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「おんなのことば」を読んで

ごきげんよう、皆様。
いかがお過ごしでしょうか。

本日は茨木のり子さんの「おんなのことば」を読みました。

心がときめいた詩の文章をいくつか。

「私のカメラ」

だから わたし カメラなんかぶらさげない

ごぞんじ?わたしのなかに
あなたのフィルムが沢山しまってあるのを

木漏れ日のしたで笑うあなた
波を切る栗色の眩しいからだ
煙草に火をつける 子供のように眠る
蘭の花のように匂う 森ではライオンになったっけ

世界にたったひとつ だあれも知らない
わたしのフィルム・ライブラリー

P101~102

カメラにおさめておきたかった、
恋人のふとした美しい瞬間ってありますよね。
私もよくその場面を思い出しては、心地よい気持ちになります。
彼の中にもそんな場面が残っていてくれたら、な。

別れ際、電車の向こう側で手を振った彼の顔は忘れられないです。

「待つ」

わたしの心は かたくなな 鉄の扉
どうしようもなく 閉ざされ 軋む

鍵を持って まだ どこか 遠くを
のんびりとふらついているのは誰?

ぱっと開けて吃驚させてくれるひと
とても自然に昔からの約束のように

P40

同じことを考えている人がいる!って
嬉しくなりました。

檻の中に閉じ込もっていた私の手をとって、
あかるい世界に連れ出してくれたのは、彼でした。
決してむりやりではない、自然でとてもやさしい手だったな。

「あほらしい唄」

娘は誘惑されなくちゃいけないの
あなたのようなひとから

p54

素敵ですね。
将来の旦那さんに対して、こんな風に想える妻になりたい。

「汲む ー Y・Yに ー」

大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい 発音の綺麗な 素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました

初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちていくのを隠そうとしても 
隠せなくなった人を何人も見ました。

私はどきんとし そして深く悟りました

大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子供の悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事 すべてのいい仕事の核には
震えるアンテナが隠されている きっと


P149~150

とても気持ちが楽になる文章ですね。
震えるアンテナを、直立不動のアンテナにしようと
自分を奮い立たせてきたけれど、
そんな必要がなかったりして。もしかして。

雨にも風にも揺らがない山に憧れていたけど、
風にゆらゆら揺れる葉っぱもいいか。

受け入れてもらえた気がして、嬉しかったです。


茨木のり子さんは以前「歳月」という詩集を読んでから
とても好きになりました。

のり子さんの旦那さんを見つめる視線が、
あまりに愛おしい。

また「歳月」を読みたくなりました。



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