レールの妖精①

 電車のマスコットを着ることになった男と女性デザイナーの話。

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 別段恥ずかしがる話ではないが、俺が三歳の頃のホームビデオに「たっくん、大きくなったら何になりたい?」と言う親の問いかけに「でんちゃ!」と元気に答えたものがある。
 長らく忘れていたけど、昔のVTRをデジタル化してくれるサービスに、古いビデオテープを持ち込んだ時に見つけたのだ。

 今や親は亡くなり、兄弟のいない俺には、数少ない思い出の品だ。
 親に抱っこされて、線路を行き交う電車に見惚れていた映像とか、鉄道旅行にはしゃぐ俺の姿が残っている。

 じゃぁ、そんな俺が鉄オタになったかと言うとそうでもない――否、広義で言えばオタクではあるけれど。

 俺が小学校一年生の時、新しく登場した列車の一番電車が近くの駅を通過すると聞いて、母親と一緒に駅まで行った。
 その時、ホームの端で邪魔だ何だと発狂している連中を見かけて、怖くなって電車が来る前に帰ったのだ。
 あの時の母親のなんともいい難い表情は忘れられない。

 列車、否、鉄道自体は好きだったけれど、そういう記憶があるからこそ、俺はオタク的な行動に出なかったのだと思う。

 大学を出てから普通の会社に入ったが、俺はすぐに交通局の採用試験を受けることにした。

 入った会社がどうにもつまらなく、給料も安く、そして上司が生理的に受け付けないタイプの人間だったと言うことが原因だ。

 会社が嫌になった頃、地下鉄の運転手の募集の広告が目についた。
 未経験者歓迎と言う、近頃は手垢のついた言葉が僕には輝いて見えた。
 勿論、市の事業なのでそこいらのブラック企業のように事実上の即戦力募集みたいなことでも、使い捨て人材の募集と言う話ではない。

 いい歳をして、電車へのときめきが蘇ってきた。
 電車への思いが忘れられないというと怒られそうだが、しかし、採用試験ではそういう話も肯定的に受け止めてくれたのだろう。
 俺はすんなりと入局し、そしてすんなりと運転手になったのだ。

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