その無防備に、警告を


服の修繕をするカーヴェと分かりにくい気遣いをするアルハイゼンのお話です。
(学院祭イベントでのコサックギツネとのやりとりが可愛すぎたので…)

めっちゃ短いです。

・弊ワット設定全開で、カーヴェは着ている服以外は、服の持ち合わせがあまりない設定です。カーヴェ本人も身だしなみは気にしても、着飾ることには頓着がないです。

・捏造及び自己解釈部分多々あり(いつものこと)

参考資料

・盛典と慧業 イベントストーリー
・カーヴェの雪の日のセリフ
・アルハイゼンとカーヴェの鍵の待機モーション




アルハイゼンの自宅にて。

「噛まれた跡…、服に残らないといいんだが…。」

赤を基調として二又に分かれたスカーフとマフラーが合わさった似た服を持って、あらゆる角度からチェックしていたカーヴェは、眉を下げて困ったような顔を浮かべながら呟いた。

学院トーナメントの2回戦にて、擦り寄って来たコサックギツネに服を噛まれてしまったので、跡を確認しながら修繕できるか検討しているのである。

ペラ
「そんなに気にしなくても、遠くからは分からないだろう。」

キッ
「近くに来ると分かるかもしれないだろ!!」

そんなカーヴェに声をかけたのは、椅子に座って本を読んでいたアルハイゼンである。特別評論員として参加していたアルハイゼンは、同じく特別評論員の記録係として選手達の写真を撮っていた空とパイモンの活躍によって、カーヴェとコサックギツネの攻防のことを知っていたのだ。

その上で声をかけたアルハイゼンであるが、1ページめくる乾いた音を立てた後…、つまり読み終わってから次のページを読む前に言葉を発した。実にアルハイゼンらしい反応である。

そんなアルハイゼンから発せられた言葉に、服から視線を外したカーヴェは、振り返って睨みつけながら抗議するように言葉を紡いだ。

「大体、そうして修繕する苦労を選ぶくらいなら、もう1、2着は服を用意するべきではないか?」

「うっ…。」

アルハイゼンも負けじと対抗するように、正論とも言える言葉を紡いだ。それにカーヴェは言葉に詰まってしまう。

アルハイゼンの言う通りではある。だが、それができるかできないかと問われたら、カーヴェは後者になる。

何故なら、今着ている服以外にカーヴェは持ち合わせが少ないのだ。

節約の意味も兼ねて、ここ数年、新しい服の購入はできるだけ控えるようにしているのだ。それが今、服を修繕しようとしている理由でもあり、アルハイゼンに痛いところを突かれた部分でもある。

そして、視線を再び服に戻したカーヴェは、あることを思い出して言葉を紡いだ。

「確かに…。

それなら、コサックキツネに服に潜り込まれたりしないだろうからね…。」

バサッ

「え?」

思い当たる節を述べたカーヴェは、その直後に響いた乾いた音に振り返る。見ると、アルハイゼンの足元に今まで読んでいたらしい本が落ちている。彼の手元が本を持っていたらしい状態から見て、どうやら落としてしまったらしい。

(あのアルハイゼンが、本を落とした…?!)

スッ

「何だ?」
ペラ…

明日のスメールは、異常気象による雪が降ってもおかしくない事態を目の当たりにしている気分で、カーヴェは驚愕に目を見開いた。だが、アルハイゼンは何でもないような様子で静かな動作で本を拾い上げると、カーヴェに声をかけてから再び読み始めた。

「い、いや。何でも…。」

まるで、時を巻き戻したようにあまりにも自然な様子で振る舞っているので、逆にカーヴェが狼狽えてしまう。しかし、よく見れば、タイトルからして本の向きが上下反対になっているような気もする。

(本当に珍しいな…)

「それで、君は、今、なんて言ったんだ?」

「え? ……あぁ、コサックギツネのことか。前にもあったことなんだけど、大変な目に遭ったんだ…。」

そんなある種のシュールさを感じられるあまりにも珍しい光景にカーヴェが呆けていると、続きを促すようにアルハイゼンが尋ねたので、以前起きたことを語り始めた。

以前、砂漠での仕事をしている中でも、カーヴェは、コサックギツネに絡まれたことがあった。

そのコサックギツネは、恐らく棲家としている巣穴が人が住んでいる場所の近くにあるのか、人慣れしていて妙に人懐っこい性格をしていた。そんなコサックギツネは、何故だか分からないが、かなりカーヴェを気に入ったらしく勢い良く飛び上がったと思いきやカーヴェの全身を器用に駆け巡った。

そうしているうちに、服のうち肌が覗いている背中側の隙間から入った。驚愕するカーヴェをよそに、まるで、未知の洞窟を探索するかのごとく服の中を駆け回りながら、最終的に、同じく肌が覗いている胸元から顔を出した、ということがあったのだ。

「ふわふわもふもふなせいで、くすぐったいのに、顔を出した後は、くつろぐように居座ったりしてたよ。」

大変な目に遭ったはずだが、思い出すうちに、コサックギツネの無邪気な可愛さにつられてカーヴェは笑い出してしまう。常人であれば、少なからず不快感を抱くはずだが、その様子はカーヴェには見受けられない。まさに、思いやりが溢れるカーヴェらしい、とも言えた。

パタン

スタスタスタ

「??」

話を聞き終わったアルハイゼンは、無言で本を閉じると部屋へと向かっていった。いつにも増して分からないアルハイゼンの行動に疑問符ばかり浮かぶカーヴェである。  

(一体、どうしたんだ…)

スタスタスタ

そう待たないうちに、アルハイゼンは戻ってきて、カーヴェの方に向かって来る。

そして…

バサッ

「ぅわっ!」

「しばらくはこれを着るといい。」

何か質量があるもの、それをカーヴェに被せてからそう呟いた。

驚きに声を上げるカーヴェの一方で、アルハイゼンのその声色はいつもよりも低く何やら硬くなっているようであった。

ぷはっ!

「いきなり何するんだよ!!」

突然のアルハイゼンの行動に混乱するまま被せられた何かをどけて顔を出してから抗議の声を出したカーヴェは、それの正体が真新しいシャツだということに気付いた。しかも、何枚も重なっている為に重量を増していた。通りでやたら苦しく顔を出した時に、ひと息吐いたわけである。

「服の持ち合わせが少ないからそういうことになるんだ。だから、使うといい。」

「…って、これは君の服じゃないか! 君のサイズを僕が着ると不恰好になるぞ!!」

カーヴェの問いに答えるように、アルハイゼンが言葉を紡いだ。だが、その答えに納得がいかないカーヴェは、何枚ものシャツを持ち上げて抗議した。

何しろアルハイゼンとカーヴェとでは、あまり身長差はないが、体格に差があり過ぎるのだ。当然、サイズにも違いが出るし、アルハイゼンの服をカーヴェが着る、となると、所謂"服に着られている状態"になるのは明白であった。

職業柄、依頼主や設計に携わる者など、人付き合いが多いカーヴェとしては、身の丈に合わない服を着るのは身だしなみとしてよく見られないことから快く思っていない。

さらに言えば、"体格に差がある"とアルハイゼンから水面下で、かつ、明確に告げられているような気がしてますます断りたいのだった。

「何の問題があるんだ? むしろ隙間がある服を一張羅にしている君よりも遥かに機能性に優れていると思うが。」

「なっ………!」

しかし、カーヴェのそんな気持ちは知ったことじゃない、と言わんばかりのアルハイゼンの言葉に、カーヴェは呆れと怒りで言葉を失う。

そして…

プルプルプル…
「君ってやつは………!!!」

(本当に腹立たしいな!!)

怒りに身体を震わせて、その言葉を言い放つのだった。

(これで少しはマシになるだろう)

カーヴェが怒り出す寸前…というより既に怒っていることは気にかけずに、アルハイゼンは内心納得していた。

というのも、カーヴェのあまりの無防備さに衝撃を受けたからだ。

先程の話のコサックギツネならばともかく(と言いたいが大いに文句を言いたいくらいだ)として、これが仮にもスリに遭ったりしたらどうするのか、ということである。

スメールの治安は、シティはエルマイト旅団が目を光らせているので問題はないと思うが、カーヴェは仕事の関係で、砂漠に赴くこともしばしばある。以前よりは良くなったはずだが、シティとは桁違い(と言うと大袈裟に聞こえるが、決して軽視してはならない)にならず者がいるわけである。

ただでさえ渡した合い鍵がアルハイゼンの鍵にしょっちゅう絡まっているくらい頻繁に鍵を無くしているのだ。教令院に居場所がバレたくないと言う割には、これでは意味がないし隠れ蓑として、アルハイゼンの自宅に即座に駆け込めんでやり過ごす、などの術が失われるではないか。

それほどまでのうっかりさとお人好しっぷり、さらには危機感を備えていないと察してしまうレベルでの無防備さ…。加えて、カーヴェの見目麗しい(と密かに思っているが、決して言いはしないアルハイゼンである)容姿は、人を惹きつける一因にもなっている。

それらの要素が加わるとどうなるか…。

万が一、ならず者に捕まって持ち物を物色するために身をまさぐられる、なんてことがあれば…。

(まぁ、メラックがいれば問題ないだろうが…)

カーヴェのそばを浮遊する特殊な工具箱を思い浮かべるアルハイゼンではあるが、それも万全とは言いがたい。手元を離れたり没収されたりする可能性を考えると、やはり、根本的な問題の解決…、つまりは、手持ちの服を増やすのが手っ取り早いと考えた。

それに、旅人である空に連れられて、モンド近くにある年中が雪降りしきるドラゴンスパインにて、着ている服の風通しの良さを痛感した、と言っていたが、カーヴェに改める気配がないことも含めてそう判断した。

(せめて新しい服を買うまでは着ていて欲しいがな…)

「って、聞いているのかい!?」

「ん? あぁ、すまない。君はいつ新しい服を買うのかと、考え事をしていた。」

「なっ………!!! 本当に君は…………!!!!」

それも含めて、カーヴェに服を渡したアルハイゼンであるが、それにカーヴェが気付く訳がない。現に、こうしてアルハイゼンが考えていたことを述べたら、自分の言葉を聞いていなかったこと、加えてさらなる当てつけの言葉とも取れる言い方に、カーヴェはますます憤慨するだけだった。

そして、それは新たな議論の火種となって、2人はますます口論するのだった。

その後の議論の結果、家の中で着ることにしたのだが、実際に着てみて、やはり大き過ぎる…とごちるカーヴェの姿があった。

アルハイゼンのサイズのシャツを着て袖から手が出ていない状態を見て、何故かアルハイゼンは、またも本を落としたという。

-END-


おまけ

灰簾と紅玉、そして翠玉

※学院祭中のキャラの行動は完全捏造気味です
※カーヴェが、ディシアとキャンディスと知り合った経緯を完全捏造気味です

(やっぱり大きい…)
ブカブカ…

アルハイゼンに半ば無理矢理渡されたシャツを着たカーヴェは、改めて感じる大きさに複雑な思いを抱いていた。そして、何故書記官であるのに、あそこまで筋骨隆々になれるのか、アルハイゼンに対しての謎は深まるばかりだ。

そして、同時に、トーナメントが終了して、学院祭を満喫していた時の出来事も否応なしに甦ってきた。

それは、街中でディシアとキャンディスという女性2人に出会った時に起こった。ショッピング中なのか、たくさんの荷物を抱えていて、そのうちの落ちてきた物のひとつを拾って渡したのだ。

手伝おうと申し出るカーヴェに、バランスを崩してしまっただけで、持てるから大丈夫、と言われたのだが、2人の褐色の肌に、友人であるセノを思い出して放っておけないと言えば、2人ともセノを知っているらしく、同時にカーヴェも、2人がセノを知っていることに気付いたのだ。

それを知ったことで、お互いにセノを通じての友人となった。そして、そこまで言うならカフェまで頼む、ついでにコーヒーを奢る、とディシアに言われたのだ。

そんなこともあって、荷物を持とうとすると、張り切ってたくさん持ってしまったせいか、カーヴェはバランスを崩した。

その時に、ディシアがカーヴェの顔の近くへ手を付くと同時に、腰元を支えた(テイワットにあるかは分からないが、所謂"壁ドン"と呼ばれるものだ)。

困惑しながらお礼を言うカーヴェに、気にするな、というディシアに体勢を整えながら、カーヴェも佇まいを直せば、足に痛みを覚えた。どうやら足を捻ってしまったらしい。

それに気付いたディシアは、ビマリスタンにカーヴェを運ぶ為に、横抱きにして抱えた。所謂お姫様抱っこというやつだ。

ますます困惑するカーヴェに、まずは治してからだ、と颯爽と告げたディシアの勇ましい姿に、深くにも惚れ惚れとしてしまい押し黙ってしまい、そのまま運ばれてしまった。

荷物を抱えた(驚くことに全ての荷物をだ)キャンディスも後ろから追って来てくれて、結局3人でビマリスタンのところへ行くことになった。

そんな出来事を思い出したのだ(これが、スメールシティの一部目撃者によって逆美男美女だと静かに話題になっている、ということはカーヴェは知らないのだった)。

(………もう少し鍛えようかな)

あまりの恥ずかしさに、運ばれている間は顔を隠していたのだが、いくら傭兵であるとはいえ女性であるディシアに軽々と抱えられて、カーヴェの男のプライドが少々傷ついたので、そう決意するのであった。

-END-

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