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先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)とは

股関節脱臼についての情報発信ページをご覧いただき有り難うございます。

小児整形外科医であり、こどもの股関節を専門にしている中川将吾(なかがわしょうご)と言います。これから少しだけ股関節脱臼について一緒に学んでいきましょう。

※注)
このページにたどり着いた方は、可愛い赤ちゃんの初めての障害に悩まれていることでしょう。もしかしたら、診断がつくことを心配して、一人で悩んでいる方もいるかもしれません。安心してください。股関節脱臼の治療はどんどん進んでおり、決して悲観する病気ではありません。

インターネット上では情報の不確かさがあり、混乱されていることと思います。『やってはダメなこと〜』、『〜が原因です』などと決めつける内容に、自分の行いを悔いてしまうこともあるかもしれません。

そういった内容は個人の体験談がほとんどであり、多くの情報は正しくない、または最新のものではありません。

どうかこのページをご覧になった方は、他のサイトは見ない様にしてください。もし疑問や納得がいかない点があれば、LINEで【股関節脱臼の相談室】を開催しています。ともだち登録して気軽に質問してください。

では、以下に少し詳しく解説しています。

疾患の概要

この疾患は、以前は『先天性』という名がついて呼ばれていましたが、出産時に脱臼が見つかるケースは少なく、逆に発育の過程で股関節が脱臼してしまうケースが多く見られたため、近年では『発育性』に起こる疾患であると考えられています。

発育性の意味として、赤ちゃんは股関節の安定性が不完全な状態で産まれており、抱っこの仕方やオムツの巻き方、膝を伸ばした状態の”おくるみ”などの外的影響によって、徐々に骨頭の脱臼が生じてしまうのではないかと言われています。

脱臼という名が付けられていますが、臼蓋と呼ばれる受け皿の部分と、骨頭と呼ばれる大腿骨の頭の部分が完全に離れてしまっていること(完全脱臼)は少なく、関節が外れかかっている状態(亜脱臼)や、臼蓋が浅かったり、急峻になっていたり(臼蓋形成不全)していることも含め、『発育性股関節形成不全』と呼ばれる様になってきました。

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股関節脱臼の原因は1つではない

様々な原因が多くの研究で述べられていますが、一つではなく、いつくかの環境要因が重なって発生していると考えられます。骨格や関節弛緩性などの遺伝的要因や性別に関連した組織学的な要因。骨盤位や出産時期などの妊娠、分娩による要因。オムツやおくるみを使用したり、抱っこの仕方が膝を伸ばした状態だったりする子育て要因などです。

それらの要因が複数見られる場合は、発症する頻度が高いことが報告されており、乳児健診などでスクリーニング方法として用いられています。1970年代までの日本では、新生児の100人に2〜3人の割合で、股関節脱臼が発生していましたが、その後の啓蒙活動によって、100人あたり0.1〜0.2人程度へと激減しました。

ほとんどが見た目でわかる症状

赤ちゃんの脱臼は徐々に起こるため痛みを感じません。そのため症状は見た目のみであり、左右の脚の長さが違う、オムツを替えるときに脚の開き具合が違う、脚を開いたときにお尻や大腿部にできるシワが左右で違うなどがあります。検診では上記の様な症状を注意深く観察しています。歩行開始後に発見される例では、乳児期の股関節の動きは良好であったが、加重したときに反対側の骨盤が下がるトレンデレンブルグ歩行を示して見つかります。

健診時に異常がないとしても、親や周囲の人は異常に気付いている場合も多く、『大丈夫と言われた』という経験が、発見が遅くなる原因になっています。脱臼が起こっている場合は、すでに見た目でおかしいと気付いているので、専門の医療機関を早めに受診することが必要です。

この動画の子は以下の様な特徴があります。
・右と左の脚の動かし方が違う
(左の方がよく動いている)
・右股関節付近が出っ張っており、脚の長さが違う

検査・診断は専門病院へ

股関節脱臼は生後3-4ヵ月の乳児健診時に評価されます。股関節の動きやシワの左右差の確認、脚を持って動かしたときに「コクっ」と音が鳴って動く”クリック”と呼ばれる状態がないかを確認します。その他にも家族歴や妊娠出産時の状態を問診し、結果を持って再度整形外科受診を促されることが多いです。

整形外科受診時には上記と同様の診察を行い、エコーやレントゲンを用いた画像検査を追加して診断します。特にエコー検査は放射線被曝の心配がなく、リアルタイムで股関節の状態が確認できるため、広く普及しています。乳児を横向きに寝かせて、側面から股関節を確認するGraf法という検査方法で、臼蓋の形状や脱臼の程度を判断しています。

エコーは専門のセミナーが開催されていますが、実施できる医師はまだまだ少ないのが現状です。

治療は大きくわけて3種類

股関節脱臼の標準的な治療はリーメンビューゲル(英語ではPavlik harness)と呼ばれる、あぶみ付きの肩から足までついたバンド型の装具を使用します。この『リーメンビューゲル法』は脱臼整復率が8割程度と言われており、外来で実施できるため、第一選択で用いられることが多いです。しかし、股関節の角度や装具装着期間に一定の決まりはなく、施設によってその装着方法や成績は異なっています。

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この方法で改善しない場合は下肢を牽引し、股関節の拘縮を改善させて整復させる『牽引療法』が行われます。この方法は入院で行われますが、その方法を理解している医師は少なく、限られた施設でのみ行われています。牽引療法は脱臼整復率が高く、合併症の発生率も低い良い方法ですが、長期間の入院が必要なことが多く、患者家族への負担増の原因になっています。

手術治療として、全身麻酔をかけて、徒手的に行う『非観血的整復術』や、直接関節内を確認し、脱臼の阻害因子を取り除いて整復する『観血的整復術』があります。年長児になるほど観血的整復術が必要と言われており、その際、臼蓋形成不全が高度に合併していることも多く、骨盤の骨を切って臼蓋を移動させる補正手術を同時に行うこともあります。さらに脱臼を繰り返す恐れがある場合は、大腿骨頭の向きを内側に向けさせる『大腿骨内反骨切術』を行うなど、症例に合わせて適切な方法が選択されます。

どの方法も整復後はギプスや装具を使用して股関節の動きを一時的に制限します。固定期間は治りが早ければ短くて済み、成長発達に与える影響も少なくなるため、早期発見、早期治療が必要と言われています。


股関節脱臼の予防に向けたとり組み

股関節脱臼は生後の環境によって発生が左右されています。最近注目されているのは股関節の運動発達の左右差による影響です。以前から向きグセと股関節脱臼の関連性については報告されていました。向きグセが存在することで、脚の運動発達に左右差が生まれます。正しい運動を上手く学習できなかった場合、股関節が脱臼する方向に無理な力がかかってしまうことになってしまい、そのまま改善しなければ最終的に脱臼してしまうということです。

通常の子育てでは脚の動き方にまで注意が向かないことが多く、これまで議論されてはきませんでした。今後は「脚の動きを生後から育てる」育児をすすめ、脱臼の発生自体を積極的に減少させるとり組みを行っていきます。

もっともーっと詳しい内容は以下のマガジンにまとめています。
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中川将吾
小児整形外科専門ドクター

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