さが増すだけだと判断したパイモンは、幻想の翼を動かす。心無しか星座の形に似た鱗粉がパイモンの感情を反映してか元気なく漏れ出る。すると不意にタルタリヤが空を覆うように屈んで、揺れるマフラーに似た装飾を纏った背中だけしか見えなくなる。身長差の為かそれと同時に空も見えなくなってしまった。

(えぇっ?! 何してんだあいつ!! うむぅ…見えないぞ!!)

帰ろうとした身体を再度向き直して観察する。よく見ようとして少し身体を動かすが、それでもまだ見えない。不貞腐れていると…


ヒュッ
トスッ


「ふぇ??」


軽い音を身近に感じてみれば、パイモンの後ろの屋根に何か鋭い物が刺さっているのが見えた。あと数ミリでも場所が違っていればちょうどパイモンの居た位置に刺さる場所だ。

(もし、さっきオイラが動かなかったら…)
サー

もしもの想定に青ざめていると紙が揺れていた。よく見れば水元素を纏った小さな槍に紙が一緒に刺さっているのが見えた。

(まさか、モナの言ってた"水難の相"って水元素のことだったのか?!)

改めてモナの占いの的中率に恐怖を感じながら恐る恐る紙を手に取る。手に取った瞬間、水元素の小さな槍は水音と共に消えた。そして紙に瞳を向ければそこには文字が書かれていた。そこに書いてあったのは…


『そこで見ているのは誰だい? これ以上見るなら高くつくよ??』


ギクゥッッ
(ま、まさか…、な…)
そ〜

あまりにも的確な内容に、心臓をバクバクとさせながら確認するように展望台のほうへこっそり顔を出した。そこには、


タルタリヤが顔を少しだけ後ろを向いてこちらを見ている。タルタリヤは、前髪を左右で下ろしたり上げたりしていて、右側は髪を上げている。そのせいか深い青の瞳がよく見える。口元は笑みを携えていて、パイモンの姿が見えたのか定かではないかさらに笑みを深くした。同時に右手に今しがた見た水元素の小さな槍を空中に作り出した。


(ひぃぃっ!!!!)

瞳が合った(ような気がした)瞬間、パイモンは脱兎の如く屋根から地上へ向かう。

(こ、怖いぃぃ!!!!)

まるで牽制するようなタルタリヤの行動に恐怖を感じて慌てて飛び去って行った。


(やっと行ったかな??)

「まだか? タルタリヤ。」

「あぁ、もう取れたよ。」

「いきなり糸くずがあるなんて言うから何かと思ったぞ。」

「まあまあ、そう気にしないで。」

「で? そろそろ本題に入ったらどうだ??」

即興で作った水元素の槍を消しながら、タルタリヤは手を下ろした。妙な気配を感じた為、牽制のために少し脅かしてみれば、視界の端に映った天使の輪のように象った王冠のような装飾が見えた。あれを身に付けているのは、自身の知る限り1人しかいない。空は用事を頼んだと言っていたが、恐らく心配で着いてきたのだろう。そんな健気な様に思わず笑みを溢してみれば足早に去っていった。不安に感じた空の声にあるはずもない糸くずを取ったように取り繕った。それでも訝しそうにする空は、本題を切り出すよう促した。

「そうだね。そろそろ話さなきゃね。実は、任務以外なら君の旅に同行する許可をもらえたんだ。」

「えぇっ?! 聞いてないぞ???!」

「うん、今初めて言ったからね。」
サラッ

「そんなサラッと言うなよ…。」

突然言われた重大なことに、空は瞳を白黒させて驚いた。当の本人はさも重要なことではないと言いたげに飄々としている。ファデュイの執行官としての立場はいいのかとか、そもそも"氷の女皇"が許したのかとか、色々と聞きたいことはあるが、一緒に居られる時間が増えることを考えればそれもいいかもしれない、と思う自分が居るのも事実だ。

(なるようにしかならない、かな…)

「まあ、いいじゃないか。これからよろしくな、"相棒"。」

「誰が相棒だよ!!」

「俺と空だよ??」

パイモンにも伝えないと、と考え込んでいるとタルタリヤが突然"相棒"呼ばわりしてきたので、空は困惑と嬉しさで頭を混乱させる。しかし、それをお構いなしに笑顔で肩に手を回してくるタルタリヤを払い除けようとするも諦める空であった。


バタン!!

「はぁ、ふへぇ、ふぃぃ…。」

「もっと扉は優しく閉めてください、ってどうしたんですか!?」

ガタガタ
「オ、オイラは何も見てないぞ!!」

「…はい??」

「み、見てないったら見てないからなー!!」

突然響いた大きな音に迷惑そうに言うモナだったが、血相を変えたパイモンに慌てて心配の言葉をかけた。そんなモナの言葉は耳に入っていないのか、震えながら叫んだ。

「ただいま〜。」
バタン

「おかえりなさ…、ってここはあなたの家ではないのですよ?」

「あ、モナ。ごめん、つい。」

「あっ、空!!」
ビュンッ

ボスッ
「痛っ、どうしたんだよパイモン?」

その時、ちょうど空が帰ってきた。モナがツッコミながら言うが、姿を見るや否やパイモンたまらず空に向かって抱き付いたので、有耶無耶になった。

「…お前は、オイラと友達だよな??」

「? いきなり何だ??」

「………。」
ぎゅっ

突進するように胸の辺りに飛び込んできたパイモンに、空は痛みを感じながら尋ねると不安げに問いかけてくる。質問の意図を探りながら質問すれば、黙って服を掴んでくる。恐らく用事の内容を言わずに出かけてしまい不安になっているのだろう。

(不安にさせちゃってごめん)

「うん。大事な友達だよ。」

パァッ
「!! そ、そうだよな!! そんなの決まってるもんな。」

「はは。変なパイモンだな。」

「何だとぅ?!」
プンプン

安心させるように答えれば、先程の沈んだ表情から打って変わって、効果音がつきそうなくらいの笑顔を浮かべる。それが何だかおかしくて少しからかい気味に言えば今度は、眉を吊り上げて怒る。だが、これは本気で怒っている訳ではない。パイモンは感情をまっすぐに、表情豊かに表すので見ていて不思議と心が落ち着く。それが何より心地いいのだ。

「ごめんごめん。それと後で話があるんだ。」

「分かったぞ!! 何でも聞いてやる!! 何せオイラ達、友達だからな!!」
ドヤァ

余程嬉しいのか、腰に手を当ててふんぞり返りながら、"友達"を強調しながら、星座の形に似た鱗粉をたくさん振り撒く。そんなパイモンのころころ変わる表情にクスリと笑みを溢す空は、今度からタルタリヤがファデュイの任務以外で旅に同行することになったことをどう上手く伝えるか考えていた。


-END-

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