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残酷さと温かさが共存する世界

一穂ミチ
1978年生まれ。関西大学卒。2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。
「スモールワールズ」は、6つの短編小説で書かれている。

はじめに

フォロワーさんに「元気が出る本を知っていますか?」と聞かれて「…。」無言になってしまった私。

「あれ、俺が読む本って重たい系ばかりだぞ。」

そう思い、「元気が出る本 おすすめ」とGoogleで検索してたどり着いたのが一穂ミチさんの『スモールワールズ』!

さてさて、どのように私を元気にしてくれるのか。

とてもワクワクして読み始めましたが、1つ目の物語から単純なハッピーエンド作品じゃありませんでした。

予想を裏切る展開

1つ目の物語は、妊娠を望みながらも浮気疑惑のある夫と、表向き円満な生活を送る女性の姿を描きます。

おそらく読者は「そんな浮気性の男性とは別れて、もっと素敵な男性との恋愛が始まるのだろう。」と、典型的なハッピーエンドを期待するでしょう。

でも、作者は現実世界さながらの残酷な展開を用意し、読者に大きな衝撃を与えます。

この予想外の展開は面白くはありながらも、元気が出る本を探していた私にとっては「イメージしていたものと違うな。」と、思うものでした。

多様な人間模様

しかし、すべての物語を読み終えて『スモールワールズ』の真価は、6つの物語全体を通して初めてわかるものだと感じました。

各話は、動揺、感動、疑い、信頼、恋心、トラウマ、親子の縁など、多様なテーマを扱います。

これらの物語は、人生の複雑さと人間関係の機微を鮮やかに描き出し、ストレートに読者に元気を与えるものではありません、が…。

じわじわと湧き上がる希望

じわ、じわじわ。。。

興味深いことに、全ての物語を読み終えた後、私の内側から少しずつ元気が湧いてくるのを感じました。

これは、作品全体を通して伝えられる重要なメッセージによるものではないかと、勝手に想像しています。

重要なメッセージとは、

残酷な世界であっても、人と人との温かいつながりは確かに存在するという事実です。

嘘の元気と本当の元気

『スモールワールズ』の真髄は、現実世界の残酷さを隠すことなく描きながら、同時に人間の温かさや繋がりの可能性を教えてくれる点にあります。

私が捻くれているからでしょうか。プラスな面(綺麗事)しか言わないテレビや人を見ると嘘くさく感じてしまいます。

その点、スモールワールズはマイナスな面(残酷さ)を伝えながらも、それでもプラスな面(温かさ)を事実として教えてくれるんです。

“残酷さ”  と  “温かさ”

この巧みなバランスこそが、読者の心に深い感動と、静かではありますが確かな希望をもたらしているのではないでしょうか。

まとめ「宝物のような一冊」

一見すると「元気が出る本」というカテゴライズとは相容れないように思える『スモールワールズ』。

しかし、この作品は単純な励ましや慰めを超えた、より高い次元で読者を元気づけます。

それは、現実の厳しさを認識しつつも、なお存在する人間の温かさへの気づきです。

この本は、人生の複雑さと人間関係の機微を理解したい人、そして現実的でありながらも希望を失わない勇気を求める人に、心からおすすめできる一冊です。

『スモールワールズ』は、私たちに大切なことを思い出させてくれる、真の意味で元気が出る「宝物のような一冊」だと思いました。

PS.講談社の特設ページ

※かわいい画像がちりばめられていますが、どれかひとつは3分ほどで読める宝物のようなオリジナル小説につながっています。ぜひ、探してみてください!

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