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雨あがりて #16

#真夏の怪談まつり2024
参加 創作ホラー話し

☆-HIRO-☆ 第16話
2024年7月31日(水)

前回のお話し

第16話 神社へお参り

本院を出て神社の石段前までバイクで向かう。大した距離ではないが本院前に停めたままもマズいかなと思っての事。

神社石段の手前は狭い道があり、右に進めば参拝者用駐車場との案内板があり、左は袋小路になっている。左側の隅にバイクを停めた。デイバッグは雨具しか入ってないので置いていく。

見上げるばかりに背の高い杉に囲まれ、石段が真っ直ぐに伸びている。辺りは静まりかえり少しひんやりとした空気を感じる。
長い石段を登っていく。結構、足が疲れて途中で一休み。“やれやれ、運動不足がたたってるな…若い時はこれくらいの階段など駆けのぼって行けたけど…なるほどこりゃあ、お年寄りがお参りするには難儀するだろう…”
またゆっくりと石段を登り、やっと上まで登りきった。
振り返って見ると杉の木の間から、真っ直ぐの道が海まで伸びているのが見える。いい眺めだった。

一休みしてから先に進む。参道は途中で折れ曲がり、その先でまた同じ方向に進む。
このような参道は他の神社にも見られるが、何故だろうと不思議に思っていた。ある者が「邪悪な物は真っ直ぐにしか走って進めないので、入って来られないよう、わざと曲げて作っている」とシタリ顔で言ってたが本当なのだろうか。

その先、また大きな鳥居をくぐり楼門の前に出る。楼門前で一礼し本殿前に進む。
左手に社務所があり、巫女さんがこちらを向いて座っている。その前まで言って声をかけた。
「あのぅ…災厄払いと言うか…護符を頂きたいのですが…」
「それでしたら、こちらへご住所、ご氏名、年齢を書いて神様に願い出る内容をお書き下さい…最後にお納めいただく初穂料の金額もお書き添え下さい、…」
「ははぁ…初穂料とはお幾ら納めればいいのですか…」
「如何ほどでも…あなたのお気持ちのままで…」
ふと前の案内を見ると「ご祈祷料三千円より」と書かれていた。よく分からないが五千円も出しておけばいいかなと判断した。

申し込み書を出すと本殿脇の待ち合い所に案内される。テーブルを挟んで椅子があり、手前の椅子に腰掛けた。テーブルの片隅には硯箱が置かれていた。暫く待つと神職らしい人がやってきた。
「本日はご参拝お疲れ様で御座います…今日お出でになられた訳と気になる事がありましたらお聞かせ下さい…神前に供える書状をしたためます…」
博多朗は一昨日、駅前診療所にあった祠の前で雨宿りし、不吉な視線を感じた事まで遡り、昨日一日の出来事を話した。
「昨日は下の病院で検査を受けて来ました…関係者から一度こちらへお参りしてお祓いを受けて来るようにと勧められました…先程、検査結果を聞いて来ましたが、体には特に異常は無いとの診断でした…」
一通り話すと、神職の人は紙を出して硯箱から筆を取り、すらすらと達筆な文字を書き込んでいく。
博多朗には自分の名前と「右の者…」と書いている所しかよく読み取れ無かった。
「それでは後ほどお声がけするまで暫くお待ち下さい…」
神職の人が出ていくと代わりに巫女さんが来て麦茶を出してくれた。よく冷えていて有難たかった。一人で手持ち無沙汰になり、スマホを取り出して天気予報とかニュースに目を通す。今日は一日天気で、やはり雨の心配は要らないようだ。

何分ほど経っただろうか、博多朗は眠くなりウツラウツラしている時、呼び出されて本殿の中へ通される。
祭壇の前に椅子が置かれていてそちらに掛けるように言われた。

神官が左の戸から入ってきた。先程応対してくれた人だ。紙を恭しく押し頂いている。それを前の壇に置く。そこには一片の紙札のような物も立てられていた。

横で太鼓が鳴らされ始めた。“どどん どどん  どどん…どどどどど…どどん どん どん…」
博多朗は頭を下げて聞いていた。大きな音だが単調なリズム、神官の奏上する声も聞こえてくる。
博多朗の意識がスゥーッと遠ざかる。もしかして単にまた寝てしまっただけかも知れない。

白く大きな光が目の前を回っている。その光からは幾筋もの光の流れが放射状に放たれている。
“なんかミラーボールの強力版みたいだな…”と思ったが、自分でも不真面目過ぎると思い目線を下げる。
見ていなくても、光が辺りを射抜くように回っているのが感じ取れた。“凄いなあ…これが神の威光と言う物なのだろうか…昨日見た篝火でもあの状態なのだから…こんな光に晒される所になんか鬼はとても近づけまいな…」
夢とも現実とも区別のつかない異空間の中、そう考えていた。

「どどん どん どん…」
唐突に太鼓の音が止み、博多朗はハッと我に帰る。

神官はしずしずと下がって行く。
後ろから巫女が現れ、
「それではまた先程の待ち合い所でお待ち下さい…」と告げられた。

待ち合い所に行って腰掛けると、また巫女さんが麦茶を持って来てくれた。
程なく神官が来て一礼する。博多朗も立ち上がって一礼し…
「どうも有難う御座いました…」と礼を述べた。
「まあ、お掛け下さい」
一息ついて、神官が話し出す。白い大きな封筒を手渡されて…
「これはあなた様の身を護る護符となります…お宅の玄関に向いた壁の高い所か、居間の高所にお貼り下さい…一日一度、朝がよろしいかな?声に出して今日も御護り下さいと申し述べて下さい…」
「あのう、昨日下の分祀堂で御守りをいただいたんですが…一緒に持っていても大丈夫ですか…」
「ええ、それは構いません…御守りの方は普段持ち歩けば、外でのあなたを様々な事から護ってくれるでしょう…万一、邪悪な物が付いて来ても、家に帰れば護符が退散させる事でしょう…」
「分かりました…今日は本当に有難う御座いました。お陰様で安心できました…」
「それでは、少しゆるりとされてから気を付けてお帰り下さい…」
神官が部屋を出て行く。博多朗はまた立ち上がって頭を下げた。

麦茶を飲みながら博多朗は考えていた。“まだお昼を少し回ったばかりか…今日のうちに本院の手紙を届けておこうか…木俣さんに昨日のお礼も言っとかなきゃな…しかし、お腹も空いてきたな…途中で何か食べて行くか…”そう考えると早く何か食べたくなり、麦茶を一気に飲むと部屋を出た。
巫女さんは同じ所に外を向いて座っている。
「お世話になりました」と声を掛けて行った。

晴れやかな気持ちで石段を下りて行く。目の前の景色も良く、清々しい気分だった。石段を下りきって
停めてたバイクに乗り、来た道を戻って行く。
海岸沿いに出ると、また違った景色で、風も気持ち良かった。

国道沿いに小さな中華料理屋さんを見かけ、ここで食事をとった。
注文したのはラーメン、餃子に半チャーハン。町中華に行けば大抵いつもこのメニューを選んでいる。
ラーメンは思ったより美味しかった。餃子もまずまず、チャーハンはしっとり系でいい味を出している。このお店の味は気に入った。また次、近くまで来たら寄る事にしよう。思わぬお気に入り店発見に楽しくなった。

満腹になり店を出る。アイスコーヒーでも飲みたい所だが、あまりのんびりしてたら、すぐ時間が経ってしまうと思い、真っ直ぐ診療所へ向かう。


次回は第17話「再び診療所へ」
ご期待下さい。


#創作大賞2024 #ホラー小説部門
















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