Shine シャイン
オーストラリアの実在するピアニスト、デイヴィッド=ヘルフゴッドの半生を映画化した作品です。色々と脚色されているといった批判もあるらしいですが、私にとっては人生で一番感銘を受けた映画です。
初めて観た時からもう20年以上、これ以上好きな映画にはまだ出会っていません。
人に言ってもあまり良い反応は貰えないんですけど。
幼い頃から父の熱心な教育を受けてピアノの才能を発揮したデイヴィッド少年。
その才能に惚れ込んだピアノ教師やパトロンになってくれた女流作家の支えもあって、青年になったデイヴィッドは海外の音楽大学への進学を志望する。
しかし閉鎖的な考えの父がそれを認めなかった。
息子の自立を受け入れられない父。
結局縁を切るような形で家を出て大学に進学することに。そこで良い師にめぐり逢い、名声を手に入れかけたデイヴィッドだったが、ピアノに入れ込むあまり、コンサート中に倒れてしまい、脳に障害を負ってしまう。
退院後、父に連絡するも拒絶され、施設に入ってから家族は面会に来たが、父は一度も来なかった。
あの時反抗した事は許されない事だったのだと、心に傷を残してしまう。
それから何年も経って、色々あって現在。
随分歳も取って、一人で暮らす狭いアパートで、ピアノを弾くことも禁じられ、独り。ただただ思い出に浸り「自分は赦されないのだ。天罰が下ったのだ」と、そんなネガティブ思考を繰り返す。
この時の絶望感がヤバいです。
知的障害を負い、人生に希望は無く、自分を悲観する事も、自殺することもできない。、、、詰んでる。
失礼ながら、当時の私は、死んだ方がまだマシじゃないか?と感じました。初めて観たときの衝撃が忘れられません。
そんな彼に待っている結末。
彼の人生はその先も続きますが、映画の結末はハッピーエンドです。
泣きましたー。号泣。本当にいい話。
ここからネタバレ!
父親について、毒親だ!という感想はごもっともなんですけど、
父は息子を愛していたし、
息子も父を愛していたんです。
助けを求めた時に拒絶した父。
デイビッドの成功を知って現れた父。
その時の父親の心境はわかりません。
ただ、あの再会の場面で息子に拒絶された時に、自分の過ちを認めたんじゃないでしょうか?
自分本位な父の主張は受け入れられなかったデイヴィッドですが、父が大事な存在であることに変わりはないんです。
トボトボと帰る父の背中を窓から見つめながら「おやすみ父さん。」とつぶやく息子。
ラフマニノフは二人の特別な曲であり続けたのだと思います。
この父親の支配的な教育はもちろん好意的に見ることはできませんが、1つフォローしておくと、デイヴィッドの障害は先天的な原因によるものだと彼の姉が証言しています。
精神的に虚弱であった息子に対して、目的を持ってそう接していた可能性と、デイヴィッドの主観を元に描いた父親像であるという点は、踏まえた方が良いと思います。
結局二人の確執は解消されないまま父は亡くなってしまいます。
墓参りをするラストシーン。静かな空間の中で、そんなに長くない夫婦の会話。
冒頭でも流れる彼の特徴的な口調が、全く別物に聞こえます。
父親への複雑な気持ち。
歩み寄った父を拒絶した自分の仕打ち...。
断片的な彼の言葉が深くて!
達観した大人の知性と深い理解と愛情と寂寥を感じます。
論理的思考ができなくても、彼は全てをわかっているんだな。そう気づいた時の衝撃たるや。彼を可哀想な人と思ってしまっていた私はぶん殴られた思いでした。
ジェフリー・ラッシュはこの映画で主演男優賞とってますよね。納得の演技です。
ホント最高。マジ最高。
特にこのラストシーンは凄い。脚本がいいのか、監督が上手いのか、主演の演技か、
多分全部。
そして、ハッピーエンドの中にひとつまみ加えられたこのほろ苦さが、私にとって、他の映画作品との絶対的な差になってます。
「ジョゼと虎と魚たち(実写)」も結末が好きだったなぁ。
クライマックスのリサイタル。
集まった顔ぶれに、過ぎ去ってしまった年月を感じます。
スタンディングオベーションに涙するデイヴィッド。
泣ける!
先生がねー!涙
でも、観終わって思い返したときに、一番「デイヴィッド、良かったね!(涙)」と思うのは、やはり奥さんとの出会いです。
愛する伴侶・理解者を見つけた事が、彼の人生でどれだけ大きな事だったか。
恩師への手紙を二人で書くシーン。イイですよね。もちろん最後の会話も。
そしてその幸せを手に入れられたのは、他ならぬデイヴィッド自身の人柄、魅力、愛情があったからで、それは、父も含めた家族から受けた愛があった証です。
絶望的な人生を経た最高のハッピーエンド。亡くなった父へのほろ苦い想い。
ジェフリーラッシュの名演とヘルフゴッド氏本人によるピアノ演奏。
優しさや不安、色んな感情が入り混じったラフマニノフのメロディ。
デイヴィッドの人間的な魅力。
周囲の暖かさ。
あの終わり方。
全てが刺さって抜けません。
「Codaあいのうた」について書いたら、この作品についても書きたくなりました。
万人受けするのは間違いなくCodaですけどね。
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