閑話休題「おばあちゃんの青汁」
田舎の大家族の中で暮らした子供時代。学校から帰るとよく祖母の青汁作りを手伝いました。
明治生まれの祖母は歯を磨くのにも歯磨き粉をあまり使わず、粗塩で磨いたりする様な人でしたが、そのお陰なのか死ぬまで入れ歯の要らない人でもありました。
その祖母がいつも私が帰ってくるのを待ちかねたようにして青汁作りを始めます。
材料は、だいたい家の周りに生えている雑草達の中から調達するのですが、一番多かったのはハコベです。
ハコベラとかヒヨコ草とも言いますが、春の七草の一つと言えば分かりやすいでしょうか。
この草はそれこそ何処にでも生えている様なありふれた草でしたので探すのにも苦労しません。
祖母と一緒にザルを持って裏庭あたりに出てハコベを摘むのですが、あっという間にザル一杯に収穫出来ます。
それを冷たい井戸水で洗ったら、適当に短く刻み、すり鉢に入れて摺っていきます。
ジューサーやミキサーの様な気の利いたものはありませんでしたから、すり鉢でペースト状になるまで気長に摺り続けます。
私の役目は、すり鉢が動かないように両手で支える事でした。
祖母は長い擂り粉木を上手に使って手際よくハコベをドロドロになるまで摺っていきます。
出来上がったハコベのペーストを、木綿の晒しで包んでぎゅっと絞れば青汁が出来るのですが、実はそれだととても不味くて飲めません。
それで祖母はいつもリンゴを別途摺り下ろして、それも一緒に絞って青汁にしていました。
リンゴが入ると甘くなって子供の私でも飲む事が出来ましたので、祖母に青汁を分けて貰っていつも2人で飲んだものです。
大人になり、ドラッグストアなどで粉末で売られている青汁を買ってきて飲んだ事があるのですが、飲んだ瞬間にリンゴを入れたくなってしまいました。
ところでもう何十年も昔になりますが、青汁のテレビコマーシャルに悪役で有名な俳優さんが青汁を飲んで「う〜ん、不味い」と言うCMがありました。
あのCMを見るといつも「美味しかったよなぁ、おばあちゃんの青汁は」と思ったものです。
実は現在私が住む大阪でも、よく探せばハコベを見つけることが出来ます。ただ、子供の頃の記憶にあるハコベよりも少し葉が小さく茎もしっかりしている感じがするのですが、ハコベにも色々種類があるのでしょうかね。
ところで今年の春に、空き家にしていた田舎の実家を整理した時に、その時に使っていた長い擂り粉木が出てきました。
長さを測ってみたら45センチもあるものでした。
こんなに長い擂り粉木など、持ち帰っても使う事はないと分かっていたのですが、思わず持ち帰ってきたのは言うまでもありません。
*アゼリアカルチャーカレッジ
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