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長月猛夫@官能作家
2023年3月25日 17:54
中小企業の経理課で働く西本は今年50になる。家族は妻と高校生の息子、中学生の娘。外から見れば平凡で幸福そうな家庭だが、女房はブタのように太り、化粧もせず、夫の前ではジャージ姿しか見せたことがない。子どもたちも、とくに不良というわけではないが、まじめだけが取りえで小心者の父親をバカにしている。西本にとって家庭とは、憩いや安らぎをおぼえる場所ではなく、単純に雨露をしのぎ、食事をして寝るだけの場所
2023年3月21日 20:13
コケむし、シダやキノコの生える巨木に身を横たえ、全裸のルカはポーズを取る。ときには触手のようにたれさがったツタに身をからませ、骨のない軟体動物や地虫の蠢く腐葉土に身体を沈めながらも、ルカは嫌悪の表情を浮かべない。それどころか、うっとりと妖しく淫靡な笑みをカメラに向ける。 まるでジャングルに巣くう、すべてに犯されているかのように。 カメラマンの飯田は、そんなルカを見ながらシャッターを切った。
2023年3月14日 20:24
小さな会社のオーナー社長として山本は生きてきた。小さな工場からスタートし、30年前に結婚した妻と、それこそ夜も寝ず、身を粉にして働いてきた。3人の子どももようやく社会人となり、長男と次男が経営を手伝ってくれることとなった。「これでもう、安心だ」 そう思った矢先、苦楽をともにした妻が帰らぬ人となった。心筋梗塞だった。 きれいな死に顔だった。長わずらいをしなかっただけマシだ、と周囲は慰めてくれ
2023年3月7日 16:17
両ひざをそろえ、ひざまずいた梨恵の鼻に、すえたたんぱく質のにおいが伝わってきた。唇に、奇妙なやわらかさと固さをともなった物体が当てられる。その尖端からはヌルリとした液がにじみ出し、粘り気のある感触が神経を逆なでする。「ほら、口を開けて」 梨恵はそれが何なのか、すぐにわかった。けれど、うしろ手に縛られ、アイマスクをはめられた状態では、太さも長さもたしかめるすべはない。「さあ、はやく」 梨
2023年3月3日 15:18
「じゃあ、あなたがお相手してくださらない?」 美奈子はいった。 平日の昼下がり。営業マンの松浪は仕事の合間を利用して美奈子と対座している。あちらこちらでチェーン展開を行う喫茶店。スペースも広く、二人の姿は別段目立ったようすもうかがえない。「え……、そ、それは……」 狼狽する松浪は、今年で30歳ちょうど。半年前に3つ年下の妻と結婚し、仕事も順調だ。本来ならば、松浪にこのような場所で時間を