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「暮れ六つ時は銀の雨」という漫画

実家に帰ると本棚をたまに漁ることがある。
懐かしい本や漫画があるからだ。

その中に、岩館真理子さんという漫画家の方が描かれた漫画が数冊ある。
母が青春時代に好きだった漫画のうちの一つらしい。

とにかく、登場人物の女の子が可愛らしい。キラキラした瞳、だけどどこか儚げで繊細さや優しさをも表現している絵柄が私も大好きだ。


その中の作品の一つ「暮れ六つ時は銀の雨」(「ガラスの花束にして」に収録)を紹介したくなったので勝手に書き綴ろうと思う。



新人賞を取ったばかりの駆け出しの25歳の作家・聡は、噴水の見える公園でいつも自分を遠くから見つめる少女(麻子)からラブレターを渡される。
そこには
「いつか貴方のお嫁さんになって、貴方の子供を産みたい」とのメッセージと共にデートのお誘いが。
あまりに大胆なラブレターに戸惑う聡であったが、遊び半分でデートすることに。ラブレターとは裏腹に一途で天真爛漫な彼女の姿に次第に心奪われていく聡。

しかし聡にはすでに彼女(愛子)がいる。
現実主義な愛子に対し、作家の道を応援する明るく純粋な麻子。聡の中でどんどん麻子の存在が大きくなる。

ある日、ひょんなことから麻子が実は中学三年生と知る。聡は「子どもは相手にできない」と振るが、心の中は既に麻子のことばかり。次第に愛子との仲もうまくいかなくなり破局してしまう。

愛子が去った後、そこに現れたのは制服姿の麻子。今度こそ等身大の自分の姿で真面目なラブレターを書いてきた、と聡に思いを伝える。
聡は考えた末、「君のことをいつか一人前の大人として見られる時が来るまで、待つ気があるかい?」と麻子に問いかける。
「はい」と素直に返事をした麻子は、その後忠実にその約束を三年間守り続け、高校を卒業した後めでたく聡と結婚する、という物語である。



この漫画が好きな理由はストーリー性もさることながら、漫画の雰囲気や絵柄が素晴らしい。噴水や夜の海岸のシーンから感じる湿度感、瑞々しさ。

そして麻子のキャラクターも可愛らしい。
麻子は最初年齢を偽り、タバコもプカプカ、お酒も強いなど同年代の女の子たちよりは不良っ気がありながらも中身は純粋でまだまだ子供っぽさも見え隠れする。

特に印象深いセリフが
「聡さんがこの先、たとえ三文作家になり果てても、中年太りになってもハゲになっても変わらずに好きよ」というもの。
なかなか15歳の少女が言えたもんじゃない。
いや、15歳の少女だからこそ出た言葉なのかもしれない。


大人になれば将来性や今後の安定など、未来への不安を考えがちだ。
私も次第に「愛子」のように現実面ばかりに左右されていたように思う。

だが、麻子の「今」を楽しんで生きる姿、好きな人に思い切りアプローチする大胆さやお茶目さ。そういった純真無垢な少女の気持ちこそ大切にすべきなんじゃないかと気付かされた。

この「今」という瞬間を大切にしてこそ、未来に繋がっているのだから。


麻子のように大胆なラブレターを書いたり、彼女のいる人にちょっかいを出したりはできないが、麻子のような明るさ、真っ直ぐさを自分の心の中にいつまでも住まわせておきたいと思うこの頃である。


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