微笑む海色、月白に包まれゆく
不思議な出来事に遭遇する空くんのお話です。
割と短めです。
※魔神任務"深海に煌めく星たちへ"及び"胎動を論す終焉の刻"の内容を含みますので、クリア後閲覧推奨です。
クリア前に読んでしまっても苦情は受け付けないのでご了承下さい。
・前半が割とあっさりめ(当社比)な文構成です
・ふたつの意味でSF気味です
(少し不思議、少し不穏)
・タルタリヤは仄めかす程度の登場、という名の登場未満気味です
参考資料
・魔神任務
"深海に煌めく星たちへ"
"胎動を論す終焉の刻"
タルタリヤの記憶の追体験シーン及びムービー
・フィヨルドの歌 ストーリー
エピクレシス歌劇場
その近くの釣り場にて。
キョロ…
(夜だから、あまり人がいないな…)
辺りを見回しているのは、長い金髪を三つ編みにした旅人の少年、空である。頭を振るたびに、三つ編みが猫のしっぽのように揺れている。
「あれ? 君、どうしたの?」
(え…?)
クルッ
そんな様子の空に、誰かが声を掛けてきた。
まさか、こんな夜も更けた時間帯に声をかけられるとは想定していなかった空は、声がした方へと振り返る。
そこには、メッシュの入った柔らかな茶髪の少年が立っていた。
どこか不思議な雰囲気を醸し出すその少年は、釣り場に向かって竿を下ろしている。どうやら、獲物がかかるのを待っているようだった。
見たところ、年齢は空と同じくらいか、少し上くらいだろうか。
顔をよく見ようとするのだが、何故だか目元に深い影ができてしまっていて、詳しく確認することは出来なかった。
釣竿を軽々と持つ手つきに、何故だか妙に見覚えがある。それを踏まえて心当たりがある名前を呼ぼうとするのだが、それが、まるで、もやがかかってしまったようにぼやけてしまっていて、思い出せないでいた。
「君も釣りに来たの?」
「いや、俺はそんな…。」
「そうなの? 銛を持ってるから、やる気満々だな〜と思ったよ。」
「えっ?」
パッ
少年の言葉を視線を送れば、右手にはいつの間にかフィヨルドの歌が握られていた。
(いつの間に…)
ようやく手に入れたそれは、武器ではあるものの少年が言うように銛の形をしているので、確かに、魚をより原始的な方法で捕まえるとすれば、非常に適しているのだろう。
「俺はね、ずっと探している獲物がいるんだ。」
「ずっと?」
「うん、ずっと。」
いつの間にか持っていたフィヨルドの歌に対して、空が不思議に思っているうちに、またしても少年は話し始める。その話に耳を傾けながらする会話は、不思議と心地よい気持ちになった。
「それに…、
何かが、俺を呼んでいる気がするんだ。」
「!!」
スッ…
(今のセリフ、どこかで聞き覚えが…)
少年の言葉に、ひどく既視感を覚えた空は、詳しく思い出そうとするために、いつの間にか、フィヨルドの歌が消えて、何も持っていない右手で頭を抑えた。
その仕草は、まるで、頭の中にある記憶を引っ張り出そうとしているみたいだった。
だが、やはり思い出せない…。
カランッ
「だから、行かないと…。」
「えっ?」
パッ
乾いた音と少年のどこか沈んだ声に、頭を抑えていた右手を離した空は、声を上げる。
見れば、まるで夢遊病患者のように、どこか虚ろに見える様子の少年が、ふらふらと海に向かって歩いている。
傍らに落ちている釣竿を見るに、先ほど発していた乾いた音は、どうやら少年が釣竿を手放したようであることが分かった。
そんなどこか危うい様子の少年を見た空は、何故だかひどく危機感を覚えて、慌てて駆け寄ろうとする。
だが、意思とは反対に、走る為に動かしているはずの足元は重い。まるで、見えない泥が、走る度に足全体に纏わりついてくるようであった。
(なんで…、動かないんだ………!!!)
「待て…、待ってくれよ!
アヤックス!!!」
そんな普段より重い足取りにやるせなさともどかしさを感じた空は、行き場のない不満の捌け口を発散させるように、力いっぱいに叫んだ。
ハッ
(今、俺、アヤックスって………)
スッ…
無意識に漏らした名前に、自分の発した言葉とはいえ目を丸くした空は、少年を見るために顔を上げた。
そこには…
こちらへ振り向いて、驚きに目を丸くした少年の姿があった。
そして、不思議なことに徐々に背が伸びていく少年は、ゆっくりと微笑みながら、言葉を紡いだ。
あぁ。もしかして、ずっと探していたのは、君のことだったのかな?
空。
その声は、先程、もやがかかっていたような時よりも鮮明に空の鼓膜を揺らすのだった。
バチッ
ガバッ
その瞬間、急激に意識を覚醒させた空は、飛び起きた。
キョロ…
(ここは………)
目が覚めて改めて周囲を確認した空は、そこはエピクレシス歌劇場の控え室であることが分かった。どうやら長ソファに横たわって寝ていたようである。
(あれは、夢だったのか…)
ようやく事態を把握した空は、今までに見ていた光景が、自身の見ていた夢なのだと気付いた。
メロピデ要塞にて、タルタリヤが失踪した。
この件に関して、調査をして来てほしい。
それらをヌヴィレットから聞いた時には、正直に言ってしまうと頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
どういうことだ…?
待機してもらっていたんじゃないのか…??
聞きたい疑問が山ほどあったが、それを何とかこらえながら、詳しい説明を聞いた。そして、タルタリヤの行方を追う為に、メロピデ要塞へと向かう決意を固めたのだ。
手がかりに繋がるのなら…、とメロピデ要塞で囁かれる噂を片っ端から試していった。同行してくれたパイモンは、根を上げたり不安そうにしながらも、ちゃんと空に付き合ってくれたことには、とても感謝している。
だが、あまり有力な情報が得られず落胆していた。
そんな時に、タルタリヤから預かっていた水元素の神の目が、まるで、離れた持ち主がどうなっているかを空に知らせるかのように、タルタリヤの記憶が、寝ている間の夢として、空に追体験をさせたことで行方を知ることができたのだ。
しかし、それは同時に、タルタリヤの渇望している気持ちも垣間見ることになった。
誰かが、俺を呼んでいる…。
行かなくちゃ。
以前、彼が話していた深淵にて遭遇したらしき巨大な鯨…。
恐らくそれが彼の行動原理であることは、話を聞いていた時から分かっていた。
その後、メロピデ要塞での騒動、そして、それを鎮める為に向かったヌヴィレットとすれ違った際に頼まれたフリーナと執行官であるアルレッキーノとの会談に参加した。
その後に、ヌヴィレットから衝撃の正体を聞いたり、話を聞く約束をして再び戻ったメロピデ要塞にて、休むことにした。
その後、再び見た夢で、例の巨大な鯨の姿を見れるとは思いもしなかった。
巨大な鯨…。
どこか虚ろな表情のタルタリヤ…。
場所の情報が曖昧な夢を見たその後、結局、彼の行方は分からずじまい足取りは掴めないままであった。
だが、その他にもヌヴィレットには色々聞きたいことがあったので、こうしてエピクレシス歌劇場の控え室で待っていたのだ。
待ちきれなかったのか、パイモンは様子を見てくると言って飛び出していってしまい、それを待っている間に寝てしまったみたいだ。
そして、先程の不思議な夢を見た後に目覚めて、現在に至るのである。
スッ
(タルタリヤ、どこにいるんだよ…)
先程の見ていた夢が、これからの未来に起こるような暗示である気がしてならない。
頭を抱え込んだ空は、不安になる気持ちでいっぱいだが、不穏な考えを振り払うように頭を振って、素早く切り替える。
いないのなら、見つけに行くまで。
見つかるまで、探し続ける。
だって…
もう、見失う場面を見ているだけしかなかった辛さを味わいたくないから。
スッ…
(待っていろよな…)
「見つけたら、迷惑かけた分まで"お返し"するからな。」
グッ…
頭を抱えていた手を離した空は、今度は握り拳を作って決意を新たにするのだった。
今度こそ、タルタリヤを見つける為に。
その後、戻ってきたパイモンに合流した。どうやらヌヴィレットは、しばらくは忙しいらしく話を聞くのは先になりそうだ、と表情はあまり変わらなかったが、声の調子からして申し訳なさそうに話してくれたらしい。
それを聞いた空は、パイモンにお礼を言って、話を聞くのはまだしばらく先でもいいか、と判断して、パイモンと一緒にエピクレシス歌劇場の控え室を後にするのだった。
-END-
後書き
タルタリヤ、どこに行ったんだよぉ…!!!
(大本音)
今度こそ会えることを期待しながら魔神任務を進めた後、めちゃくちゃ気になる部分で終わってしまった気持ちを込めて今回のお話を書きました…。
手がかりに繋がるのなら、とメロピデ要塞で囁かれる噂を試す空くんの様子や、預かった水元素の神の目を通して、空くんがタルタリヤの追体験をするのがめちゃくちゃエモくて…!!
表には出さないけど、めちゃくちゃ心配している様子が見て取れて、不安な気持ちと嬉しい気持ちのジェットコースター気味でした(単なる情緒不安定)
また、新紀行武器、フィヨルドの歌のストーリーが、タルタリヤの本名であるアヤックスの元になったお話であり、それを入手したので、もしかしたら、タルタリヤの神の目を預かっていることも合わせて、フィヨルドの歌を入手した影響で、空くん、夢を見るかも?となって思い付いたお話でもありました。
あまりにも魔神任務のタルタリヤのピンチっぷりに、長いムービーの後に、ようやく再会できた夢を見てしまいましたよ…!!
(願望が夢に出すぎ)
ちなみにその夢では、空くんは感涙していて、めちゃくちゃ眼福でした(真顔)
次なる魔神任務が気になりつつも、とりあえず今回の魔神任務での色々言いたかったことを書き殴った今回のお話を読んで頂きありがとうございます!