脚を引っ張るとどうなる?小児整形外科専門医が股関節脱臼発生の仕組みを解説します。
さて、みなさんどこかで聞いたことあると思います。
’’オムツを替えるときは脚を引っ張らないように!!”
この考えはいつどこから来たのでしょう??
まるで呪文のように唱えられていますし、産院や小児科などでそういった指導を実際に受けて信じてきってしまっている人もたくさんいます。
同じ様に腕を引いて肩が外れた人を見たことあるでしょうか?(もちろんいませんよね)
引っ張って関節が外れるコトはありません。引っ張られると逆に引き戻す力が働くからです。脱臼は間違った方向に押される、または可動域の限界を超えた力がかかると引き起こされることがわかっています。
股関節は人間の体にある様々な関節の中で『大関節』と呼ばれており、構造的に一番強いと言われています。そんな強い関節が引っ張っただけで外れたら大変です。
もちろん『赤ちゃんのころは弱いのでは?』と言われればその通りかもしれませんが、たとえ赤ちゃんであったとしても引っ張られると引き返す力を出します。そこで外れることはまずありません。
このページは茨城県つくば市にある小児整形外科クリニック『つくば公園前ファミリークリニック』の院長中川が記載しています。
脱臼発生の仕組みを解説します
正確にはなぜ脱臼が起こるかはまだ分かっていません。しかしいくつかのヒントは数十年前の研究からすでに出ています。
何度か登場していますが、下のtweet内にある図のようにお尻だけを持ってしまうと、膝が伸びたまま脚の重みで大腿骨が上方に動く力が働きます。赤ちゃんが脚を持ち上げようとしても、まだ力を上手く使えずどう動かせば良いのかわからないため持ち上がりません。その状態が続くことが、大腿骨頭が中心からズレる力を発生させてしまう原因なのではないかと考えています。
股関節脱臼では大腿骨は近位(頭がわ)、前方(お腹がわ)、外側に骨がずれることが分かっています。この中心がずれた状態で、股関節を曲げようと力を入れていくと大腿骨は徐々にその方向へとさらにずれていきます。こうしてゆっくり脱臼するのが特徴です。
みなさん想像できますか?
脱臼の方向は引っ張る方向と反対です。脱臼は脚が縮む方向に起こるのです。つまり自分の力で引っ張って脱臼している可能性が高いと考えられます。
そのとき一部の筋肉が通常よりも過剰に働いていると言われています(腸腰筋という筋肉です)。そういった筋力バランスの悪さが脱臼を悪くしているのです(これも動物実験で確認されています)。
反対に、正しい位置で力の入れ方や動かし方が身についた赤ちゃんは、脚を持ち上げることで脱臼とは反対方向に力を入れることができます。
引っ張って外れるというのは、交通事故などと同じく急性の脱臼発症するメカニズムなので、これは脱臼の起こり方を考えるとまったくの間違いです。
ある赤ちゃんの情報が載っているサイトにはこの様に書かれていました。
⇒情報の出典や掲載者の記載もありませんでした。ちょっと信憑性にかけますよね。
オムツのメーカーにも同じような注意点が書いてあると聞いたので調べてみました。花王のメリーズという商品です。
⇒同じく、引っ張ることで脱臼が増えるという報告はありません。
こういったことが知れ渡ってしまうことで、「引っ張ってしまったから心配」と思う人や、「脱臼しているから引っ張ってたのかも」と心配してしまっている方も出てきてしまっています。
そもそも牽引治療という股関節脱臼の整復方法がありますよ。
これだと股関節脱臼発生方法ということになってしまいます。
肩関節脱臼も牽引整復方法が一般的です。関節に対して鉛直線上に持ってくることで、筋バランスを整えるのは正しい整復方法です。
骨頭の位置と脚の重み(そこにかかる力)を意識すれば、どの様なポジショニングや動きが脱臼を誘発してくるのかわかると思います。股関節がはまる方向に力を出し続けていれば脱臼は起こりません。それを今後証明していくことになります。
今日は少し専門的な話。
ドクターやセラピストだけでなく、これから子育てする方にも参考にしていただきたいと思います。
クリニックではプレママのためのヨガ教室や相談室なんてのも用意する予定です。ネット上での情報はそろそろあふれすぎてて混乱の元となっているので、これからは信頼できる場所や人、オフラインが情報の中心になってくるはずです。
結論:股関節脱臼は脚を引っ張って治します
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*内容によっては医療期間への受診をすすめさせていただきます。
中川将吾
小児整形外科専門ドクター
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