ブラックジャックで人生狂わされた

皆さん、ブラックジャックはご存知でしょうか?
トランプゲームではなく、手塚治虫が描いた漫画です。

言わずと知れた名作ということもあり、私はこの事をいうのが信じられないほど恥ずかしいのです。
漫画好きに言うともなれば、はぁ、それは誰しもが思う名作ですよね?と言われてしまうのが目を見える。
だから、必死に隠していた。好きな漫画と聞かれたら、無難を答え続けてきた人生だった。
けれど、心を許した友達に、踏み出して話してみると意外とそんな対応ではなかった。ブラックジャックがそこまで好きと言うことに驚かれる事が多く仰天した。
図書館に当たり前に置いてあるし、誰しもが通る道だと信じていたからだ。
そんな私の隠していたブラックジャック経歴について話していこうと思う。 

遡ること、幼稚園時代ーー。
私は内気な少女だった。イラストを見るはかなり好きだったのは覚えているが、描く事をそこまでしていた記憶はない。
漫画を読む機会は、父親が買ってくる幼稚園児向けの雑誌程度だった。
子供向けと言うこともあり、内容は極めてシンプルだったのを覚えている。
ひねりも何もないので、こんな漫画が雑誌に載るのか!と大層驚いたのを覚えている。
そんなスカした漫画への評論を持った園児だったのを覚えている。
だが、そんな思いはすぐに打ち消されるのだ。

そう、ブラックジャックをとってしまった瞬間。
母親に連れられた公共施設で、本棚から何気なく取ったのが運命の始まり。
ぺらりとめくったページのスピードがどんどん上がっていく。
ページをめくっていく自分の手が止まらない。いつもなら、読みながら自分の考えが湧いてくる。しかし、映画のフィルムの様にノンストップで進むストーリーに釘付けでそれどころじゃないのだ。
「なんなんだこれは…!」とのめり込んでいく自分。まるで、自分を空の上から眺めている感覚がしたのだ。幼く、言葉の待ち合わせもあまりない自分で形容できないほど圧倒されたのだ。
あの状態は、ゾーンに入っていたと言っても過言ではないだろう。
これを描いているのが手塚治虫。
これから私のブラックジャック人生の始まりだったのだ。


ーーー

いつもは一過性でタイトルすら覚えてない漫画という存在を、ブラックジャックという作品が私の心へ激しく爪痕を残したのだ。
初めておばあちゃんが本を買ってあげると言った時に、私は真っ先にブラックジャック1巻をおねだりした。
1巻はそれはもう、毎日大切に何十回、何千回と繰り返し読んだ。私はブラックジャックの虜になっていたのだ。 
ブラックジャックが公共施設にあれば、真っ先に手を取った。自分が知らない話が乗ってないか、必ずチェックした。それほど私の人生の中心だったのだ。
おばあちゃんにもらった1巻以外にも、どうしても続きが欲しい。
そこで私は誕生日、クリスマス、全てをブラックジャックを集めることに注いだ。
後にも先にも、こんなに月日をかけて欲しいと思った漫画はこれしかない。
そして毎晩毎晩、ブラックジャックを読むことに時間を割いた。
そこから、私もせっせと惜しみなく漫画を描くと言う事にもハマっていったのだ。
昼間は空き時間があればすぐに漫画を描いていた。どんな短い時間でも。
そして寝る前はブラックジャックを読んで眠る。幸福感を果てしなく感じて眠るのだった。


ーーー


しかし、私はブラックジャックを読むことも、漫画を描くこともパッタリと辞めてしまった。
明確な理由は分からない。しかし、両親からオタクくさいことに関して、激しく否定された事があったり、周りがブラックジャックを受け入れない人が増えたと言うこともあるだろうが…。
何か忘れてしまっている感覚
何が満たされてない感覚
そんな物を持ち合わせながら私は成長していった。
でも「何か」は分からない。
けれど、みんな抱えてるものではないのか?
そんな欠けた私で日々を過ごしていた。

ーーー

どんどん時はすぎ、私は社会人という年齢になり、新しいことに忙殺していった。
新しい世界では、沢山の仲間もいて、辛いこともあれど楽しいことも沢山あった。
仕事の評価も良く、驚くべき事に表彰されたりもしたが、私はちっとも嬉しいと思えなかった。
自分がやってることが、自分の幸せに繋がってないと思っていた。
徐々に自分と折り合いがつかなくなっていき、私は仕事を辞めた。

自分が何をしたいのか、よく考えたいと思った。こうしよう、ああしようと浮かんでいたのだが、ある日を境に私は思考が止まってしまった。
単純な作業を行いたいのに、どんな手順かすぐに浮かばない。単純なのにミスをする。どうしようもない過去の記憶が何十回もリフレインする。私は孤独なんだ…などなどネガティヴに囲われたのだ。
何を行動しても、全てネガティヴに苛まれる。いっその事自分が消えたら楽になれるのかな…そんな風に思えてしまうほど。
どんしたらいいんだろうーー。
ここで冒頭へと戻るのだ。
友達にブラックジャックが好きだったとふと話したのだ。
長年の友だが、恥ずかしくて話せていなかった部分。どういう話で出たのか覚えていたいが、確かに告げたのだ。
否定されると思ったが、「ブラックジャック好きなのかっこいい」と褒めて受け入れてもらえたのだ。
ああそうだ、私はブラックジャックが好きなんだった。と胸を撫で下ろした。

ーーー

その次の日、私はブラックジャック1巻を手に取った。
実は、ブラックジャック全巻揃えていたのは、もうこの1巻しかないのだ。
揃えたのは、20年ほど経っているので黄ばみもあるし、ボロボロだった。
再度集めるだろうし、と1巻を残して全て処分してしまったのだ。
でもあれは多分、好きだからこそ向き合いたくない恐れもあったのだと感じる。
1巻を手に取った私は、意を決してページを捲る。ああそうだ、「医者は誰だ」から始まったんだよな……。

読みながら私は号泣した。
理解できたからだ、なぜブラックジャックが好きだったのかを。
ブラックジャックの持つ果てしない孤独、他人には理解されない熱い心……深い闇を持ちながらも懸命に生きる姿勢……。
私はブラックジャックもとい、この作品を作り上げた手塚治虫含め、愛していたのだ。

私の人生はこの漫画に出会うためにあるんだな。この漫画を軸に、深く人生を考えていきたい。好きだから怖くて向き合わないなんて事はしたくない。
どうか、皆んなも振り返ってみて欲しい。
なんとなく生きているのではなく、自分の人生について考えてみるのだ。
貴方の「好き」が、貴方の人生に激しい影響を及ぼしているであろう。

自分にある深い孤独感などは、ブラックジャックの影響なのかもしれない。ずいぶん生きづらい人生だと感じた。
私は手塚治虫に会ったらこう言いたい、

「私の人生、ブラックジャックに会ったお陰でめちゃくちゃです!どうか、責任をとってください」

そして、先生の作品を身近に見せてくださいと。

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