休息、偲びゆく

休んでいるカーヴェをこっそり観察するアルハイゼンのお話です。
アルハイゼン独自のお話です。

ひとつ前に投稿したお話のカーヴェが寝ている間のお話として書きました。

腐要素は薄めかもしれないです。

・こちらのお話は、ふんわりした感じで、イベントストーリーのネタバレありです。
(私自身が、イベントストーリーをふんわりと把握している影響です…←)

参考資料

・盛典と彗業 イベントストーリー全般
・ストーリームービー「栄冠」



アルハイゼンの自宅にて。

ガチャ…

キィ………

なるべく音を立てないように、扉を静かに、そして、ゆっくりと開けて入って来たのはアルハイゼンである。灯りが消えていたことを考慮した上での行動だ。

スタ…
スタ…

ピタッ

数歩分足を動かした後に、暗闇に慣れてきた視界に、ソファに横たわるカーヴェの姿が映り込んだのを確認したアルハイゼンは、ソファのそばで立ち止まった。

スゥ…スゥ…

(よく寝ているようだ…)

アルハイゼンが近付いて来たことに気付く様子もなくカーヴェは安らかな寝息をたてている。その様子に、アルハイゼンはしばし静止して観察するように見つめる。

学院祭トーナメントにて、ニィロウと共に、実況、解説役として特別評論員に選出された時は面倒なことを押し付けられたと思っていた。

だが、出場選手としてカーヴェが出ると聞いてからは、アルハイゼンも重い腰を上げるのだった。

何故なら、アルハイゼンが調査をしていた二十年前の学院祭トーナメントやサーチェンに纏わることに、カーヴェが関わっていることだったからだ。

そして、最終トーナメントにて、才識の冠に僅かながらに宿ったサーチェンに問いに対して、カーヴェは怒りと悲壮、やるせなさと憤り、様々な感情が入り混じった複雑な様子で苦痛に耐えながらも、サーチェンに対して堂々と振る舞っていた。

その後は、特別評論員として、主催側と諸々の形式を済ませたり、この件に関して、同じく調査をしていたのか、アアル村に尋ねて来た旅人である空とパイモンに説明をしたりした後、教令院前にてカーヴェに会った際に真実を告げたりしたのだ。

話していくうちに、カーヴェは、信じられない…と言わんばかりに、頭を抱えてながら、そのワインレッド色の瞳を驚愕の色に染めて見開いていた。

それから数日のうちは、お互いに忙しかったせいもあるのか、なかなか会えずじまいであり、今、この場にて、ようやく会えたと言っても過言ではないのだ。

(それに、真実を知る権利がカーヴェにはあった)
ス…

カーヴェの様子に、些かの罪悪感を感じながらも、アルハイゼンさそう言い聞かせるようにしながら、眠るカーヴェのそばへとしゃがみ込んだ。

スッ…

眠るカーヴェの向かって左側の頰に、そっと指を滑らせる。あくまでも起こさないように向かって左側のやや長めの前髪も含めて触れる。すると、一瞬身じろぐカーヴェであるが、起きる様子はなかった。

ここ数日の疲労がたたったせいもあるのか、普段よりもやや青白さを感じる白皙の顔は、彫刻のように整っている。建築、建造の仕事に携わっているカーヴェであるが、その彼自身こそが、まるで精巧に作られた彫刻美術のようだ。そんな印象をアルハイゼンは抱いている。

今は閉じられている猫のような印象を受けるやや吊り目気味のワインレッド色の瞳は、その代わりに、伏せられたことによって縁取られた長いまつげが月明かりによって影を落としている。

そして、安心しきったように仰向けに横たわる身体は、見れば見るほど華奢である。以前、酒場で乱闘騒ぎを起こしたこともあったので、力はそれなりにあるものだと認識しているが、いざ、目の前にする華奢な体格に、それを疑いたくもなる。

そういえば、最終トーナメントにて盛大に吹き飛んだ後に転がっていたが、大丈夫だろうか。カーヴェ自身、他者への思いやりはいき過ぎているほどにあるが、自分自身のことになると無頓着過ぎることもあるのだ。

(まぁ、明日にでも聞いてみるか…)

スルリ…

スクッ

しかし、詳しく聞くのは明日以降にしようと決めたアルハイゼンは、離れるのが名残惜しい、と言われんばかりにカーヴェの髪に間に指を滑らせながら離した。指の隙間を縫うようにしてすり抜けていく髪の指通りの良さに満足感を得ながら、書斎に向かおうと立ち上がる。

ブルッ

「………。」
スルッ

だが、寒いのか、眠りながらもカーヴェは身震いをした。それを見て、アルハイゼンは、左肩を中心にしてかけているコートをかけた。

(おやすみ、良い夢を…)
スッ…

内心、そう言葉を投げかけながら、アルハイゼンは書斎へと向かうのだった。

翌朝。

目を覚まして、コートを掛けながら眠るカーヴェの姿を見て、満足そうに頷いてから、アルハイゼンは朝食の準備に取りかかるのだった。

-END-

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