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ぼくらが選んだ「母1人・父2人」の家族のカタチ。法的ハードルもクリアして、絶賛!子育てに奮闘中 【Famieeディスカッション 第1回 ゲスト:杉山文野さん】

これからの多様な家族のあり方について議論し、世の中に投げかけていく「Famieeディスカッション 家族のカタチ対談シリーズ」がスタートしました。第1回目は、NPO法人東京レインボープライド共同代表理事、そしてFamiee理事も務める杉山文野さんが、Famiee代表理事の内山幸樹と対談。その内容を抜粋してご紹介します。

(noteではディスカッションの一部を記事にしています。ディスカッションの全内容は、FamieeのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。)
https://youtu.be/mHUe5TheoHs

世界中どこへ行っても自分からは逃れられない
それなら今いる場所を生きやすい場所にしよう

内山 幸樹(以下、内山):文野さん、今日は貴重なお時間をありがとうございます。まず簡単に自己紹介をお願いできますか。
杉山 文野(以下、杉山):杉山です。フェンシングの元女子日本代表で、今年41歳になりました。杉山家の二女として生まれ、幼小中高と日本女子大学の附属校に通いました。幼少期から自分のからだに違和感があって、高校の途中ぐらいから少しずつカミングアウトし、自分のセクシュアリティをオープンにするようになりました。大学はフェンシングの推薦で早稲田大学に行き、就職活動のとき履歴書に男と女、どっちに丸を付けたらいいんだろうなと悶々としていたころに、ある出会いがあって、本を出すことになりました。いわゆる性同一性障害のカミングアウト本で、ぼくとしては「セクシュアル・マイノリティはすごく身近な存在なんだよ」ということを伝えたかったのですが、逆にこの本が出たあとは、どこに行っても「性同一性障害の人」と珍しがられるようになって、なんか窮屈だなぁと。
それで逃げるように海外に行きました。いわゆるバックパッカーというやつです。アジア、アフリカ、中南米とぐるっと回ったんですけど、どこへ行っても「She」なのか「He」なのか、ムッシュなのかマドモアゼルなのかという問いが付いてくる。最終的に南極船に乗ったんですけれども、そのときですら、船室を男性とシェアするのか女性とシェアするのかで、もめまして。こんな世界の果てに来てまでも自分の性別から逃げられない、いや性別だけじゃなくて自分自身から逃げられないんだな、それならば、移動して場所を変えるのではなく、今いる場所を生きやすく変えていくしかないと思ったのが、今のぼくの活動の原点になっています。
そのあと、乳房切除の手術をしたり、就職して独立してといろいろありましたが、37歳のときに、子どもが生まれて今ではパパになりました。ぼくには12年以上いっしょにいる女性のパートナーがいます。ゴンちゃんというぼくの友人がいて、彼はゲイなんですが、彼から精子提供を受けて体外受精で彼女が妊娠・出産して、子どもが生まれました。一昨年には第二子も授かりまして、今2歳と4歳の子の子育て中。絶賛カオスな毎日を送っています。

杉山文野さん(NPO法人東京レインボープライド 共同代表理事)

日本でも戸籍上の性別変更は可能
ただし要件は、あまりにシビア

内山:文野さんはトランスジェンダーの当事者だということなのですが、トランスジェンダーについて少し説明していただいてもいいですか。
杉山:トランスジェンダーというのは、出生時に割り当てられたジェンダー(性別)とは異なるジェンダーを自認する人たちのことですが、実際にはその中にも非常に幅があります。特に性別違和が強い場合、日本では性同一性障害という疾患名を付けるケースがあります。けれど世界的に見ると、これは障害でも何でもないですよ、ひとつの生き方なんですよ、ということで、現在はWHOの精神疾患分類から正式に外れました。なので遅かれ早かれ日本でも、性同一性障害という言葉はなくなる方向にあります。
日本では、2004年から性同一性障害特例法がスタートしています。5つの要件を満たすと戸籍上の性別の変更ができることになっていて、現在までに1万人以上の方が戸籍上の性別の変更をしています。ただこれにはいろいろ問題があって、たとえば「生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」などが要件のひとつになっているんです。これは何かというと、もし戸籍上の性別を変更したかったら、手術をして生殖機能を取り除きなさい、ということなんです。ぼく自身は、乳房切除はしているんですが、子宮と卵巣は摘出していませんので、法律上の性別変更をすることができません。なので、すべての書類上の性別は「Female」「女性」となっています。
ぼくの家族写真を見たら、どこにでもいそうな幸せな家族に見えるかもしれませんが、ぼくと彼女は見た目は男女のカップルでも、戸籍上は女性同士です。同性婚が実現していない日本においては法的な関係性を持つことができないので、どれだけいっしょに暮らしていても、ぼくは法律上は、シングルマザーとその子どもたちと同居している赤の他人と同じです。いざ彼女や子どもたちに何かがあっても、病院の面会すら断られてしまうかもしれない。同意書ひとつサインできないかもしれない。そういう不安の中で生活してきたというのが現実なのです。

あらゆるケースを想定し、法的手続きを踏んで
 「3人親」体制で子育てをスタート

内山:お子さんを持つまでには、日本の現行の制度下でいろいろ大変なこともあったのではないですか。
杉山:まず、婚姻の平等がないので、法的な関係性が持てない。ぼくが手術をして身体を切って戸籍変更をすればいいじゃないかと言われるかもしれませんが、生きるために制度があるわけで、制度のために生きているわけではないとぼくは思っているので、身体にも心にも、金銭的にも大きなリスクを背負いながら、紙切れ1枚とるために手術をしようとは思いません。
じゃあ戸籍変更をしないで子どもを持つにはどうするか。選択のひとつ目は、彼女が産むのか、どなたかに産んでいただいて何らかのかたちで引き取って育てるのか。彼女自身は、できることなら産みたい、と。次の選択は、知人から精子提供を受けるのか、いわゆる精子バンクからいただくのか。まったく知らない人はちょっと怖いな、と。じゃあ誰に提供してもらうのか。ぼくにも嫉妬心があるので、異性愛者の男性はどうしても嫌でした。ゲイの人であれば嫉妬もしないし、日本社会において子どもを持ちたいと思ってもなかなか持ちづらい環境にあるという点は共通しているので協力し合えるのでは、ということで、いちばん仲が良かったゴンちゃんに相談したのが始まりです。
ゴンちゃんも子どもをほしいと思っていたけれども、ゲイである自分が子どもを持つのは無理だと思っていたということでした。もし彼に子どもをほしいという思いがなかったら、単に精子提供を受けるという手段もあったかもしれない。でも彼も子どもがほしいのなら、ぼくたちだけが親になって、彼が親になれないのはフェアじゃない。それで“3人親”を選ぶことに決めました。
それからすぐに、子どもの人権を専門に扱う弁護士に相談に行きました。トラブルに巻き込まれたとき、誰かが病気になったり死んでしまったりしたとき。ありとあらゆる最悪のケースを想定して、「こういうときはどうしたらいいですか」と相談しました。最終的に弁護士に、「子どもにとっては、血のつながり、法のつながりよりも、目の前にいる大人が真剣にかかわってくれるかどうかが大事」「子どもを育てる大人の手が足りなくて困ることはあっても、多すぎて困ることはありません」と言ってもらって、ぼくたちでもやっていけるんじゃないかという結論を出しました。
最初の子どもを産んだタイミングで、彼女は実母、産みの親となり、親権を持ちました。ゴンちゃんは認知をして、親権はないけれども、法律上の実父になりました。ぼくは親権もなければ、法律上の親でもない。まったくの赤の他人だったんです。なので、子どもと養子縁組をして、親権を持つ養母になりました。戸籍上女性なので“養母”です。そういうわけで、今は3人とも、子どもの法律上の親になっています。
内山:なるほど。すごいですね、これは。
杉山:当時、ぼくのようなケースで養親(養母)になるのを認められたケースはおそらく日本でははじめてではないかと、弁護士さんに言われました。

内山幸樹(一般社団法人Famiee 代表理事)

社会の変化にルールが追いついていない
その“ひずみ”が“生きづらさ”を生んでいる

内山:今の世の中のいろいろな制度が、異性同士のいわゆるお父さんとお母さんを前提に成り立っているなとすごく感じます。文野さんたちから見ると、これはおかしい、と思うところがたくさんあるのではないでしょうか。
杉山:現場レベルでは理解が進んでいるので、すごく困ったことというのはあまりなくて。ただ、たとえば保育園の親の名前を書く欄が2つしかなくて、ゴンちゃんはどうしようか、みたいなことには常に突き当たる。保育園のお迎えもパパかママということになっていて、ゴンちゃんがお迎えに行くときはどうしたらいいの、とか。でもシステム上はそうなっていても、実際には柔軟に対応していただいているので。
内山:Famieeの活動の中でも、企業の人たちが多様な家族のカタチを柔軟に受け入れようとしてくださっていることを、日々実感しています。
杉山:個人のライフスタイルがこれだけ多様化しているのだから、個人の集まりの最小単位である家族が多様化していく流れは止められないと思います。その結果として今、社会のルールとリアルがちぐはぐになっている。既存のルールに実生活がともなっていない。そのために生きづらさが発生していることは間違いないと思います。
ただひとつだけちゃんとお伝えしておきたいのは、ぼくたちは決して伝統的な家族観を否定しているのではないということです。伝統的な家族観もすばらしいけど、そうじゃない人たちもいるというときに、選択肢が増えていくことが大事だと思っているのです。

法改正に向けての段階策としても
Famieeのパートナーシップ制度には期待大

内山:Famieeでは、同性パートナーの方に限らず、より多様な家族のカタチを受け入れる社会をつくっていくという構想を描いています。企業がどこまでそれを受け入れてくれるか、不安もあるのですが。
杉山:LGBTQだけでなく、国境を越えて家族になるとか、子育てに1人とか2人じゃなくてたくさんの人たちがかかわるとか…。
終わりがないというか、家族のカタチは時代に合わせてずっと変わり続けていくと思います。制度ができることで多様な家族が可視化されていく、可視化されることで制度が進んでいく。その両輪だと思うので。
内山:Famieeを始めたころ、文野さんに、「同性向けパートナーシップ証明書と言われた段階で、自分がマイノリティだということを思い知らされる。異性のカップルでも、Famieeのパートナーシップ証明書を婚姻届の代わりに申請するようになってはじめて、ぼくたちも、じゃあやろうかなと思えるんです」と言われたことが、とても強く印象に残っているんです。
杉山:いずれ誰もが使う制度になっていくことはすごく大事だと思います。よく、同性婚ができなくてもパートナーシップ制度が進めばいいじゃないか、と言われますけれども、日本国憲法はすべての国民は皆平等と言っているにもかかわらず、結婚できる人とできない人がいる。「すべて」の中にLGBTQの人は含まれていないという裏メッセージになっていますよね。(※2022年11月30日、東京地裁は、同性カップルが家族になる法制度がないことについて「違憲状態」との判決を下した。インタビューは11月29日に実施)
そもそも婚姻制度というもの自体が古くなってきているのだから、新しくつくり直せばいいじゃないかという意見もありますけれど、それはぼくたちにとってはやっぱり“明後日の議論”なんです。明日がこないことには、明後日はこない。婚姻の平等ができたり、平等な扱いになって、その上で次どうするの、という話ができるのだと思うので。
段階としては、Famieeのようなパートナーシップ制度ができて、いろいろ足りない部分を補いつつ、最終的には機会の平等がしっかり実現されることが大事。いきなりそこに一足飛びには行けないので、段階として、そうやって積み上げていくということなのかなと思います。

noteではディスカッションの一部を記事にしています。ディスカッションの全内容は、FamieeのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。https://youtu.be/mHUe5TheoHs

Famiee

執筆:坂本潤子(Famiee メンバー)

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