「お金・相場」に関する幸福否定 2:信用創造①

* 用語説明 *

幸福否定理論
:心理療法家の笠原敏雄先生が提唱。心因性症状は、自らの幸福や進歩を否定するためにつくられるという説。娯楽は難なくできるのに、自らの成長を伴う勉強や創造活動に取り組もうとすると、眠気、他の事をやりたくなる、だるさ、その他心因性症状が出現して進歩を妨げる。このような仕組みが特定の人ではなく人類にあまねく存在するという。

抵抗
:幸福否定理論で使う"抵抗"は通常の嫌な事に対する"抵抗"ではなく、許容範囲を超える幸福に対する抵抗という意味で使われている。

反応
:抵抗に直面した時に出現する一過性の症状。例えば勉強しようとすると眠くなる、頭痛がする、など。

■ 日常会話に見られる、お金の発行の仕組み(信用創造)や複利への抵抗

幸福否定理論に基づく心理療法では、1名のみ信用創造についての話をした事があります。他の患者さんは、心因性症状により日常生活や仕事が困難であったり、夫婦関係など人間関係の問題を抱えていたりするので、通貨の問題には触れません。

通貨の問題について、非常に強い抵抗があるのではないか?と考えたのは、心理療法ではなく、私が行っている身体のほうの施術での会話中の出来事がきかっけでした。

いくつか実際にあった例を紹介したいと思います。

患者さんの例も出てきますが、通常は患者さんとお金の話はしません。十年以上来院している方など、親しくなっている患者さんに限ります。また、2017年に仮想通貨が暴騰したために、患者さんから世間話の一環として、資産運用、投機の話が出る事が多かったという事も言えます。

主な“反応”としては、“生あくび、眠り込む、話相手が気落ちする、黙り込む”などですが、資産運用の話などはお酒の席で出る事も多いので、“急に酔いが回る、席を離れる”などの反応も観察できました。


例1:
長年来院している患者さんの中に、政治の話が好きな方がいる。特に年配の患者さんに、その傾向が強いのだが、ある患者さんが、消費税増税を批判するような話をしていた。その時に、“日銀が毎年60兆もお金を創って撒いているのに、2%増税しても2兆円しか税収が増えないのに、なぜ消費税増税にこだわるんですかね?”と、返事をすると、患者さんが眠り込んでしまった。

例2:
長年の付き合いがある患者さんに、“先生は仮想通貨ってどう思う?”と聞かれ、“お金を創る人(注:通貨発行者)がいる通貨は、僕は買わないですね。創った人が得をするようにできていますから。最近、中央銀行がお金を大量に創って撒いているじゃないですか。銀行券の価値が下がると思っているから、金を買っています。金は1970年の40倍以上になってますからね。”と返すと、別の話に逸らすか、ピタりと話が止まり、眠り込んでしまった。

例3:
“リーマンショックの時に、FRB(米国中央銀行)が国内外問わず16兆ドルの資金注入をした。”という話を患者さんとの会話でしたところ、眠り込んでしまった患者さんがいた。(筆者注:この話自体は、次回解説を致します。)

例4:
友人達との会話でも、IdekoやNISA口座の話題から資産運用の話になる事がある。“Idekoで何積み立てている?”と聞かれ、“Idekoはやってないよ。紙のお金は信用できないから、金を買っているよ。”と言うと、やはり周囲が黙りこんでしまう。

例5:
やはり友人との電話で、信用創造と金を買っている話をしたら、酒に強い友人が、一杯しか飲んでいないのに酔いが回ってしまい、電話を切ってしまった。

例6:
行きつけバーでの出来事。私の隣に50代の大手広告代理店の男性と、60代の高級婦人服店のマネージャーの女性がいた。仮想通貨の話から、資産運用の話になり、男性が、“アマゾンの株買っちゃった。”と酔っ払いながら、スマホの購入履歴を見せてきた。隣の女性は、“私は株なんかやらない、定期預金にしている。”と言う。私の運用も聞かれたので、“僕は金を買ってます。”と言うと、この時もピタりと話が止まってしまい、男性は“酔いがまわった”と言い、会計をしてお店を出て行ってしまった。


恐らく、“不動産関係の投資信託を買っている”や、“IT関連に投資している”というような話でしたら、このような反応は見られないでしょう。

また、私が資産運用の話をした範囲(患者さん5名程、友人5名程、親族数人、飲み屋数人の20名弱)で、金を保有している人が一人もいなかったのも驚きでした。

これらの経験から、通貨の問題には、何か非常に大きな事が潜んでいると推測し、積極的に勉強をするようになりました。上記の例は“お金をつくる仕組み”である”信用創造”に触れている会話での反応です。

大多数の人が、アメリカならUSドル、日本なら円、と各国の通貨は需給に合わせて、各国政府が管理して発行していると考えてるでしょう。
しかし、実際は政府ではなく、各国の中央銀行や民間銀行が“信用創造”という手法により、お金をつくっています。

大多数の人々が、何十年も、一日の時間の半分以上を、仕事を通じてお金を稼ぐ事に費やしているにも関わらず、

・お金とは何か?
・誰がどのようにしてつくっているのか?

を、ほとんどの人が知らないというのは、よく考えてみると、非常に不可解な現象だと思わざるを得ません。

数年前までは書籍を中心に、最近ではYoutubeなどの動画サイトで、“信用創造“の説明が発信されています。難しい専門書ならともかく、わかりやすくアニメーション化された説明動画が発信されていますが、知識が一般化されていく様子はありません。

また、お金に関する事で言えば、複利の知識に関しても抵抗がある人が多いと推測しています。

複利に関しては、心理療法内で数名扱った事があります。銀行員、保険会社、共産圏からの留学生など複利の知識が必要なクライアントでしたが、信用創造のように眠り込んでしまうような反応は出ません。5%と10%の利率で30年の複利計算をしてもらいましたが(5%だと元金の約4.3倍、10%だと約17.4倍)内容が頭に入り辛いという現象が多いように思います。

こちらも繰り返し説明する事になりますが、複利が重要な知識という事が認識できないようです。

これも生活をしていく上で非常に大きな問題ですが、まずは抵抗が強い、お金の発行の仕組み(信用創造)から解説していきたいと思います。

■ 信用創造

始めに一つお断りをしておかなければなりませんが、このような話を“陰謀論”と考える方も多いと考えています。“信憑性の問題”に陥ってしまうと、その先の研究に進めないという問題が出てくるので、なるべく、権威ある経済学の古典や中央銀行のウェブサイトなどから引用をしています。

そのため、書き方が難しくなってしまい、わかりやすさを犠牲にしている部分がありますが、ご理解頂ければと思います。では、本題に入りたいと思います。

紙のお金の起源は、中世に遡ります。(注:諸説あり、バビロニアの時代から行われていたという説もあります。)その時代、欧州には金匠職人が居り、金(Gold)を預かる時に預かり証を発行していました。

常識的に考えれば、金の総量の額と預かり証の額は同じでなければいけません。しかし、預かっている金を取りに来る人は、約1割しかいません。金の預かり証は、諸説がありますが、実際に預かっている金よりも10倍程度発行したという説もあります。

この実際に預かっている金よりも多く発行された、金の預かり証が、現在私たちが使っている“紙幣”の起源です。

1776年に出版された、経済学の原典である、アダム・スミスの『国富論』にも信用創造について触れている個所があります。

“これらの不便(筆者注:金貨、銀貨などの貨幣が各国により出来が違ったり、含まれている金・銀の量にばらつきがあり、為替相場が安定しなかった経緯が数章に渡り説明されています。)を補うため、1609年に市当局の保証のもとに一銀行(筆者注:アムステルダム銀行)が設立された。
この銀行は、外国の鋳貨も自国の磨滅減量した鋳貨もともに、同国の法定標準良貨を基準にした実質価値で受け入れ、そこから鋳造費および管理上必要な経費を支弁するに足る費用だけを控除することにした。このわずかな控除の後に残る価値にたいし、同銀行では帳簿上で一つの信用を与えた。
(中略)

この信用は銀行貨幣(バンク・マネー)と呼ばれ、造幣局の法定純分標準(筆者注:純分とは金貨、銀貨に含まれている金や銀の量)に厳密に従って貨幣を代表したので、真の価値はつねに同一不変であり、流通している貨幣よりも実質的には大きな価値を有した。
(中略)

鋳貨からなるこの預金、すなわち、同銀行が鋳貨で払い戻す義務のあるこの預金が、同銀行の最初の資本、つまり、いわゆる銀行貨幣によって代表されるものの全価値を構成していた。現在では、この預金は同銀行の資本のごく小部分を構成しているにすぎない、と考えられている。地金取引を容易にするために、同銀行は、このところ多年にわたって、金・銀地金の預金に対して、帳簿上で信用を与えることを実行してきたのである。
(中略)

銀行信用の所有者と受取証書の所持人とは、同銀行にたいする二種類の債権者である。(引用『国富論 Ⅱ』 アダム・スミス著 大河内一男監訳 中公文庫 p163~p168)

イングランド銀行もスコットランドの諸銀行も銀行券を過剰に発行し、その後始末のために多額の出費を余儀なくされた。(引用:『国富論 Ⅰ』 アダム・スミス著 p463)


1971年までは帳簿上で創造された銀行券は、金と交換できるものでしたが、アメリカのニクソン大統領がドルと金の兌換停止を宣言して以来(ニクソンショック)、通貨発行の制度が大きく変わりました。

現在は、部分準備銀行制度という制度で、以下のような仕組みによって通貨が発行されます。ここでは、経済学者の山口薫氏(元同志社大学大学院教授)の『公共貨幣』という本を参考に(p88)数字をわかりやすくして筆者が簡略化して説明します。


①A銀行が1億円預かっている。

②中央銀行(日本では日本銀行)に1億円預ける。

③現在の準備率は2%前後なので、50億円までお金を創造できる。
資産 | 負債
50億 | 50億


このように、複式簿記の帳簿に数字を書き込むだけで、お金を作り出す事ができます。もし仮に、個人がこのような制度を使う事ができたら、どのようにするでしょうか?

仮に私が100万円持っていたとします。

100万円を日銀に預ける

5000万円のお金を創造し、2%の利回りの債券を買う。もしくは担保を取って貸す。(日本国債は80年代には5%近く、21世紀に入っても2008年のリーマンショックまで、1.5%近い利回りがありました。現在の利回りはマイナスになっています。)

1年後には手持ちのお金が100万円+98万円(4900万円×2%)=198万円になります。


もちろん、個人ではこのような制度を使う事はできません。

銀行も、様々な規制があるので、単純に預金の50倍のお金を創造できるわけではありませんが、つい10年程前までは、ほとんどリスクなく、銀行はお金を増やし続ける事ができました。

また、近年では日本の中央銀行である、日本銀行が“信用創造”を使い、異常な量のお金を創造し続けています。

テレビの報道では、財政が問題になる時は、一般会計(所得税、法人税、消費税など)のみの図が出ます。

近年では、税収が約60兆円、歳出が約100兆で、毎年約40兆円の赤字という報道がなされます。しかし、これに加えて特別会計(国民健康保険や国民年金)が約100兆円の赤字。

加えて、日本銀行が毎年創り出し、ETF(上場投資信託)を通じての大企業の株の購入や、国債購入に使うお金が、近年60兆円~80兆円になっています。

このような話を書くと、陰謀論ではないか?と言う方々も多いと思います。特に地上波のニュースしか見ない方々にその傾向が強いと思いますが、これらは全て公開されている情報です。

まず、信用創造についてですが、2014年にイギリスの中央銀行である『Money creation in the modern economy』 という題名で、イングランド銀行の季刊誌に、貨幣創造の解説が掲載され、一部で話題になりました。

この解説を翻訳しているブログがあったので、一部引用してみます。


=現代の経済における貨幣創造=

現代の経済では、ほとんどのお金は、銀行預金の形をとる。しかし、それらの銀行預金がどのように作成されるのかはしばしば誤解されている。主要な方法は、市中銀行が貸し付けをすることによってなのだ。

銀行が貸し付けをする時には常に、銀行は、借り手の銀行口座に同額の預金を同時に作り出す。そのようにして、新しいお金を作るのだ。(以下略)
(参考:経済学を疑え!


次に、日本銀行が帳簿上で創り出したお金で、大量の株を購入している件については、新聞、経済紙などが報じています。また、日本銀行のウェブサイトでも日々の購入額を見る事ができます。

日銀、企業の4割で大株主 イオンなど5社で「筆頭」
日本株市場で日銀の存在感が一段と高まっている。上場投資信託(ETF)を通じた保有残高は時価25兆円に達し、3月末時点で上場企業の約4割で上位10位以内の「大株主」になったもよう。うち5社では実質的な筆頭株主だ。(引用:2018/6/27 2:00日本経済新聞 電子版)

また、日本銀行が帳簿上で創り出したお金で、一般会計の税収を上回る国債を購入している事については、日本銀行ウェブサイトで公開されています。

トップページに表示されている日銀当座預金残高が、いわゆる日銀が抱えている借金です。2019年12月27日現在で、401兆4400億円あります。

以下、日本銀行が負担している借金の推移を簡単に見てみたいと思います。
(参照:日本銀行ウェブサイト:ホーム > 金融政策 > 金融政策に関する決定事項等)


“日本銀行当座預金残高が5兆円程度となるよう金融市場調節を行う。 “ (2001年4月13日)”

“日本銀行当座預金残高が30~35兆円程度となるよう金融市場調節を行う。(2005年12月16日)”

“10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。(中略)買入れ額については、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。(2019年1月23日)”


約20年前の想定から、80倍以上に借金が増えていますが、日本銀行は、これらのお金をどこから調達しているのでしょうか?

答えは調達しているのではなく、複式簿記を使えば、帳簿上に数字を書き込むだけでお金を創り出せてしまいます。

資産           |    負債
国債、ETF等 約400兆円 | 約400兆円


と、複式簿記の貸方、借方に書き込めばお金はできてしまいます。

上記が、簡略化しましたが、通貨発行の仕組みになります。
直観的な感覚では、“詐欺ではないか?”、“銀行だけ特権があるようで不公平なのではないか?”と思う方も多いのではないかと思います。
企業やお店がこれだけ倒産、廃業しているのに、銀行の破綻はごく僅かなのは、これらのからくりがあるからです。

■ 信用創造は悪か?

信用創造を知った時に、私は、“これは最大の詐欺ではないか?”と感じました。しかし、金融の歴史を調べてみると、信用創造には良い面、悪い面があるように感じ始めました。

良い面は、皮肉な結果ですが、信用創造無くしては、今日の先進国のような豊かな生活はなかったと推測できる事です。

悪い面は、通貨発行者というのが非常に強い権力を持ち、不公平な状態をつくっているという事、そして最も感情的に受け入れがたい事ですが、通貨は戦争に直結しているという事です。

幸福否定理論の原則をもう一度思い出してみましょう。

*人間にとって最も難しい事
・自分が本当にしたいことを
・時間の余裕が十分あるうちから
・(外部の要請のよってではなく)自発的にすること

上記の法則を逆に考えれば、“締め切り間際”が、もっとも効率良く物事に取り掛かれる状態になります。

信用創造を伴った資本主義というのは、まず先にお金を創造し、貸し付ける。つまり借金を作り出す事から始まります。

借金というのは、返済期限がありますから、絶えず締め切りに追われる事になります。その結果、非常に能力が発揮しやすい状態になり、帳簿上で無からお金を作り出す、信用創造を積極的に行った国家が多大な犠牲を払いながら大きな発展を遂げた、というのも歴史的な事実です。

また、金貨や銀貨が貨幣として機能していた時代と比べ、お札や帳簿上で銀行預金としてお金を創り出す時代のほうが、飛躍的にお金の流通量が上がります。

そのため、お札や帳簿上で創り出されたお金は、何も裏付けがありませんから、暴落を続けます。インフレーションが起こり、物価が上がると、貯金も借金も目減りするので、借入を起こして、商売を始めたほうが特になります。
実際に、グラフを見ても、銀行紙幣(ドル、円など)の価値は金に対して暴落を続けています。

画像1

(出所:5yearcharts.com


私自身は、

・帳簿上でお金を創り出す信用創造

・信用創造で、莫大な貸し付けが可能になり、借金をすることで、絶えず締め切りに追われる事になり、能力が発揮しやすくなる

の二点が、資本主義の本質だと考えています。

欧米だけでなく、日本も、金融が非常に進んでおり、江戸時代から金や米の預かり証を現物保管量より多く発行する、信用創造が行われていました。

日本銀行初代総裁の吉原重俊(1882年就任)の紹介ページには、

“当時政府と全国各地の「国立銀行」が発行していた不換紙幣の回収整理を進め、日本銀行が発行する兌換銀行券を現金通貨の中心とすることに尽力したほか、手形・小切手の流通を推進するなど、近代的な金融制度の整備に努めました。(引用:日本銀行ウェブサイト 歴代総裁)”とあります。

裏を返せば、明治時代には帳簿上のみでお金を作り出す信用創造が横行していたという事になります。日本がアジアの中で、突出したスピードで近代国家になったのも、金融の発展が関係しているのではないか?と推測しています。

次回は、“信用創造”が抱える問題点をもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

■ 参考文献

『国富論』 / アダム・スミス著
『公共貨幣』 / 山口薫著
『虚構の終焉』 / リチャード・ヴェルナー著
『富国と強兵』/ 中野剛志著
『国債の歴史』 / 富田 俊基著
『江戸の貨幣物語』 / 三上隆三著
『大坂堂島米市場』 /高槻 泰郎著
『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ』 / 宋 鴻兵(ソンホンビン)著(注:原題「通貨戦争」)
『通貨戦争』 / 宋 鴻兵著(注:原題「通貨戦争 Ⅱ」)
『私が総理大臣ならこうする』 /大西つねき著

ファミリー矯正院・心理療法室 /渡辺 俊介


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