ひやして…、はい、どうぞ

暑さにぐったりする重雲を心配する七七と空くんの話です。

原神キャラの中で、1番夏の暑さに弱いキャラといえば、ダントツで重雲でしょう…!となって思いついたお話です。

どちらかと言えば、重雲メインのお話ですが、分類としては七七小説として扱わせて頂きます。

・諸々の設定に自己解釈多々あり
・不卜盧の勤務体制捏造気味
・重雲の過去の思い出など完全捏造
・熱中症に詳しくない者が書いた熱中症対策もどき小説です←
・聖遺物の杯の新たな使い方披露気味(多分怒られそうなやつ…←)

参考資料

・重雲 デートイベント

※初出 2022年7月7日 pixiv


不卜盧。

玉京台の正反対の場所に位置するそこは璃月でも有名な薬舗である。長い階段を登り切ると、そこにはまるでサザエの貝殻のような独特な屋根の造形をした建物が鎮座する。入口はまるで来るもの拒まず、と言っているかのように簾が上げられて開放的になっている店内が処方箋を片手に持つ患者を出迎える。中から漂う薬草の香りが鼻腔をくすぐり棚には所狭しと整理の行き届いた薬草達が並べられている。優れた医学者、白朮が店主を務めるここはよく効くことで有名である。また良薬口に苦しの言葉に違わずよく効いても苦い薬にぐずる子供も多いとか。

そんな不卜盧は、薬を渡す場所、というだけではなく診療所のような役割も兼ね備えている。その為、従業員は、もし体調不良を訴える患者がいれば、すぐさま白朮に診てもらう為に、不卜盧へ連れて行く場合がある。

それは、不卜盧の名物でもある薬採りとして働くキョンシーの少女も例外では無いのだ…。

不卜盧の奥の間にて。

「すまない…。迷惑をかけてしまったな…。」

「気にしないで、重雲。急に暑くなったから仕方ないよ…。」

ぐったりした様子で横たわるのは、ところどころツンツンと跳ねた氷雪に似た髪色に方士たる服装に身を包んだ少年、重雲である。

その様子を見て心配そうに声をかけるのは、三つ編みにした長い金髪に黒を基調とした旅人装束を纏う少年、空である。

重雲が横たわる傍で、以前、講談師の田饒舌から貰った扇子で重雲に風を送っている。ほどよい風が心地いいのか、時折目を細めて安堵している。だが、普段よりもその顔色は青白くて心配になってしまう。

「七七が慌てた様子で来たから何事かと思ったよ。」

「それは…、申し訳ないことをした…。」

空の言葉に、普段よりもゆっくりとした喋りで、囁くような声色で重雲は答えた。

何故2人がここにいるのか。

それは慌てた様子で空に駆け寄ってきた七七から始まった。

聞けば、玉京台で霓裳花や琉璃百合を採集していた七七が、琉璃百合が二輪咲く岩場の草が生い茂る日陰にて、ぐったりとした様子で座り込む重雲を見つけたらしい。

駆け寄って声をかけるが反応が薄い重雲の様子に困り果てた七七は、ピンばあやに聞きたいことがあって玉京台へと来た空を偶然見つけた。

すぐに空に声をかけたい気持ちと重雲を放っておくわけには…、という気持ちで2人がいる場所を何度も見た七七は、持っていた薬草が入った籠を置いて、慌てて空の元へと駆けて行ったのだ。

そうして、事情を聞いて駆け寄った空が、重雲を抱えながら、何とか不卜盧まで歩いてきた。

そして、白朮から熱中症ですね、と診断された後、これで水分補給をしてからしばらく横になっていてください、と食塩水を渡された。それから、ほんの少し意識が回復した重雲に少しずつ飲ませて、現在に至るのだ。

「そういえば、アイスはどうしたんだ?」

尚もぐったりとした様子の重雲に、扇で仰ぎながら空は疑問を投げかけた。"純陽の体"という特異体質ゆえに、いつもアイスを持ち歩いて時折食べている(だから、空の中ではアイスといえば重雲、という連想ができるくらいになっている)。

それがあれば多少は違うのだが、苦しそうに唸る重雲の様子から見るに、アイスを摂取していないことが見て取れる。

「実は……、切らしてしまっていて、それを調達しようと、している途中で、眩暈がしたんだ…。」

「なるほど…。」

重雲がゆっくりとした口調で話す言葉のひとつひとつを聞いて納得した。この季節になってくると、普通の人ですら暑さにぐったりとしてしまうのだ。とりわけその体質故に、重雲は特に気をつけなければいけない季節だろう。その暑さにやられた上に、アイスを食べていないのであれば、この状況に納得がいく。

(何かいいものは…)

まずは、水分補給を、と考えた空は、重雲の様子を見て、ただアイスを作って渡すだけでは…、と考えた。以前、一緒にアイスを作ったことがあるので、作るだけなら出来るだろう。

だが、今の重雲に固形物であるアイスを食べるのは恐らく難しい。どうしたものか…、と悩む空は、ふと稲妻の甘金島の屋台で売られていたあるものを思い出した。

(そうだ! あれなら…)

スクッ
「重雲。ちょっと待ってて貰ってもいい?」

「え、あ、ああ。構わないが、どうしたんだ??」

「水分補給しなきゃだろ? 今から作って持ってくるから、待ってて。」

「あぁ、心得た。」

「何かあったらすぐ呼ぶんだぞ。」
タッ

この状況にぴったりなある物を思い付いた空は、重雲に声をかけて、大丈夫そうであることを確認してからその場を去った。

「………ふぅ。」

空が去った後、少々困惑しながらも、戻るのを待つことにした重雲はため息を吐いた。未だに意識がぼんやりしていて、身体も重い。それに、いくら塩分補給が必要とはいえ食塩水を少しずつ流し込んだ口内と喉は、酷く乾いていて潤いを欲していた。

ありがたいことに、空が水分補給になりそうなものを持ってきてくれるらしい。それはとてもありがたいことである。だが…

(情け、ないな……)

それ以上に申し訳ない気持ちの方が勝ってしまう。これからの季節はいつも以上に気を付けなければならないことは、重雲も承知のはずだった。だから、毎年身構えているのだ。

だが、そう簡単にいかないのが、この"純陽の体"である。内からの感情の起伏を抑えるのは容易ではあるが、自然の暑さにはどうしても敵わない。その結果、いくら対策をしようと、体調が崩れてしまいがちなのだ。

だからこそ、それに打ち勝つ為に、より一層修行に励んでいた。だが、うっかりアイスのストック作りを疎かにしてしまい、それに気付いたのは、まだある、と思っていたアイスが無くなっていることを確認してからだった。

そして、アイスの材料を調達している途中、ふらりと視界が揺れて、岩場の草が生い茂る日陰で休んでいたのだ。そこへ通りがかった七七が、薬草が入った籠を置いてから空を呼んでくれた。もしも、七七が通りがからなければ、今頃、危険な状態だったかもしれない。

(…七七にも、申し、訳、ない…な)
ウト…ウト…

ぼやける視界の中で見えた七七の慌てる姿。それに、置かれた籠に入った薬草の香り…。

それを脳裏に思い浮かべた重雲は、意識がぼんやりしていることと横たわっているのも相まって次第に眠りへと誘われていった。

ひやぁ…

パチ…
(涼しいな…)

いつの間にか眠っていたらしい重雲は、見ていた夢の内容と心地よい冷気に目を覚ました。

それは、重雲がまだ幼い頃の夢であった。幼馴染である行秋が、重雲がよく着るフードを後ろから悪戯で被せては反応を見て楽しんでいるのだ。重雲が反論すれば、ごめんごめん、と笑いながら謝る。

その後は、決まってこれで機嫌を直してよ、と差し出してくれた冷たいアイスを共に食べるのだ。アイスに罪はない、だから、今回だけだ、という気持ちになって結局は許してしまうのだ。

(今にして思えば、行秋にいいように扱われていたような…)

しかし、今もそんなに変わらない気がする。懐かしさを感じると同時にそんなことを思いながら、暑さで茹だったように感じる頭と火照った身体、それらを包み込むように冷やされていく感覚に心地よさを感じて顔が緩んでいく感覚になる。

ムクリ…
(どれくらい経ったのだろうか…)
キョロ…

身体を少し動かせるまでに回復した重雲は、上半身を持ち上げて時間を確認しようと辺りを見渡そうとする。

だが…

じぃぃ……

すぐそばで、薄紫色の髪を小さめの三つ編みに束ねているのが特徴的なキョンシーの少女、七七がこちらを見つめているのが視界に映ったので、時間の確認は叶わなかった。

ビクッ!
「うわっ、七七?!」

びっくぅ!!
「…あぅ、びっくりした。」

突然現れた七七に、驚きに声を上げる重雲だが、それ以上に驚いたらしい七七は、薄紫色の丸い目張りに彩られた大きな牡丹色の瞳をまん丸に見開いて、小さな身体を大きく揺らした。あまりの揺れっぷりに、その勢いで前髪についたお札としっぽのような三つ編みが舞い上がる程だった。

「す、すまない。驚かせてしまったか?」

ふるふる
「大丈夫…。」

「それなら、良かった…。」
ホッ

七七の驚いたような声(とは言っても、淡々とした声なので少し分かりづらい)に、重雲は慌てて言葉をかけた。小さな子の扱いに慣れていない重雲はそれだけでも大慌てである。

首を横に振って、驚いてない、と示した七七に安堵のため息を吐いた。以前にも思ったことであるが、この時ばかりは小さな子の扱いに慣れた空が、ほんの少しばかり羨ましくなる。

(旅人は凄いな……)

ふわっ

「? これは…。」
そっ…

改めて、空の小さな子への扱いの上手さに思案していると、周囲を何かふわふわとしたものが漂っていることに気付いた。空中に手を添えるように動かして、確認してみれば、七七が出す寒病鬼差と呼ばれるものであった。

「平気?」

「あぁ、ありがとう。涼しくて生き返るようだよ。」

「良かった………。」

冷気の正体はこれか…、と思っていると、七七が声をかけた。どうやら横たわる重雲の周囲を冷やす為に、寒病鬼差を出してくれたらしい。それに対してお礼を言えば、七七は胸を撫で下ろしてほんの僅かに口元に笑みを描いた。心なしか、七七のすぐそばまで来た寒病鬼差の表情も笑みを深めているように見える。

「お待たせ〜。」

そうやり取りをしているうちに、空が戻ってきた。その両手には何かを持っていた。

「あ、起き上がって大丈夫か?」

「あぁ。七七のおかげで、少しは動かせるようになった。」

「そうだったんだ…。ありがとう、七七。」

「………。」
コクン

起き上がった重雲から事情を聞いて、空は七七にお礼を言ったので、それに対して返事をする代わりに頷いた。

「じゃあ、今度は水分補給だな。というわけで、どうぞ。」
スッ

空から渡されたのは、細かくなった氷が入ったカップであった。スプーンが刺さった氷の山の上には水色の液体がかかっていて、透明な山に彩りを添えていた。

「これは、何だ?」

「アイスのまたちょっと違うやつ、かき氷だよ。」

「かき氷?」

「稲妻で夏に食べる定番の氷菓らしいよ。」

重雲が疑問符を浮かべていると、空は答えた。聞き慣れない言葉に首を傾げていると、どうやら稲妻で食べられている氷菓の一種らしい。説明しながら、重雲はミントベリー味で、はい、七七にはココナッツミルク味だよ、とそれぞれの味を言いながら渡している。

重雲とは別のココナッツミルク味というように、同じくスプーンが刺さった透明な山には、ミルクのような液体がかかっている。どうやら、両手にあったのは、重雲と七七に渡す為だったようだ。

ちらっ

ちらっ

「…いいの?」

「うん。七七のおかげで重雲も大事に至らなかったし。」
チラッ…

「そ、そうだ! それに、僕だけ食べるのも何だか申し訳ないからな!」

渡されたかき氷にきらきらと目を輝かせる七七であるが、空とかき氷を交互に見て戸惑うように尋ねた。どうやら重雲の為に用意したものとは別に七七の分まで用意してくれたので、食べていいのか迷っているらしい。しかし、未知の氷菓に興味津々な様子は隠しきれていない。

そんな七七の気持ちを汲んで、空は、重雲に目配せをしながら答えた。同時に、空気を読んだ重雲は慌てて話を合わせた。

チラッ
(これでいいだろうか?)

(ばっちりだ)
グッ

返答はこれでいいか、と今度は重雲が目配せすれば、空は口角を上げながらグッドポーズをして答えた。それに重雲も安堵する。

「…ありがとう。」

「どういたしまして。」

「では、早速…。」
スッ

七七がお礼を言えば、空も笑顔で答えた。それが終わるのを無意識に待ってから、重雲はスプーンを手に取って氷の粒をほんの少し掬った。

そして…

パクッ…

シャクッ
ひんやり……

「!」
(これは…)

口に入れた瞬間に広がる冷たさ。
同時に爽やさが鼻に抜けて、ほんのり果実のような甘さが舌に広がっていく。

それは、食塩水によって乾いていた口内や喉によく効いた。

かき氷を含んだ口の中から、火照った身体を優しく包み込むように冷やしていく。

「…お、美味しい!」
パァァァッ

アイスとはまた違ったその冷たさと美味しさに、重雲は目を輝かせた。

「それは良かった。」

シャクッ
シャクッ
「美味しいな、これ……、って、これ!!」

「うん? どうした??」

先程よりも顔色が良くなってきた重雲の様子に、見守っていた空は安堵の声を出した。夢中で食べる重雲だが、途中でカップをじっくり見て驚きの声を上げた。

「よく見たら、これ…

聖遺物の杯じゃないか?!」

先程は気付かなかったが、よく見てみれば、それは氷風を彷徨う勇士シリーズの杯、霜を纏った気骨であった。見た目が凍ったカップのようなそれは、パッと見では涼しげなものである。しかし、そう認識してからかき氷の器として扱われているのは些かシュールに見えた。

「うん。そうだよ?」
サラッ

重雲の慌てように反比例するように、空はサラリと告げた。先程、驚きの声を上げた重雲にも何食わぬ顔で答えていた様子といい、あまり気にしていない様子だった。

「こんな使い方して大丈夫なのか?!」

「大丈夫だよ。

これ氷元素ダメージ特化のやつだからいつまでも冷えてるし。」
サラッ

「そういう問題なのか?!」

またしてもサラリと、同時にどこかズレた解答をする空に、問いかける重雲は混乱しかけた。だが、杯だから使い方は間違っていないはず…と思いかけて、いや、やはりダメだろう、と考え直した。

確かに、今なら七七が出した寒病鬼差が周囲を漂っているので、この奥の間は冷気、つまりは氷元素が漂っている状態である。それに反応して、氷元素ダメージ特化である霜を纏った気骨に入ったかき氷は、口にしない限りはいつまでも溶けないままだろう。

しかし、聖遺物をそんなことに使っていいのか、と重雲は問い詰めた。

「大丈夫大丈夫。甘雨からぶん取…、こほん。借りたやつだから。」

「今、ぶん取る、って言いかけなかったか??!!」

スッ
「…気のせいだよ。」

「こっちを見て言え!!」
ガシッ
ユサユサ

「ちょ、揺らさないでよ、重雲〜。」

空の言葉に何か不穏な単語が混ざっていたことに、さらに問い詰める(何となくだが、柔和な笑顔を浮かべてこちらに手を振る甘雨が脳裏をよぎった)。だが、それから逃れるように、空は目を逸らしながら答えたので、ちゃんと答えるように重雲カップを置いてから、両肩を掴んで揺らした。しかし、尚も空は全く気にしていない様子だった。

つんつん
「? どうしたの、七七??」

ピタッ

そんなやりとりをしている中で、空のマフラーが合わさった独特な形状のマントの裾を七七が引っ張った。その行動について尋ねた空と、タイミングを見計らって重雲は肩を揺らすのをやめた。

「美味しい…。ありがとう…。」

「うん。どういたしまして。」

同じく霜を纏った気骨に入ったかき氷を食べたらしい七七は、よほど美味しかったのかきらきらと目を輝かせながらお礼を言った。それに、ますます笑顔を浮かべた空はそれに答えた。

そして…

くるっ
「美味しいね…。」

「あぁ、とても美味しいな。」
(まぁ、いいか…)

重雲の方へと振り返った七七は、かき氷の美味しさを共有できる喜びの言葉をかけた。その様子に、まぁ、聖遺物のことはいいか、と考えた重雲は返答をした。それに、ほんの微かに七七は顔を綻ばせた。

(この温かさは、心地いい…)

そんな七七の表情、それに見守る空を見ていると、重雲は次第に胸の辺りが温かくて、同時に心地よさを感じるのだった。今、抱いているこの気持ちに、不思議と"純陽の体"は過剰反応を起こさないでいる。

何故、"純陽の身体"は、今の重雲の気持ちに対しては反応していないのか。

それは、寒病鬼差が周囲を冷やしてくれているおかげか。
はたまた、かき氷のおかげか。

それとも、その両方を行なってくれた七七と空の心遣いによる温かさ、それが、冷たさを相殺してくれているおかげか。

どちらにせよ悪い気はしない、とかき氷をつまむ重雲であった。

その後、重雲の体調が万全になるまで3人で過ごした。途中、かき氷にかかったミントベリー味のシロップとココナッツミルク味のシロップが無くなって、落ち込む重雲と七七だったが、空が追加してくれた。

追加した後に、再び味わった2人は笑顔になった。

そんな笑顔のまま仲良く食べている様子が、まるで実の兄妹のようで、微笑ましい気持ちになって見守る空であった。

-END-


後書き

聖遺物の杯…。

特に氷風を彷徨う勇士シリーズの霜を纏った気骨って、もしかしたらかき氷の容器にできるのでは…?

その考えから思い付いたお話でした〜。

また、そこ辺りのくだりのボケ、ツッコミのやり取りが書いていて1番楽しかったです!!←

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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