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【小説】日本能力検定

 たまにはトンチキネタなど。

※当記事、及び関連する私の著作物を転載した場合、1記事につき500万円を著作者であるFakeZarathustraに支払うと同意したものとします。

※本作品に於ける描写は、現実的な観点での法的な問題、衛生的な問題をフィクションとして描いており、実際にこれを真似る行為に私は推奨も許可も与えません。当然、その事態に対して責任も負いません。

※フィクションと現実の区別の出来ない人は、本作品に影響を受ける立場であっても、本作品の影響を考慮する立場に於いても、一切の閲覧を禁止します。


「へいサトシ、元気にしてるか!?」
「はうあばうとゆー」
 オレはマイケルが謎のテンションの時はなるべくテンションを上げてはいけないと言う事を知っている。

 コイツ、ニューヨークのそこそこ裕福な家庭の生まれのくせに、日本のアニメにハマったせいで、態々地方のこんな大学に留学してきたという変態だ。
 と言うかコイツの本名はディランだが、「日本の英語の教科書って言ったらマイケルだろ?」と言う謎の信念でマイケルを名乗っている。
 まぁオレも何だかんだで、「日本語教材に出てきた名前だから」と言う理由で絡まれ、今の謎の縁に繋がっている。

「いいニュースと、いいニュースのどっちがいい?」
「むしろ悪いのを聞きたいよ」
「そんなこと言うなよサトシ、もっと人生は可能性に満ちあふれてるんだからさ!」
 マイケルがウザイ、これはいい加減面倒くさい事になったぞ。
「どこで覚えた台詞だよ……まぁいい、最初のいいニュースを聞かせてくれ」
「N1受かった!」
「おー、いいじゃん」
 オレがテンション低めで答えると、「日本人でもタマに落ちるN1だぞ!」とか言い出した。
「あー、はいはい」

 日本語能力検定N1は、日本語能力検定の一番上のクラスの問題だ。
 普通に文章題が出てくるのだが、これは文章を最初の三センテンスだけで判断してしまうタイプの人間には、仮にネイティブであっても答えられないだろう。そういう種類の問題が出てくる。

 だからマイケルが留学して一年未満――つまり冬の試験でこれを合格するのはかなり立派な事ではある。

「で、もうひとつの方は?」
「おいおい、N1だぜ? もう少し褒めてくれたっていいだろう」
 マイケルは不満顔だ。
「いや、お前がもっと落ち着いてたら、もっと褒めてやるよ」
「なんだよ、オレは犬かよ」

 犬みたいなヤツじゃねぇか。

 何はともあれ、二つ目の話題に入った。

「日本語能力検定って、日本人がやってるじゃん?」
「そら、日本語能力検定だからな」
「でもさ、N1取っても日本語分からないヤツとかいっぱいいるじゃん?」
 確かに漢字読めないけど推理力と気合いで文章題解くのが正攻法みたいな話は聞く。
「その点でお前は合格だなだな」
 オレが褒めてやると「その調子だよ」と笑った。

「それで思ったんだよ。日本語で生き抜く能力ってヤツを試す試験を作ろうってね!」
「あー、嫌な予感してきたわ」
 マイケルは謎の行動力があり、そして謎の在日外国人ネットワークを持っている。
 美味いメシ屋があるって言われて、フィリピンパブのお姉ちゃん向けの店に連れて行かれた時は、マジでどうしたものかと思った。

「まずはこれだ、マリクに考えて貰った鉄道の問題だよ。
 日本に来ても電車で困る外国人が多いだろ?」
 と言われて、タブレットで画面を出された。

 なんかこう、古いタイプの電車の写真が三つ載っている。
「381系はどれでしょう?」
 どれもクリーム色のボディに、赤色(?)の塗装がされていて、ライトが縦に並んで、高い位置に運転台がある……
「はぁ? 全部同じじゃないの?」
 オレが腹を立てると、「おいおい、日本は鉄道の国じゃないのかよ!?」と怒られた。
「鉄道の国って言葉を鉄オタの国って意味で使うヤツを初めて見たわ」
「いやいや、常識じゃないの、これ?」
「非常識だよ! 大体、今、こんな電車走ってねぇだろ! 実用性皆無な問題はヤメロ!」

「じゃぁ次は、文章題だ」
「ほ、ほぉ……淫夢じゃなかったらいいんだけど」
「いやぁ、流石に淫夢語録が恥ずかしいことは分かっているよ。
 絶対に日本の誇るべき文化だからやって欲しい」

 タブレットのページを開くと、穴埋め形式の文章が出てきた。

 男は■■■なのよ、気をつけなさい。
 年頃になったら、■■■なさい。
 羊の顔をしていても■■■は
 ■■■が牙をむく、そういうものよ

 いや、ピンクレティじゃない? 今の若い子通じる?
 ギリ知っているオレが逆に怖いと思うが、それは兎も角として、サビのところが……

 ■・■・■ ■・■・■
 ほらほら呼んでいるわ

 とかなってて、「日本語じゃねぇ!」とうっかり叫んでしまった。

「だめか?」
「もうちょっと今流行りの曲とかないの?」
「しかのこのこのここしたんたんとか?」
「突然ネットに偏るな!」

 あぁ、なんかこれ、ダメだろう……このまま続くと、オレは死ぬぞ?

 次の英語を日本語に直しなさい。
It's Over 9000!

「いや、コレウケてるの、アメリカ人とカナダ人だけだからな?」
「えっ!? 違うの?」
「日本人は大概注目してねぇぞ、その台詞……」
 元ネタはアニメ版ドラゴンボールZの英語翻訳版なのだが、"8000以上だ!"が誤植でこうなったと言うもの。
 何故か向こうで大受けして、鉄板ネタになっているのだ。

「そ、そうなのか……合コンで普通に言ってるけどなぁ」
 マイケルが頭を掻く。
「ぽかーんとされなかったか?」
「なんでそんなネタ知ってるんだって驚かれたと思ったよ」
 ポジティブなヤツだ。

「つか、オレを誘えよ!」
「いやいや、向こうは、カタコト日本語の外国人が好きなんだよ」
 そう言う面倒臭い日本人がいるのは知っている。だが……
「お前はそれでいいのかよ」

「いやいや、こうさ、ゴミの出し方とか、そう言う問題ないの?」
「あるぞ!」
「そういうのでいいんだよ」
 オレが呆れながらページを開く。

「刺身の入っていたトレーをゴミに出すならどれ?」
①燃えるゴミ
②燃えぬゴミ
③資源ゴミ

「いや、燃えないゴミを燃えぬゴミって言う自治体、多分ないからね?」
「でも燃えぬって言うじゃん」
「あんま言わねぇよ。アニメの中ぐらいだよ!」
「そ、そうなのか……」
 あまりにもツッコミすぎたので、マイケルは意気消沈してた。

「そ、そのさ、もうちょっと普通の日本語使えばいいからさ」
「そう!? じゃぁ、これだ!」

 次は聞き取りの問題だった……でもすげぇ嫌な予感がする。
 取り敢えず音声ファイルを開いた。

「ちゃす」
「うす」
「あざす」

「実用的だが!!!!!」
 実用的だが腑に落ちない。
 いや、なんかダメだろ……だが、日本能力検定の趣旨には一番近いかも知れないのだけど……

「いや、なんかこう、普通にフォーマルな日本語とかないの?」
「じゃぁ、これかな?」

 そう言って開いたのは、線引きクイズだった。
 右と左で人称と使う場面を結びつけるという。

朕、小官、愚僧、弊職、卿

 うん、フォーマル過ぎるね!

「いやいや、日本人生きててもほぼ使わないから。
 弊職がワンチャン使うぐらいだろ!」
「いやぁ、日本人のへりくだりの文化とか好きだけどなぁ」
「そういう問題じゃねぇよ……」

 で、次に数詞の問題だ。
 絶対にマトモじゃねぇわ。

右側:柱、腹、棹、座、尊
左側:羊羹、山、たらこ、大仏、位牌

「ごめん、日本人のオレでもわからんわ」
「一人称も数詞は日本の大切な文化だろ!!!!」
 マイケルにキレられた……なんでキレられたのかもよくわからんだ……

「はい、じゃぁこれ! 地理の問題」
 と言って、山間の湖の写真が数枚出てくる。
 山の上からと、電車の通っている湖畔、古い駅舎なんかだ。
「えっ!? どこ?」
 マジで分からん土地だった。
「木崎湖だよ!」
 マイケルは声を大にして答えた。
「どこだよ……」
「おねティしらんのか?」
 そしてややキレ気味である。
「いや、マジでわからんよ」

 スマホで調べてみると……「もう二十年以上も前のアニメじゃねぇか! 古のオタクか!?」と思わずツッコんでしまった。
 だが、マイケルは一歩も引かない。
「伝説的アニメだぞ!?」
「しらねぇよ!」
「日本人なら知ってろよ!」
「無茶言うなよ!」

「日本能力検定なら、普通の能力を試してくれよ……日常的に普通な……」
「上司が帰るまで残業するとか?」
「そういうのはやめろ」

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