【アルカヴェ】翡翠、纏いて触れる

原神のアルハイゼン×カーヴェの小説です。
※基本的に、タル空至上主義ですが、原神のキャラは関係性が美味しいので、つい衝動的に書いてしまう時があります。

無くした羽根飾りを探すカーヴェと、呆れながら見守るアルハイゼンのお話です。

※アルハイゼンとカーヴェ、未実装(この小説を書いた当時)の2人に関する完全妄想・自己解釈・捏造・推測しかないの欲張りセット状態なので、どうぞ温かい目で見守ってください…

・アルハイゼンとカーヴェの性格及び口調迷子気味
・カーヴェの羽根飾りの入手毛色及び髪に挿すようになってからの経緯に捏造しかないです
・だいぶうっかりなカーヴェ、割とおこなアルハイゼン気味です←怒られるぞ

参考資料

・羽根の色の意味

https://evaetlilit.com/green_feather/


※初出 2023年1月14日 pixiv

テイワット各地を旅する長い金髪を三つ編みにした旅人の少年、空と最高の仲間である不思議な生き物、パイモン。

当然ながら、空達が各国に訪れる前にも、そこに住まう者達の生活や物語がある。

これは、そのうちの物語のひとつ…。

スメールに住まうある2人の青年達の話である…。

アルハイゼンの家にて。

バタバタッ

ガチャッ!

「僕の羽根飾りが無いぞ!!!」

チラ
「………もう少し静かに開けてくれないか。」
フッ
ペラ…

騒々しい音を立てながら、金髪の青年がドアを開けた。慌てた様子で大声を発しているその白皙の顔色は、心なしかより一層青ざめていて思わずこちらが心配になってしまいそうな程であった。

一方で、その騒々しさに椅子に座って本(スメールでは珍しい紙のものだ)を読んでいた銀髪の青年は、本から視線を上げて咎めるような流し目を送った。そして、嗜めるように、ひと言を呟いた後に視線を再び本へと戻して、1ページめくる乾いた音を発した。

ムッ…

スタスタ

バンッ
「一大事なんだよ! 僕の羽根飾りが無くなったんだ!!」

スッ…
パタン…
「そんなに近くに来なくても聞こえている。」
スッ

金髪…、いや、より正確に言うならば、毛先に黒が混じるシャンパンゴールドの髪を持つ青年、カーヴェは、その態度に腹を立てて、怒りを露わにした少し荒々しい足並みで、アルハイゼンの近くへと歩を進めた。そして、止まったかと思えば、テーブルを叩いてもう一度言い放った。

その言葉を発した際、やや吊り目気味の猫のような印象を受けるワインレッド色の瞳をますます吊り上げていた。顔立ちが整っているだけに、怒りを露わにした時の迫力は際立っていた。もし、ここに事情を知らぬ第三者が居たとしたらその迫力に萎縮したことだろう。

そんな苛立ち気味のカーヴェに、読んでいた本に栞をして閉じながら言葉を投げかけたのは、銀髪…、いや、より正確に言えば、左側がやや長めの前髪に銀灰色のメッシュが混じるカデットグレー、さらにはエメラルドグリーンのインナーカラーが特徴的な髪を持つ青年、アルハイゼンである。

カーヴェが強調して言ったことに対して、瞳孔周りがオレンジ色、全体がターコイズブルー色の瞳を煩わしそうに細めてから、テーブルに読みかけの本を置いた。

「思いつく場所は探してみたのか?」

「勿論そうだ!! だけど無いんだよ…。」

まだ本の続きが気になっているのか、未練がましそうに本を見ながらアルハイゼンがそう尋ねれば、カーヴェは力強い回答をした。だが、その直後に、意気消沈した気持ちが移った沈んだ声になってしまって、肩を落とした。

「ふむ…。確か、それは、遅れて貰った君の卒業祝いのもの、だったか?」

「そうだよ…。」

口元に指を当てて考え込んだアルハイゼンは、再度尋ねた。どうやら探す気になってくれたらしくその様子は探偵さながらのようである。その言葉に、羽根飾りが見つかっていない事実を再確認したカーヴェはますます落ち込んだ。

それは、依然として本に視線を固定したまま話し続けるアルハイゼンの態度を咎めないことから、相当落ち込んでいることが分かる。普段であれば、アルハイゼンのそのような態度に、そこからさらなる怒りを訴えるものなのだが、無くした羽根飾りに意識を向けている為にその余裕がないのだろう。

(一体、どこにあるんだ…!!)

カーヴェがますます焦りを感じながら、脳裏に羽根飾りを思い浮かべていた。

カーヴェが、先程から無い、と騒いで血眼になって探している件の羽根飾りとは、つい今しがたアルハイゼンが言ったように、教令院を卒業した後に、カーヴェが貰ったものであった。

より正確に言うならば、ドリーの住まうアルカサルザライパレスを作った後に教令院を訪ねた時に貰ったものであった。借金まみれになって途方に暮れていた時、以前、教令院の補助金制度に関して、小耳に挟んだことを思い出したカーヴェは、詳しく聞こうと思って、久々に訪ねたことがあったのだ。

その際、在籍時にお世話になった恩師から預かり物がある、と渡されたのが、あの翡翠色の羽根飾りだったのだ。詳細を恩師から聞いてみれば、だいぶ遅れてしまって申し訳ないが卒業祝いとしてカーヴェに渡して欲しい、匿名希望のある者から頼まれたようだった。

綺麗な翡翠色。
そこに、金色の模様が刻まれている羽根飾り…。

その美しさも相まって、当時のカーヴェにとって、辛い時期に心の癒しとなってくれた大事なものとなったのだ。

というのも、あの羽根飾りを貰って以降は、後輩のアルハイゼンからルームシェアの声がかかったり、建築の仕事も舞い込むようになったりもしたからだ。

それは、単にタイミングが偶然重なったことによるものだったのかもしれない。だが、カーヴェにとってあの羽根飾りは、自身を励ましてくれたようだと思うと同時に、幸運のお守りのような存在となったように感じたのだ。

だから、何としてでも見つけないといけない。

しかし…

(だけど………)

「一体、どこにあるんだ…。」
クルッ

思考に耽っていたカーヴェは、少し考えてからもう一度見た場所を探してみよう、という思考が無意識に行動として出てしまったのか、アルハイゼンに背を向けるように身体を半回転させた。

一方で、アルハイゼンは、カーヴェの真剣な様子からようやく本から視線を外して、しばらく思考に没頭するように俯いていた。

パッ
「仕方ない、俺も探……す…………。」

そして、一緒に探す意思を伝えるようと顔を上げてカーヴェに協力の言葉を投げかける。だが、それは最後まで紡がれることは無かった。それどころか、徐々に呆れた表情を浮かべていく。

何故ならば………

件の羽根飾りが、カーヴェの背中の左肩辺りにくっつくように付いていて、時折揺れているのを見たからだ。

(………通りで見つからないわけだ…)

何であんなに近くにあるのに…、と思いかけるアルハイゼンだが、すぐにその考えを断ち切る。逆に考えてみれば、あれだけ近くにあるのならば、カーヴェが気付かない限り、あるいは、今のアルハイゼンのように別の人に見つけてもらえなければ見つからないからだ。

(灯台下暗し、というわけか………)
ウン、ウン

まさに、この状況にぴったり過ぎる言葉を思い浮べるアルハイゼンは、1人で納得しながら静かに頷いていた。

しかし、当の本人は、未だに気付いてない様子である。

(何故、あそこまで気付かないものなのだろうか…?)

必死に探している割には、いくらなんでも見通しが甘すぎる気すらしてきた。その鈍感さを感じる態度に加えて、大声で騒がれたこと、さらには読書を邪魔されたことも相まって、アルハイゼンの中で、ふつふつとした怒りが込み上げてくる気がした。

もし、彼をよく知る者がこの場にいれば、普段はあまり感情を露わにしないアルハイゼンの様子を見れば、それはそれは驚くことだろう。だが、例え普段は感情表現があまり豊かではないアルハイゼンでも、この時ばかりは怒りを抑えられそうになかった。

その様をカーヴェと一緒に例えて言うのであれば、カーヴェが活動が盛んな火山のような怒りであるならば、アルハイゼンは青い炎のような怒りだろう。

見た目はあまり熱くなさそうだが、実は、普段見かける炎よりも温度が高くて熱い青い炎…。それが、静かに見えても実はとてつもない怒りを携えている、今のアルハイゼンにぴったりであった。

実は、怒りを露わにすると、滅法怖いのがアルハイゼンなのである。

(少しお灸を据えてやろう…)
スクッ…

そんな怒りを携えて立ち上がるアルハイゼンは、ゆっくりと歩み寄っていく。それに、考え込むカーヴェは、気付く様子もなかった。

(確か、あそこに…)

一方で、カーヴェは、こっそりと背後に近づいて来るアルハイゼンの気配に気付かずに、思考に没頭している。そして、もう一度探す箇所の検討がついたので動こうとするが、やがて…

スッ
「動くな。」

ビクッ
「っ!?」

突然、右肩に手を置かれて左耳に向かって、後ろから声をかけられた。

急に近付かれたこと。
いつもよりも低い声のトーン…。

それが出来るのは今の状況では、アルハイゼン1人しか居ない。それに驚いて目を丸くしたカーヴェは思わず固まってしまう。その様子は、まるで、驚かされて真顔で固まる猫のようであった。

(な、何なんだ…?!)
ギュッ

もしかしたら、あまりにも騒がしくしたことに腹を立てて、背後から何かされるのではないか…?

それをコンマゼロ秒単位で思考したカーヴェは、肝を冷やして目を閉じる。何故なら、アルハイゼンが静かに怒る時程、凄まじく怖いということを、ルームシェアを始めて生活していくうちに身をもって知ったからだ。

そして…

スッ…
「…君の左肩に付いていたぞ。」

パッ
「えっ…?」
クルッ

聞こえてきた呆れた声に拍子抜けしたカーヴェは、右肩に置かれた手が離れたのを感じ取って閉じていた目を開けて後ろを振り向く。そこには、声色と同じようにやや呆れた表情(とは言っても普段と微かに違うレベルであるが)をしながら、右手に羽根飾りを持つアルハイゼンの姿があった。

(よかった…、じゃなくて!!)

「乱暴に扱わないでくれよ!」

羽根飾りが見つかった喜びと、アルハイゼンがそこまで怒っていなかった安堵に胸を撫で下ろすカーヴェである。だが、アルハイゼンが羽根飾りを些かぞんざいに扱っているように見えたので、反射的に抗議の言葉を発してしまった。

フゥ…
「……俺が見つけたのだから、礼くらい言ったらどうだ??」

「なっ!! 君ってやつは…。」

カーヴェの言葉にやれやれ、と言わんばかりにため息を吐いたアルハイゼンは言葉を紡ぐ。その様子に、カーヴェは、勢い余って前のめりの体勢になりながら、ますます噛み付くように言葉を紡いで睨んだ。

「何か? そうでもしないと、君は一生探し回っていたと思うが??」

「一生は言い過ぎだろう?!」

「さぁ、どうだろうな? このことで、俺は君の気付かなさっぷりを再認識したから、その言葉は信用に値しないな。」

「くっ………。」

言い合いながら、言葉の端々にまだ収まっていない静かな怒りを見せるアルハイゼンに、いつも以上に討論に押され気味であることを痛感する。それに、ことの発端は、カーヴェ自身の失態にあるのでぐうの音も出なかった。

(確かに、お礼くらいは言わないと…)

先程は、つい条件反射で抗議してしまったが、アルハイゼンが見つけてくれたのは事実である。それに、礼を言わなければならないのも同様だ。カーヴェは、意を決して…

「見つけてくれて、ありがとう……。」

「!!」

自身の過ちを認めたように、だが、まだ認めたくない気持ちがあって羞恥を感じているのか、白皙の顔を赤らめて俯きながら、カーヴェはお礼の言葉を述べた。

その様子に、アルハイゼンは先程まで感じていた怒りが途端に、すぅ…、っと、引いていく気配を感じた。たまに素直になるカーヴェの姿が、普段のつんけんとした様子も相まって、どうしようもなく魅力的に映る上に、それになんでも許してしまいたくなるのだから、カーヴェには敵わないのだ。

「? どうしたんだい??」

「いや、まさか、本当に謝るとは、意外過ぎて…。」

「なっ、どうして君はそう皮肉屋なんだ??!!」

若干目を見開いて固まるアルハイゼンに、疑問符を浮かべて尋ねれば、そのような言葉を口にした。それに、カーヴェはパッと新たな怒りを露わにした。

「これが素だからな。」
サラッ

「〜〜〜っ!!!」

(落ち着け…)

スゥ…
フゥ…

「今更過ぎることを言った僕も悪かった。そろそろ羽根飾りを…。」
スッ

深呼吸をして気持ちを落ち着かせたカーヴェは、仕返しのつもりなのか、少し棘のある言葉を紡ぎながら、アルハイゼンが右手に持つ羽根飾りを取ろうとする。だが…

「………。」
パッ

スカッ

「えっ?? 何で、そんなに高々と腕を上げているんだい…?」

カーヴェが困惑気味に紡いだ言葉が表すように、羽根飾りを取る寸前に、アルハイゼンが高く腕を上げたので、それは叶わなかった。

僅かに違う身長差故なのか、それとも、真っ直ぐにピン、とまるでお手本のように腕を上げている故なのか、あるいはその両方が合わさっているのか、アルハイゼンの右手に持つ羽根飾りには手が届きそうになかった。

「…君、いつも羽根飾りをどこに着けているんだい??」

「え…、大体スカーフの合間とかかな…。」

(やっぱり…)

確認の為なのか、アルハイゼンが問いかけたので、未だに疑問符を浮かべながらカーヴェは答えた。案の定ともいうべきか、それでは自ら進んで無くす行為に結びついていると気付いていないようだった。

ハァ…
「それだと無くしやすいだろう。」

「どこにつけようと僕の自由だろう?!」

ため息を吐きながら呆れたように言葉を紡ぐアルハイゼンに、カーヴェは再び抗議した。確かにカーヴェの言うことも一理ある。だが、それは持ち物の管理がしっかりできた上では納得がいくものだ。残念ながら、今のカーヴェにその説得力は無かった。

それに、また無くしたと言って騒がれたらたまったものではない。そう考えたアルハイゼンは、高々と上げていた右手を下ろしてから静かに歩み寄った。

スッ
「だったら…

こうしてつけておくといい。」

ふわっ

静かに近付いたアルハイゼンは、立ち止まった後にカーヴェの向かって右側の髪へと羽根飾りを挿した。

(え………?)

その様子を、目だけで追うようにしながらカーヴェは、触れてくるアルハイゼンの右手があまりにも優しいものだから、困惑の表情を浮かべてただただ見守るばかりであった。

そうして、カーヴェから見て左側の髪に挿された羽根飾りは、羽軸が耳に触れる位置にある。ここならば、確かに無くなっていればすぐに分かるだろう。

「……いいな。これなら、無くす心配も無い。

何より、似合っている。」
サラ…

羽根飾りをしばらく交互に見ていたアルハイゼンは、言葉を紡ぎながらいつもの無表情から、ほんの少しだけ柔らかな笑顔を浮かべた。同時に、カーヴェの髪のふた束ほどを羽根飾りと共に右手で優しく撫でる。

カァァァ…
(な、何だかもの凄く恥ずかしいんだが…!!??)

いつものアルハイゼンらしからぬ表情と動作に、カーヴェはますます困惑して身体が硬直すると同時に、何故か胸の高鳴りを覚えて、急激に顔を赤く染めていく。その様は、白皙の顔が瞬く間に赤くなってしまったと錯覚させるほどであった。

「あ、ありが………。」

その自身の中の心情の変化を誤魔化すようにお礼を言いかけるカーヴェであるが、次に発せられたアルハイゼンの言葉によって、その続きが紡がれることはなかった。

「それにしても…、

君の頭にあると、まるで砂漠にある植物のようだな。」

ビキッ

(………今、何て言ったんだ…??)

アルハイゼンの言葉に、先程とは別の意味で硬直したカーヴェはだんだんと怒りが込み上げてくるのを感じ取った。

その言葉は、言うなればこういうことだろう。羽根飾りを植物に見立てるならば、砂漠はカーヴェの髪ということになる。つまりは、風が吹けば砂を持っていかれてしまうようなされるがままの砂漠のようだ、とでも言いたげであった。

(折角、見直しかけたのに…)

パシッ
「大きなお世話だ! ………ちょっと確かめてくる。」

スタスタ
パタン

髪と羽根飾りに触れていたアルハイゼンの右手、それを左手で払い除けたカーヴェは、今度は怒りに顔を赤くしながら言葉を紡いだ。そして、羽根飾りの位置を確認しようと洗面台へと向かう。アルハイゼンの返事などは待たずに歩きながら思案する。

(なんでいつも皮肉しか言わないんだ!!)

あの言葉で、カーヴェ自身は勿論のことだが、この羽根飾りのことに関しても言われた気がして気分が悪くなるばかりであった。より正確に言うならば、羽根飾りを贈ってくれた人物に対して言われているような気がしてきた。そう思っていたら怒りが湧いてきたと言っても過言ではない。

(大事なものなのに!!)

ピタッ

怒りに震えながら、ふと、カーヴェはある疑問を思い浮かべて立ち止まった。

(そういえば、卒業祝いに貰ったものだっていうことをアルハイゼンに話していたか…?)

そう。

あの羽根飾りが贈られた経緯をアルハイゼンに話したかどうかだった。

先程は、羽根飾りを無くしたことや見つかるかどうか不安になっていたことに気を取られて気にしていなかったが、カーヴェの記憶が確かであれば、話したことはなかったはずだ。

疑問に感じたカーヴェは詳しく思い出そうとする。だが…

(……顔を思い浮かべたら腹立たしいな…!!)
ブンブンブン
スタスタ

必然的にアルハイゼンの顔を思い出すので、折角引きかけた怒りが再び戻ってきそうな気がしてきた。だから、これ以上思い浮かべないようする為に、首を横に振って洗面台へと歩き出すのだった。

(………何故、カーヴェは怒っていたんだ?)

一方、洗面台へと向かうカーヴェの背を目で追いながら、アルハイゼンは首を傾げていた。それは、先ほどの発言が"褒め言葉"であるのに、カーヴェが目くじらを立てていたからだ。

砂漠に咲く植物というのは、過酷な環境で育つ故に、通常の植物よりも独自の進化を遂げるほどに生命力があるものだ。その様が、カーヴェ自身のことを表しているように感じたからこそアルハイゼンは言葉をかけた。

時に悩み、時に苦しみながらも逆境に立ち向かうその姿…。

それに加えて、カーヴェの光り輝くような金髪に翡翠の羽根飾りがあること、その色合いのバランスからも連想したので褒めただけである。しかし、何故かカーヴェは吊りがちな猫目をますます吊り上げて去ってしまった。

(どうしたものか…)

悩ましげにするアルハイゼンであるが、それも無理はないだろう。

何故なら、彼が言う"褒める"というのは、正確に言うならば、"アルハイゼンにとっては褒めている"というのが正しい。

その分かりにくすぎる上に、誤解しか生まないような発言ではカーヴェが怒るのも無理はない。しかも、アルハイゼンにとっては、ただ純粋に褒めただけに過ぎない、と本気で思っているからだ。

しかし、言うタイミングが悪いことや言葉が足りないことなど、数々の問題があるだけでも厄介なのに、それ対して、自覚が一切無いのが、尚更タチが悪いのだった。

(…やはり、俺が褒めても快くは受け取らないらしい)

アルハイゼンにとって、いつも心から褒めているのに、カーヴェがそれを受け入れない理由…。

それがまさにアルハイゼンのこの言葉足らずが原因であった。

ドリーからの資金援助から、借金まみれになった経緯を経て、すっかり疑り深くなってしまったカーヴェには、その真意を深読みしすぎてしまうことが多く彼自身に、アルハイゼンの言葉は響かないことがほとんとである。

先程のやり取りも、そんなカーヴェ特有の深読みをし過ぎてしまう思考回路によるものであり、案の定、カーヴェは新たな怒りを感じて立ち去ってしまった。そんな調子だから、アルハイゼン自身も気持ちが伝わらずに辟易していた。

しかし…

(今回は君も悪いぞ、カーヴェ)

アルハイゼン自身も少なからず怒りを抱いていたことも事実だ。いつもは何かしらのことで、カーヴェと衝突することが多いのだが、今回ばかりは、アルハイゼン自身も腑に落ちないことがあったからだ。

それは、ことの発端たるカーヴェの翡翠の羽根飾りのことである。

必死に探す割に、結局はカーヴェの左肩に付いていた、という鈍感さと爪の甘さ。

大事にしている、という割には普段はスカーフの合間に身につけているという無防備さ。

何より、アルハイゼンの褒め言葉(しつこいようだが、彼にとっては、である)を受け入れない態度…。

(これでは、君に贈った意味がない…)

そう。

件の翡翠の羽根飾りは、実は、アルハイゼンがこっそりと贈ったものであった。

それは、オルモス港の市場にて、偶然見つけたものだった。普段であれば気にもとめないのだが、アルハイゼン自身の色にも似た翡翠の色を見て、これを身に纏うカーヴェの姿を見てみたくなったのだ。

それに、勧めてくれた店員から聞いた羽根の色に纏わる意味に関しても興味を惹かれた。それは、少しでもカーヴェの助けになれば…と思ったアルハイゼンなりの気遣いだった。しかし…

(まぁ、それを俺から言うつもりは、一切ないがな…)
スッ
ペラ…

話したところで、また深読みされて怒るに違いない。それに、わざわざ分からないようにしたのだから、尚更だ。しかし、また無くす気配を感じ取ったので、今回からは、カーヴェも無くさないようになって欲しい、という期待を込めて髪に挿したので大丈夫だろう。

そう思ったアルハイゼンは、椅子に座り直してテーブルに置かれた読みかけの本を手に取って再び読み始めるのだった。

翡翠の羽根飾りの位置を直す内に、怒りを沈めたカーヴェが洗面台から戻ってくるのを待ちながら…。

その後、案の定、さっきは言い過ぎた、と戻ってきて少しだけ落ち込んだ様子で言うカーヴェの姿が見られるのだが、それはほんの少し先の話である。

-END-

後書き

アルハイゼンとカーヴェの関係性や、羽根飾りの色の意味を知ってから、大変美味しく感じまして、このお話を書いていました…!!
(普段は、原神の別CPを書いている身で、すいません…!!)

私が調べたサイト様によりますと、緑色の羽根には

・緑の羽根は、豊かさ、成長、豊穣、そして植物、自然、癒しを意味し、バランス、調和、静けさ、愛、育成の色でもある
豊かさや金運、豊穣なチャンス、そして生き生きとした幸福、健康、愛をあなたに伝えている

・自分や周囲に対する無条件の愛、感情の浄化と癒しのサインであり、あなたに自分自身を大切にして欲しいと伝えている

・あなたが健康や癒しについて悩んでいたり、肉体的な苦しみや痛みを感じているなら、あなたのそばに、あなたの知っている人がいて、見守っているというメッセージ

と意味があるようです…!!

え、何それ、エッッッモ…………!!!となりました…!!!

それを贈るアルハイゼンだけど、知られたくないから黙っているし、カーヴェも大事にしているけど、うっかり無くしていることに、アルハイゼンも珍しく怒る話を書きたい、となったので書いてみました!

ちなみに、この2人の解釈としましては
※長いので読まなくても大丈夫です。

アルハイゼン→実は密かに憧れていた先輩のカーヴェ。困っていたと聞いて、居候の案を持ち出したけど、現状(借金まみれ、めっちゃ酒飲むなど)や実際のカーヴェの性格に、落胆とショックを受けた。だけど、憧れの感情はまだあるので、それの裏返し故にキツい言い方や態度になる。

本心では出て行って欲しいわけじゃない。
むしろ借金やルームシェア関連の話題を出して、途端にめっちゃ弱々しい態度になるカーヴェの反応を無意識に堪能している…気がする。

褒め言葉が分かりにくい上に、言葉が足りないので、誤解しか生まないので、カーヴェは怒るし、何故怒っているのか、アルハイゼンには分からない、という連鎖が起こる。

カーヴェ→名前だけは知っていた後輩であるアルハイゼンのことは、やはりあまり深くは知らない。
建築に関わって借金まみれになって落ち込んでいた時に、居候の案を出してくれて改めてアルハイゼンのことを知った。居候のことは感謝してるけど、性格が気に食わないし何かと言ってくるので、やはり好きになれない。だけど、なんだかんだ気にかけてくれるアルハイゼンには絆され気味である。←

深読みするようになったせいで、アルハイゼンの褒め言葉(伝わっていない)に皮肉しか感じないし馬鹿にされているような気がするので、伝わらない。

となります…!!

いや、最高かよ、ホントに…!!←

と、(しつこいようですが)普段とは別CPで失礼しました!!

ここまで読んでいただきありがとうございます!!!

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