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「生物と無生物のあいだ」 福岡伸一

生命とは何か? ー それは自己複製を行うシステムである。(本文より引用)

この発見は、二十世紀を象徴する画期的なモノであっただけでなく、その後の生命科学の発展を劇的に推し進める起爆剤となった。発見者は、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックである。彼らはDNAの二重螺旋構造を解明することによって、この発見に至った。彼らの貢献が分子生物学という新たな分野を誕生させたのだが、それと同時に、ある非常に大きな疑問を生み出した。

「自己複製をする系」を生命と定義づけるならば、ウイルスは生命体である …?

この問いに対する答えはいまだ明らかになっていない。ウイルスが自己複製を行うメカニズムは次のようなものだ。まず宿主となる細胞に付着し、細胞との接触点から自身の核酸=DNAを注入することで細胞の内部に侵入する。さらに、宿主細胞を騙すことによって宿主細胞自身にDNAを複製させ、それらを材料として新たなウイルスを再構成していくのだ。こう説明されると、「ウイルスは生命体である」と早々に結論づけたくなるがそうはいかない。なぜなら、ウイルスは上述の特徴を持ちながらも、粒子単体としてみれば生物よりも物質(無生物)に近い性質を持っているからである。だとすれば、生命を決定づける要素はほかにあるはずだ。そこで本書の主張である。

生命とは何か? ー 生命とは「動的平衡」にある流れである。(本文より引用)

本文の内容について書くのはこれくらいにしておいて、私が注目したいのは「あいだ」という言葉についてだ。本書は、ウイルスという生物と無生物の「あいだ」に位置する存在を考えることによって生命の本質を洞察したものである。本書を読んで以来、こうした思考を自分でも取り入れないとなと強く思うようになった。なぜなら、私たちが抱える問題の多くは「あいだ」にあるからだ。ついつい二項対立的に思考しがちになるが、それでは問題の解決には至らない。その最も象徴的な例が「ジェンダー問題」である。今こそ「あいだ思考」が必要なのではないだろうか。

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