これくらいなら読めますけど…

今回の容彩祭のストーリーで、改めて行秋の字のことついて考えたお話です。ネタバレ一切無しです。

時系列的にいうと、海灯祭で幼馴染コンビが軽策荘に居た時のお話です。

光華容彩祭…、別名:ショタ祭りと言ってもいいのでは?というくらいショタキャラがいっぱい登場していて、正直大歓喜です!!(大本音)

・テイワットにおける空くんの言語や文字に対する認識が完全に自己解釈
・重雲は、行秋の字でも分かる設定←失礼
・幼馴染コンビが完全に漢字に喜ぶ海外の人のノリ

参考資料
・霓裳花の説明文
・行秋の伝説任務 錦織の章

※初出 2022年4月20日 pixiv


軽策荘にある休憩所にて。

席には2人の少年が座っていた。

「うう〜ん………。」

「旅人…。どうかな?」

悩ましげな表情をしながら声を上げているのは、1枚の紙、正確にはそこに書かれた文字と睨めっこをしているのは、長い金髪を三つ編みにした異国の装いをした旅人の少年、空である。

そんな空をどこか期待したように見つめるのは、アシンメトリーに切り揃えられた紺色の髪と少し暗めの紺青色の装いが特徴的な少年、行秋である。

「げ、霓裳、花。り…、璃月で、かな? それからえっと…。」

「うんうん、それから?」

「霓雲の、よう、に………。」

「うんうん! それからそれから?!」

空が読み上げているのは、行秋が書いた霓裳花の説明文である。少しずつ読んでいることに行秋はますます期待に胸を膨らませて続きを待っている。

しかし…

「………………ごめん、もう分からない…。」
ガクッ

ガクッ
「そうかい…。結構上手く書けたような気がしたんだけどな…。」

空が読むことに力尽きるのと同時に、行秋も落胆に肩を落とした。2人の落ち込む意味合いは違えども肩の落としっぷりから、かなり落ち込んでいるのが分かる。

織物を扱う飛雲商会の次男坊としては流石にこれくらいは書けなくては。

そう父に言われた行秋は、一理ある言葉とそこまで言われてしまうと流石にやらない訳には…、と考えたようだ。そこで、字を書く練習をすると同時に、誰かに読んでもらって成果を知りたい、そう頼み込まれた空は、行秋が字に関してやる気を出すとは…!と若干の感動とその気迫に押されて、付き合うことにしたのだ。

しかし、行秋の筋金入りの字の汚さを舐めていた、それを痛感するのにそう時間はかからなかった…。

途中までは読めてはいたが、その先は全く未知の領域だった…。そう言わしめるほどに、行秋の字の読解と解読は難解なものであった。

以前、行秋と交流があった際に、彼の字を見た時から、字の汚さは分かっていたはずだった。一緒に彼の字を見たパイモンが、率直な意見を述べて、本当にテイワットの共通語なのか疑問を抱いていたのも頷ける。空自身も古代文字か暗号文かと思ったほどだ。

それに、苦笑いしながらもその字が彼自身が書いたものだとすぐに分かるから便利なんだ、と開き直っていた行秋の言葉も覚えている。

それでも、あまりの難解さに字を読む練習になるなら…、と軽い気持ちで受けた過去の自分を引き止めたくなるほどであった。

(いい練習になると思ったんだけどな…)

というのも、空自身がこのテイワットに共通する文字の理解度をさらに高める為…。そう思って引き受けた部分もあるのだ。

テイワット、もといこの世界に来て、モンド、璃月、稲妻と各地を旅して、基礎の文字の読解力が高まったと自負していた。不思議なことに、言語は普通に喋っていても意味は通じる為、恐らく空の言った言葉が自動的にテイワットの言語に変換されて、この世界にいる人達に伝わっているのだろう。

しかし、流石に文字はそうはいかない。
だが、幸いなことにテイワットの文字自体が大陸全土の規模で共通であることは非常に助かった。

以前、旅した世界では、複数の文字の種類が混在していた。だから、そのうちのひとつ、ふたつの文字は完璧に覚えたが、それ以外はあまり覚えられなかったのだ。

この世界に来たばかりのころは、合間を見つけて本を読んで、文字の練習をしたおかげで、ある程度の文字なら読めるし簡単な文章も書けるようになった。今は、本の文字だけでなく個人が書いた異なる筆跡による文字の読解にも挑戦中である。

そんな中で、行秋に頼まれたので、この機会に、と意気込んでいたのだが…、完敗である。

「2人とも、こんなところで何してるんだ?」

「重雲!」

「やぁ、重雲。旅人に僕の字を見てもらっているんだ。」

ガタッ
「どれどれ?」
ペラッ

そんな2人の元へところどころツンツンと跳ねた氷雪に似た髪色に方士たる服装に身を包んだ少年、重雲が通りがかった。行秋の言葉を聞いた重雲が、2人の間にある席に座りながら、脱力した空の手から滑り落ちた紙を拾い上げて、文字を一読する。

そして…

「霓裳花。璃月で霓雲のように咲く赤い花。水のように滑らかな織物の原料である。」
スラスラ

いとも簡単に読み上げた。

(失礼な物言いだと重々承知であるが)まるで行秋の文字が普通の人が書いた文字と大差ないように淀みなく読み上げた。

ガタッ
「えっ?! 重雲、読めるのか??!!」

「?? そうだけど、何か問題があるのだろうか?」
カサッ

「いや、ないけど…。というか、ただただ驚いたというか…。」
スッ

驚きのあまりその場で勢いよく席を立った空に対して、文字が書かれた紙を置きながら重雲のそうだけど、何か?と言いたげな反応に、空は困惑しながらも席に座り直した。

「さすが、重雲! やっぱり君は読めるんだね。」

「これくらい当然だ。伊達に行秋の幼なじみはしていないさ。」

(…行秋の字が上達しなかった理由が何となく分かった気がする………)

幼馴染である2人の会話を聞いているうちに、空が抱いていた腑に落ちなかった気持ちがほんの少しだけ晴れた気がした。

行秋の字が上達しなかった理由…。

それは彼の周囲の人達の解読能力によるものではないか…。

そう推論した。

あれだけの字の汚さであれは、多少の差はあれど少なくとも生活に支障が出るのは間違いないはずだ。それでも、行秋が文字の矯正を徹底しなかったのは、重雲を始めとする周囲の人達の慣れと解読能力の高さによるものだろう。

周囲が慣れてしまえば、字の汚さに関して難色を示す者は少なくなる。そうなれば、必然的に行秋は自分の文字の汚さに疑問を抱く機会が減るのではないだろうか。

現に重雲だって淀みなく読めていた。それに、以前、行秋の使いである阿旭も彼が書いた字を見ただけで、空とパイモンが誰の使いで訪れたのかを即座に理解していた。そもそもそれを阿旭に渡す前に、行秋本人が"飛雲商会には読める人が居るから心配ない"と言っていた。

そんな環境もあって、今日(こんにち)も行秋の字は難解さを維持しているのだろう。それはある意味奇跡的と言うべきか、はたまた傍迷惑と言うべきか…。

(いっそ漢字なら分かりやすいのにな…)
スラスラ

そう思った空は、無意識のうちに紙の端っこに、漢字で"行秋"と書いた。これも不思議なことだが、仲間達のうち漢字を使う名前は、"どの漢字を使うのか"が、空の頭に瞬時に流れ込むのだ。これは特に璃月や稲妻で知り合った仲間達に多い。

漢字であれば、少なくともテイワット文字よりは簡単…、だと空の基準で考えればそうなる。

「? 旅人、何を書いているんだい??」

「俺が前に旅した国の字で行秋の名前を書いて…。」
ハッ
(しまった! つい勢いで書いてしまった!!)

そう思った空が書き出した文字を見た行秋は、興味深そうに尋ねた。それについ答えてしまった空は、一気に冷や汗を掻いた。何故なら…

この世界の人間ではないことがバレてしまうのでは。

そんな考えが瞬時に頭を駆け巡った。

「君が旅した国の…? ぜひ見せてくれないかい?!」

しかし、それはもう後の祭りだった。本や文字を読むことに関しては、行秋は誰にも止められない。現に、今も空が書き出した文字に興味津々だ。

(もう、どうにでもなれ…)
「あぁ、いいぞ…。」
カサッ

その勢いを止めることは無粋なことのようで気が引ける。そう思った空は、半ば投げやりな気持ちになって紙を差し出した。

ピラッ
「不思議な字だ…。これが僕の名前なのかい??」

「あぁ。この2文字で"行秋"って読むんだ。」

「ふむふむ、なるほど…。」

行秋は興味津々な様子で漢字で書かれた"行秋"を眺めている。時折、ほんの少し垂れた優しげな目を細めて、一画一画を鋭く見つめている。

(やばい……、やっぱりバレたらどうしよう…)
ダラダラダラダラ

行秋の洞察力の鋭さは空自身がよく知っている。この文字から空がこの世界の人間ではないことを指摘されるのではないか…。そう思うと冷や汗が止まらない。

紙を渡したのは他でもない空自身だが、やはり何とか理由をつけて隠すべきだっただろうか…。

そう思っていると…

「いい…。」

「え?」

ガバッ
「凄く、カッコいいじゃないか…!!」
キラキラキラキラ

紙から顔を上げて、不安に駆られる空に、行秋は言葉を紡いだ。先程鋭い目つきで書かれた文字を見つめていたその目は、とても輝いている。

「そ、そうか??」

「まさか、僕が知らない字を拝めるだなんて…!」
キラキラキラキラ

ギクッ
「そ、それは、良かったよ。」
(取り敢えずバレてない、のか??)

安堵と同時に拍子抜けした空は、ますます止まらない行秋の言葉に、内心動揺する。だが、取り敢えず懸念していたことを指摘される心配がなくなったことにますます安堵した。

どうやら、漢字の文字のカッコよさと未知の文字を知れたことに行秋は夢中のようだ。

「他にはどんな字があるんだい?!」

「僕も気になるぞ…!!」

(この様子なら、大丈夫そうだな…)
「そ、そうだな。例えば…。」
サラサラ

ますます興味を持ったのか、他の感じを知りたがる行秋、それに便乗した重雲が問いかけてきた。その勢いに押されながらも、この調子ならバレる心配はないだろう、と考えた空は隣に次の文字を書き出した。

ピラッ
「これで、"重雲"、って読むんだ。」

カサッ
「これが、僕の名前の字…!! 」

カサリ
「実に不思議だ…。」

隣に書き出した"重雲"の漢字に、行秋ほどではないが、重雲も嬉しそうだ。また、新たに登場した漢字を見るために、一緒に覗き込む行秋も、先程書いた"行秋"と今しがた書いた"重雲"を見比べて、その違いにますます興味を持っている。

「どうやって書くんだ??」

「えっ?」

「これなら僕も書けそうだよ! 君がよければ教えてくれないかな??」

重雲の言葉を皮切りに、行秋も漢字の教授を求めてきた。何より"書けそうだ"という発言に、驚いた。

このやる気、何より2人の期待に満ちた顔に断る、という選択肢はない。

(この2人なら、大丈夫かな…)

しばし、逡巡した空は…

「あまり知られるのは恥ずかしいから、内緒にしてくれるならいいぞ。」

パァァァッ
「あぁ、勿論さ! 君には、僕の字を読んでもらうことに付き合って貰ったからね!」

「僕も分かったぞ! だから、いいだろうか…?」

「うん。ありがとう、行秋、重雲。」

その返答を聞いて、安心した空は礼を言いながら早速行秋と重雲に漢字を教えた。

行秋は、この字なら様になっている気がするよ! と、やや拙いながらも初めてにしてはよく書けている字を興奮気味に見せてくれた。

重雲も、僕のはどうかな?とやや控えめな字を見せてくれた。

そんな2人の文字を見て、2人とも上手だよ、と空は誉めた。

そんな穏やかな時間を3人は過ごすのだった。

-END-


あとがき兼補足説明

行秋の字が上達しなかったのは、もしかして、周囲の人の影響もあったのでは…?と思っていたら書いていました。

それに伴い、ついつい忘れがちな空くんor蛍ちゃんが、テイワットにおいては、喋る時や文字を読んだり書いたりする時はテイワットの言語と文字だよなぁ…と再認識したお話でもあります。

今まで、ゲームの言語について深読みすることはなかったのですが、つい考えてしまう原神という作品、本当に素晴らしすぎますね…!! そんな意味でも、原神の凄さを再認識しました…!

というか、行秋が綺麗な字を書く為の代償、デカ過ぎません??
(大本音)

ストーリーを読んでいて、身を削りすぎだろ!!!とパイモン並みのツッコミを入れてしまいましたwww

ここまで読んでいただきありがとうございます!



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