編集長様、こんな話を考えてみました!

※仙狐の章の内容を若干含みますので、念の為クリアご推奨です

空くんが思いついた話を八重神子に提案する話です。
(もしかしたら、既に八重堂が出していそうなジャンルの話かもしれませんが、今までに無かったジャンル、という解釈でお願いします…(^◇^;)←)

八重神子のセリフを聞いていて、似たようなジャンルに憂いを感じているようなので、分かるよ、その気持ち!じゃあ、こんなお話どう?? という気持ちで書きました!

仙狐の章での共同製作の場面は、プレイしていてめっちゃ頷くくらい共感しましたので、その気持ちも込めて思いついたお話です…!!

趣味の範囲ですが、小説を書く身として、仙狐の章は勿論のこと、八重神子の小説に関するセリフや流行りの小説の傾向を調べる為に聞いた読者の言葉に、分かる分かるぅ!!となりました!!

そんな意味でも、仙狐の章は基本DDD(伝説任務どれも大好きの略)の私にとって、好きな伝説任務上位にランクインしています…!!
(殿堂入りは空鯨の章)

・八重堂の出版事情捏造気味

参考資料
・伝説任務 仙狐の章
・八重神子 キャラセリフ
・世界任務 寝子は猫である
・イベント 謎境一騎 ストーリー

※初出 2022年3月6日 pixiv


鳴神大社の八重神子専用の社にて。

カサリ…
「ふぁぁ…。」

八重神子は持ち込まれた原稿の内容を確認して、欠伸を漏らした。

ある時は宮司として。
またある時は妖術や法力に長けた仙狐として。

そんな様々な一面や肩書きを持っている八重神子は、日々その技能を発揮している。そして現在、八重堂の編集長として面白い物語がないか、持ち込まれる物語を添削中である。しかし…

「皆、似たような題材の物語ばかりじゃ………。」
カサリ

そう呟いた八重神子は、読んでいた原稿を机の上へと置いた。昨今の八重堂の出版事情を憂いているせいか、その表情は浮かないものであった。

異世界転生もの。
突如異能に目覚めるもの。
そして、復讐や下克上もの…。

どのジャンルも、既に稲妻にあるものばかりだ。違いといえば、主人公の置かれた立場や状況など、ほんの少しの違いで、あとは名前を聞くだけで展開も結末も容易に読めてしまうものばかりだ。

(皆、そんなに異世界に行きたいものかのぅ…)
フゥ…

八重神子は重いため息を吐いた。確かに売れ筋のジャンルにあやかろうという気持ちは分かる。その中でも差別化を図るために微妙に違いを出そうとする努力も認める。だが、様々な物語を読みたい八重神子にとってはそれは足枷となってしまうのだ。

それに似たような物語ばかりを量産するだけではいずれ飽きられてしまう。今までになかったものこそブームの火付け役になるのだ。

例えば、そう…。

ついこの間行われた小説公募イベントで共同製作をした時に、元にした旅人である空の体験した話のような…。

そう八重神子が考え込んでいると…

「神子〜!」
カタッ

「なんじゃ、童か。どうしたのじゃ??」

噂をすれば影。

まさにそんな言葉がぴったりなタイミングで現れた空に、八重神子は切り替えて尋ねた。

「実は、話を考えたから読んで欲しくてさ。」
カサッ

ピクッ
「ほぅ? 汝、あれからすっかり小説を書くのにハマッておるな??」

空の渡してくれた紙には文章らしきものがチラリと見えた。それを垣間見た八重神子は、耳をピクリと動かして言葉を紡いだ。

「そ、そうかな?? 一度やってみたら、物語を考えるのが、楽しくなってきてさ。」

へへっ、と笑う空の表情は楽しげだ。それは、創作活動をする者が浮かべる特有の楽しみに溢れた表情であった。

以前、とある事情で小説公募イベントに応募する小説の内容を八重堂の作家達を交えて共同製作をしたことがあったのだ。それ以来、存外物語作りに没頭しているのか、空はこうして話を聞かせてくれるのだ。

そうして聞かせてくれる物語はどれも新鮮なものばかりで、最近の八重神子の楽しみでもあるのだ(無論、本人にそれを言うつもりはないが)。

「ふふ。作者が楽しむのは1番大切なことじゃ。では、拝見させてもらうぞ…。」
スッ

そう言いながら、八重神子は物語を読み始めた…。

それは、とある陰陽師とその飼い猫の話だった。

陰陽師は、日々修行を重ねて努力をする勤勉な人物であった。同時に飼っている猫をとても大事にしている心優しき人物であった。

ある時、ふと思ったのだ。猫と会話できるようになりたい、と。厳しい修行を積む中で、猫と話せるようになれば、癒しになるのではないか、と思いついたのだ。

そこで、術の一環として、猫が言葉を話せるように術を施した。同時に、言葉の意味が理解できるようにもした。

結果として、術は成功して、猫とも話せるようになった。

しかし、陰陽師にとって予期せぬことが起こった。それは…

猫との会話が楽しすぎて修行に身が入らなくなったことだ。

猫と話せることも嬉しいが、修行も何より大事にしていた陰陽師はこのままではいけない、と考えた陰陽師は一旦猫と距離を置くことにした。

遠い地へ修行の旅に出かける、と言って猫を残して去っていった。

"いつ帰れるかは分からない。だけど、必ず戻ってくるから、待っていて欲しい"

そう言い残して、陰陽師は去った。

そして、猫も陰陽師の言葉を信じてずっと待ち続けた…。

「…ここまでか??」

「うん。そうだよ。」

読み進めた八重神子は、不自然に終わっている物語に疑問を漏らした。それに空は肯定の返事をした。

「ふむ、では結末はどうなるのじゃ??」

続きが気になる八重神子が尋ねると、空から衝撃の発言が飛び出した。それは…

「それはね……

結末は、読者に任せるんだ!」

ズガーン…!!
「何……じゃと……??!」

空から告げられた発言に、八重神子は驚愕に目を見開いて、同時に声を漏らした。もし、ここに雷電将軍、もとい影が居たのならきっとこう言うであろう。

"こんなに驚いた神子を見るのは久方ぶりだ"と…。

それ程までに、八重神子は驚いていた。これまで読んできた物語で、途中で未完になるものはあっても、最初から、しかも作者が断言して物語が未完であるものは前代未聞だったからだ。

「何故、そのような仕様にしたのじゃ?」

気持ちを切り替えて、八重神子は空に理由を尋ねた。それに対して、空はこう述べた。

「神子は、物語を読んでいて結末が納得いかなかったり、こうなれば良かったのに…、って想像すること、ない??」

「確かに、あるにはあるが…。」
(ん? ということは…)

「!! まさか、この物語は…?!」
ガバッ

「さすが"編集長"。意図を分かってくれた??」

空の言うことにも一理ある。確かに読んでいて納得がいかない結末には、自分ならこうする、と考えることもあった。しかし、そこまで考えて八重神子はある考えに至って、俯かせていた顔を上げた。その表情に、空はまるでしてやったり、と言わんばかりの表情を浮かべた。

敢えて決まっていない結末を読者に委ねる。
この物語の陰陽師と飼い猫の結末は読者次第なのだ。

ハッピーエンドにするも、悲しい決別にするも読者次第。

読んだ人同士で、熱い議論を交わすもよし。

「それこそが、この物語の醍醐味なんだ。ただ読んで感想を言い合うだけじゃない楽しみも出来たらいいな、って思ってさ。」

「何と…!?」

空から物語の意図を聞いた八重神子は、再び驚愕した。ただ読むだけではない楽しみを考慮したものであったからだ。

それに、この物語は空自身が稲妻で体験したあることを元に作った話でもある。

浅瀬神社の主人である響を待ち続ける寝子。
陰陽寮を作った惟神晴之介。彼が作った式神の一種、式大将。

彼らの出会いから、空はあることを思い浮かんだ。

片方が真実を知らないことも、または片方が真実を知ってしまうのもどちらも悲しいことだ。どちらにせよ全てが終わった後で、いずれ知ってしまうことになるからだ。

それなら、どちらも救うか、はたまたどちらも救われないのかを想像する。

そんな物語もあっていいのではないか?

そう考えた空はこのような話を思い付いたのだ。さらに、それ以外にも空にはある狙いがあった。

「しかし、これに納得がいかない読者も出てくるのではないか??

「うん。それも承知の上だよ。でも、神子。似たような物語ばかりでつまらない、って言ってたよね?」

「うむ。そうじゃな…。」

「だから、こういう物語があれば、読者が未来の作者になるかも、って思ってさ。」

「!!」

空のさらに出た考えに、八重神子は本日何度目かも分からない驚きに目を見開いた。

確かに、似たような物語ばかりに憂いていたのも事実だ。八重神子から見れば、中には一体どのようにして作家になれたのか疑問に思う作家も居る(中には、順吉のような者も居るが)。

しかし、この物語は、未完であるが故に無限の可能性が広がっている。読者に想像させることで、想像力を養い、未来の作家としての可能性も視野に入れる…。そうすれば、八重神子の憂いであるそのような作家も減るかもしれないのだ。

(そこまで考えておったとは…)

ついこの間まで、小説の作り方を知らなかったとは思えないほど、空の考えた物語の視野は広かった。それに感心していると、空は口を開いた。

「でも、どうするかは神子に任せるよ。」

「妾にか…?」

「うん。それに、俺はただ物語を読んで欲しい、って言っただけで、別に持ち込んだわけじゃないからね。」

「!! …ふふっ、これは一本取られてしもうたな…。」

先程まで編集長として、作品を添削していたせいか、空の物語も視野に入れてしまったいたようだ。ただ、純粋に読んで欲しい、という意図を汲み取れきれなかったことにしてやられた気持ちになりながらも、八重神子は言葉を紡いだ。

(しかし………)
「物語の仕様は分かった。しかし、童自身は、どんな結末を考えておるのじゃ?」

「それは…、って神子! どさくさに紛れて結末を聞こうとしてるね?!」

「ふっ、気付いたか…。」

八重神子の疑問に応えようとする空は、慌てて口をつぐんだ。それに悔しそうにする八重神子に内心ホッとしていた。

(危なかった…)
「それにしても、神子………。本当は結末が気になるんじゃない??」

「そ、そんなことはないぞ?!」

「知ってた? 神子って、興味がある時に、左耳がピクピク動く癖があるんだよ。」

「何じゃと?!」
サッ

空に問われて、八重神子は咄嗟に左耳を隠した。まさか、興味を持っていたことがそこまで筒抜けだったとは…。そう考えていると…

「ほら、やっぱり気になっていたんじゃないか。」

「……ほう? 妾にカマをかけるとは、

童も随分と生意気になってきたのぅ??」
ゆらぁ…

空の言葉にカマをかけられていたことを知った八重神子は、普段よりも凄みのある声で空を鋭く見つめた。その瞳孔が、白い長方形になっており八重神子の本気を出す時の合図でもあった。

「!!! じ、じゃあ、俺はこれで!! 後は、神子に任せるから!!!」
ダーッ

それを見て、身震いをした空は素早く去っていった。

フッ
(ふっ、逃げたか)

瞳孔を元に戻して、気を落ち着かせた八重神子は、空の物語が綴られた紙を見て思案した。

その後、八重堂で出版されたある本が一部の読者の間でささやかにブームになっていた。

隅に置かれたページも冊数の少ないその本は、人気作ほどではないが、読んだ人が別の人に勧めて、その人がまた別の人に勧めて………、を繰り返すうちに徐々に広まっていった。

中には結末を議論し合う人達も見受けられた。その人達が、いずれ未来の作家になるかは………。

きっとそう遠くない未来…、物語が好きな狐耳の宮司がいずれ知ることとなるだろう。

-END-

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