【タル空】眠る君に、ささやかな悪戯を
何となくタルタリヤがあの動物に似てるよね…と思い付いたお話です。
短めです。一応、猫の日にちなんだお話です。
最近、突発SSばかり書いていたせいか、いつも書いている感覚を忘れかけました…(^◇^;)
・空くんが動物好きかつ動物の扱いに慣れている設定
・ウルが実装されていない調度品を売っています
・サモエドがスネージナヤ産、という完全捏造設定
※初出 2022年2月22日 pixiv
塵歌壺にて。
週末に来る調度品を売る仙人、ウル。
今日は何やら珍しい動物を仕入れてきたらしい。それが…
ハッハッハッ
「……犬?」
空の目の前に居るのは、真っ白な毛並みのもふもふとした犬であった。長毛の犬種であるのか、かなりの毛量があると見受けられた。
「そうじゃ。スネージナヤの犬種であるサモエドなるものらしいぞ。」
「そうなんだ…。」
(テイワットだと、サモエドはスネージナヤ産なのか…)
珍しいことに、あの気難しいウルが、あまりにも熱心に勧めてくるので、購入する前に、一度試しに見せてもらっているのだ。ウルの説明を聞きながらも、空は思案していた。今まで旅をしてきた世界でも、サモエドは見たことがある犬だ。
「どうじゃ? 遠方に生息する生物ゆえ手に入れるのに苦労したんじゃ。」
「そうだったんだ。」
チラッ
ハッハッハッ
(……ウルも勧めてくるし…)
スッ
どうじゃ? 買うか?? と、心なしか訴えてくるウルの眼差し、それに見つめてくるサモエドのつぶらな瞳に空は洞天宝銭の入った袋を取り出した。
(それにしても…)
クゥン?
コテン
「似てるな…。」
空は座り込んで、購入したサモエドをじっと見つめてひと言呟いた。それに対して、不思議そうにサモエドは首を傾げてくる。特徴でもある常に笑顔を浮かべているような顔が、少し疑問符を浮かべているように見えた。
どうやらこのサモエドは、よほど人懐っこい性格のようだ。その証拠に、じっと見つめてくる空に対しても吠えたりすることはしない。むしろ空が見つめてくるのが嬉しいのか、尻尾をぶんぶんと振っている。
(ますますあいつに似てるな…)
その様子が空にとっては、ある人物を彷彿とさせる。そう考え込んでいると…
「何に似てるの??」
「わっ!」
ビクッ
背後から声をかけられて、空は驚きの声を上げた。振り返るとそこには、タルタリヤが居た。塵歌壺に度々出入りしているのだが、その登場は相変わらず唐突なので、毎度驚いてしまう。おまけに、丁度タルタリヤを思い浮かべていたので尚更だった。
「いつの間に来たんだ…?」
「ついさっきだよ。…って、サモエドかぁ〜。懐かしいな。」
スッ
「良くいる犬種なのか?」
「そこそこ、って感じかな。」
「そうか…。」
空に問いかけながら、タルタリヤはサモエドをもっと見るために隣に座り込んだ。スネージナヤ出身の彼らしい言葉に納得しながらも、見つめ合うサモエドとタルタリヤを横目で見た。お互いに口角が上がっている顔に、空はますます既視感を覚えた。
(こうして並べて見るとやっぱり似てるな…)
「どうして買ったの??」
ギクッ
「えっ?」
「ここには、もう犬や猫がいっぱいいるからさ。ちょっと気になったんだよ。」
「も、もうちょっと増やそうと思って…。」
「あはは。ここが動物園になりそうだね。」
タルタリヤの問いに内心ドキリとしながらも空は答えた。兼ねてより動物好きで扱いも心得ている空らしい回答にタルタリヤは笑みをこぼした。
(な、何とか誤魔化せた、か…?)
「で、何が似てるの??」
「えっ!!」
ドキィッ
「ほら、さっきサモエドを見て呟いてたからさ。」
ニコニコ
(…やっぱり誤魔化せていなかったか)
笑顔を浮かべながらタルタリヤは、視線をサモエドから空に変えて質問してきた。無邪気に問いかけているように見えるが、"俺は誤魔化せないよ?"とまるでそう語りかけているように深い青の瞳が見つめてくる。どうやら誤魔化しきれなかったことを悟った空は、観念して理由を話すことにした。
「…笑うなよ?」
「うん? 内容次第かな〜。」
「そこは、否定しないのかよ!!」
「あはは。」
念押しするが笑って誤魔化された。しかし、観念してしまったものは仕方がない、と口を開いた。
「…タルタリヤに、似てると思ったんだ。」
キョトン
「えっ?」
「このサモエドが、タルタリヤに、似てると思ったから…。」
「俺とサモエドが?」
ジッ
クゥン?
コテン
頬を掻きながら述べられた空の回答に、タルタリヤは、目をパチクリと瞬かせて、再びサモエドを見つめた。その視線につられるように、サモエドも首を傾げた。
前々からタルタリヤはサモエドに似ている…、と空は思っていたのだ。どことなく笑みを浮かべているように見える表情…。それが、いつも何かしら笑顔や笑い声を絶やさないタルタリヤに似ている…。そう思ったことが購入の決め手にもなった。
タルタリヤは、任務でなかなか会えない日をままある。ここ数日だってそうだった。そんな時に、彼に似ているサモエドをウルが勧めてきたので、ついつい買ってしまったのだ。彼に似ているサモエドが居れば、自然とそこにタルタリヤが居る、と思って不思議と安心できるからだ。
カァァァ〜
(今思えば、なんて理由で買ったんだよ、俺…)
「ほら、理由話しただろ? だから…。」
「そういえば…、
そんな空は猫に似てるよね。」
「えっ?!」
話したら急に恥ずかしくなってきた空が、話題を切り替えようとする。だが、タルタリヤに先手を取られたので、それも叶わなかった。しかも、今度は空が猫に似ている、という話らしい。
「金髪で、猫っ毛だし。」
「そうか…?」
「それに…、
ちょっとドジっ子なところとか、スキンシップを嫌がったりするところも似てる!」
「なっ、何だよ、それ??!!」
言われて、前髪を少しいじる空に、タルタリヤはさらに付け加えた。聞き捨てならない言葉に空は声を荒げた。ドジっ子の件は…、空自身にも心当たりがあるので口を噤むが、スキンシップの件は納得がいかない。そもそもタルタリヤのパーソナルスペースが空に対してだけ狭いのと頻度が高いせいでもある。
「あははは! 半分冗談だよ。」
「半分…、ってあと半分は本気なのかよ!!」
「さぁ、どうだろうね?」
ニマニマ
(またからかってるな…!!)
ぐぬぬ…
悪戯っ子のような笑みを浮かべるタルタリヤに、空は悔しげに見つめた。そんな2人のやり取りをサモエドは首を傾げて見守るのだった。
その数日後の塵壺歌内にて。
ハッハッハッ
みゃあ〜
「か、可愛い…!!」
敷地の草原に横たわるサモエドの身体に子猫が乗っかっていた。それを見て空は顔を綻ばせて喜ぶほどに悶えていた。やはり動物達の戯れはいつも多大な癒しを与えてくれる、と改めて認識した。
以前から塵歌壺内で飼っていた猫が、子猫を産んで、その子猫も歩けるくらいにまで成長したのだ。好奇心旺盛な子猫は、サモエドを見つけた途端、そのもふもふの身体にまるでアスレチックで遊ぶかのように飛び込んだ。サモエドも気にしていないのか、されるがままで笑顔を浮かべている。
パクッ
スッ
「? 何してるんだ??」
ワフッ
「え、何?…。」
グイッ
「ってうわっ!」
もふっ
空の視線に気付いたサモエドは、身体から滑り落ちた子猫を優しく咥えて草むらへ置いた。疑問符を浮かべる空に構わずに、一声鳴いてから腕を咥えて引っ張った。そして、自分の身体へ空の頭が乗るように着地させた。どうやら、様子を見ていた空が子猫達を羨ましがっていると思ったようだ。
ハッハッハッ
(少し強引なのも似ているな…)
もふっ
(それにしても、柔らかくて気持ちいい…)
満足げな表情を浮かべるサモエドに、ますますタルタリヤに似ている部分があると思った空は、そのもふもふの身体を堪能していた。
(何だか…ねむ、く……)
スゥ…
少し早い鼓動と柔らかな毛。その組み合わせに抗えないまま空は次第に眠りへと誘われていった。
その数十分後。
タルタリヤは、サモエドの身体に頭を預けて、子猫や猫達と共に寝る空に遭遇した。
スゥ…スゥ…
「やっぱり似てる…。」
まるで猫のように丸まって寝ている空に、タルタリヤはそう呟いた。
あの後、完全に眠った空の周りへ子猫の親猫達が擦り寄って来たのだ。その結果、眠る空を取り囲むようにぐるりと5、6匹の子猫や猫が群がっている状態になった。猫達は思い思いに丸まって寝ていたり前足と後脚を伸ばして寝ていたりとその寝相は様々だ。
(まるで、猫達のリーダーみたいだね、空)
クスッ
その微笑ましい様子に柔らかな笑みを浮かべたタルタリヤは、もっとよく観察する為に傍へと寄った。その時、タルタリヤの近くに居た猫が、気配を察知したのか、耳をピクリと動かして、起き上がった。そうして伸びをした後に、タルタリヤの方へと歩いてきて、ウニャ〜…とやや低めに鳴いた。どうやら、タルタリヤを警戒しているようだ。
「大丈夫。君のご主人様には危害を加えないよ。」
ナデナデ
ゴロゴロ…
自分は危険な存在ではないことを伝える為、そして猫を安心させるようと、左手で喉元を撫でた。気持ち良さげに喉を鳴らす猫から手を離して、タルタリヤは空へと向き直った。
投げ出された四肢。
金髪の長い三つ編みは、草原に弧を描いている。
普段大人びた雰囲気はなりを顰めて、よりその幼さが際立っていた。
とても気持ちよさそうに寝ているのを見ていると、だんだんタルタリヤの中に悪戯心が芽生えてきた。
(少しは許してね? 空)
スッ
「うぅ〜ん…。」
スリッ
心の中でそう呟いたタルタリヤは。右手を伸ばして頰を撫でる。すると、寝ぼけているのか、空はタルタリヤの手に擦り寄ってくる。それがもっと撫でて、と甘える猫みたいだと感じた。
(普段よりかなり素直だな…)
スリッ
スリッ
いつにも増して無防備な空と、それに比例するようにますます笑みを深めるタルタリヤは、さらに頬を撫で続けた。すると…
………ふわぁ〜…
空が控えめにあくびをした。ますます無防備になった空と、その口元に、さらに好奇心が刺激されたタルタリヤは、撫でていた右手を離して人差し指を伸ばした。そして…
スッ
パクッ
空の口の中へと入っていった。
それと同時に空の口が閉じる。
そうなれば、必然的に空はタルタリヤの指は咥えることになる。
「あっ。」
(……何だ?)
咄嗟に出た行動にタルタリヤが焦った声を出すと同時に、その刺激によって空の意識は徐々に覚醒していく。ぼんやりとした意識の中で、だんだんとクリアになっていく視界に映るのは、驚きに深い青の瞳を丸くしているタルタリヤだ。
(? なんで、そんなに驚いているんだ…?)
何故そんなに驚いているのか分からずに、空は疑問符を浮かべた。それに、何やら口元に違和感がある。確認をしようと目線を少しだけ下にズラせば…
(……!??)
口の中にタルタリヤの人差し指が入っているのが見えた。
(ゆ、指…??!!)
カァァァッ…
口の中にある指の感触。
冷や汗を掻きながらこちらを驚きの表情で見つめるタルタリヤ。
大きな琥珀色の瞳をさらに見開きながら深い青の瞳を見つめる。その後に、また口元を見つめる。交互に見ながら徐々に状況を理解し始める空は、完全に意識が覚醒すると同時に頰を急速に赤らめていく。
パッ
ガバッ
「な、何してるんだよ!!」
バクッ、バクッ
「ご、ごめん。つい…。」
咥えていた指、それを口を大きく開いてから離した空は飛び起きた。急に動いたからか、または羞恥によるものなのか、心臓の鼓動が早い。混乱しながらも、まだ指の感触が残る口元を片手で拭うような形で止めながら空は問いかけた。そんな空に対して、何故かタルタリヤは横を向きながら謝る(しかし、その中で聞き捨てならない言葉を漏らしている)。しかし、タルタリヤも何故か顔が赤い。まるで、空の火照りが移ったようだ。
(つい、って…)
「わざとじゃないんだよ、空…。」
クルッ
「!!」
バッ
弁解しながらもこちらへ向き直ろうとするタルタリヤに、空は思わず…
ふにっ
「へっ??」
みゃあぁぁ〜
タルタリヤの両頬に当たる柔らかな感触、それは、子猫の肉球だった。どうやら、空が咄嗟に子猫を持ち上げてガードをしたらしい。両前脚をいっぱいに伸ばして、タルタリヤの頬へ肉球を載せる子猫は、急に持ち上げられたことが気に食わないのか、やや不満げに鳴いた。
そんな空の行動と、状況に見合わぬ無邪気な子猫のアンバランスさに、タルタリヤは先程とは違う驚きで目を丸くした。
「こ、こっち向くな…。」
「え、でも…。」
子猫を盾に必死にガードする空の顔はまだ真っ赤なままである。普通であれば子猫をガードするのはいかがなものか、と問いたくなるが状況が状況なだけに口出しするのは憚れた。
ワンッ!
「わっ!」
「えっ?」
にゃあ〜
みゃう
に〜
うにゃ〜
そんな微妙に膠着状態になった2人の状況を打破するかのように、サモエドがひと鳴きした。それを合図に、猫達が空やタルタリヤに群がり始めた。
ある猫は、空の手に掴まれた子猫の親猫なのか、返してと言わんばかりに空の手から子猫をかっさらっていった。また、ある猫は、先程空に抱えられた子猫を真似するようにタルタリヤの両頬に肉球を当てがっている。
「あはは。くすぐったいよ。」
「………。」
ギュッ
「空?」
一見すると無秩序な動きに見える。だが、それがまるで、喧嘩しないで、と言っているようにも見えた。そんな動物達の行動に先程の空気が薄れたことを悟った空は、タルタリヤの服の裾を掴んだ。タルタリヤも、猫達の肉球攻撃をあしらいながら、空の行動を見守った。そして…
「今日は、この子達に免じて許してやる…。」
「…うん。ありがとう。」
「次はするなよ。」
「………分かった。」
「いや、その間はなんだ?!」
空のひと言に、タルタリヤは感謝の言葉を述べた。続いて警告する空に、またも冷や汗を掻きながら告げられた言葉に抗議するのであった。
その後、猫達と戯れる2人であった。
それを満足そうに見つめるサモエドは、もしかすると、2人にとってはなくてはならない存在なのかもしれない。
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