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【大人の読書感想文】傲慢と善良 辻村深月

全体の流れだけの感想は、ストーカー絡みの推理系かと思いながら読み進める。前半はストーカー被害者である彼女をもつ彼の目線で物語が進み、男女関係のある彼氏のふがいなさが、後悔の念をもって語られる。

ほうほう、現代は何があるかわからない世の中だからねぇ。
怖い怖い。と、と思っていたら!
出てくる出てくる。彼の知らない彼女のいろいろな経緯。
といっても、目立つような派手な過去でもなく、田舎から都会に出てきた女子であればよくあるような、ありふれた話ばかり。

まぁ、想像に難くないような地方でのやり取り、各々の都合と心情が見えてくる。都会で出会った彼が知らない彼女の様子は、彼には目新しく意外性のあるものだったが、彼女の生きてきた土地に赴き、関わった人から話を聞くうちにこれまで知らなかった彼女の過去と内面の葛藤を想像するようになる。

この辺りまで、私は単に最近の婚活事情をよく分からないまま、婚活って危ういなぁとか、地方で結婚適齢期といわれる年齢を過ぎたときの周りの焦りなんかを、わかるなぁと単に思っていた。

流れが怪しくなってくるのは、彼女の地方でお世話になった結婚相談所の所長である女性が登場するあたりから。
婚活とは。成婚にたどり着けるのはどんな人か。所長の穏やかだけれど厳しい観点で語られる現代人の気持ちのありようが急にまざまざと浮き彫りにされる。正直、ここは怖かった。
みんな不安ながらに頑張ってるのになぁ、と。

ここでタイトルにもある『傲慢』と『善良』というキーワードが初めて使われ、この先は頻繁に使われるワードとなる。正直に言うと、結婚相談所のシーンで頻繁に使われて以降は読み手も意識してしまい、さらに最後までターニングポイントで使われているワードなので、少し重い気もするし意識しすぎてしまうのかも。作者がどうしても強調したかったワードなのかもしれない、とも感じるけれど。どうなんだろう。

彼が彼女の過去を探り終わる頃から、どうしても読み進めるのが難しくなってしまった。分かりすぎる。これまで自分のことを何とかして隠して正気を保ってきたのに、まざまざと見せつけられる。辛すぎた。
誰にも言わない、見ないふりをしてきたから今がある。
彼の女友だちのやり口とか最悪!と思うけれど、否定される彼女のような行動を分からなくもない。きっと、たくさんの人が辿ってきた。
そして、最悪と思った女友だちの行為もきっとたくさんの人がやってきている。大したことじゃないの、と言いながら酷いことをしている。
どちらもわかる。悪気もなくどっちもやってる。
こんなことを明らさまにして!何してくちゃってんの?と、本当に心底思った。
言語化せずになかったことにしてきたことだ。
だから読み進めるのが怖かった。

最後まで読んで、タイトルにある傲慢さと善良さは自分にもある、と確信した。きっと誰にでもある。過干渉の親のもと、田舎の風習の中で生きる生きづらさと安心感。都会の気楽さと鋭い刃のアンバランスさ。したたかに生きることと良民でいることの不公平さ。
ほんっとに後半は自分の人生の回顧録のようで、つらかった。

主人公である彼女の経験値を増して強くたくましくなっていく姿は頼もしい。急にどうした?と思うほどの急展開。
この小説を読んで、単純に一人の女性の自分を取り戻す旅と気持ちよく終われないのは、おそらく彼女の自己との対峙に苦しんだ部分を、まだ自分自身は脱却できていないからなのだと思う。

大人になってから辻村深月の書籍を読み始めた。
どれも心の奥に刺さる棘を刺激するようなものだった。
けれど、自分の過去に照らしあわせることがある内容でも共感しながら、自分にはない視点を面白く思い読み進めてきた。
だが、この作品は読み進める手を何度も止めた。辛くて怖かった。
この人は、自分と他者の弱い部分を見つけるたびに手中に収めているんだろうな。とてつもなく恐ろしいことだな。知らなければ良いことも山ほどあるだろうに、どうして書くのだろう、と不思議に思った。

他人と関わる、深い話をすることはきっと苦手だ。
でも興味もあるし、相談だってしたい。他人に助けてほしいと思う。
そんな時に、いつだって本の中のたくさんの登場人物がアドバイスを、経験談を、後悔を、喜びを与えてくれている。なんでもくれる。

人と関わることをセーブしているこの期間。
本を読むことは自分を傷つけることもあるし、助けてくれることもある。
傷つけば、自分にあったペースで、時間をかけて関わることができる。
いまの自分には最適な人間関係を持てている。
…のかな?

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