見出し画像

夫婦の挑戦の物語。〜ゼロから開業までの道のり編 〜episode1〜

「どうしてこう理不尽なの?」

妻は珍しく私に愚痴らしい愚痴をこぼした。

「本当だね、でも残念ながらどこでもそういうものだよ、君は間違っていないよ」
私が妻に返した言葉は、まるで私自身に向けているようだった。
妻はため息まじりに、腹立たしさと諦めの感情がまだ消えずに残っているようだ。

私は続けて妻に言葉をかけた
「君はそんなところにいるべきじゃない。君の能力はもっと生かされるべきだよ。そういえば、自分のお店やりたいって言ってたよね?やろうよ」

私の言葉は妻を困惑させた
「え?どういうこと?」
「君は自分のお店を持つことが夢だったんだろう?それを叶えよう」

「そうだけど、酔っ払ってる?冗談でしょう?」
妻は信じられないと言った表情で、困惑した笑いを浮かべながら食卓に夕飯を運んだ。

今日の夕飯は
「ブロッコリーとアボカドとトマトのマリネ」「ピリ辛よだれ鶏」「イカゲソと大根の煮物」「手作り豆腐」

私は妻に言った
「酔っ払ってなんかいない。ほら、こんな素敵な料理は家庭だけで完結させるのは勿体無い。もっとたくさんの人に食べて喜んでもらった方がいいよ」

妻は頰を少し赤らめ、はにかみながら答えた
「ありがとう。つい最近もね、仲のいいママ友に料理が美味しいって褒めてもらったの。お店の味みたいって。お店できるよって」
「よし、決まりだ。」
「けど、、、そういえば、あなたも自分のお店をやりたいって言ってたよね?やるなら一緒にやろう」
「もちろん、そのつもりだよ」
「本当っ?」
妻は少女のような無垢な笑顔で喜んだ。

私は続けた
「最近は責任ある仕事も任せてもらっていて、今の仕事にやりがいも感じていた。でも、このままでいいのかなって、たまに思う時もあった。自分の本当の気持ちに蓋をしていたところがあったんだ。そうだよ、今が進むべきタイミングなんだよ、僕にとっても、君にとっても、きっとね」

「うんっ!」

妻は嬉しさのあまり、2歳の息子のもとへ走っていくと、息子のほっぺたを両手で包み込み、
「やったよ〜!お店できるよ〜!嬉しいね〜!」
と息子の顔をくしゃくしゃにしながら笑いかけた、息子は何処吹く風といった表情で、母親にほっぺを触られていることに喜んでケタケタと笑っていた。

私はその光景を見て微笑みながら、発泡酒をグイッと喉に流し込んだ。「よ〜し、そうと決まれば早速動き出すぞ。まずは乾杯だ」

妻と私のコップには発泡酒、息子のコップにはオレンジジュース、
「僕らの門出に乾杯!」
3つのグラスが小気味よい音をたて。

この時が2019年10月。ここから、止まっていた僕らの時間が一気に流れ出す。もちろん、問題は山積みだ。資金、場所、内容、等々。しかし、この時の私たちの前にはそれらの問題は、まるで新婚旅行の計画を立てるかの如く、楽しみ以外の何物でもなかった。

2020年12月10日のオープン日まで残り14ヶ月。私達夫婦と息子の挑戦が幕を開けた。

何かを始めるきっかけやチャンスはそこら中に転がっている。もしかしたら自分の言葉の中にも。

続く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?