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足りない時間

まだ子どもだった頃、
時間はいくらあっても足りなかった

一人で、友だちと、お父さんと、お母さんと

とにかく遊ぶことに、
時間はぜんぜん足りなかった

いつからか大人になった頃、
時間はいくらあっても足りなかった

仕事に、家事に、育児に、趣味に

とにかく生きることに、
時間は全然、足りなかった

遊ぶことは、生きることになった
それは、全てではないけれど

やりたいことが
やらなければならないことになった

夢中でしていた無駄なことが
必死でしている必要なことになった

時計も見ずに時間を忘れていた
今は時計を見ながら時間をわすれている

砂時計の砂が落ちていくことに夢中になれた
今は落ちていく砂を見てわすれた時間を思い出している

足りなかった時間は消えているわけじゃなく、
ちゃんと砂時計の下の方に落ちていた
それは変わらないはずなのに、
なぜか今は消えている気がする、
時間をどこかに失くしている気がする

時間はあくまで時間であって、
大切だなんて思っていなかった
失っていくことではじめて、
そんな時間を大切に思いはじめた

残された時間があまりに長く、
それが残されたものとすら知らなかった
残された時間は日に日に短くなり、
砂時計の上の方が下の方より少なく見える

いつまでも遊べた僕たちに、
終わりなんてなかった
いつまでも遊ぶことはできないと知った僕は、
終わりを自ら認めていた

子どもに戻ることは誰にもできない、でも、
もう一度、砂時計に夢中になることはできる、
かもしれない

足りない時間はいつまでも続く

もうすぐ終わる砂時計の砂を
夢中になってみつめてもいい

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