チート転生したけど転生先はテラだった6

 場所にホテルを選んだ理由は二つある。
 一つは我々のフロント企業が経営していると言う事、もう一つは屋上から"テレビ塔"が見えるからである。
 塔は市内全域に電波を発していて、ラジオからテレビから通信のハブになっているのである。
 もう、この時点で何をしようとしているか分かっているようなものである。

 私は仮眠室で一足早く眠りについた。
 明日も満足して眠りたいと思いつつ。
 意外に肝っ玉がついてきた。
 あっという間に夢の世界だ。

 眠りに就く度に私は私と言う自覚が増してくる。
 "かつての私"と言う現象に、何処となく自信がない。
 詩子に苦し紛れに説明したように、一瞬だけ異世界を見たのだろうか? そんな気がしてくる。
 今感じてること、起こっていること、全てがリアルだ。
 私がこっち側の人間になった証しだろうか?
 こっち側とは何なのだろう? あっち側とは?

 私が朝まで起こされなかったと言う事は、私が守護人奉行を脅迫したのは間違いではなかったようだ。
 一睡も出来なかった連中が赤い目をしている。
 私は「喜べ、会長とお揃いだぞ」と言うと、変なテンションだった連中が大笑い始めた。

 一人呆れているのは詩子だった。
「信じられないけど、あんた、これ命幾らあっても足りないぞ?」
 詩子は解析結果を淡々と説明した。国士会と那古の守護人奉行と北朝の繋がりがあること、その証拠は確実であること。
「私と心中したくない?」
 私が上機嫌でいると、「それが嫌だから、方々にSOSを出してるところよ!」と必死な顔をしている。
「手応えは?」
「正直しんどいわね。太政官も事なかれ主義の連中が多いし」
「ぽいわね」
 官僚なんてそんなものか。

「死ぬなら一緒よ」
 詩子が私の肩を掴んだ。
「そうね、一緒がいい。でも今日は無理ね。これから私の仕事があるもの」

 私は詩子を秘密の通路で外に逃がした。
「出来る限りの事はやる」
「私も精々死なないように頑張るよ」
 私が軽い物腰で言うと、「あんたのそういう所、そろそろ慣れそうだけど、それでいいの?」と笑いかけてくる。
「今の私が本当の私」
「そう? どっちでもいいわ」

 詩子と別れると私と若頭代理、それと森山君の三人でホテルへと出掛ける。
 事務所は国士会の連中で囲まれているので、私も詩子と同じ通路で外に出たのだ。
 ホテルは静かだった。
 通常の営業をしている。
 屋上まで上がり時を待つ。

 その日はおあつらえ向きの天気だ。
 明るい日差し、雲一つない空。
 風は少し強いがむしろ清々しい。

 三人とも無言で新鮮な空気に身を晒す。

 時間通りに守護人が現れる。体の大きなエーギルだ。
 役者は揃った、放送開始だ!

 私は守護人を睨み付け、そして意識を彼の背後の電波塔に向けた。
「どうだ、死ぬ覚悟が出来たか?」
 守護人は得意気だった。
 恐らく様々なルートを潰して回っていたのだろう。

 若頭代理は「我々が未知の人脈を持ってたらどうするんですか?」と訊ねると「ヤクザ風情が抜かすな」と笑われる。
「盗んだ情報とそいつを返せば、命ぐらいは取らないでやってもいい」
「断ったら?」
「守護人をナメて貰っては困るよ。お前らに気づかれないように武者を潜伏させる事は幾らでも出来る。
 もう囲まれているんだよ」
 彼は自信満々だった。

 私達はまだ勝っている。
 彼の端末に矢のような連絡が飛んで来ている。私はそれを完全に封殺している。
 彼が話している言葉や姿は、全てのテレビ番組をジャックして放送されている。
 他の移動都市への通信チャンネルにも紛れ込ませている。
 それを止めさせる事は出来ない。

「冥土の土産だ。なんでそんなに北朝の肩を持つ?」
「光厳様こそ、この極東を統べるべきお方だ。
 南朝の簒奪者では、来るべきウルサスや炎国との戦争には勝てない」
 淡々と説明する守護人に、若頭代理が食ってかかる。
「リメンバー血峰ってか? ちょっと大国に勝ったぐらいでいい気になるのが武者の悪い所だ」
「抜かすがいい。戦争は必ず起こる。起こってから武者に頼るような軟弱者が多いから南朝はダメなのだ」
「おいおい、仮定で相手を批判するなよ」
「では、南朝に本当の武人はいるか?」
「"本当"の定義が貴様本意だろ。それ以上南朝を馬鹿にするのは、一人の民として許せないな」
「ほざけ。お前らなんか誰も信用するものか」

 彼がそういった所で、武者が屋上に雪崩れ込んできた。
 だが、守護人の顔色は突然に青ざめる。
 その甲冑は左大臣直属部隊"赤備え"のものであった。
 後から公家が歩いてくる。
「よくも光元様を愚弄したもの。沙汰は追って伝える」
 守護人奉行は捕縛された。

 公家はこちらを向いて「北朝に仇成せばよき臣民でおじゃる。麻呂はそれ以外興味がないのじゃ。あとは好きにするがよいぞ」と言うと、その場を去って行った。

 私達がホテルから出てくると、詩子と幹部達が待ち構えていた。
 詩子は私に抱きつき「死ぬ気で頑張ったんだから、結婚してよね!」と泣き出した。
「詩子、助かったよ。でも、結婚は法律が変ってからだよ」
 私は笑いかけたが、詩子は泣きじゃくるばかりだ。
「奉行所の連中に見られないようにしなくちゃ」
 幹部に語りかけると、私と詩子の周りは大柄な構成員に取り囲まれた。

 それから国士会や守護人奉行の内部は凄惨なものになった。
 口封じに政敵を殺し、殺されと言う有様だ。
 捜査は続くだろうが、それまでに幾人が死ぬか分からない。

 守護人奉行の血筋や部下は、七十六人が切腹を命じられ、家は当然お取り潰し。切腹前に殺された者多数。
 私が拾ったデータは、国士会中心のものだったから、朝廷の闇は表面を掠っただけだろう。

 後日、激務から逃れたい詩子が事務所に遊びに来た。
「みおのお陰で浪人ばかりよ。あんたの所で預かってくれない?」
 と嫌みを言ってくる。
「もうやってるよ!」
 私が笑った後ろには、国士会の本部長がいる。
 彼は解体された国士会の生き残りをまとめ、天鳳会二次組織の組長に収っている。
「命を賭しても姉御の為に働きます!」
 頼もしい男だ。

「そう言えば、森山君ってどうなったの? カタギになれた?」
 詩子が訊ねる。
「炎国の龍門に逃れたって言いたいけど、実はまだ那古にいる――と言うか、ウチの屋敷にいるよ」
「なんで?」
「実はさ……あの子、異母兄弟だって分かったんだよ」
「なにそれ!」
 流石に驚いている。
「国士会の組長さ、元々天鳳会の幹部で森山君のお目付役だったらしいんだよね。でも、私が産まれてしまったから、立場が悪くなって、森山君連れて逃げちゃったらしくてさ。
 ヤツとしては天鳳会に復讐がしたかっただけみたいだね」
「そういう情報はこっちに流しなさいよ!」
 詩子は頬を膨らませた。
「ヤクザが警察に売ると思う?」
「このー!」

 詩子としては、自分が愛した叔父を殺した犯人を見つけたかっただろう。
 それは国士会の組長のごたごたで分からなくなっているそうだ。
 彼女からしたら、私だけ美味しい思いをしているようにも見える。
「それで結婚式いつにする?」
 詩子が寄っかかってくる。
「朝廷が同性婚を認めたらね!」

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