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そんなつもりではなかった、ある日。

私はここ1年半、お気楽主婦だ。
決して世の主婦の方たちのことを、お気楽な人たちなどとと思っているわけではない。
体調不良を理由に仕事を辞めてからというもの、体は嘘のようにラクになったし、体の健康に比例するのか、心も前向きになって新しいことにチャレンジしてみたい気持ちが芽生えたり、精神的にも良い兆候が見られるようになった。
今まで、思っていた以上に心も体も疲れていたのだということに気づいた私は、やっと手に入れた自分の心の健康を保つことを理由に、
しばらくは「次の職はどうしようか・・・」などと考えること自体をやめ、怠惰な生活を楽しむことを自分自身に許した。

もともと怠け者の私は、せっかくの有り余る時間を、家の中を素敵に整えたり手の込んだお料理を作るなどといった、家族を喜ばせるようなことに使うことなく、ただただのんびりする毎日を過ごしてしまった。

世の中の多くの主婦の方々はこんな怠惰な日々は送っていないと思う。あくまでだらしない自分を表す言葉として冒頭、「お気楽主婦」という言葉をチョイスしたまでである。

しかしそんな私も最低限の家事はするわけで。
今日は、「安かったから。」と夫が大量に買ってきた大根の消費ミッション3日目を迎えている。
おでん、大根サラダ、なます。この二日間で作ったものだ。
さて。実は昨日のうちに大根と相性が良い豚バラ肉を調達してある。
3日目にしてベタだが豚バラ大根でも作ろうかと思っていたのだ。
しかし冷蔵庫から肉を取り出すと、肉が減っていた。
おそらく昨晩、私の知らぬ間に夫が自分で焼いたりして食べたのだろう。
ぐぬぬ。これでは豚バラ大根としてはちょっとボリュームが足りない。
どうしようか考えていると、いつだか何かで見た「大根カレー」なるものを思い出した。和風のだしで煮ると美味しいのだそうだ。
和風カレーか。よいではないか。自分の思いつきにほくそ笑む。

大根と人参、玉ねぎ、わずかに残っていた豚バラ。昆布だしで煮てカレーに仕上げた。味見をしてみると確かに和風な気がする。美味しい。
晩御飯もできたし、あとはのんびりしようっと。
そう思いながら、ふとコンロ脇の窓を見ると湯気で曇ってしまっていた。なんてことだ。換気扇を回し忘れていたようだ。
そしてガラスについていた汚れがくっきり浮かび上がっているではないか。き、きたない・・・こんなに汚れていたとは。
いつもの私なら見なかったことにするところである。しかしなぜかその時、「こんな風に湯気で湿っているのなら、汚れが落ちやすいのでは?」と思いついてしまった。
なぜズボラで怠け者の私がそんなことを思いついてしまったのか不思議でならないのだが、なにかのお告げと思い実施してみることにした。

以前気まぐれで買ったアルカリ電解水シートを取り出し、窓を拭いてみる。相当年季の入った汚れのようで、さっと撫でた程度では落ちない。
今度は少し力を入れてこすると、するすると汚れは取れ始めた。おお。さすが湯気の力。
大根カレーを作って良かった。豚バラ大根ではここまでの湯気は発生しなかったであろう。私に断りなくこっそり肉を消費した夫については少々腹立たしいが、人間万事塞翁が馬。予想外の嬉しい誤算となったので許そう。

上から下まで拭き終わると、汚れはほとんど取れていた。
そこでまたお告げが来る。
「仕上げに乾拭きすると拭き跡が残らずキレイになるらしい」
買った記憶もないがなぜか引き出しにあったマイクロファイバーのふきんで乾拭きしてみる。マイクロファイバーふきんとは、確かこういうときのために使うものであったはずだ。知らんけど。
マイクロファイバーのおかげかどうかは謎だが、乾拭き後の窓は確かに一段ときれいになった気がする。満足できる仕上がりだ。
やり遂げた達成感に、まるで戦を終えた戦国武将のような気分になる。
どこから集まったのか、私の背後にいる兵たちが勝鬨をあげている。皆の者よくやった。働いたのは私ひとりだが。

ここまで、窓一枚分の出来事である。
隣の窓を見ると、もちろん同じように汚れていた。しかし、私が右側の窓に全力を注いでいる間に湯気の恩恵は消えていた。
やめよう。我ながら清々しいほどの早さで決断した。即断即決。優秀な武将の条件のひとつである。

こうしてこの日は、簡単な晩御飯を作ってぐうたらするはずが、思いがけない仕事をするはめになった。
まったくそんなつもりでは、なかった。

明日はどんな日になるのだろう。
ちなみに大根はまだ残っている。



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