【タル空】心緒、織り成す

あるものを作った空くんのお話です。
短めです。

めちゃくちゃ久々に小説を書いた気がします…!!
ですので、少し変な部分もあるかもしれませんが、ご了承ください………

・弊ワットの空くんは、裁縫の修繕も得意な設定です。

参考資料

・黄金屋でタルタリヤが繰り出す呑天の鯨の攻撃
・空鯨の章
・公式イラスト タルタリヤ ホワイトデー2021
・公式グッズ 呑天の鯨マスコットチャーム及び卓上加湿器






塵歌壺の邸宅内。

そのリビングにて。

フゥ…
「………どうしようかな…。」

盛大にため息を吐いて何やら思い悩んだ面持ちをしているのは、長い金髪を三つ編みにした旅人の少年、空である。

その手には、鯨に似た生き物を模した小さなぬいぐるみが乗せられていた。

青から水色に変わるグラデーションを帯びた体の色が、まるで日光を浴びている水面のような揺らぎ模様となっている。さらに言うと、ぬいぐるみの向かって右側には、小さな仮面のような飾りが付いていた。

それは、いつぞやの黄金屋の闘いにてタルタリヤが繰り出した呑天の鯨の攻撃に出てきた大きな鯨にも似ていた。

旅人たる空は、旅の最中、ほつれた衣類の端やその他布地などを修繕することが多い。塵歌壺を入手してからは、野宿をする機会が少なくなった分、必然的にその頻度も減っていった。

布を使った調度品を作ることはあったが、マルに任せっきりであったし、大量に作った際に無くなっていく布を見ていくうちに、ふと、思うようになった。いくら材料である霓裳花があれば作れるとはいえ、もし、仮に手元に何も無い状態になったとする。

その際には、自分でも作れるようになっておいたほうがいいと感じた空は、裁縫をするための針を久しぶりに手に取ったのだ。

それに、最近はますます戦闘も激しくなってきていて、ところどころにほつれが出ていたので、その修繕も兼ねていた。その最中、ほつれた跡から戦闘の激しさを思い出すうちに、自然と旅の思い出も振り返っていた。

数多の旅の中の戦闘でも、空の記憶の中に、鮮明に残る黄金屋の闘い…。

そうしているうちに、空自身が思っていた以上に印象的だったのか、完全なる無意識で、気付いたらその手元には呑天の鯨に似た生き物のぬいぐるみが出来上がっていた、というわけである。

「つい作っちゃったけど………。」
スッ

可愛らしくデフォルメされた呑天の鯨のぬいぐるみをマジマジと見つめてからテーブルへと置いた空は、思いの外作り込んでしまったことについて、その出来上がりに感心する以上に、戸惑っていた。

何故ならば、想像以上に良く出来たそれは、それだけ空が黄金屋での闘いを鮮明に思い出していた証拠でもあるからだ。そうでなければ、ここまでの出来上がりにはならないだろう(と、空は謙遜した上で判断しているが、実際は販売されていてもおかしくないレベルである)。

そして、必然的に、ある人物が脳内に浮かび上がる。

その人物は…

「何を作ったの?」

「何って、それは……。」

(ん?? この声は……)
バッ

聞こえてきた声に思わず返事をしそうになる空であるが、現在、リビングには空以外に、誰もいないはずだ。何よりも聞き覚えのあるその声に、確認する為に勢いよく振り返った。

そこには…

「やぁ。久しぶりだね、空。」
ヒラヒラ

メッシュの入った柔らかな茶髪に存在感ある仮面を着けた青年、タルタリヤが居た。

にこやかな笑みを浮かべて、空に挨拶するように上げた右手を振っているのであった。

「って、タルタリヤ!?」
ガタタッ

相変わらずの突然の登場(恐らくいつまで経っても慣れることはないだろう)に加えて、今まさに思い浮かべていた人物が居たことに驚いた空は、勢いよく立ち上がった。それは、椅子が倒れるか倒れないかのギリギリの勢いであり、それだけ空が驚いていることが分かった。

スッ
「あははは。元気そうで何よりだよ。」

右手を下ろしながら、快活そうに笑うタルタリヤは、動揺しまくる空の様子には、さほど気にしていない様子であった。

「ん? これは…。」
ヒョイッ

「……って、あっ、ちょっ!!」

そんな中、ふとテーブルを見たタルタリヤは、視界に鯨に似た生き物のぬいぐるみ、という見覚えのないものが映り込んだので右手を伸ばして持ち上げた。空が静止の声を掛けるもののそれよりも早くタルタリヤが手に取っていたので、タイミングが入れ違うだけになってしまった。

「よく出来てるね…。ウルから買ったのかな??」

手に取ったそれをマジマジと見つめるタルタリヤは、その出来上がりを見て、どうやら空がウルが仕入れた品物を買った(空の次に塵歌壺に出入りするタルタリヤは当然ながらそれも把握していた)と思ったらしい。

「……作った。」

「え??」

「だから、俺が作ったんだよ!!」

意を決して、空が言えば、告げられたその言葉に、タルタリヤはパチクリと深い青の瞳を瞬かせる。そして、見開いた状態でしばし静止してから言葉を紡いだ。

「………これ、空が作ったの??」

「そ、そうだけど…。なんか文句あるかよ…。」

余程意外に思ったのか、タルタリヤは慎重そうに空に尋ねた。それに肯定するしかない空は口ごもりながらも、何とか抵抗するようにぶっきらぼうに答えた。

すると…

「すっごく上手だね!!」
キラキラキラキラ

目を輝かせたタルタリヤは、ますます笑みを浮かべながら興奮気味にそう告げた。

深い青の瞳があまりにも輝いて見えるので、ぬいぐるみの模様でもある日光を浴びている水面のような揺らぎ模様が、丸ごと移ってしまったように錯覚するほどであった。

パチパチ
「そ、そうかよ…。」

拍子抜けした空は、数回ほど目を瞬かせながら驚きのあまりそっけなく返した。しかし、その声色は驚きを含みながらもどこか嬉しそうな、だけども、やはり困惑しているような、そんな様々な感情が入り乱れているものだった。

「そうだよ! お店に売っているみたいだ…!」
スッ
スッ

「大袈裟なやつだな…。」

(そういえば、テウセルにはおもちゃ販売員って名乗っていたな…)

尚も感心するようにぬいぐるみを見つめるタルタリヤは、改めて様々な角度から見つめてその造りの精巧さに驚嘆していた。その様子を見ているうちに、空は、彼の弟であるテウセルのことやおもちゃ販売員として名乗っていることを思い出した。

その時に、お土産として独眼坊の人形を鍛冶屋に作ってもらったりしていた。もしかしたら、その為に任務の合間に流行りのおもちゃを調べたり、発注する際に作ってくれそうなところを探したりするなど、そうしたことをしているのかもしれない。

その姿勢は、まさに、立派な"おもちゃ販売員"と言えるだろう。

そして、そうやっておもちゃに対して目利き(と言えばいいのだろうか)を養っているうちに、空の作ったぬいぐるみが、とても精巧で洗練されたものだと気付いて感心した………、と推測することにした。

「これ、もらってもいいかな??」

「えっ、別にいいけど…。」

タルタリヤの唐突な疑問に、反射的に空は答えてしまった。別に勢いで作っただけなので、特にどうするかは決めていなかった。それも相まって、タルタリヤに許諾の返答をした。

「良かった〜。」

「そんなにいいのかよ?」

空の許可を得た途端、タルタリヤはとても嬉しそうな様子である。まるで、宝物を見つけた子どものようにはしゃぐタルタリヤに、空は疑問を投げかけた。いくら精巧とはいえ素人の作ったぬいぐるみなんてもらっても、タルタリヤにメリットがあるように思えなかったからだ。

「うん。だって…、

俺とこいつ、何だかお揃いみたいだからね。」
スッ

タルタリヤはそう言いながら、ぬいぐるみの仮面の部分を左人差し指で優しく触れた。

その触れ方は心なしか慈しむようなもので、まるで、ぬいぐるみを大切なものとして愛でているように見えた。

「!!」

(……あっ、しまった!!!)

そんなタルタリヤの言葉と一連の行動を見た空は、我に返った。

何故ならば、タルタリヤが触れたぬいぐるみの仮面は、まさに彼が頭に着けているものと非常に似ているものからだ。

そこから導き出されるのは、製作者…、つまり空が、ぬいぐるみとは別のものとして、仮面を作り出してしまうほどにそれを思い浮かべていた、ということに他ならない。

すなわちそれは、ぬいぐるみを持ってますます嬉しそうな笑みを浮かべるタルタリヤ、その本人を意識して作りました、と言っているようなものであった。

「………〜〜〜っっ!! や、やっぱり返せ!!」
バッ

「え〜? どうして〜??」
サッ

それに気付いた空は、タルタリヤから取り返そうと躍起になってぬいぐるみを持つ手を目がけて手を伸ばす。だが、それに気付いたタルタリヤは、持ち前の俊敏さでもって即座にかわした。

無論、空の思い浮かべていることが全て当たっているとは限らない。だが、タルタリヤが楽しそうな笑みを浮かべながらもぬいぐるみを手放さないように素早い立ち回りをしていることから、当たらずも遠からず、といったところだろう。

「まだまだ下手だから、もっと練習する為に手本にするんだ!!」
クワッ

「あはは! 向上心の塊だね!! でも、俺はこれがいいからもらうね〜。」
タタッ

「あ、待てよ!!」
ダッ

躍起になる空は、内心でまだまだ作りが甘いことを気にしていたので、何とか返してもらおうと本心を言う。

そんな向上心溢れる空の言葉に感心しながらも、返す気はない、と言わんばかりにタルタリヤはますます逃げ続けるように軽やかに駆け出していく。そんなタルタリヤを追って、空は全速力で駆けていった。

その後、しばらく2人の追いかけっこが続いたという。

-END-

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