強い「ベネフィット」と、それを支える「本能」の話

前回、マーケティングで一番大切な4つの要素、ということで

①ターゲット
②ベネフィット
③カテゴリ
④信じる理由(RTB/ Reason To Believe)

を書きました。この中で最も大切なのは②ベネフィットだと思います。なぜならば、②のベネフィットが、実質①ターゲットや③カテゴリを規定するからです。マーケティング戦略において最も重要なのは

ビジネスを伸ばすために
・企業や商品が、本質的に届けているベネフィットは何か
・企業が商品が、これから届けたいベネフィットは何か
…を見極め、「強いベネフィット」を消費者に届けること
だと思っています。

では、「強いベネフィット」とはどのようなものでしょうか。

現時点での僕の考えは
消費者の「未充足のニーズ」(「潜在ニーズ」/「JOB」/「不」等とも言います)を満たすもの。そして、消費者の「本能」を満たすものだという考えです。

人間は無意識に生きています。自分自身の事を考えて欲しいのですが、今日コンビニで買った商品について「自分はこういう理由があって、こういう気持ちだったので買ったのだ!」と説明できる人は多くないのではないでしょうか。多くの人は「なんとなく」「無意識に」商品を買っているはずです。店頭で商品を見て初めて「これが欲しい!」となる場合も多いでしょう。「購入」という行動だけでなく、「不便」や「不満」を感じる場合も同様です。「お風呂を洗う際に腰が痛い」「洗い物が面倒だ」という「不便」や「不満」は1日中感じているわけではなく、ある特定のシチュエーションになって初めて出現します。つまり、人は「具体的に何かが起こる」まで、「不便」や「欲求」を自覚できない場合が多いのです(「不便」は自覚できない場合すらあります)。モノがあふれ、衣食住の基本的・生理的欲求が満たされる現代日本では、その傾向はより強くなるでしょう。

ごくごく簡単な例を書いてみます。いずれも、常日頃から感じているわけではなく、何かしらの外部環境の変化によって引き起こされているのが分かると思います。

・喉が渇いてはじめて「飲み物」を欲する
・お風呂を洗う時はじめて、「腰に負担だな」と思う
・子供から「食べ物が熱い」と言われて、息をふきかけて冷ますが、そのときに「面倒…」と感じる

これらはレベルが違うものの全て「JOB」「不」「未充足ニーズ」と呼ばれるものです。そしてそれらを起こす大元にあるのが「本能」です。「本能」や「未充足ニーズ」に関しては梅原伸嘉氏の著書が非常に納得感があります。

人間にはそもそも「こういう状態でいたい」という本能があります。基本的にこれはどの人間にも備わっている根源欲求ですが、普段は表面上の意識には表れません。ただ、外部環境により何らかの生理的・心理的ストレスが加わると(前の例では「喉が渇く」「風呂を洗う」「子供から言われる」など)生理的・心理的アンバランス状態となり、「~したい」という生活上の欲求が現れてきます(「喉の渇きをいやしたい」「腰に負担をかけずに風呂を洗いたい」「手間をかけず食べ物を冷ましたい」など。「JOB理論」ではこれを「JOB」と呼びます)、そしてそれを満たしてくれそうな商品が呈示されれば、手を伸ばす。という具合です。

※梅澤氏の著書では「本能」を「BEニーズ」(「上位ニーズ」)、「生活上の欲求」を「DOニーズ」、「それを叶えてくれる商品を欲しいという欲求」を「HAVEニーズ」と呼んでいます。

そして、この「本能」と「生活上の欲求」は、「目的」ー「手段」の関係になっています。

・「渇きを満たしたい」(目的)ー「水を飲みたい」(手段)
・「ストレスなく快適に生きたい」(目的)ー「腰を痛めず風呂を洗いたい」(手段)
・「人から認められたい」(目的)ー「有名人になりたい」(手段)

という具合です。「本能」は基本的に生涯ずっと存在し続けますが、それを満たす手段である「生活上の欲求」は変わっていきます。このことは、自身が何かに飽きたり、前は買っていた商品を買わなくなる、という現象をよく説明できると思います。上位の目的は同じであっても、新しく魅力的な手段が出てくるのです。

その「本能」(BEニーズ)ですが、梅澤氏は主に10個を上げています。それも踏まえた上で、実務で考えた事や、脳科学の視点も含め自分なりに追加・分類をしてみました(なので梅澤氏のいう「Beニーズ」とは一致していません)。カテゴリによって変わってくるかもしれませんし、細かく分けるともっと多いと思います。なお、分類を考える際に、脳科学の本で読んだ「覚醒」「中立」「鎮静」という視点で考えています。人の感じる「快」の中にも「覚醒系」のもの(興奮・高揚)と、「中立」のもの(満足・充実)、「鎮静系」のもの(穏やかさ・落ち着き)があるという考え方です。

「快」を求める本能
覚醒系といえます。興奮や高揚を求めるものです。

・何かを達成したい
・人より上回りたい、勝ちたい
・人に認められたい
・自分の思うがままにしたい
・興奮したい、スリルを味わいたい
・感動を味わいたい

「充」を求める本能
中立系といえます。満足や充実を求めるものです。

・充実した状態でいたい
・自分を高めたい
・楽しくすごしたい
・自分らしく過ごしたい

「楽」を求める本能
鎮静系といえます。落ち着き、穏やかさをもたらすものです。

・ストレスなく過ごしたい
・楽で、快適でいたい
・不安を解消したい

「情」を求める本能
愛情系。他人との関わりの中でうまれるものです。

・愛されたい
・魅力的に見られたい
・周囲と仲良くしたい

「生」を求める本能
そもそもの生理的欲求です。現代日本ではすでに満たされている場合が多く、上に上げた3つの「条件」がつく場合が多いと思います。(「健康でいたい」⇒「手間をかける事なく健康でいたい」「楽しく健康でいたい」など)(「ベターニーズ」と「ディファレントニーズ」という言葉がありますが、そのうちの「ディファレントニーズ」にあたります)

・健康、元気でいたい
・空腹を満たしたい
・喉の渇きをいやしたい
・充分に寝たい
・SEXしたい

さて。上のようなものが人間の基本的な本能だと思っているのですが、いかがでしょうか。森岡毅氏も指摘していることですが、これらはキリスト教の「7つの大罪」や、仏教の「煩悩」と似ているものも多いです。「抑えようとしても出てきてしまう人間の本性」=「本能」なのでしょう。また、僕自身は詳しくないのですが、脳科学も参考になりそうな気がします。

最後に。実務の際に「このベネフィットが本能に基づいているか(強いベネフィットと言えるのか)?」を考える際の僕なりの手法を書いておきます。

それは、ニーズを言語化した時に「小学校低学年の子供にも当てはまるか?」「例えば、江戸時代や古代中国、原始社会を想像した時でも当てはまるか?」を考える、というやり方です。例をあげていうと、「SDGSに関連した企業の商品を買いたい」というニーズを考えた場合、そのままでは小学校低学年にも、古代社会にも当てはまりません。そこで、そのニーズを深堀り「罪悪感なく買い物をしたい」「他の人から良く見られたい」というニーズを推定します。これであれば小学校の子供や、古代社会でも通じそうです。なのでそのようなニーズを意識したコミュニケーションの方向性を考える、という事ができます(もちろん、ニーズの検証は必要です)時代や環境が変わっても人間の奥に存在するニーズを捉える、という事を意識すれば、マーケティングも上手くワークする気がしますよね。

参考図書:

梅澤伸嘉「消費者ニーズ・ハンドブック」同文館出版

橘玲「スピリチュアルズ」幻冬舎







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?