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一日一詩。

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言葉にできないコトバをことばにします。
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#私の作品紹介

【詩】僕は加害者

だって、きっと、僕だって、 同じことしかできなかった。 No なんて言えなかった、 実現もできなかった。 だから、僕は加害者。 失ったんじゃない、 追いつめたんだ。 壊されたんじゃない、 仕方ないと言ったんだ。 だから、僕は加害者。 できることって なんだろうか。 すべきことって なんだろうか。 わからないまま 生きている。 わからないから 生きている。 ほんとうのことが わかるまでは、 生きていないと いけない気がする。

【詩】鉛筆とボールペン

鉛筆とボールペン、それは僕の両足。 右足は鉛筆で、左足はボールペン。 太さも濃さも不規則な鉛筆は、 いつも僕の一歩目。 そんな一歩目を補うように、まとめるように、 次に続くはボールペンの二歩目。 こうして僕は前に進んでいく。 一本の棒は前には進まない。 肉体が中心から枝分かれしたおかげで 僕たちは前に進める。 感情の発露だけでもいけない。 整えられた合理性だけでもいけない。 僕たちはきっとこれからも両足で前に進んでいく。 いや、そうして進んでいくべきだ。 全自動前進装置に乗っ

【詩】距離

夕方 突然に輝きだした空 何もせず終わりかけた週末を 取り返そうとする私のよう—— その輝きは美しすぎた 心をよせた私の姿とは あまりに対照的なほど これまでの曇り空が、 急に苦節に思えてきて 絶望がそっと私に囁く 実際の距離と同じように ほのかに抱いた親近感が 劣等感へと伸びていった

【詩】部屋と二人

こんなに狭い部屋なのに 二人ではさらに狭く感じます。 あなたの布団は一人分なのです。 家賃を払っていなくても、 あんなに狭かった部屋が 今は布団一枚分、広く感じます。 家賃も払っていなかったし 私の生活は特に変わりません。 たしかに広い部屋だけど なぜか広すぎるように感じます。 私の生活が変わらなすぎたせいか 空いている場所がいつもあります。 こんなに広い部屋なのに 私の居場所は小さく感じます。 代わりにあなたの居た場所が とても大きく見えています。

【詩】知らずに歩いて

知らない町で知らない道を 目的もなく歩いていると 思うのです この道を右へ行くべきか左へ行くべきか そんなことに正解はないのだと おもしろそうな道を選べばいい 楽しそうな道を選べばいい なんとなく心惹かれる道を選べばいい 知らない町で知らない道を 目的もなく歩いていると 思うのです それでもなお、正解などなくても 人はどちらかを選び歩いていく 選ぼうとせずとも選んでいる 左に行けば出会えた人 左に行けば見られた景色 そんな可能性を知ることもなく 人は右の道を歩く

【詩】知らない人たちの密林

僕の周りには知らない人たち 知らない人たちが、たくさん、たくさん 見渡すかぎり、そればかり、そればかり 知らない人たちばかりがたくさん パソコンとにらめっこ知らないお兄さん 携帯とにらめっこ知らないお姉さん なにとにらめっこ? けげんそうな顔の知らないお母さん 会話の動きだけが見える知らないお友だちは口パクのエキストラみたい 皆それぞれの世界でそれぞれを生きている だから僕らは知らない人たち 知らない人たちの溜まり場 知らない人たちの行列 知らない人たちを捌く知らない人

【詩】電車のなかで

何も知らなかった頃 誰もが全てを知りたがった 電車に乗れば それはもう冒険で これから待ち受ける未知が 楽しみでしかたなかった 高速で通り過ぎる窓の外 動いてないのに動いている不思議 周りに座っている知らない人の奇妙 不定期に止まったり動いたりする意味 喋っている人がいないのに聞こえてくる声 いつ来るのか分からない終わり 全てが疑問で、 全てを知りたがった なんで?どうして?これはなに? 声をあげると優しくパパは注意する 「静かに」 目に映る全ての疑問に 僕は沈黙し

【詩】裸眼

僕は、目がわるいから 眼鏡をかけて視力を矯正している 僕は、頭がわるいから 勉強して頭を矯正している 僕は、性格がわるいから 怒られて性格を矯正している 誰しもわるいところがあって、 眼鏡をかけるだけで救われ、 努力するだけで救われ、 孤立するだけで、 救われる 裸眼で見る世界の生きづらさが 誰かのほんとうの生きづらさだとして だれがわるいか、ほんとうにわるいか

【詩】動く絵の具

絵の具が踊っている 四角い板の中で 美しく色とりどりに でも絵にはなれない ただ 動く絵の具

【詩】夜の散歩道

風呂上がりの火照った体を夜風に当てたくて こんな時間にまた靴下と靴を履く 夜道を好きな時間に歩ける平和を ありがたいものと感じてしまう哀しみ 視界の先には美しく橋を照らす街灯 辿り着くともといた所の暗さが美しい ないものねだり 夜の散歩道 まぶしいくらいに働く街灯のせいで 気づかれない今日の満月に気づく 満月がぼやっと霞んで三つくらいに見えるのは 弱い視力のせいか、薄い雲のせいか もしもでこぼこ道だったら五回は転んでいる ずっと満月を見ながら歩ける平らに感謝 終

【詩】ひとりぼっちのふるさと

ある日、消えたふるさと 突然、ひとりぼっちの私 みんなにはあるふるさと 私にはないふるさと 新しく出会うふるさと 私の義理のふるさと しかしそれでもふるさと ひとりぼっちではない私 ある日、思い出すふるさと 今、ひとりぼっちではない私 消えたふるさとはいま ひとりぼっちのふるさと 淋しかったのはまさか 私だけではなかった ふるさとだってきっと 淋しいひとりぼっち 忘れないよきっと 無くさないよきっと またいつかいっしょに すごそうふるさと

【詩】優しい人になるよりも

優しさという名もない花を 今日はいくつ見つけただろう 幸せという小さな生命を いくつ気づかずに踏みつけただろう 輝く太陽にはなれなくても 照らされていない輝きを 見つけることはできるかもしれない 優しい人になるよりも そこに優しさがあることを

【詩】変な人と呼ばれて

あの頃 僕は変な人と呼ばれていた でも、不思議なことに あの頃が人生で一番楽しかった 無理することもなく 気を遣うこともなく 自分らしくなんて考えもせずに 自分のままで生きていた 僕はどこからか 道を踏み外した いつの頃からか 僕は立派な人と呼ばれるようになった 不思議なことに その時は人生で一番しんどかった いつも無理をしていて いつも気を遣っていて 自分らしさとは何かをいつも考え 自分らしくあれずにもがいていた 僕は一度いなくなった 消えたように生きて 死んだように消

【詩】今日も描けなかった絵描きへ

真っ白なキャンバス 真っ黒な構想ノート 対照的な二つの鏡が 今日も描けなかった 僕を映し出している ゴミ箱へと向かう作品が 今日も山ほど出来上がった 一筆目が入れられない 一筆を入れるに値するだけの 奇跡が今日も起こらなかった 日に日に増えるゴミの山 何一つ生み出さずに 大量の何かを吐き捨てている なんとか奇跡を起こそうと 懸命に奇跡が起こるのを待つ 起こるから奇跡なんだ 起こせるならそれは神か天才だ 自分が天才でないことだけは いつしか自然と理解した だから奇跡を待つことに