「ベターなニーズ」と「ディファレントなニーズ」

またしてもニーズ/ベネフィットの話を書きます。

今日の話は、ニーズには「ベターなニーズ」と、「ディファレントなニーズ」がある、という話です。多くの場合、トップシェアを取るブランドは世の中で最初に「ディファレントなニーズ」を押さえたブランドです。

「ベターなニーズ」とは「より美味しく」「より早く」「より白く」といったように、「同じ価値基準の中でより上を求める」ニーズです。一方「ディファレントなニーズ」は、「(今まであった価値基準とは)別の価値」を求めるニーズになります。あるカテゴリでひとつの価値基準ができると、その中で「よりベターなニーズ」を満たすブランドが世に出ます。そしてその状態がしばらく続くと、突然それまでとは違う「ディファレントなニーズ」を満たすブランドが現れ、そのブランドがシェアトップを取ります。これは多くのカテゴリで見られる現象です。恐竜が滅びた後に哺乳類が栄えたように、生物の進化にも似ているかもしれません。

例えば、洗剤の例を考えてみましょう。今は液体洗剤/ジェルボール洗剤が主ですが、昔は粉洗剤でした。当時の価値基準は「良く洗える」でしょう。その価値基準で各ブランドは戦ったはずです。ただし、当時の洗剤は非常に大きく、買い物で洗剤を買うと他のものが買えないほどでした。(このとき消費者の中には「重かったり場所を取ったりするのが面倒だ」という「不」があったはずです)やがて、花王がコンパクト洗剤「アタック」を発売します。これは洗浄力が同じですが、小型で買い物がしやすい洗剤です。ここで、「良く洗えて、持ち運びに便利」という「ディファレント」なベネフィットが出現し、花王のアタックはシェアNo1となります。さらにしばらくして、アリエールが「良く洗えて、除菌もできる」という別の「ディファンレント」なベネフィットを展開し、シェアトップを取ります。その後も洗剤は「防臭をする」「少ない水で洗える」など、多くのディファレントなベネフィットが展開されています。

もう別の例をあげてみましょう。カテゴリとしてはおおざっぱですが「カレー」です。カレーは最初は外食だったはずです。つまり「(外で)美味しいカレーが食べられる」ことがベネフィットだったでしょう。そのうち、「カレー粉」が発売され「家でも美味しいカレーが作れる」という「ディファレントなニーズ」を満たし、さらに「カレールー」で「簡単に、家で美味しいカレーが作れる」というニーズを満たします。さらに、ボンカレーが「チンするだけで(短時間で)カレーが作れる」というまた別のニーズを満たしていきます。このように、一つのカテゴリの中でも「ニーズ」「ベネフィット」が価値の基準を変えながらどんどん進化していく様子が見て取れます。

マーケターとして持ちたい視点は、「ディファレント」なニーズはブランドからの提案で作り出せる、という点だと思います。洗剤の「除菌が出来る」というベネフィットも、「チンするだけでカレーが作れる」というベネフィットも、アリエールやボンカレーが出現し、ブランドが提案して初めて明確になったベネフィットなはずです。自然状態で発生したとは考えにくいですし、アリエールについては、単なる除菌では受容性が低く、戦略PRを行ったという話もあります。そういった意味でも今の価値基準以外でどんなベネフィットがあれば、消費者の「不」や「未充足のニーズ」を満たせるか、という視点を持つことは大切です。その為には、消費者が「やりたくないけどやっている行動」を観察する、自分自身の生活の中で感じる「不」を意識する、など消費者の生活や「不」、それを満たす「ベネフィット」を探す意識が大切だと思います。

もう一つ、押さえておきたいポイントがあります。人間とは欲深いものなので、「ディファレントなニーズ」は、必ずそれまでの「ベターニーズ」を全て満たしたものでないと受容されづらい、という点です。「チンするだけで出来立てのカレーが食べれる」というベネフィットは、「チンするだけで(家で作るカレーと同等の味の)カレーが食べられる」というベネフィットでなくてはいけません。いくら短時間で出来ても、カレーが美味しくなければ売れない、という事です。昔のノンアルコールビールをはじめ、「それ以前のベターニーズを満たせていない」ブランドはいくらでも存在します。目新しい商品を試したけど、イマイチだった…という経験はみなさんもあるのではないでしょうか。

今使っているカテゴリの商品の歴史を見ながら、ニーズやベネフィットがどう進化してきたかを考えてみるのも楽しいかもしれないですね。

参考文献:

梅澤伸嘉「消費者ニーズ・ハンドブック」同文館出版
音部大輔「The Art of Marketing マーケティングの技法」宣伝会議







世の中のものは大体こうなっている

例:カレー、洗剤、ビール、梅酒

そこには、未充足なニーズが関係している。ただ、「前の価値はそのまま」ということが前提。ここを良く間違うことが多い。90年代のノンアルコールビールはこれで失敗した。

やりがちな間違いは、

「前提を変える」ということも非常に重要。カレーとは、

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