綴りし思い、見守りゆく

ある場所で手紙を読む空くんのお話です。
(と言いつつも、手紙は読めずじまいです←おい)

時系列としては、"罪人の円舞曲"クリア後から1ヶ月後くらいのイメージです。

※このお話は、

魔神任務フォンテーヌ編全般

の内容を含みますので、クリア後閲覧推奨です。

クリア前に読んでしまっても苦情は受け付けないのでご了承下さい。

・タルタリヤが、少年漫画キャラ特有の"めちゃくちゃ大怪我をした後なのに、平然とした感じに振る舞う"並みにめちゃくちゃ強がりです(私個人の感覚)

・それに対して怒りと悲しみが入り混じりの情緒不安定気味な空くんです

・ルミドゥースハーバーに関して色々自己解釈&捏造気味

参考資料

・イラスト集特典 タルタリヤのコート姿の色紙

・魔神任務フォンテーヌ編全般

・ルミドゥースハーバー NPCのセリフ


ルミドゥースハーバー。

それは、ロマリタイムハーバー同様に、フォンテーヌの入り口とも言える場所だ。

しかし、人々に知れ渡っている、という意味合いでは、ロマリタイムハーバーにやや劣る面があるのも事実だ。その証拠に今は行き交う船が外国の船ばかりだと嘆く者もいる。

だが、それは昔の姿を知る者が語ることであり、他者から見れば今の様子も十分に栄えているように見える。無論、空もそのうちの1人である。

そんな外国船が行き交うルミドゥースハーバーでは、積み込まれた荷物によって圧迫されないよう、また、場所を確保する意味と運び出す従業員の休憩場所の意味を込めて、時折長椅子が設置されたりすることがある。

そんなルミドゥースハーバーのエレベーターの近くにある長椅子にて。

ザザザ………

ストン
「ふぅ………。」

近くに流れる滝の音に耳を傾けながら長椅子に腰を下ろしたのは、長い金髪を三つ編みにした旅人の少年、空である。思わずため息を吐くその様子はどこか浮かない様子であった。

(何だか、気が重いな…)
ガサゴソ

カサッ

そう思いながらも、空は懐から手紙を取り出して読もうとする。

その差出人は…

タルタリヤからであった。

この手紙が届いた際、空は大層驚いて目を限界まで見開いたものだ。何しろ、タルタリヤは現在、スネージナヤにて療養中の身である、はずであるからだ。

(あいつ…、こんな手紙書いている余裕あるのかよ…)

空がそう思うのも無理はない。何故ならば、タルタリヤはずっと無理をしていたからだ。あくまでも、空から見ての観点である為、断言はできないが、本人は軽く感じていそうである。だが、間違いなく無理をしていると思わざるを得ないほどであった。

メロピデ要塞での失踪。

タルタリヤから預かった水元素の神の目が見せたであろう彼の記憶と巨大な鯨が現れる夢。

フリーナに対する審判が行われた後に、ヌヴィレットから"予言を記した石板の内容通りであるならば、着実に予言が現実と化していっている"と判明した後に、ひとつずつ予言に関することを整理していた。

その中で、真の脅威は、夢で見たタルタリヤが遭遇した巨大な鯨だと分かった瞬間、突如次元を引き裂くようにそれは現れた。

タルタリヤの言っていたように、まさに、息をつくほどに巨大な鯨そのものであった。

そして、鯨がフォンテーヌの人々に襲い掛かろうとした瞬間…

鯨の出てきた裂け目から、魔王武装を纏ったタルタリヤが出てきたのだ。

まるで、暴風が吹き荒れ狂う嵐のような素早さで以って、鯨に怒涛の攻撃を与えた。加えてヌヴィレットの追撃も相まって、鯨は咆哮をあげた後に、次元の裂け目へと退避していった。

その後、ボロボロになった魔王武装を纏いながら、息を荒げる姿に心配になるも、空の姿に気付いた瞬間、力なく笑いながら再び原始胎海の水が漂う次元の裂け目へと落ちていった。

長い間、戦ってきたと思われるほどの憔悴しきっていた様子…。

その姿が気になりつつも、その時は災厄たる呑星の鯨に挑む他に選択肢はなく、ヌヴィレットと共に次元の裂け目へと入っていった。

そして、攻防を繰り返すうちに、何とか鯨を鎮静化させることに成功した。

その後、謎の空間から出てきた小柄な女性…、タルタリヤの師匠であるスカークが、気を失ったタルタリヤを片手に持ちながら、その鯨をまるで弄ぶかのように小さく丸め込んで回収した。

唖然とする空達を他所に、回収した鯨と共にタルタリヤを謎の空間に放り込んだことにもますます困惑したものだ。

(あれから、どうしたんだろうな…)

その後、スカークから話を聞いているうちに、フォンテーヌが水没しかかっていることを悟った空であったが、ヌヴィレットの"心配はない、フォカロルスが天理を騙したのだから"という意味深な発言の後に、フォンテーヌへと戻れば、水没しかかったものの水は引いて、尚且つ人々は海には溶けなかったことが分かった。

その際の救助活動で、ナヴィアやリオセスリが活躍したことが後にシャルロットを始めとするスチームバード新聞の記者達によって大々的に記事に載っていた。

その後は、シャルロットと共に街中での様子を聞いたりしていた中で、リネに詳しい事情を聞きながら、突如現れた"召使"にタルタリヤの水元素の神の目を返したりした。その後、ヌヴィレットの元へと尋ねて、フリーナの詳細も含めて以前聞けなかった疑問を聞いたりしたものだ。その際に、タルタリヤに関しての情報も得られた。

(無事だと、いいんだけどな…)

カサ…

今までの出来事を思い出していくうちに、まるで、後ろで流れている滝のような怒涛の勢いで映像が目まぐるしく移り変わっていく感覚に陥った。気を取り直して手紙を読もうとすると、不思議と目の前にある手紙が"読んでくれ"と言っているような気がした。

何故、このルミドゥースハーバーで読もうとしているのかといえば、手紙の封筒の裏面に、何故か読む場所の指定があったからだ。

夕方頃、ルミドゥースハーバーにある長椅子で読むといいことがあるかもしれない、と…

(あくまでも、文に従っただけだ…!)

誰に言い訳するでもなく言い聞かせるように内心で呟いた空は、手紙を読もうとする。

すると…

「やぁ、空! 手紙、読んでくれたのかな?」

「!!」
(この声は…)
クルッ

後ろから、聞き覚えのある声が聞こえてきたので振り返る。

そこには…

「タルタリヤ…?!」

メッシュの入った柔らかな茶髪。

存在感のある仮面。

常に口角の上がっている顔。

まさに、手紙を出した張本人であるタルタリヤの姿がそこにあった。

いつもながらの唐突な登場に、空は驚きに目を見開いた。だが、今回ばかりは、琥珀色の瞳をさらに限界まで見開いて、驚きの表情を浮かべるのだった。

クスッ
「やぁ、久しぶり。」
ヒラッ
ストンッ

空の反応に気をよくしたのか、タルタリヤはひとつ笑みを溢してから右手をひと振りした後に、空の左隣に腰を下ろす。座った反動によって防寒された服特有の柔らかい布がふわりと舞う。

そのような姿はいつものマフラーに似た装飾を揺らす身軽な服装と違って、だんだん寒くなってきた今の時期にぴったりな厚手のコートを着込んだ姿であった。

その姿も気になるのだが、現在、療養中であるはずのタルタリヤがこの場所にいることが、空にとって何よりも衝撃的なことだった。

「なんでここにいるんだよ?! というか、怪我はどうしたんだ?!!」

「あ〜…、えっと、もう治ったんだよ。」
サラッ

「治った!!??」
(あんなにボロボロだったのに…??!!)

たくさんの疑問符を浮かべる空の問いに、頰に冷や汗をかいて目線をやや右側に向けながら、タルタリヤは答えた。衝撃的なことをあまりにもサラッと告げられたので、答えを反復するように紡ぎながら、空はますます驚きの声を上げた。

「そうそう! だから、空に会いに、……っ!!」

「タルタリヤ?!」
バッ

空に向き直って続きの言葉を紡いでいたタルタリヤは、突然、左胸を押さえて顔を俯かせた。その様子に、空は心配の色を滲ませた声を出して、鞄から救急セットを出そうとする。

スッ…
「はは…。まだちょっと痛い、かな…?」

スッ…
(もしかして…)

だが、不要だと言わんばかりにタルタリヤが手を差し出してきたので、空は鞄を漁る手を止めた。その際に、俯かせていたタルタリヤの顔が上がっていて、浮かべていた表情が何かに耐えるように片目を閉じて食いしばっている様子であった。

「お前…

さては、まだ完治していないだろう……!?」

それに違和感を覚えた空は、直感で感じた言葉を紡いで問いただした。

タルタリヤの怪我はまだ完治していない、と…。

リネから聞いた話を考えれば別段おかしいことはない。何故なら、件のフォンテーヌの災いが起こった時に、タルタリヤは生死の境を彷徨っていたのだそうだ。

そんな大怪我をしたのに、こんなに短期間で治るはずがない。

そう思っていた空は、タルタリヤの様子も併せて無理をしてここまで来たことを悟ったのだ。

「あ、あれ? バレちゃったかな…。」

空の問いに、タルタリヤは力なく笑いながら答えようとする。心なしか声もか細くなっているような気がする。

(いつも以上に、嘘をつくのが下手だな…)

これまでの付き合いの中で知ったことだが、ファデュイの執行官でありながら、タルタリヤは嘘をつくのがとてつもなく苦手かつ下手であり、嘘をつこうとしていても様子を見ればバレバレなのが目に見えて分かるのである。

いつもであれば、それを指摘しても冷や汗を掻きながらも飄々とした様子ではぐらかすのだが、今回はその様子が伺えない。つまり、それだけタルタリヤが取り繕う余裕が無い証拠だと捉えられる様子でもあった。

心なしか、先程頰に掻いていた冷や汗がさらに粒が大きくなって脂汗を掻いているような気がする。何より平時よりも顔色も悪い気がしてきた。

もしかしたら、手紙に場所や時間の指定をしてきたのは、このせいかもしれない。

顔色は、夜の時間であれば暗いから、と言えばいい。

汗は、近くにある滝の水にかかった、と言えばいい。

確信はないものの少なからずそのような意図が透けて見える気がしてならなかった。

だが…

(なんで…、そこまでして…)
ギュッ…

空にとっては、そのような気遣いは不要である。正確に言えば、そんな誤魔化し方をするくらいであれば療養して欲しいくらいであった。

しかし、それを蔑ろにしてまで…、自身の命を、タルタリヤの命の危険が上がる可能性があってまで、空は会いたくはなかった。

それは、"自分のことはどうでもいい"と宣言しているに他ならない。そのように空は感じたからだ。

スッ…
「何でここに来た………。」

「え? それは勿論、空に会いに…。」

湧き上がる怒りを堪えるように、顔を俯かせた空は、その状態でいつもよりも低い声で問いかけた。そんな空を少しも気にしていない様子のタルタリヤは言葉を紡いだ。

「っ……!! だったら…!!」
ガタッ

「そ、空?」

そんなタルタリヤの態度に、堪えていた怒りを露わにするように、空は勢いよく椅子から立ち上がった。

そして…

「ちゃんと、完治して、しっかり休んで、元気になってから来い…!!!」
フルフル…

「!!」

空は大声で叫んだ。

まるで、滝の音にかき消されまい、という意志を込めてか、はたまた怒りの為か、あるいはその両方なのか、空は身体を震わせながら、タルタリヤに対して怒鳴りつける。

いつもより低くなった声で大声で叫びながらも、その表情は泣く寸前のように眉が下がっていた。

何故ならば、タルタリヤの行動と態度、それらに対してとても腹立たしく思ったからだ。

ちゃんと治さずに無理をしてまでここに来たこと。

完治していないことを誤魔化そうとしていること。

何よりも、目の前にいるタルタリヤの呆けた表情から、空が感じているそれらに対して怒りを感じていることに、気付かないでいる…。その態度にますます腹が立ったのだ。

……ストン

「頼むから、……っ、もう、………心配、かけ、させる、なよ…。」
ポロッ

ポロポロ

大声を出して、内心でずっと抱え込んでいた気持ちを吐き出すように言葉を紡いだ。次第に嗚咽混じりになって途切れ途切れになるそれを皮切りに、力が抜けた空は椅子に逆戻りするようにゆっくりと座り込む。その大きな琥珀色の瞳から涙が零れ落ち続けて、空の衣服に染み込んでいく。

ずっとずっと、心配していた。

失踪したと聞いて、あらゆる手段で以て探し回った。

やっとのことで会えたと思っていたら、騒ぎの中で満足に話せなかった。

スネージナヤで療養中と聞いて、困るだろうと思って、に預かっていた水元素の神の目を"召使"に渡して、タルタリヤの元に届けるように頼んだ。

それなのに、タルタリヤ自身が、自分の体を大事にせずに、ここまで来た…。

それらのあらゆる気持ちが、まるで洪水のように、空の胸中に渦巻いて落ち着く気配がない。むしろますますさざ波立っていく感覚に陥った。

(っ…、止まれ、止まれ…!!)
グイッ
グイッ

それを無理矢理止めようと、空は右腕で、目元を豪快に拭っていく。

すると…

パシッ
(!!)

「そんなに擦ったら、赤くなっちゃうよ…。」
スッ

タルタリヤに右腕を掴まれて、その言葉を紡ぐと共に、空の少し赤くなった目元を労るように、そっと、タルタリヤの指先が触れる。それにくすぐったさと、乱暴に拭った影響か少し擦れてしまった肌の部分に、指先が触れてくるので、少しピリリとした痛みを感じた。

(……っ)
キッ

その一連の動作を見守りながら、原因を作り出した本人であるタルタリヤを睨みつける。

フッ

(な、なんで、笑うんだ…)
スッ

しかし、そんな空を見たタルタリヤは、何故か笑みを溢した。それに対して、困惑した空は睨むのをやめた。

そして…

パッ

ギュッ
「ごめんね…?」

「!!」

空の右手を離した後、タルタリヤは間髪入れずに、まだ涙が止まらないでいる空を丸ごと包み込むように抱き寄せた。コート越しに確かに感じるタルタリヤの温もり、それがいつもより体温が高くなっているのか、たまに触れてくるタルタリヤの手の温もりと比べて、少しばかり熱く感じた。

「どうしても、空に早く会いたくて。運動の許可が出たからつい来ちゃったんだ。」
ポン
スッ

そう言いながら、タルタリヤは右手を空の頭に載せて、宥めるようにゆっくりと手を動かす。反対の左手は、空の身体を包み込むようにますます引き寄せる。

(何で、そんな手つきで………)

その優しげな手つきに、困惑しながらも、次第に空は落ち着きを取り戻していく。それはまるで、嵐が過ぎ去った後の穏やかになった波のようであった。

 

(心配、かけたよね…)

大人しく撫でられている空は、タルタリヤの腕の中にすっぽりと収まっている。その温もりと触り心地のいい金髪を堪能しながらも、タルタリヤは申し訳ない気持ちになった。

あの鯨と再び邂逅して、存分に戦って暴れ回ることができた。水元素の神の目は空に預けていた為、雷元素の邪眼と魔王武装を纏ったその力で戦いながらも苦戦してしまった。

その影響もあって、無我夢中で戦った後に意識は暗闇へと落ちていった。その際、ほんの一瞬であるものの空をひと目見ることが出来たことによる嬉しさを感じられたが、その直後は、まるで真っ黒に塗りつぶしたキャンバスのように、意識が遠のいていった。

そうして気付いた時には、フォンテーヌではなくいつの間にかスネージナヤに戻っていた。

痛む身体を起こしながら事態を把握すれば、どうやら生死の境を彷徨っていたようだった。療養をしていた病院にて診断された結果について、まるで他人事のようにそれを聞いていた。何せこのような生死の境を彷徨う経験は初めてではないからだ。

だが、どうしても気にかかることがあった。

それは、早く空に会って元気な姿を見たかったことだ。

折角フォンテーヌで再会できたのに、少し会話をした後に、不調を訴えた水元素の神の目を預けて別れた。その後に、訳の分からない審判結果によってメロピデ要塞で待機することになった。正直、そう言われた時は、普段はあまり怒らない気質のタルタリヤ自身でも、流石に腹が立つほどであった。

しかし、結果的に見れば、因縁深いあの鯨と再び戦えることができたのだから、タルタリヤにとっては僥倖であった。

だが、それと空に会えないこととは、また別問題なのである。

いくらあの鯨と闘えて倒せたのだとしても、相棒である空が隣にいなければその喜びだって、長年追い続けていたものとはいえ空虚なものへと変わり果ててしまうだろう。

やはり、隣には空がいてほしい。

そう切望したからこそ、早く治して会いに行きたかった。そうしたかった、のだが、"召使"から、自身の水元素の神の目を渡された時は目を瞬かせたものだ。空に預けたはずのそれが、何故、空の手からではなく"召使"からなのか、という疑問が浮かんだ。

"召使"から説明を受けて、ことの経緯を理解するとと同時に、それを聞いて"これが無いとタルタリヤが困るだろう"という空の気遣いを感じ取る事ができた。

(あぁ、ますます早く会いたくなったよ、空…)

それを感じられると同時に胸が温かなもので包まれる感覚を味わった。その気持ちによる温もりと空の優しさによる温もり、そのふたつが合わさったものが、身体の痛みより勝った故に、まだ痛む身体をリハビリも兼ねて動かす、という口実の元に、勢いに任せてここまで来てしまった。

手紙でこの場所や時間を指定したのもその為だ。ロマリタイムハーバーよりも外国船の行き来が多いながらも、主流とは些か言えないこのルミドゥースハーバーの位置する場所は、逆に言えば人目につく確率も減る。その為、執行官であるタルタリヤでもある程度自由に行動できる場所なのだ。

そう。

こうして空に密着しても、建物の影に隠れているおかげで目撃者がいないほどに。

(不思議と痛みも無くなってくる気がするよ…)

正直に言えば、まだ身体の痛みはある。しかし、まだまだ華奢である空の身体の輪郭、そして、そこから感じられる温もりに触れていると不思議と痛みが引いていくような気がしてくる。もしかしたら、タルタリヤが思っていた以上に、空の存在は痛みに効くのだろうと錯覚してしまうほどであった。

(もう少し…このまま………)

その温もりを手放すのが惜しいと感じるタルタリヤは、ますます空を抱き締める力を強くするのだった。

「分かったよ…。」
グッ…

タルタリヤの言葉の真意を理解したのか定かでは無いが、空は怪我を考慮してなのか、タルタリヤの左胸辺りに、右手でそっと触れた上で離れようとする。

ピタッ

ギュッ
「こうしているのは嫌かな?」

しかし、まだ離れたく無いタルタリヤは、空の頭を撫でる手を止めて、両手でますます強く抱き締めるのだった。

フルフル
「そうじゃなくて…。」

投げかけられたタルタリヤの言葉に、空は首を振って否定する。

そして…

「お前、まだ身体が痛むんだろ…?

なら、あんまりくっつかないほうが…。」

「!!」

顔を上げて上目遣いとなった琥珀色の瞳は、心配そうにこちらを見つめる。そんな空の何とも可愛らしい気遣いに、タルタリヤは深い青の瞳を見開くもののすぐさま満面の笑みを浮かべる。

(やっぱり、いつだって君は、俺に驚きをくれるね…)

「大丈夫だよ?

むしろ、離れがたいくらいだよ。」

ギュッ

空の心配を他所に、嬉しそうな声を出したタルタリヤは、ますます強く抱き締めた。

「!! お、お前は……っ!!」
グイッ
グッ

そんなタルタリヤの反応に、まだ痛む身体を無視しているような態度に、再び怒りが湧き上がってきて、両手を使ってくっついているタルタリヤをほんの少し剥がした際に、右手で握り拳を作り出す。

しかし…

スッ
「ん? どうしたの??」

「!!」

少し離れてこちらを見つめるタルタリヤの顔色は、心なしか先ほどより良くなっている気がする。

その様子が、もしかしなくとも、空を抱き締めていたことによる効果だと、証明しているような気がした。

「〜〜〜っっっ!!」
プルプルプル

タルタリヤの身体の調子が良くなったことによる嬉しさと、しかし、長く抱き締められていることに大して感じる恥ずかしさが入り混じった空は、しばしの間、握り拳を震わせる。

そして…

………ぽすん

「……治ったら、覚えてろよ。」

まだ完治していないであろうタルタリヤの怪我のことも考慮して、しばし葛藤と身悶えた末に、タルタリヤの胸元に、ほとんど力を入れずに軽く小突く程度に右手を置いて、ぽつりと呟く程度となった。

クスッ
「あぁ。楽しみだなぁ…!」

そんな空の様子に、タルタリヤはますます満面の笑みを浮かべるのだった。

その後、渋るタルタリヤを無理矢理スネージナヤに帰らせた。

しかし、不思議とモヤモヤとした気持ちが晴れた空であった。

そしてそれは、まだ身体の痛みがありながらも、不思議と苦痛を感じていないタルタリヤも同様であった。

タルタリヤと空。

2人が再会するまで、そう時間はかからないだろう。

-END-



後書き

タルタリヤ、無事で良かったよ…!!!

Ver.4.2のPVを見た後の第一声がそれでした…!

魔神任務フォンテーヌ編のフィナーレである"罪人の円舞曲"…。

色々と衝撃的なお話でしたし、何よりもタルタリヤの体の消耗が激しすぎる活躍にもめちゃくちゃ心配しました…。

このことを空くん目線で見れば

メロピデ要塞で失踪したことも心配したし、何より魔王武装がボロボロになるまで鯨と闘い続けた結果、生死を彷徨うことになった

と、もう、心配しかさせていないような感じがしましたので、この状況で、"まだ完治していないけど、会いたいから"という理由でタルタリヤが無理して来たとしたら、今までに溜め込んできた感情が爆発しそうだし、それに伴って空くんは、めっちゃ怒るんじゃないかな…、と思っていたらこのお話を思いつきました。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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