見出し画像

読書感想文~『正欲』朝井リョウ~

今回は、昨日読み終えた小説の感想を書き留めたいと思います。
私のNoteのテーマである他者の幸福について関連する非常に興味深い内容でした。

僕らはあまりにも違う生き物だけど、一つになろうとする

世の中には「こうあるべき」という常識がある。欲望も「性欲はこうあるべき」など一つの尺度で語られる。それが「正欲」だ。

主人公たちは、いわゆる「異常性癖」の持ち主で、「普通ではない」ものに性的興奮を覚える。自分でも自分が気持ち悪い。それでも生理的なものだから止められないのだ。

まっとうに生きたい。「皆」がいる社会で、「皆」と同じものを欲して生きたい。その切実な孤独感、社会と繋がれない絶望感が生々しく描かれる。

「多様性」が称揚される現代でも、それが定義するものから溢れてしまう人たちがいて、彼ら彼女らは今でも周囲からの「お前はこの社会にいらない」という視線に怯えている。

「多様性」は、結局これまでの常識からそれほど離れない範囲内で定義されている。結局、異性愛が前提で、同性愛が少し居場所を認められ始めて、だけど物に性欲を持つなんて言うのは論外、気持ち悪い。

僕らは「普通」じゃないことが怖い。でも、そもそも「普通」の人なんてどこにいるんだろうか。僕らは一人一人があまりにも違っている。人には言えない「異常さ」を誰もが持っている。その限りでみんな孤独で社会に受け入れられなくて苦しんでいる。

そんな自分の「異常さ」を受け入れた時、きっと他の誰かの「異常さ」も受け入れられる。そんな一人一人の気付きから、今よりもマシな多様性が広がっていくんじゃないかと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?