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尾を引く

かなり前の話。

中学時代の同級生(女)と地元の隠れた心霊スポットへ出向いたことがある。

季節はちょうど今くらいの春先、日中は汗ばむ程に暑かったり、時折冷え込んだりと安定しなかったのを覚えている。

場所は臥すが相当にまずいスポットだったらしく、後で知ったが地元の人は日中でも近寄らない場所だったそうだ。

場所もかなり郊外の方にあり、心霊的なもの以前に物理的にも危険(暗闇や野犬など)だったため、私は乗り気でなかったのだが、その同級生の強い申し出に押し切られて同行した。

結果から言うと、その場では在り来たりな心霊現象みたいなものが起こったものの、そのまま無事に帰宅することが出来た。
「誰かの声が聴こえるよう」だとか、
「動物以外の生き物の気配がする」みたいな、
心霊現象とは違うのではないかと思えるような、気のせいとも思えるものばかりだったのだが、一つだけ、明らかにおかしい現象に見舞われた。

そこは郡部の集落だったのだが、
帰りの道中、どこからともなく線香の香りがしてきたのだ。

一応、民家も疎らにある所だったので、
どこかの家で線香を焚いていたのならば不思議はないのだが、時間は夜半であり、時折視界に見える民家の灯りもとうに落ちて、辺りはほとんど真っ暗闇だった。
むしろ、その時間に起きて線香を焚いている家がある方が恐ろしく感じる。

結局、線香の香りは集落を出るまで鼻に感じられた。
車に戻り、地元へ近くなって明るい道に出た時に連れ合いにその事を話したところ、

「そんな匂いは一切しなかった」

と言って震えていた。

後日知ったのだが、そこは水子供養の隠れたスポットだったそうだ。

何故その同級生がそこに行きたがったか、
何の為にそこへ恐怖を圧し殺してでも出向いたかは今でも分からない。
最後に直接会ったのはその時だけで、以降何年かはたまにメール等のやり取りはあったものの、ここ10数年はこちらも機種変更などで音信不通になっている。

何故今頃こんな話を書いたかというと、
あれからこの時期になると、どういう訳か軽い出血に見舞われるようになったから。

不思議と痛みも何もなく、ただ血の上がってくる気配と共に、胃液の混ざった血が数日かけて断続的に出てくるのだ。

以前病院で何度も診て貰ったが、一向に原因は分からず終いで、毎回胃薬などの処方を受けて帰るばかりである。
胃などの内臓から不正出血もなく、吐き気も痛みもない。
ただ、毎年この時期限定でこの症状に苛まれており、今年もそうなっている。

例年通りならば、これも数日経てば治まるのだろうが、
毎年この時期になると、あの時の線香の香りと、
それを打ち明けた時に同級生が見せた怯えとも畏れともつかない強張った表情をありありと思い出すと共に、
いつか深刻なモノになったらどうしようと、腹の辺りを撫で擦る日々を過ごしている。

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