【タル空】短編 謎境一騎編

謎境一騎、最高でした!!
そのストーリーの流れに沿った短編です。
全体的に会話文多めです。

出演キャラ
辛炎
式大将

参考資料
・謎境一騎 ストーリー全般

※初出 2021年11月21日 pixiv


おしながき

1.同じ仕草
無意識にタルタリヤと同じ仕草をしていた空くんが、辛炎に指摘されて恥ずかしくなる

2.つい呼んでしまう
辛炎の兄ちゃん呼びに釣られて、タルタリヤをお兄ちゃん呼びする空くん

3.足元にご注意を
陰陽寮の両側の床が抜けた廊下に足を滑らせる空くんを助けるタルタリヤ

4.ちょっとだけ
心配をちょっとだけしていた空くん

5.使用は最低限に
うっかり式札を使うのを忘れていた空くん

6.不満と心配
式大将とタルタリヤのやりとりで、自分を"兵器"と呼んでいたことに腹を立てる空くん

7.いつの日か、また
ラストの会話シーン(脚色多め)


1.同じ仕草

「それにしても、旅人と兄ちゃんは仲がいいんだな!!」

「えっ?」「えっ?!」

辛炎のひと言に、空とタルタリヤは揃って声を漏らした。まるで、ハモって聞こえそうなほどにタイミングばっちりである。違うとすれば、前者のタルタリヤは、少し驚いたように、後者の空はかなり驚いて目を見開いてやや声を大きくしているところくらいだろうか。

「辛炎さん、何でそう思うんだ??」

「だって、さっきも今も、えっ、っていう言うタイミングが合ってたし、旅人は声だけで兄ちゃんだと分かっただろ?」

「そ、それは…。」

式大将が疑問を問えば、辛炎はそう言葉を漏らした。それに対して空はたじたじである。

「オイラもそう思うぞ! こいつとは知り合いだけど、流石に声だけじゃ分からなかったな〜。」

「ちょ、パイモン!!」

「あっ、酷いなぁ。パイモン。」

「確かに…。言われてみれば旅人さんは、この秘境内に入った時に、人影を見てすぐさまタルタリヤさんだと気付いていたような…。」

「式大将まで!!」

次々と仲間達に指摘される事実に、空はじわじわと頰を赤く染めていった。否定しようにも事実であるのでそれが出来ずにいた。

「へぇ? 相棒、すぐに俺だって分かったんだ??」
ニヤニヤ

「………っ。」
プルプル

「? どうしたの……。」

「……わぁああああ!!!」
ビュンッ

にやけながら指摘したタルタリヤの言葉を皮切りに、恥ずかしさが限界を超えたのか身体を震わせていた空は、大声をあげて駆け出していってしまった。耳まで真っ赤にしたその顔は、まるで林檎のようであった。

「ちょ、空?! 1人で行くのは危険だよ!!」
ダッ

「…もしかして、アタイ、何か悪いことでも言ったか??」

「僕も思ったことを言ったまでなんだが、気に障ってしまったのだろうか…?」

「あぁ、気にしなくていいと思うぞ。あの2人は、割とあんな感じだからな。」

「なんと! あの2人は、本当に仲がいいんだな。」

急に駆け出した空を慌てて追いかけるタルタリヤが去った方向を見つめる3人はそう会話しながら、2人が戻って来るのを待った。

-END-


2.つい呼んでしまう

(兄ちゃん、か…)

先程辛炎がタルタリヤのことを兄ちゃんと呼んでいたことについて、空は考えていた。いや、正確には、その後、呼ばれてかなり嬉しそうにしていたタルタリヤの反応のことだ。顔だけではなく声色にまで喜びが滲み出ているようであった。確かに他人から言われても、その呼び方は嬉しいものだろう。同じく兄である空もその気持ちはよく分かるからだ。

(蛍も、お兄ちゃん、って呼んでたな…)

タルタリヤの様子を思い浮かべた空は、思わず笑みをこぼした。だが、蛍もたまに呼んでいたその呼び名を思い出して、すぐさまやや沈んだ表情を浮かべてしまう。

「ねぇ、空。次はどの部屋に行こうか??」

「あぁ、あっちがいいんじゃないか? お兄ちゃ……ん……。」
ピタッ

ポカーン
「「「………。」」」

ぺらり

まだ再会の見通しがない蛍の行方…。

そのことを頭に思い描いていたせいか、タルタリヤからの問いに、蛍が空を呼ぶ時の呼び方が移ってしまったようだ。

それは殆ど無意識の状態に近かった。どうやら問われたことに気を取り直して、タルタリヤの方へ顔を上げながら呼んでいたらしい。気付いた時には、タルタリヤをはじめ呆気に取られたパイモンと辛炎、それに困惑気味に乾いた音を響かせながら頭を傾ける式大将の姿が目に映った。

また、口を滑らせたことに気付いた空は、身体を硬直させて、ぽかんと開いた口をゆっくりと閉じていく。それと同時に、じわじわと顔を赤く染めていく。

そして…

ニコッ
「なぁに、空?? "お兄ちゃん"が聞いてあげるよ??」

「〜〜〜〜〜っっっ!!!」
カァァァッ

タルタリヤが"お兄ちゃん"を強調したこと。それに今までにないくらい爽やかな笑顔を浮かべていたこと。

それを耳で、そして目で感じ取った瞬間、空は元から赤らめていた顔をさらに首元まで赤く染め上げていく。その状態は、最早湯気が出ているのでは?と錯覚してしまうほどであった。

「ヤ、ヤッパリ、アッチニシヨウカナーー!??」
クルッ
スタスタスタ

「ちょっ、待ってよ、空!!」
タッ
スタスタスタ

そんな羞恥の気持ちを隠すためか、空は踵を返して棒読みで言葉を紡ぎながら早歩きで廊下へと駆けて行った。それに慌ててタルタリヤも早歩きで追いかけていく。

「あ、旅人! 兄ちゃん!!」

「な、お前ら! 勝手に行動するんじゃ…あぁ、もう!! 早く戻ってこいよー!!」

(タルタリヤさんは、旅人のお兄さんだったのか…?)

しばらく呆けていた辛炎とパイモンもそう声をかけた。そして、式大将は何やら勘違いをしていた。

スタスタ
「ねぇ、もう1回呼んでよ、空??」

スタスタ
「呼ばないし、というか空耳だから忘れろ!」

並行するように歩く2人は、そんな問答を繰り返していた。そのスピードは、まるで競歩のように速くて、おそらく一般人であれば追いつけないだろう。

「えー?? もう1回呼んでくれたら凄くやる気出て、この辺一帯の魔物すぐ倒せそうなんだけどな〜??」

ピタッ
「本当か?!!」

キュッ
「…っと。うん、どうする??」

だが、タルタリヤのひと言に空が止まった。また、急に止まった空に対して、流石の反射神経で止まったタルタリヤはさらに問いかけた。

(背に腹は変えられない…)

「アヤックス、お、お兄ちゃん……。」

「!!」

タルタリヤの浮かべる笑顔に先程の言葉はどうやら本気のようだ、と悟った空は観念して彼の本名を交えて再び呼んだ。タルタリヤも予想外の呼び方に目を見開いた。

「〜〜〜〜〜っっっ!!!」
カァァァッ
(ああ…!! やっぱり恥ずかしい!!)
ダッ

タルタリヤの反応に、やってしまった感が襲ってきた空は、治まってきた顔の熱を再び赤く染めて走り出した。

「あはは。ありがとう…。めちゃくちゃやる気出たよ。だから…。」

ヒュッ
「!!」
(矢が…!!)

タルタリヤが、お礼の言葉を紡ぐと同時に、廊下に設置された罠である矢が空へと迫る。

だが…

ズバッ
「!!?」

「ますます暴れられそうだよ…!!!」

瞬時に移動して、水元素で作り出した刃でそれを防いだタルタリヤは、いつもより生き生きとしていた。反面、空は複雑な気持ちを抱きながらも嬉しく感じたのだという。

-END-


3.足元にご注意を

廊下にて。

この陰陽寮にも慣れてきたが、油断大敵の姿勢を崩さないように、空達は次の部屋を手分けして探すようにした。次の部屋が戦闘が必要であれ宝物が隠れているのであれ、確認してから前の部屋に戻って合流、と言う方針にしたのだ。

空とタルタリヤ、辛炎と式大将とパイモン、の2チームに分かれての探索となった。最初はこのチーム分けに心配する空だったが、辛炎が心配ない、と快活に答えたので後ろ髪引かれる思いになりながらも了承したのだ。

「よし、ここは大丈夫そうだ。」

「じゃあ、戻ろうか。」

「あぁ。」

「矢とかに気をつけてね!」

安全面を確認した2人は、廊下に仕掛けられた罠を気にしながら戻る為に踵を返そうとした。

「大丈夫だ。これくら…」
ズルッ
「い?!」
ガクッ

軽口を叩くタルタリヤに対して抗議する空は、注意力が散漫になっていたせいか、廊下の両側が抜けた部分に足を滑らせてしまう。

「!! 空!!」
ダッ

(何とか、縁に…!!)
バッ
スカッ
(!! お、落ちる!!)
ギュッ

焦るタルタリヤの声を聞きながら、目を見開いた空は、落下による独特な浮遊感と重力の負荷が一気に無くなる感覚に肝を冷やした。何とか、廊下の縁に捕まろうと手を伸ばすものの空振りしてしまい次に来るであろう衝撃に備えて目を閉じた。すると…

パシッ
「大丈夫!?」

パチッ
「だ、大丈夫だ!!」

腕を掴まれる感覚と声に目を開ければ、タルタリヤが掴んでくれていた。

(助かった…)
ホッ

グイッ
ギュッ
「!!」

「ふぅ。大丈夫??」

掴まれた腕に安堵しているのも束の間。引っ張り上げられたタルタリヤは、その反動で、廊下に尻餅をつくように腰を下ろすと同時に空を抱きしめた。まるで、また空が落ちないようにしているみたいだ。

「だ、大丈夫だ!!」

「そう?? それにしても相変わらず軽いね。」

「なっ?! これでも筋肉付いてきているほうだぞ??!!」

「ふぅん?? なら、ここからも抜け出せるよね?」

タルタリヤの腕の感触と温もりに内心胸を高鳴らせる。だが、いつまでもこうしているわけにはいかないので、空は抜け出そうともがく。だが、それを見越してか、タルタリヤはからかい口調でますます抱きしめる力を強くした。

「?! 急に何言うんだ!!」

「あはは。冗談だよ。ここで動いたらまた落ちちゃうかもだし。」
パッ

「ぐぬぬ…。」
(また、からかわれた!!)

抗議の声をあげるが、その後、あっさり離してくれたタルタリヤに、空は反応を見て面白がっていたことに悔しげな声を漏らした。

スッ
「それにしても、空、ますますドジっ子に磨きがかかった??」

「な!! そんな、こと………ある、のか??」
スッ

「ほんのちょっと、ね。」

ガーン
(た、確かにそんなところ、なくもないけど…)

またも指摘されたことに、空は若干落ち込んだ。確かにちょっと注意力散漫なところはあるがそれほどだろうか。

(俺ってそんなにドジなのかな…)

「さぁ、戻ろうか。」
クルッ

「あ、タルタリヤ!!」

クルッ
「ん? なぁに??」

指摘されて気付いた自分の一面にもやもやしていると、前の部屋に戻ろうとタルタリヤは踵を返した。それに気付いた空は慌てて呼び止めた。まだ肝心なことを言っていないからだ。

「あ、ありがとう…。」

「あぁ、どういたしまして。相棒を助けるくらいお安い御用さ。」

(言えてよかった…)

ちゃんとお礼を言えたこと、それに笑顔で答えるタルタリヤに安堵した。

「それにしても…。」

「何だ?」

「いっそ抱えていったほうがいいかな?」
スッ

「?! 大丈夫だ!! 先に戻るぞ!!」
タッ

横抱きにしようと手を伸ばす仕草をしたので、空は慌てて駆け出した。

「あ、空!! また落ちるよ?!」

「もう大丈夫だ!!」

今度は周囲に気を配りながらだから問題ない、と思いながらタルタリヤに向けて言葉を紡いだ。

-END-


4.ちょっとだけ

「もしかして、心配してくれてたの??」

「…ちょっとだけ、な。」

「本当?? 君に心配してもらえるなんて光栄だなぁ!!」
キラキラ

「本当にそう思っているのかよ…。」

「勿論だよ!」

いつにも増して輝くような笑顔を浮かべるタルタリヤに、若干の胡散臭さを感じた空はジト目で追求した。だが、清々しいくらいにはっきりと答えたのでそれ以上聞かないことにした。

「ったく…。ほら。」
スッ

「ん? これは??」

「おにぎりだ。…どうせ戦ってばっかりで食べてないんだろう??」

空が懐から取り出したのは、稲妻に来てから覚えたおにぎりだ。いくら戦闘狂のタルタリヤといえど、流石に飲まず食わずでは倒れてしまう。そう思って作っておいたのだ。

「空…! さすが、俺の相棒だ!!」
ギュッ

「な、くっつくな!! おにぎりが落ちるだろ!?」

「大丈夫だよ!」

嬉しさの余り抱きつくタルタリヤに、おにぎりが落ちないようにする空であった。

その後、パイモンと辛炎にもあげて、タルタリヤのために休憩したのだという。残念そうにする式大将に、空は試しに作った折り紙のおにぎりと魚を渡した。すると、拓本と同じように式大将の中に吸い込まれて一同は度肝を抜かしたのだという。

どういう仕組みかは分からないが、作った時の空の想いを汲み取ってその思念を味わったのだという。

それに、タルタリヤは笑い混じりで空の発想力を褒めたという。

-END-


5.使用は最低限に

それは式大将のあるひと言からだった。

「旅人さん、どうして式札を使わないんだい??」

「えっ??」

そう尋ねる式大将は心なしか悲しげだった。

「アタイも気になってたんだ。折角式札を強化してるのに、全然使ってないよな。」

「オイラも気になるぞ!!」

(式札………、式札………??……!!)

「………あっ!!」

ビクッ
「わっ!! いきなり大声上げるなよ!! びっくりするじゃないか!!!」
プンプン

「ご、ごめん。パイモン。」

突然大声を出した空に驚いたパイモンは、少し怒って幻想の翼から星座の形に似た鱗粉を激しく宙に漂わせた。

「…もしかして、忘れた、なんてことは無いよな??」
ジトォッ

ギクッ
「ち、違うんだ!! ほら、式札は切り札みたいなものだろう?! だから、強敵が来てから使おうと思って!!」
ワタワタ

パイモンの指摘に、慌てた様子の空はそう言葉を紡いだ。

「そうだったのか! ちゃんと考えてるんだな!!」

「流石、旅人だな!! 温存なんて、アタイは思い浮かばなかったぜ!!」

「うむ、そのような考えだったとは…。旅人さんは慎重な方のようだ。」

「あ、あはは。あっ! あそこの廊下に罠がないかちょっと確認してくるよ!!」
ダッ

空の言葉に、納得した様子のパイモン、辛炎、式大将の様子に内心安堵した空は廊下へ駆け出した。それを口元に弧を描きながら、タルタリヤは意味深に見つめていた。

廊下にて。

(何とかバレなかった、かな…?)

立ち止まった空は背後から近寄る影に気付かなかった。

「そ〜ら。」
ガシッ

ビクッ
「わっ! 何だよ…。」

安堵に胸を撫で下ろしていると、後ろからタルタリヤが右腕を空の右肩にかけるように覆い被さった。衝撃に驚く空に、タルタリヤはひと言告げた。

「空、式札のことすっかり忘れてたでしょ。」

「…気付いてたか。」
ガクッ

「そりゃあ、あれだけ分かりやすい反応されたらねぇ?」

その指摘に誤魔化しきれていなかったことに落胆した空は、観念して理由を話した。

「…戦闘に夢中になっていたんだ。それに…。」

「それに?」

「式大将がショックを受けると思ったから…。」

戦闘に夢中になっていたことは勿論だが、誤魔化した理由は式大将をむやみやたらと傷つけたくないと思ったからだ。それに、温存したいと考えていたのも嘘ではない。

「そっか。空らしいな。」

「もしかして、馬鹿にしてるのか??」

「まさか!! じゃあ、戻ろうか。」
タッ

「皆、特に式大将には話すなよ?!」

「大丈夫、分かってるよ。」

笑みを止めないタルタリヤに、念入りに口止めをした空は、戻るために歩を進めた。それに付き添うようにタルタリヤも足を動かした。

-END-


6.不満と心配

式大将とのやり取りをした後。

「………。」

「空、なんだか不機嫌?」

唇を尖らせて少し不機嫌そうな様子の空にタルタリヤは尋ねた。だが…

「………。」
スッ
プイッ

「あれま、どうしたの??」

タルタリヤを一瞥してから、そっぽを向く空に再び尋ねた。

「…兵器だなんて、言うな。」

「えっ?」

ひと言呟いたらしいが、聞き取れずにもう一度尋ねた。すると…

「っ!」
バッ

「自分のことを兵器だなんて言うなっ!!」

「!!」

空は大声を上げてそう言葉を紡いだ。突然の大声に驚いて目を見開くタルタリヤだが、若干涙目になって肩を震わせている空に優しく問いかけた。

「もしかして、さっきのこと??」

「…あぁ。」

タルタリヤの問いに、頷きながら空は先程の式大将とのやり取りを脳裏に浮かべた。自身を兵器だというタルタリヤ…。その姿に、稲妻で起こったことに関与するスカラマシュや淑女、それに噂話をするミハイルとリュドミラのことが思い浮かんだのだ。

タルタリヤをはじめとして、ファデュイは目的のためならば手段を選ばない。正確には、タルタリヤは自身の目的のために手段を選ばないのであって、他のファデュイのように陰謀や野望のため、というのとはまた毛色が違う。だが、達成するために何が何でも実行する傾向が強いのは似ているだろう。

例えそれが、自らの命を脅かすことであろうとも…。

だが、ファデュイがそうでも、旅人であり関与しない立場である場合が多い空は違う。人並みに心配だってするし、対象が自身であれ他人であれ道具のように扱う様を見ているのは、抵抗がある。

だからこそ…

「もし、タルタリヤが兵器だと思っていても、俺は……。」

「うん。」

「俺はタルタリヤのことちゃんと1人の"人間"として、見てるからな。」

「!!」

少なくとも自分は、タルタリヤをちゃんと"人間"として見ている。そのことを"人間"の部分を殊更強調して空は告げた。

「……うん。それが聞けて満足だよ。」

空の言葉を聞いて、目を見開いていたタルタリヤはやがて返答の言葉を紡いだ。その顔は満足したように笑みを浮かべている。

「なら、良かった。じゃあ、行くぞ。」

「あぁ、相棒。」

空もタルタリヤの様子に満足したのか、次なる部屋へと共に歩き出した。

-END-


7.いつの日か、また

「君の瞳は、人の心を見透かしているんじゃないか、って時々疑ってしまうよ。」

(…それは、こっちの台詞だ)

タルタリヤの深い青の瞳は、空の琥珀色の瞳を見つめながらそう言葉を漏らした。だが、その言葉に空は声には出さずに胸の内に気持ちを吐露した。

陰陽寮の最奥にて。

式大将の最後の拓本が見つかり完全に記憶を取り戻した式大将は、秘境が作り出された真の理由を思い出して、主人たる晴之介との思い出に浸った。それに関して、辛炎とパイモンがさらに詳しく話を聞いていた。

一方で、タルタリヤと空はそのメンツから離れた場所にて会話をしていた。

タルタリヤがここに居るのは、散兵との関連性があるかを調査するためだという。しかし、その可能性がなかったことを知りこれから去るようだ。聞けば"神の心"を手に入れてから、スカラマシュは行方をくらませたらしい。

(そんなことになっていたなんて…)

「あの心はしばらく泳がせておこう。いつかどこに行ったのかが分かる。

その時は、君はどう選択する?

旅人、君の終点はどこにあるのかな?」

「………。」

スカラマシュの行方に、内心思うところがある空を見越してか、タルタリヤは不敵な笑みを浮かべながら次々に言葉を紡いでいく。問われたことに対して少し考えた空は、現時点で言えることを述べた。

「その時が来たら、否が応にも答えを導き出すだけだ。」

「あはは。君らしいな。」

空の答えに静かに笑ったタルタリヤは、軽く息を吸い込んで次の言葉を紡いだ。

「それはそうと、ホント、もう少しここに居たかったよ。」
スッ

「あっ…。」

どこか寂しそうにしながら言葉を紡いだタルタリヤは、去るために出口へ足を動かした。それを見た空は…

(行かないでくれ…!!)
クイッ

居ても立っても居られない気持ちになり思わずタルタリヤの服の裾を掴んでいた。

「!! なぁに、空??」

パッ
「あ、こ、これは、その…。」

クスッ
「もしかして、寂しい?」

「!! ……。」
コクン

慌てて手を離すが、言い訳が上手く思い浮かばず慌てふためいてしまう。そんな空を見透かしたように、タルタリヤは笑みをこぼして言葉を紡ぐ。それに観念した空は、頷くしかなかった。

「そっか。俺も寂しいよ。」

「えっ…。」

「でも、離れている時間が長いほど喜びもより深くなる。そうだろう??」

「……そう、だな。」

「大丈夫。俺達なら、多分また近いうちに会えるよ。」

(………また、か…)

名残惜しいと思っているのか、はたまたこの陰陽寮に散兵の関連がないことを知って警戒心が緩んでいるのか、タルタリヤは心情を吐露した。そんな思わぬことを聞いた空は、意外に思いながらも、その心情につられて気持ちに憂いを帯びた。

「空。」

「何だ…」
クイッ
「わっ」

そんな気持ちに浸っている空の腕を右手で引いたタルタリヤは、反対の左手を空のうなじを抑えるように添えた。2人の左耳につけたピアスも微かに触れて、かつんとささやかな音を立てる。それと同時に三つ編みも巻き込まれて添えられた為、空はうなじに髪の毛の感触を感じてこそばゆさに少したじろぐ。そして、いつも笑みを絶やさないその唇を耳元へと寄せて…

「またね。夜空の星のように…いつも多くの驚きをもたらしてくれる、俺の相棒。」

「!!」

いつもよりやや掠れた小声で耳打ちをしてきた。吐息混じりに囁かれたその言葉に、空は驚きに琥珀色の瞳を丸くして彼を見つめた。

クスッ
スッ
「じゃあね。」
クルッ
スタスタ

その反応に、深い青の瞳を悪戯っ子のように細めたタルタリヤは満足したのか、微笑みを浮かべながら両手を離して出口へと足を運んだ。

へなへな…
ぺたん
「………っ。ズルいぞ…。」
プルプル

タルタリヤが完全に姿を消してから、緊張の糸が切れたように、空は力なく床へと座り込んだ。そして、身体を震わせながら囁かれた方の耳を抑えてひと言呟いた。

まさか、稲妻で再会できるとは思いもしなかった。正確には、約束をしていたりすれば、会いに行ったりもしていたが、そんなに頻繁ではない。今回のことに、また何か良からぬことをしでかそうとしているのではないか、と正直にいえばパイモンと同じように思っていた。だが、内心では再会できたことに喜んでいる自分が居たのも事実だ。

それに、今しがた紡がれた言葉。それは、普段、奥底に閉じ込めた彼の本音を聞けたようで嬉しかった。

だからこそ…

その言葉を普段よりも少し掠れた声で囁かれた、その余韻がまだ熱を持つ鼓膜からなかなか消えない。

先程別れたばかりなのに、もう会いたくなってしまった。

そんな想いを胸に抱いて耳を抑え続ける。そしてタルタリヤの去った方向を恨めしげに睨む空であった。

-END-


各話の解説兼感想、のようなもの

※読まなくても大丈夫です

  1. 同じ仕草

私にとっての萌えポイントその①
タルタリヤのえっ? に、もしかしたら空くんもつられて同じ仕草をしてたかも? というネタです。

2.つい呼んでしまう

兄ちゃん呼びに釣られた空くんです。先生をお父さん、お母さん呼びしてしまうアレです。多分、兄弟がいて上の立場の人って、自分が兄、姉の立場な分、自分より年上を兄、姉呼びするのはすごく恥ずかしいんじゃないかな、って思ったネタでもあります(え? そんなことない?? …まあ、細かいことはお気になさらず←)

3.足元にご注意を

陰陽寮の廊下にあった両側が空いた廊下…、厄介でしたね…。それに、空くんが落ちかけたりしたかも?となりました。そのムービーが脳内再生余裕でした←
あと、何だか私の書く空くんがどんどんドジっ子になっている気がします…(^◇^;)

4.ちょっとだけ

私にとっての萌えポイントその②
ツンデレ全開の選択肢に、私は迷わずちょっとだけ、を選びました(真顔)。
案の定心配をちょっとだけしていたツンデレな空くんが拝めて最高でした!!

5.使用は最低限に

式札を使うのを忘れていた空くんです。
実は、筆者もやらかしました…。しかもそれを全部クリアした後に気付きました…(^◇^;)
ごめんよ、式大将…。

6.不満と心配

式大将とのやり取りで自分を兵器だと言うタルタリヤに、もしかしたら空くんは不満を抱いていたかもしれない、と思いました。

7.いつの日か、また

私にとっての最高の萌えポイントです!!!
最高に萌えました…!!
脚色加えまくりですが、私にはこんな風なやりとりをしている2人が見えました…!←危ない
(まあ、私が書く小説ではたびたび会ってますけどね←メタ発言)

シリーズ
タル空 短編&SS

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