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私はX-H1を愛している


この文章について

なるべく抑えようと思って書いていますが、このカメラが
あまりにも好きすぎて気持ち悪い感じが滲みでていると思います。
というかタイトルからして既に気持ち悪いです。
そういうのが苦手な方はお気を付けください。

また、歴史的に解釈の余地がある箇所や、厳密には違う箇所もありますが、そこはカメラオタクの怪文書ということでお許しください。
書き終わってみたけど文章、長いですね。まぁ全部書いちゃったから。
オタク、好きなものは何時間でも語れちゃうから……

この文章の本題は、「X-H1の何が好きか」の段落までありません。
直下はX-H1がどういう時代に発売されたか、どういった位置づけの
機種だったか、という文章です。
こちらだけで3000文字ぐらいあるのでお暇な方はどうぞ。


X-H1をご存じですか

ネオクラシックというか、レトロなカメラが今ブームですよね。
ニコンのZfやZfc、富士フイルムのX-T5やX100VIなど最新機種に限らず
少し昔のNikon Dfや、元々時代のフイルムカメラなど。
すこし前は街で見かけるカメラといったら、キヤノンやソニーの現代的なデザインのカメラが多かったのに、最近はこういったカメラの割合も大分増えた様に思います。

このカメラのお話です。
この怪文書の全体文字を数えたら10,400ぐらいありました。

今回とりあげるのは富士フイルムのX-H1、ネオクラシックなデジタルカメラを一番作っている人気メーカーの最上位ライン、その1つ前の機種です。
今だとX-H2という機種が店頭に並んでいるかと思いますが、メーカー的にはそちらが後継機という扱いです。
富士フイルムのほかの機種とは違い、クラシックというよりは
現代的なデザイン寄りの機種でお仕事用、といったところでしょうか。

最初のプロ向けフラッグシップミラーレスカメラ

富士フイルムは元々クラシカルなミラーレスカメラのメーカーです。
機能的にもキヤノンやソニーの様に最新の機能で最高の瞬間を撮ろう!
というよりは、ダイヤルをくるくる回したりして1枚1枚自分の好みの写真を撮ろう、という機能が多いのが特徴です。

フイルムシミュレーション、いいですよね。
X-H1はこの一覧ができるアプリに今のところ対応していないのでガラガラですけど……

フイルムシミュレーションという、昔のフイルムをイメージしたInstagramの様なカラーフィルターがついていたり、ほとんどの機種は独立した専用の
露出調整用ダイヤルがあって、そういった操作や色で選ぶメーカーでした。

X-H1はそういったどちらかと言えば趣味というか、最新を目指さないメーカーが初めて作った「プロ」向けのカメラです。この場合のプロというのはLeicaやHasselbladの様なカメラを使う、美術家としてのプロというよりも
オリンピックなどで選手の決定的な瞬間を撮る、または普通の人が
迎えない厳しい環境に行ってその世界を表現する、といった方のプロです。
つまりカメラにはそういった環境に耐えられる耐久性と、最新の性能が必要になります。

X-H1はそこに富士フイルムがはじめて挑戦したデジタルカメラでした。
厳密には他社ボディをベースにしたモデルなど、過去に色々
ありはしたのですが、メインラインのミラーレスデジタルカメラとしては
初めてのプロ向けフラッグシップでした。

それまでの機種では画質が低下するからと、頑なに搭載しなかった
ボディ内手振れ補正機能や、クラシカルとは違うAF時代の一眼レフの様な
しっかりとしたグリップ。
映画撮影を見据えた4K動画撮影機能の充実、色々とありますが
当時の富士フイルムのカメラと聞いてイメージする、クラシカルな印象や
機能を残しつつ、一般的なAF一眼レフの流れを汲むデザインも取り入れる。
そんな不思議なデザインのカメラでした。

後ろ姿。ダイヤルやボタンがいっぱい。

そして不遇の機種

そんなX-H1ですが、ファンからの反応は微妙だった記憶があります。
富士フイルムといえば、ネオクラシックなデザインで操作を楽しむカメラ。
一眼レフの様な大きなグリップや、ボディ内手振れ補正機構のために
大型・重くなった筐体、全体的に機能が増え大きくなったにもかかわらず
既存の機種と同じバッテリのままで使用時間が短い。
他にも色々言われてはいましたが、概ねらしくない、という評価でした。

それに加えて、当時の環境もあります。
前年にソニーがα9という、一眼レフカメラではできないこともミラーレスならできる、という最新機能を搭載したフラッグシップ機を出しました。
プロの一眼レフ、アマチュアのミラーレス、という印象から
プロもミラーレスで実用になるね、そういった空気が出てきた時代です。
加えて、X-H1が発表されたのは2018年2月。
初めて富士フイルムがそういうラインのフラッグシップを出した、その同じ月にソニーがα7IIIという機種を出しました。

α7III、この子も使っていました。
これはX-H1で撮りましたが、黒の感じが素敵ですよね。


α7IIIは当時、「ゲームチェンジャー」と呼ばれていた機種です。
プロ向けに振ったα9からプロが必要な機能を外し、価格は半値以下。
ですが当時最新のプロセッサと新世代のセンサーで実現した
高速・高精度なAFと必要十分な連射性能、無理をしないことで
上位機種よりも高い高感度への耐性、細かな機能の充実、新型バッテリーによる持続時間の大幅な向上など、ソニーが弱いと言われた機能の殆どを
改善してきたうえで、それを「ベーシックモデル」と呼んだのです。
当時の最新フルサイズミラーレスのラインナップとしては、最廉価の機種でした。(併売の旧機種α7II等を除く。)

X-H1はAPS-Cサイズのミラーレスカメラとしては大きく重くなり
色々なものが初めてが故に、またこなれておらず古いところもありました。
方やα7IIIは最新の機能と性能、それでいてセンサーサイズは大きいのに
サイズはX-H1より小さく、駆動時間も長く、価格は同等。
どちらが売れるかは、だれの目にも明らかでした。

X-H1を出した半年後、富士フイルムは最新のプロセッサとセンサー
従来からのクラシカルなデザインを継承した機種、X-T3を出しました。
そう、最新のセンサーとプロセッサです。フラッグシップという扱いで
X-H1を出したそのわずか半年後に、中身が最新最高の機種を出す。
一般的なカメラの開発期間を考えると、X-H1の開発が大分遅れていたなど
そういった理由はあるのかもしれませんが、X-H1X-T3までの間に購入した
人の心境や如何に。
X-T3発売後は明らかにフラッグシップ機の扱いではありませんでした。

X-T3は順当な進化をした人気モデルということもあり、ファームウェアによる機能追加もどんどん行われました。次機種のAFまで実装されています。
一方X-H1にきた主な機能追加は、ボディ内手振れ補正とレンズ内手振れ補正の協調動作のみ。
他は細かい不具合修正が殆どで、おそらくこの機能追加も予定されていたものが発売日に間に合わず、あとから実装されたのかなと思います。

最近、XAppという新しい富士フイルムのカメラ向けアプリが出ました。
富士フイルムはソフトウェアが弱く、スマホアプリも使いにくいのですが
そういった点をある程度改善しつつ、これまで撮った場所やレンズなどの
記録もできる、非常に面白いアプリです。他社も真似してほしい。

X-H1では残念ながらこのアプリは未だに非対応で使えないのですが
タイムライン形式でどこで何を撮った、とかいろいろ機能があって面白いです。

こちらも、X-TシリーズはX-T5,X-T4,X-T3と2世代前まで対応したにも
関わらず、X-H1は未だに対応されていません。
1世代前のフラッグシップ機だったはずなのですけれどね。
もちろん、プロセッサの世代が違うという理由は大きいのかもしれませんがX-H1と同じ世代の中判デジタルカメラ、GFX 50Rは対応しました。
XAppの発表会ではBluetoothのついていない機種は古いアプリを使ってね
と中の方がおっしゃっていましたが、Bluetoothがついていても
しかもそれがフラッグシップ機であっても対応しない機種はしません。
X-TransCMOSを積んだ機種では、非対応機種は確かX-H1X-E3だけ。
サポートページのFirmware Updateの項目を見ると、対応される機種と
そうでない機種のバージョン番号の差が歴然としていて面白いです。

富士フイルム、そういう所だぞ。と、いつも思ってしまいます。

X-H1の何が好きなのか

さてここまで3000文字以上使い、最後にはお気持ち文が
少し入ってしまいましたが、本題の話をしましょう。

3000文字も使って語った様に、X-H1はある意味実験機的な側面が多くあり
メーカーが後継機と呼んでいる機種では消えてしまった機能がたくさんあります。
私はそういう所がとても大好きで、この機種を愛しています。
今回はそれをご紹介しましょう。

フェザータッチシャッター

X-H1をH1たらしめる、この場所にすべてが詰まっています。

富士フイルムのカメラをお持ちで、X-H1をあまり触ったことがない方でも
この単語ぐらいは聞いたことがあるかもしれません。
それまでの富士フイルムのシャッターは伝統的なレリーズケーブルが繋がる
はっきりとボタンを押す、押さないの閾値がわかるシャッターでした。

ですが、このX-H1は違います。
しっかりとした握れるグリップを握り、指をシャッターボタンに置く。
もちろんタッチボタンなんて不安定な代物ではなく、物理的なボタンです。
その物理的なボタンをほんの少し、本当にほんの少し、名前の通り
鳥の羽に対して持つ印象ような軽い感じで押すと、ピントが合います。
AFカメラでは半押しと呼ばれる、撮影前にAFやAEを動かす動作です。

そこから更にわずか、被写体をファインダー越しに見つめ
ここだと思ったその瞬間、反射的に動く指ぐらいの感覚でボタンを押すと
カシャン、とシャッターが切れます。

既に長い間カメラを触っている人、特に既存の富士フイルムユーザが触ると
驚くでしょう。半押しするぐらいの指への荷重で、シャッターが切れます。
このシャッターボタンが素晴らしいのです。
メーカーがあまりに軽すぎるのを不安に思ったのか、公式でストローク調整のサービスがあるくらいに、このシャッターボタンは異質です。

でも、このシャッターボタンがこの機種の最大の特徴であり、私がこの機種を絶対に手放せない理由でもあります。
カメラをしっかりと握り、ファインダーを覗き、撮りたいものを
表現したいものを視野におさめる。
あとは本当に軽く、軽くカメラに撮りたいという意思表示をするだけで
カメラがそれに自然と答えるかの様にシャッターが切れる。

当然、好みはあると思います。
メーカーのいう所の後継機では名前は継承したものの、他社とほぼ同じ
シャッターボタンになってしまいました。押す感覚が多少軽いだけ。

でも、X-H1のシャッターボタンは押す感覚が軽い、だけでは言い表せない
独特のものです。

それはこの機種独特のIBISユニットのスタンバイ時の挙動や
AF動作の時の動きと相まって、唯一無二の撮影体験を呼び起こします。

シャッターが切りたい。このカメラともっと会話がしたい。
そう思わせてくれる、唯一無二のシャッターボタンです。

IBISユニット

フェザータッチシャッターの段落でIBISユニットのことを書いたので
次はこちらの話をしましょう。
この機種に搭載されているIBISユニットは、富士フイルムとして初めての
ボディ内手振れ補正ユニットということもあり、独特の構造をしています。
以降の機種とは違う、コイルスプリングと3つの独立した磁石で実現する
IBISは、この機種独特のフィーリングを生みます。

電源スイッチONなどIBISがアクティブになる際のコッコッという音と振動。
電源スイッチを切った時のコツッとした落ち方。
まるでおはよう、おやすみとカメラが反応してくれている様に感じます。

すべてを受け入れてくれるグリップ

縦グリップをつけると堂々した姿に。
USBテザリングでドール写真をよく撮っていました。

X-H1発表の前年に発表された、富士フイルムの中判カメラでGFX 50S
というカメラがあります。フジの中判ミラーレスとしては最初の機種。
X-H1とデザインコンセプトを共有している様なので、軍艦部からみた印象は
非常に似ていますが、中判サイズのセンサーを使うので実物は巨大です。
X-H1のグリップはそれを引き継ぎ、とても深くしっかりとしたものです。
指かかりがよく、すっと握れ、しっかりと握りこめる。

その頃の富士フイルムの顔といえばX-ProシリーズとX-Tシリーズ、そしてX100シリーズ、どれもクラシカルなスタイルで、グリップが無いわけではないのですが、しっかりと握りこむようなスタイルではありません。

そんな中登場したX-H1のグリップは当時の富士フイルムのAPS-Cカメラでは唯一。 その後、こういったAF一眼レフタイプのグリップはリトルX-H1と
いった印象のX-S10と、その後のX-20、メーカーが言うところの後継機の
X-H2しか採用されていません。
どれも微妙に形状が異なるのですが、X-H1のグリップは手のひらすべてを
しっかりと受け止める懐の深さがあり、親指のかかりがその後の機種よりも高いため、安心してその重量を手のひらで受け止めることができます。
これは、フェザータッチシャッターのフィーリングを実現するための大切な土台です。

レトロとモダンが混在した操作系

2つの露出操作専用ダイヤルと、サブモニタ。

この写真を見てもわかると思いますが、異質なデザインです。
レトロなISOダイヤルシャッターダイヤルにモダンなサブモニター。
サブモニターは電源を切っても撮影可能枚数や露出補正値が
表示され続け、電源を入れると撮影時に必要な情報が表示されます。

APS-Cのミラーレスとしては大柄でも、こういったサブモニターがついた
ものとしてはかなりコンパクト。それに加えて独立したダイヤルが2個。
最新のフルサイズミラーレスですら、どちらかしか積んでいません。
それをX-H1は両方積んでいます。

しかもダイヤルの底部にはドライブや測光の切り替えレバーもあり
電源を入れなくても、メインモニターを覗かなくても今のカメラの状態が
一目でわかります。
グリップの前後には昔の富士フイルムでよく見られた押し込みのできる
ダイヤルもあり、モダンなミラーレスカメラとしての操作も可能です。

X-T5の様に物理的なダイヤルをくるくる回して撮るのもよいでしょう。
ISOは200、シャッターは1/250、絞りはF5.6にしようか。
ダイヤルが示すその値がそのまま設定値になります。実にフジらしい。

今度は逆にα7の様な撮り方をしてもいいです。
前ダイヤルでシャッター、後ろダイヤルで絞り。
X-H1のダイヤルは押し込みで機能切り替えができるので、ISOもそのまま
手を放さずに変更できます。

撮影者の好みにあわせて、レトロとモダン、どちらも受け入れる懐の深さ。
三軸チルトの背面液晶パネルや、精細で見やすいファインダー。
フォーカスレバーと独立したDパッド。

インターフェイスが全部盛りでわかりにくい?
いえいえ、そんなことはありません。しばらく一緒にいると、自然と
このカメラとの使い方が定まります。
X-H1はデザイナーがこう使えと使い方を押し付けてくるカメラではなく
あなたが一番使いやすい使い方を見つけることができるカメラなのです。

そして、これらの全てが生み出す撮影体験


写真を撮ろう。

そう思いながらX-H1を手に取ると、丁度よい重さの本体と、それを保持するための深いグリップの肌触りよさを感じる。

指で電源を入れるとコッコッとIBISユニットが心地よい振動を伝え
カメラが一緒に撮影しようと応えてくれる。

ここでカメラに軽く視線を落とせば、ダイヤルとサブモニターが
現在のすべてを教えてくれる。メインモニターを覗きに行く必要はない。

撮りたいものを決め、ファインダーを覗けばフラッグシップ機らしい
EVFの精細な絵が映し出される。構図を考えながら、静かにその時を待つ。

そして撮ろうと思った時には阿吽の呼吸でシャッターボタンが反応し
カシャン、と柔らかで静かな音をしながらシャッターが切れる。

そして電源をきると、「またね」といいたげなIBISのコツッとした振動でカメラが応える。


この一連の流れは、X-H1でしか味わえません。
深く握れるグリップに、本物のフェザータッチシャッター。
この機種にしかないオリジナルのインターフェイスと、IBISの応答。
このX-H1という機種を構成するそのすべてが、この心地の良い、写真を撮ることの楽しさを改めて思い出せてくれる体験を呼ぶのです。

もちろん、残念な所もある

X-H1がその機種でしか味わえない特別な体験を提供してくれる一方
不遇の機種と呼ばれるだけの残念な所もあります。

例えば、この頃の富士フイルムのカメラは電池がとにかく持ちません。
IBISを積んだにも関わらずバッテリーが大型にならなかったX-H1は
特に持ちません。
その体験を生むためにサブ液晶やIBISユニットを積み、α7よりも大型化したにもかかわらず、そのバッテリーは小型なX-E3やX-E4と同じなのですから。

また、ミラーレスカメラとしてはソフトウェアの作りが良くありません。
短い製品寿命の中で不具合修正を何度も繰り返している様に、カメラに
しては珍しくフリーズしてしまうことがあります。
キヤノン、ソニー、そのほか色々なデジタルカメラを使ってきましたが
何分待っても応答が帰ってこない、明確にフリーズする機種はX-H1が初めてです。

現代的なミラーレスカメラなら当たり前に搭載しているスマホへの画像転送も、この機種はうまく動きません。
富士フイルムのカメラはX-H1に限らず最新のX-T5に至るまでどこかネットワーク周りの動きが安定せず、フリーズや転送失敗が非常に多いのですが
X-H1は特にひどくて転送できるほうが珍しい、という機種です。
一応フラッグシップらしくワイヤレスでテザー撮影する機能もあるのですが
まともに動いたことがありません。
スマホ転送は諦めてiPad用にSDカードリーダーをいつも持ち歩いています。

あとは...…
時代的に混在期なので仕方ないのですが、本体の端子がmicroUSBです。
バッテリーの持たなさもあり、旅行時は予備バッテリーか充電環境も一緒にもっていく必要があるのですが、手荷物が殆どtype-Cの中、X-H1の為だけにmicroUSBケーブルを持ち歩く必要があります。
毎回必ずX-H1を持っていき、ケーブルだけ忘れて100円ショップで買う。
私の家にはmicroUSBケーブルが大量にあります。

私はX-H1を愛している

上記のような時代的に仕方ない箇所
チャレンジングだったゆえに仕方ない箇所
あとX-H1というよりは富士フイルムのソフトウェア品質の問題で残念だなと思う箇所はありますが、それでも私はX-H1が好きです。愛しています。

ここからはちょっと自分語りが入ります。ごめんなさい。

私はEOS Kissで写真を始めてから、色々なカメラを使ってきました。
コンパクトカメラ、一眼レフカメラ、レンジファインダーカメラ
フイルムで撮るもの、デジタルで撮るもの。

それぞれのカメラに良い所があり、悪い所がありました。
色々なカメラを使っていても、結局のところ私はプロではありません。
あくまで趣味で、写真を好きなように撮るだけ。
フォトグラファーなんて御大層な名前とは縁がない人間です。
私のTwitterのメディア欄を見てもわかると思います、写真は好きだけど
それをお仕事にできるだけの何かは私にはありません。

なので使っていて楽しいな、写真を撮るのが楽しいな、と思える機種を
探していました。だって、趣味なのですから。嗜好品なのですから。
楽しくなければ意味がありません。

フイルムではNikomat FT2という機種がそれです。
このすべてのカメラが値上がりする中において、中古屋で3000円のシールを
貼られて埃をかぶる様な機種ですが、私にとっては特別なカメラです。
それはまた別の怪文書で語るとして、デジタルでもそういう機種を探していました。

X-H1の前に私はα7IIIを使っていて、それはα7IIから発売日に買い替えたものでした。
確かに、α7IIIには当時欲しかった全てがありました。
高ISOでもノイズが乗らないセンサー、なんでも高速にしっかりと合うAF
サイレントシャッターがついていてバシャバシャ言わない、バッテリーもすごく持つ。

でも、何か足りない。
段々とα7IIIを持ち出す機会は減り、デジタルで写真を撮る機会が減りました。

そんな時、富士フイルムが東京ミッドタウンでカメラの1日レンタルをやっていることを知りました。しかも当日返却なら無料です。
35mm F1.4が神レンズとして騒がれていたのもあって、IBISを積んだX-H1に興味がありました。 無料で試せるなら、一度触ってみようと。

ある日の休日、軍艦部に大きく「for RENTAL」と刻印されたX-H1と
35mm F1.4を借り、周辺をぶらぶらとしました。

お借りした方のX-H1 今見ると刻印がちょっとかわいそう。



当時行ったことのあまりなかった国立新美術館に入り、富士フイルムの独特な操作に戸惑いつつ、ファインダーを覗いてシャッターを切りました。

なんだこれ 楽しい!

本当に久しぶりに、写真を撮ることが楽しく思えた体験でした。
国立新美術館が映えるスポットだったのもあると思います。
でもこのダイヤルの操作がサブ液晶に表示される、操作している感覚。
フェザータッチシャッターの優しいフィーリング。
IBISのコトンコトンという応答。
フイルムシミュレーションで遊ぶ楽しさ。
全てが、これまでにはない体験でした。

コトン、コトン、X-H1と撮るといつも楽しい。
これはレンタル機で撮った最初の数枚のうちの一つ。すき。


私はX-H1に夢中になりました。

色々とあってすぐには買えず、半年ぐらい経ってからある噂を
耳にしました。 海外でグリップとセットで10万円ぐらいになっていると。
ちなみにこのカメラ、単体で元々23万円ぐらいの機種です。
X-T4の噂が出ているとはいえ、まだ発売してから1年半ぐらいの時でした。
富士フイルムがどれだけさっさと見切りをつけていたかがわかります。

本当にそういう所だぞ。富士フイルム。

α7IIIには言語化できない違和感があり、α7IIをまだ手元に残していました。
そこからそれをカメラ屋さんに買取依頼し、X-H1が来るまではすぐでした。
あの夢中になったカメラがレンズ込みで15万で手に入るんですから、迷っている場合ではありません。

それ以来、X-H1は私の相棒です。
富士フイルムでの扱いがいかに悪かろうと。
X-T3の様にアップデートが降ってこなかろうと。
このフジのカメラ値上げの波の中で下位機種よりも中古価格が安かろうと。
この機種は私に写真を撮ることの楽しさを再認識させてくれた、素晴らしい機種です。

その後、X-A5を買ったり、X-E4を買ったり、X-T5を買ったりと
富士フイルムのほかのカメラはどうなんだろう?と色々試しました。
ほかのカメラを悪く言うつもりはありません。
それぞれに良いところがあり、それはそれで素敵な機種でした。
でも私は、最終的にどれも電源を入れなくなり、X-H1に戻ってきてしまうのです。

その後、X-H1のメーカー的な後継としてX-H2がリリースされました。
でも、私はX-H1から買い替えられませんでした。
なぜならそれは富士フイルムの定義する後継機ではあっても
私の考えるX-H1の後継機ではないからです。

6年も前に発売されて、13万円も値引かれて投げ売りされた機種に対して
今更1万字を超える怪文書を書くような魅力がX-H1にはありました。
X-H2には、そんな私が好きだった所が残っていませんでした。

もちろん、X-H2の方が好きな方もたくさんいます。世間的にはそちらの方が人気でしょう。 それを否定するつもりはありません。
X-H1も散々ダメな機種扱いされたので、その方が好きな機種を否定するようなことはしたくないからです。
X-H2にはX-H2の良さがあり、X-H1にはX-H1の良さがある。

でも私が欲しかったのは、X-H1のインターフェイスや
フィーリングがより良く体験できる後継機、そういうX-H2でした。
それは、おそらくもう製品として出ることはないでしょう。
だから私はこのX-H1という機種を愛し、使い続けるでしょう。

フイルムでNikomat FT2を祖父から引き継いで25年、大切にしている様に。
このカメラの修理受付が終わり、バッテリーが生産停止になっても
予備を買い、ニコイチで直し、バッテリーは中身を変え、そうやって使うでしょう。
大丈夫です。デジタルな製品であっても、AIBOとは既にそうして20年が経ちました。 まだまだいけます。
使用者に使う意思がある限り、道具は応えてくれます。

祖父から受け継いだフイルムの相棒、Nikomat FT2
私が自分で見つけたデジタルの相棒、X-H1 

大切にしている、道具を愛しているとは、そういうことだと私は思います。
富士フイルム、X-H1を出してくれてありがとう。

願わくば、修理受付期間が少しでも長くなりますように。
バッテリーが長い間生産されますように。
XAppに最低限で良いので対応してくれますように。

ずっとX-H1と一緒に写真が撮れますように。


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