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雨あがりて #15

#真夏の怪談まつり2024
参加 創作ホラー話し

☆-HIRO-☆ 第15話
2024年7月31日(水)


前回のお話し


第15話 よく晴れた日

博多朗は昨晩よく眠れたようで、早朝にパッと目が覚めた。
起きてすぐに顔を洗い歯を磨いているとユキが足元に来て体や長いシッポを擦り付けてくる。
「お腹が空いたんだね」と声をかけ、台所に行き、器を洗ってタップリの水とドライフードも多めに入れてやった。
それからシャワーを浴びて着替える。朝食は軽くトーストとハムエッグで済ませた。
御守りをどうやって持って行くか少し考え、旅行カバンから首から下げるパスポート入れを取りだした。これなら途中落とす事もないだろう。縦縞のシャツとジーンズ、デイバッグを背負って細々したものは大きめのウエストポーチに詰めた。一応雨は降らないようだが、レインウェアもデイバッグに詰め込んだ。よし、出発準備完了。バイクも点検しよう。

バイクは郵便局の払い下げ。出入りのバイク屋さんに頼んで簡単な塗装をして貰った。そのままの色では使ってならない規則になっていた。
座席シートを跳ね上げて燃料は…よし半分以上ある。この手のバイクは恐ろしく燃費がいい。
座席シートの下だけは元の赤い色になっている。オイル交換して間がないからエンジンも大丈夫だろう。エンジンをかけると快調に動いてくれた。タイヤの空気圧も問題なしだった。

さあ出かけよう。今日も陽射しは強いが風切るバイクは気持ちがいい。スピードは出さず、のんびりと向かったが、昨日よりペースは早い。やはり街中を抜けて行くのはバイクの方が早いようだ。目印にしてたドラッグストアから左に入り、やがて海岸沿いに…昨日とは打って変わって目の醒めるように蒼い海、沖合を貨物船がのんびり航行していく。
海からの潮風で強い陽射しも気持ち良く感じた。すぐに烏帽子のような山が見えてくる。

その先を右に入り進む。鳥居の手前で一旦バイクを停めて一礼、一服してから本院に向かった。

本院に着き、入り口右手の自転車、バイクのスペースにバイクを停めた。他にバイクが1台停めてあるだけだった。
入り口から入ると、まだ早いせいかそれほど人はいない。
受け付けに診察券を出し、呼ばれるのを待つ。呼び出されるのは昨日よりも全然早かった。
「今日は検査説明が担当医からあります。9時になりましたら2階のCー1の部屋へどうぞ」と言われた。
ファイルを渡されたが今日は「9時検査説明(C-1)→会計へ」と書かれた紙が一枚入ってるだけだった。

“ええとCー1てどこだろうか…”
館内案内図を見ると二階に上がって、駐車場側の窓際に小部屋が並んでいる。その一番左側のようだ。

エレベーターで二階に上がり、下りてから後ろに回る。正面に天井から「カンファレンス ルーム」と案内板が下がっていた。

まだ30分以上早いが、どんな部屋だろうと見に行った。
Cー1と表示された部屋は大きく扉が開かれたままだった。誰もいないようなので勝手に入っていった。
入って左側には大きなモニターのある机があり、部屋の真ん中には大きなテーブルがあり、両側に3人づつ座れるようになっている。
治療計画の説明や入院時の相談事などを話し合う部屋なのだろう。
テーブルの奥には間仕切りがあり窓は見えないが電灯を点けなくても部屋は十分明るい。
窓際に行って駐車場を眺めてみた。駐車場には徐々に車が埋まってきており、来院者が増えつつあるようだ。“早く来て良かったな”と思いながら、のんびり涼しい部屋から外を眺めていた。

足音がして人が話しながら入ってきたようだ。
「でもノイズが出てるからって、診断ができない程のものじゃないんでしょう?…」
「はい、その点は差し支えないと思いますが…」
「だったら気にする事はないですよ。君達は技術的な事で気になってしまうのだろうけど…私らはちゃんと画像が見られれば何も問題はないのだから…」
「はい、済みません…何か問題ありましたら連絡して下さい」
医師と検査技師が話してるみたいだった。技師はそのまま戻って行ったとみえる。医師と思われる人がモニター前に座り画像データをセットしてるようだ。

わざと物音がするように間仕りを回って顔を出し声をかけた。
「おはよう御座います…こちらに伺うよう言われた洲崎です…早かったんですけど、扉が開いてたんで先に入って外を眺めてました…済みません…」
医師は一瞬身構えたように見えたが、すぐに穏やかな笑顔で話しかけてきた。
「おやおや少し驚きましたな…扉が開いてたんなら仕方ないか…まあそちらにかけてお待ち下さい…」

博多朗は医師の背中の斜め後ろ、モニターが見える位置に座った。
画面が自動的にスクロールされている。確かに画面が時々白く光っている。医師は大きな独り言で…
「ははあ、コイツかぁ…なんて事無いじゃないの…」と呟く。
その次にマウスを使ってゆっくりと画像を流して見ていく。体の各所に異常はないか、しっかりチェックしてくれてるようだ。
白く光るノイズの所で手を止めた。遠目に見ると博多朗には鬼が顔を歪めてるように見えてドキッとした。
「フムフム、問題はありませんな…」
医師はそう言うと、各種検査報告書に目を通し始める。

しばらくして、医師は立ち上がり博多朗の前に座る。検査報告書の写しを数枚手渡してくれた。
「結論から申しあげて…医学的にはどこにも気になる異常は見当たりませんでした…検査結果もすべて基準値内に収まっています…今回のあなたの不調は…おそらく日常生活での疲れとかお仕事でのストレスとかが積み重なって…体がもっとのんびりしなさいと訴えてたんじゃないかな…もしまた具合い悪くなったら診療所行って薬を処方して貰って下さい…今日のところは薬をお出しするまでの事もないようです…」

博多朗は気になっていた事を恐る恐る尋ねてみた。
「先生、医学的な事以外でお尋ねするのもどうかとも思いますが…実は昨日、石野先生からも聞いたんですけど…ええ、治療としてではなく…いわゆる邪鬼の災いなんて事もあるらしいですね…」

医師は目配せすると声を細めて話しだした。
「ええ、ええ、診療所から昨日の経緯も、今朝石野先生からも詳しい話は聞いてます…でもあなたの場合は大丈夫…近寄ってきたのは力のない駆け出しクラス…さっき画像で見たのも…逃げ出す寸前の苦しみもがく様子でした…今のあなたを視た感じでも…もう災いの元は退散してるようです…安心して貰って結構ですよ…」と大きく頷いて見せた。
実感は無かったのだがこの言葉で博多朗はホッとした。

医師から報告書を書くので少し待つように言われた。向かいの机に座り書類を書きだした。
「はい、ではこれを診療所に届けて下さい…別に郵送でも構わないけど…家から近いんでしょう…医者というのは結構心配性で元気な顔を見せて上げたら落ち着くもんなんですよ…」大きな声で笑いながら手紙を渡された。

お礼を言って頭を下げ、部屋を後にして会計に向かった。

その後、談話室でアイスコーヒーを飲みながら…“よし、お参りして来よう、それでもう怖いもの無しだな”と思うとなんか笑えてきた。


次回は第16話「神社へお参り」
ご期待下さい。

#創作大賞2024 #ホラー小説部門









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