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子どもが漫画家になりたいと言い出したら?

「将来の夢?う〜ん。漫画家に…なりたいかな?」

長男にそう言われてドキッとした。

お絵描き好きな小学生中学生が漫画家になりたいと夢見るのは今も昔も決して珍しいことではない。日本は言わずと知れた世界的に有名な「漫画とアニメ、テレビゲームの国」である。子どもの将来の憧れの職業の1つとしてランクインすることは全く不思議ではない。

小学生時代に出会う漫画雑誌。少年漫画好きなら「ジャンプ」「マガジン」、少女漫画好きなら、「りぼん」や「なかよし」などであろうか。お絵描き好きな子はまずここで感銘を受けることとなる。それこそ漫画の「ビリビリと雷が落ちて、体内のガイコツが見えるような」感じに。

何を隠そう、私もそうした漫画を読んで漫画家になりたいと思ったうちの1人である。中学時代は美術部に入り、漫画好きな友人と漫画を貸し借りし合い、その内容について熱く語り合ったり、漫画を描きあって見せあったりしていた。地味だが最高に楽しい中学生生活。ただ高校時代は「オタク」と思われたくなかったので、人には決して言わず、コソコソと親に隠れて受験勉強の合間に漫画を描くのを楽しみにしていたクチだ。(おかげで全然受験勉強に身が入らない。特に投稿するアテのない自己満足なただの「オナニー漫画」である。)そんな私であるが、現在はイラストレーターをしている。漫画も描いて持ち込みをしたこともあるし、何度か掲載されたこともある。(そして2ちゃんで酷評されたことも…)じゃあ、それなら私が子供の夢に対し理解があるのはおかしくない…

わけはない。むしろ真逆である。

厳しさを知っているからこそ安易な気持ちでGOサインは出せないのだ。

「ママはネガティブなことばかり言う」と長男にダメ出しされまくりのハハの私であるが、それでもダメ出しさせてくれ。

まず、「ワンピースを読んでワンピースみたいな漫画を描いてしまう」あたりでダメ。これは私たち世代だと「ドラゴンボールを読んで」「ドラクエをプレイして」アドベンチャー漫画を描きたいのと非常に似ている。まあ、動機自体は決して悪くはないし、最初はそれでいいだろう。ただそれは「模倣漫画」であると自覚した方がいい。ちょっとそうした模倣漫画を描いてみて、飽きてしまって他の夢を追いかけたり、あるいは反対に積極的にどんどん持ち込みに行って編集さんにダメ出しされたりしながら最終的にオリジナリティのある作品が作れればいいと思うのだが。

基本的に全ての作品はパク…もとい、さまざまな作品から何かしらインスパイアされて作られているものだ。長くクリエイターをするのであれば常に何かしらのインプットは不可欠。特に面白くオリジナリティ溢れる深い漫画を描くなら100倍に薄めた希釈液ではなく時として原液を飲むことも必要なのである。ドラクエなどのファンタジーものは「指輪物語」が原点であったりするし、時代劇ものの作品を作りたければ様々な歴史小説を読んだりすることは必須。要はインプットの努力を怠らないことが必要なのであって、ちょっとジャンプを毎週読んでるくらいでインプットできているなんて思っているなら…甘い!甘いぞ〜!と言いたい。

インプットでなければ「経験」や「好きなこと」でも良いと思う。医療やスポーツ、料理や海外文化、車や動物、なんでもいいから人に負けないほど好きなものがあったり、面白い経験があることが、オリジナリティ溢れる漫画を描ける重要な武器となるのだ。実際面白い漫画が描ける漫画家はその人自体がかなり面白いことが多い。(むしろ初対面は静かで内気であったりすることが多いが秘めているものが相当面白かったりする。*これはあくまで個人の感想です。)

何が言いたいかというと、漫画家は実はアクティブであったり、好奇心旺盛なことが重要であるにも関わらず、おとなしくて内に篭りがちで絵だけが得意、みたいな子が目指したがる職業なことに不安を感じているということである。(なので「うちの子は絵だけが取り柄だから…」と思ってそういう系の専門学校に安易に入れることは個人的には反対です。)

老婆心で書いてしまうので聞き流してもらっても構わないのだが、特に昨今はお絵描きソフトもますます進化し、安易に情報が得られる分、信じられないほど若い人の絵のクオリティが上がっている反面、昔以上にインターネットという狭い世界に籠ってしまい絵以外の経験をしていない子が増えている気がする。(いや、インターネットの世界が狭いのではない。使う人の視野が狭ければ狭い世界にしかならないのである。)確かにそこそこ描ける場合、最初の数年は仕事は取れたりする。が、新人が出てきたり、もっと上手い人が出てきたり、流行が変わったりすると途端に仕事が来なくなったりするのである。20年30年見据えての仕事を考えるとあっという間に枯渇してしまう知識量や情熱では太刀打ちできない。一見根暗な商売に思えるイラストレータや漫画家こそ、並外れた好奇心旺盛さや情熱さ、批判されても気にしない打たれ強さ、不安定な仕事量に一喜一憂しない精神的なタフさが必要なのである。

そう、クリエイターを長く続けるには精神的なタフさは不可欠。繊細で内に篭りがちになる業種だからこそ様々な経験や知識は、自分自身が行き詰まった時に問題を多面的な見方をして解決することの助けになってくれると思っている。

個人的には漫画絵を描いている人は、絵だけではなく最終的に漫画が描けるようになることをお勧めする。イラストは基本使い捨てだが、漫画はヒットすれば長く印税で儲けられるし、海外でも売れる可能性があるからだ。

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*デジタルで最近の女子高生を描いてみた。うん、下手なことはするもんじゃない(笑)。途中でめんどくさくなって投げ出す始末。

というわけで、なぜ長男の夢に不安を感じているかというと、「ワンピースを読んでワンピースみたいな漫画を描きたがって」いる典型的なタイプであり「全てにおいて消極的」であるからである。(ドイツ育ちなのに…)とは言え、反抗期真っ盛りの中2男子に「なれるわけないだろ」的なことを言えば言うほど反発し、心を閉ざすこと間違いなしなので、とりあえずは「見守る」方向と、上述したことを小出しに伝えるようにはしている。中2で時期尚早じゃない?と思われるかもしれないが、この時期は高校、大学進学を控えた大切な時期でもある。どうせ自分は漫画家になるんだからと、親から怒られない程度の勉強とあとはコソコソとオナニー漫画だけを描いてなんとなく満足し夢に向かっている気になるのはちょっと危険なんで、勉強の大切さや視野を広げて課外活動をするようにも薦めている。それは結果的にクリエイターになるためにも必要なことなんだよ、と。やりたくないことに関し必要性を感じないと人は動かないからである。

子どもの将来は子どものものだし、実際今の時点でどうなるかは分からない。私のようにうっかり夢を叶えてしまうことも十分に考えられる。ただ私はフリーランスになって5年くらいした頃に急に色々なことが苦しくなり、情熱も技術も知識もアイデアも枯渇しそうになった。その結果軽く結婚に走ってしまった自分のことを後悔している。だからこそ今一度クリエイターにとって何が必要なのかを考えたかったのです。

いや、結婚自体はしてよかったし幸せなんですが(笑)。もっと視野を広げたり積極的に色々と挑戦すべきだったということに対しての後悔です。

ただ子育てもだいぶ落ち着いてきて、自分の経験としてのストックも増えつつあるし、自分自身も随分と精神的にタフになることができた。なのでハハである私もクリエイターとしてもうひと頑張りしようと思っている。本当に何十年も第一線を走り続けている人には尊敬の念しかない。でも休憩を取った後に再び走り始める人生だって悪くないんではないだろうか。「休むことの大切さ」を教えてくれたドイツ生活には本当に感謝している。

ハハの背を見て、自分もこんなクリエイターになりたいなと息子に思ってもらえるように。頑張ります。

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