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「D&I」の意識を世の中に行き渡らせるために必要なことを実践者が語る――?【Famieeオンラインイベント レポート】

Famieeは6月18日(土)、「D&Iへの共感の広げ方」をテーマにオンラインでディスカッションイベントを開催しました。上場企業を中心に500社以上のダイバーシティコンサルティングを手掛ける星賢人さんと、いち早くD&I推進室を設けたSAKURUGの遠藤洋之さんが登壇。Famieeアンバサダーで経済キャスターの瀧口友里奈さんが司会を務めました。その概要をレポートします。

“違い”を隠そうとする日本
そのために対策が遅れがちに?

D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)、すなわち、多様性を認めてそれを包含すること。その大切さは頭でわかっていても、なかなか具体的なアクションに結び付けられない――。個人や企業・団体にかかわらず、そんなジレンマを抱えている方々は、案外多いのでは?

そんなお悩みにお応えしようと、民間団体として同性カップル向けのパートナーシップ証明書を発行している一般社団法人Famieeは、「D&Iへの共感の広げ方」をテーマにオンラインイベントを開催。LGBTQ向け求人情報サイトJobRainbowを運営し、ダイバーシティに関する研修やコンサルティングを手掛けるJobRainbow代表取締役CEOの星賢人さんと、時短、シニア、LGBTQに特化した採用プラットフォーム、Sangoportを運営し、自社でもいち早くD&I推進室を設けたSAKURUG CEOの遠藤 洋之さんを迎えて、ディスカッションを行いました。

米国のスタートアップ企業で働いた経験のある星さんは、日本企業のD&Iへの対応は「遅れている」とバッサリ。欧米企業ではD&I専任の役員を置くのが当たり前なのに、日本はそうではないと指摘。欧米企業の対応が「進んでいる」理由のひとつには、マイノリティに対する暴力事件が多発している事実があるというショッキングな報告もありました。星さんもゲイの当事者ですが、星さんの友人は米国で同性のパートナーと手をつないで歩いていたとき、生卵を投げつけられた経験をしたそうです。ほかには人種差別。肌の色の違いは目に見えやすく、暴力事件にもなりやすいのが現状。「米国では、身の危険があるアグレッシブな差別に対抗するために規制が設けられてきたという経緯があるのです」と星さんは説明します。

同質性を重視する傾向は、日本にもあります。しかしたとえば、在日韓国人と日本人の差異は目に見えにくく、本当は差別が存在していても、表に出ることはあまりありません。しかしもちろん、差別意識がアグレッシブな表現をとらないからそれでいいというわけではありません。たとえばLGBTQの就労者のうつ病罹患率は、就労者全体の5~6倍に上っているのだそうです。
星さんは、欧米ではD&Iの学問的研究が進んでいることも紹介。たとえば、黒人の就労や管理職への昇進が妨げられていることでどれだけの経済的損失が生まれているかといった試算がなされ、その結果に呼応して迅速にダイバーシティの施策が策定されてきたといいます。

いち早く社内にD&I推進室を設けたSAKURUGの遠藤洋之さんは、「本格的にD&Iに取り組むようになってから、面白いように業績が伸びました」と明言。現存する差別は、できるだけ目に見えるようにして、少しでも多くの人にわかるようにして、早々に解消に動くのが得策のようです。

当事者意識に立って腹をくくれるかどうかが
明暗を分けるポイントに

すでにD&Iの対策をとっている企業も少なくありませんが、せっかく設けた施策を利用する社員がいないという声も聞かれます。利用者がいないのなら、制度は必要ないのか? 「それは違う」と遠藤さん、星さんは言います。

「SAKURUGはFamieeの家族関係証明書のサービスを導入しています。仮に対象となる社員がいなかったとしても、サービスを導入したことによって、当社が多様性を認めているというメッセージを発することができると考えています」(遠藤さん)。星さんは、制度が利用されないのは、利用のハードルが高いためなのではないかと指摘します。「制度を利用するためには、上司、そのまた上司の印鑑をもらう必要があったりする。そのことで何重にもLGBTQであることをカミングアウトしなければならない。これでは当事者にとっては無意味な、空虚な制度ということになってしまいます」(星さん)。「当事者にていねいにヒアリングするなどして、使いやすい制度になっているかどうかを事細かに検証する必要があります」と星さんは提言します。

「経営陣が『これが正しいから実施する』と腹をくくって制度をスタートさせたのか、体裁を整えるためだけにおざなりに導入したのか。そんなことは皆にお見通しですよ。経営側が本気になってD&Iに取り組んでいるかどうかが、成果を左右するのだと思います」(遠藤さん)。制度があるだけでは不十分。今、日本企業のD&Iは、Iの部分、つまり社内にいかに当事者意識を根付かせるかという局面を迎えていると言えそうです。

「WAGAMAMAであれ」をコンセプトに事業を展開するRebolt代表であり、Famiee事務局を担っている内山穂南さんは、近年の日本企業の状況についてこう語ります。「D&Iの必要性を理解し、自社も変わらなければならないという自覚に立ったうえで、『この点がわからない』と具体的な質問をぶつけてくださるご担当者が増えています。ここ数年で世の中が確実に変化しているという実感があり、この波をしっかりつかみたいという思いで日々業務にあたっています」。元プロサッカー選手の内山さんは、LGBTQの当事者でもあります。

NFTアート・チャリティ第三弾を展開中
賛同者のネットワークづくりにも期待

Famieeでは今、アーティスト、スドウ創太さんとのコラボレーションで、NFTアート・チャリティ・オークションの第三弾を展開中。同プロジェクトは、事業拡大のための資金集めの一環として今年1月に開始。第一弾、第二弾は、名称通りオークション形式で実施しましたが、今回の第三弾は、「Famieeの活動に少しでも興味を持った人、この作品がカッコイイ、カワイイと思ってくれた人も気軽に参加できるように、1,000円の固定額で1,000枚を発行するかたちにしました」(内山さん)。

販売している作品は、多様な家族のあり方を描いたイラストレーション。1から1000までの通し番号のうち好きな番号を選んで購入することができ、購入後はSNSアカウントのアイコンやパソコンの壁紙などに自由に利用することができます。ちなみに司会の瀧口さんは、誕生月の「8」番を購入済みとのこと。

すると星さんから、「購入者はFamieeの強力な賛同者。せっかくのつながりを1回切りで終わらせないよう、購入者同士がコミュニケーションできる機会を設けるなど、特別な体験を合わせて提供しては」という提案が。「企業のD&I担当者は社内で孤立しているケースが多く、ニーズは高いはずです」(星さん)。瀧口さんから「D&Iの最新情報を求めている企業の担当者にも喜ばれそう」という声が上がり、内山さんは「ぜひすぐに実現させましょう!」と応じました。FamieeのNFTアート・チャリティ・オークションの今後の広がりに、期待が高まります。

多様性は社会の活力となり得るか
ここ数年のうちに解決すべき課題とは?

米国での経験から、ダイバーシティが企業の活力を生み出すことを実感しているという星さん。その星さんがここ数年、取り組むべき課題として挙げたのは、「D&Iを科学すること」。D&Iの施策によって社員の働きやすさは向上しているか、会社への帰属意識は高まっているか――。そういった目に見えにくいものをデータ化して検証することが、D&Iの推進に役立つと考えているのです。「D&Iは数値化しづらいものと思われていますが、パルス分析を行うことによって、意外とセンシティブに数値が動いていることがわかるのです」(星さん)。

時短に着目している遠藤さんは、この3年ほどで日本社会に週休3日制が浸透していくと見ています。「個人が自分自身のために多くの時間を使うようになり、自分らしさを追求して、『自分はこれでいい』という自己肯定感を強めていく。その結果、多様性が広がり、企業はそれを認めざるを得なくなる――。そんな未来の姿に、ワクワクしますね」(遠藤さん)。

多様性が社会に活力をもたらすという認識を皆で共有できれば、D&Iの共感が広がっていく。そして、経営者が本気で施策を講じ、1人1人のメンバーが気兼ねなく自分らしさを発揮できれば、D&Iが目指している未来像を現実のものにすることができる――。そんなことを実感した6月の土曜日の夜でした。

執筆:一般社団法人Famiee 
https://www.famiee.com/

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